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#03: The flawless guy
Unrequited love 02
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禮と渋撥が付き合いだして間もない頃――――。
当時、渋撥は荒菱館高校三年生、禮は石楠女学院中等部三年生であった。ふたりきりで過ごすことも、渋撥の友人である鶴榮や美作を交えて遊ぶこともあった。何をしても楽しい頃で、いつも笑っていた記憶しかない。
その日は週末で、禮と渋撥、鶴榮、美作の四人で街へ繰り出した。
四人がやって来たのは、ビル一棟を丸ごと使用した複合レジャー施設。時間制限ありの定額制で、地下から屋上まで各種スポーツやカラオケ、ゲームセンターなど様々な娯楽を楽しめる。
まず彼らが選択したのはビリヤードだった。
禮と渋撥はビリヤード台の傍に立ち、何やら会話をしている。
美作はキューを床に突き立てて支えにし、禮を眺めて目を輝かせる。
「女のコがひとりおるだけで華やか~✨ 男だけでこういうトコ来たら下品に騒ぐだけですもんねえ」
鶴榮は美作の正直な感想を聞いてカッカッと笑った。
美作ほど露骨に喜ぶことはないが、長いことほぼ男子校の環境に置かれると異性がいるだけで浮つく気持ちは理解できる。
渋撥は禮にキューを差し出した。
禮は受け取ったキューを物珍しそうに眺める。
「禮はビリヤードやったことあれへんのか」
「うん。あれへんよ」
「女だけではあんまやれへんか」
「ハッちゃんはビリヤードでけるの?」
「オウ」
「へえ~。スゴイ✨✨」
渋撥はキューを握ってタップにチョークを擦った。その慣れた手付きに、禮は尊敬の眼差しを向ける。
そのような視線を注がれれば無論、気分がよくなる。渋撥は上機嫌でやや笑顔を見せた。
「教えたろか?」
「ええのー。うん。ありがとう」
(なんちゅう素直でカワイイ生き物や)
満面の笑みで答えた禮の頭を渋撥はグリグリと撫でた。
美作はそのような渋撥を見て感心した。それは荒菱館では決して見ることのできない光景だったからだ。
「おお~。あの近江さんが人にモノ教えるなんちゅうクソ面倒臭いことを自分からッ」
「禮ちゃんの前ではええカッコしたいんやろ。アイツ、カッコマンやから」
§ § §
同施設内喫煙ルーム。
喫煙ルーム内には、ふたりの男がいた。眼鏡をかけた坊主頭の男と、長髪の男。ひとりは虎宗、もうひとりは虎宗の幼馴染みだ。
伯耆 大志朗[ホーキ タイシロー]――――
虎宗とは物心付いた頃からの親友であり、同時に虎宗と同じく禮の実家・相模道場の門下生でもある。
体格は虎宗と比較すると細身で、立ち振る舞いや所作は美しい。母親似の端正な顔立ちも手伝って、男子高校生にしては珍しく色気の漂う男だった。
虎宗と同じ高校へ進学し、共に実家を離れて寮生活をしている。
喫煙ルームはフロアの端に設置され、ドアを閉め切って使用するので、人の話し声や店内BGMなど喧噪が少し遠くに聞こえる。
「久し振りにこっち帰ったのに、こんなトコで足止めとはな」
大志朗は、紫煙を薫らせている虎宗の隣で肩を竦めた。
彼らはふたりとも実家を恋しがる質ではなかった。入寮以来、故郷に帰ってくるのは久し振りだった。
虎宗はフーッと煙を吐き出した。
「いつまでここにおらなあかんのや」
「んー。なんや情報収集? しとるんやと。そんな長い時間はかけへん言うてたさかい、もうちょいしたら出れるやろ」
さてと、と大志朗は腕を上げて背伸びをした。
「ボーッとしとってもヒマやし、俺は女引っかけにいくけどトラはどうする?」
「興味あれへん」
「健全な高校生男子が女に興味あれへんわけないやろ。そんなヤツは心か体のどっちかに重大な問題があんねん」
「俺は健康や」
「ひとりの女以外は全部カボチャに見えるのは病気やで」
大志朗の冗談じみた一言に、虎宗はフッと笑みを零した。
「カボチャか。確かにな」
「認めよったで……」
大志朗は嘆息を漏らした。冗談で言ったつもりが素直に受け容れられたのでは惘れるしかない。
「まーええわ。トラのビョーキは今に始まったことちゃう。女引っかけには俺ひとりで行ってくるで。愛想悪いヤツがおったら上手くいくモンもあかんようになるでな」
大志朗はそう言い捨てて虎宗の隣から離れた。
喫煙ルームから出て行こうとドアの取っ手に手をかけ、その場でピタリと停止した。
「トラ……。アレ見てみい」
大志朗は何処かを指差していたが、興味のない虎宗はそちらを見ようとはしなかった。大志朗は我が友ながら女性関係が派手な人物だ。彼の注意を引くものなど、どうせ女関係だと高を括っていた。
「俺はべつに女はええ言うてるやろ」
「ええから見てみい」
大志朗はわざわざ虎宗の傍に戻ってきた。その坊主頭をむんずと両手で掴み、無理矢理顔をそちらに向かせた。
大志朗があまりに懸命になるものだから、虎宗は面倒臭そうに視線を巡らせてやった。
「何が……」
虎宗は言おうとした言葉を途中で止めた。
目を奪われた、ガラス張りの喫煙ルームの前を颯爽と通りすぎてゆく少女に――――。
風に靡く柔らかそうな黒。長い睫毛に縁取られた大きな瞳。端正な愛らしい顔。すべてに見覚えがあった。すべてに脳を刺激された。すべてに心が惹きつけられた。これこそが、愛おしいと感じるもののすべて。
次の瞬間には、身体が勝手に動いた。
禮がひとりでそこを歩いていたのは、渋撥たちから離れてお手洗いに行った帰りだったからだ。偶然にも喫煙ルームとお手洗いは、隣接していた。
「禮ちゃん!」
虎宗は気づいたときには部屋を飛び出していた。
名前を呼ぶと少女は立ち止まって此方を振り返った。月下の精が如く軽やかな身のこなしで。
嗚呼、星屑を散らしたような檳榔子黒の瞳が白昼夢のように美しい。
「――――……トラちゃん?」
その声を聞いただけで、虎宗は熱いものが込み上げた。同時にほっと安堵の笑みを漏らした。
「俺を、憶えといてくれたか……禮ちゃん」
「うわー。ほんまにトラちゃんや」
禮は虎宗の許へ駆け寄ってきた。数年振りに顔を合わせる〝兄〟に喜ばないはずがなかった。
「俺のことはー?」
大志朗が虎宗の背中からひょこっと顔を出した。
禮はその顔を見た途端、さらに嬉しそうに表情を綻ばせた。
「シロちゃんも一緒なんやー」
高校進学以来一度も顔を合わせなかったのに、禮は変わらぬ笑顔を見せてくれた。変わらぬ雰囲気と朗らかさ。急に懐かしさが押し寄せてきた虎宗と大志朗は、それを噛み締めるようにはにかんだ。
禮は自分の前に並び立つふたりを交互に眺めて自分の身長と見比べてみた。二年ぶりに見る青年たちは、身長も肩幅も禮とは比べ物にならないほど成長しており、別れた頃よりも随分と大人びて見えた。
「トラちゃんもシロちゃんも背、伸びたね」
「禮ちゃん相変わらずやってんか?」
大志朗は禮に拳を作って見せ、禮はクスッと笑った。
「トラちゃんとシロちゃんがいてへんよになってからは、昔ほどはアレやけど……まーぼちぼち。今いはる門下生の人らァはウチに気ィ遣て本気で相手してくれはらへんから」
「そうかァ。そら残念やな。禮ちゃんせっかくのセンスやのに、それじゃあ鈍ってまうな」
「道場はどんな感じ? 親っさんは元気してはるか?」
「何も変わってへんよ」
虎宗は高校に進学すると同時に入寮し、必然的に道場にも通えない情況になったが、禮と、師である禮の父と、道場のこと――――つまりは幼少の頃から一緒に生活している家族について常に気懸かりだった。禮の口から何も変わっていないと聞いて心底安心できた。
「なあ、禮ちゃん……。ちょっと、話ええか?」
虎宗は思い詰めたような表情で言い出した。
彼がそのような顔を見せるのは珍しく、禮はピタリと目を奪われた。
「話……?」
禮は渋撥たちを待たせている手前、いくら懐かしい再会とはいえ、あまり時間をかけられないと思った。しかし、虎宗の見慣れない表情が、禮に否と言わせなかった。
フロアの端に設置された喫煙ルームよりもさらに奥まった、非常階段のドアの前。先ほどの場所よりもまた一段と騒音が遠のき静かになった。
禮は、改まって話があると言うくらいだから大切な話なのだろうと思ったが、何故か大志朗は同席しなかった。大志朗も虎宗と同じ門弟であり幼馴染み。虎宗と同じく禮との再会を懐かしんでいるはずなのに。
禮と虎宗はふたりきり。
禮は実の兄と相違ないと思っている虎宗に対していささか緊張した。
いくら顔を合わせるのが久方振りとは言え妙な感覚だ。それはおそらく、虎宗自身が柄にもなく緊張しているからだ。
「トラちゃん。話ってなに?」
禮は虎宗が緊張していることに気づかない振りをして、なるべく力まずに尋ねた。自分まで緊張してしまっては、尚更虎宗が切り出しにくくなると思った。
「シロちゃん置いてきてしもて、よかったん?」
「うん、今は……ええんや」
「そお」
やはり虎宗はなかなか言い出せない様子で、禮の顔と自分の靴の間で何度も視線を行ったり来たりさせる。
「禮ちゃん」
或る瞬間、虎宗は意を決したように禮の腕を捕まえた。
禮は腕を振り払おうともせずに虎宗を見上げた。当然だ、実の兄同然に思っているのだから。
虎宗は禮の目を見詰めた。「何?」と素直に聞き返してきた禮の大きな黒い瞳に、強張った表情をした自分が映りこんでいた。
「禮ちゃん、あんな……」
――胸に抱き続けたこの想いをぶつけたら、キミは受け容れてくれるだろうか。
幾度か異性と付き合ったり肌を重ねたりしたが、脳味噌で恋をして神経で快感を味わって、心は置き去りだった。経験を積む度にまた違ったと、ああこれは恋ではないと、自分はすでに違う人物に恋をしているのだと、確信した。
禮に恋をしたのは勘違いだと思った。禮と距離を置けば恋心は薄れてゆき、自分の意識を男ではなく〝兄〟に戻せると思った。そうすべきだと思った。
しかしながら、数年離れても恋慕は薄れなかった。禮と離れたことはむしろ、虎宗を苛んだ。苦しめて苦しめて、恋心を情愛を思い知らせた。
――初めて愛した。心から愛している。俺はそうだ。命をも懸けられる。……キミはどうだ。
「禮ちゃんは今……好きな男、おるか?」
禮が長い睫毛を揺らしてまじろきをして、虎宗はゴクッと生唾を嚥下した。
そして、急に答を聞くのが恐くなった。その程度の勇気は用意していたはずなのに、目前にすると恐くなった。恐怖のあまり、虎宗は禮の腕からスルリと手を放した。
「うん」
虎宗は目を見開いて驚愕の表情で目を瞠った。
勇気は、覚悟は、決心は、何処へ消え失せた。賢く落ち着き払った振りをして何も準備できていなかった。カウンターを喰らったら、頭は真っ白じゃないか。情けない。頭がクラクラする。拳で思いきりぶん殴られるより、よっぽど痛い。鋭利なナイフで刺し貫かれたように胸が痛い。
痛い。痛い。痛い。肉体の痛覚には慣れている。しかし、心の痛覚はなんとも無様じゃないか。
「好きな人いうか……カレシ」
禮は、はにかみつつ少し頬を赤らめた。
その可愛らしく羞じらう仕草で、虎宗の胸にナイフをもっともっと押し刺す。
「カレシ……」
虎宗はポロリと口走った瞬間に、胸に火が付いたことが自分でも分かった。
目先のことしか見えないのも、欲しがるばかりなのも、腹を立てるのも、嫉妬するのも、みっともないと頭では分かっている。しかし、本音は目の前にいる愛しい娘を、手が届く距離にいる内に、掻っ攫ってしまいたい。この娘が好きな男を、この娘を好きな男を、殴り殺して踏み拉いて、奪い取りたい。
そのような自分の願望と我が儘を、肉体を貫通して胸の真ん中に居残る痛みが、どうにか押さえこんでくれる。現実と痛覚と理性とはよく出来たものだ。
「……そうか……」
虎宗の口からは、上の空の相槌が零れた。
ぶつけ損ねた想いの正体が、破壊衝動によく似ていることを初めて知った。
§ § §
禮は虎宗と分かれ、渋撥たちのほうへ戻ろうとアーケードゲーム機の間を縫って進んだ。
(結局、トラちゃんの話って何やったんやろ?)
先ほど再会した虎宗と大志朗のことを考えながら、少々ぼんやりしながら歩く。
再会自体は純粋に嬉しかった。しかし、何の前触れもなく、おそらくは師である父に連絡もなく、突然帰ってきた点になんとなく引っかかった。
(そういえばトラちゃんとシロちゃん、ふたりで何してるんやろ。お正月とかも帰ってこおへんかったのに)
禮は足を停めた。
実の兄のように慕う虎宗と数年ぶりに会えたのだから、理由など何であっても、理由など無くとも、嬉しいはずなのに、なんとなく胸が落ち着かない感じがする。虎宗の話の内容よりも、その理由のほうが気になった。
「禮ちゃん」
よく声をかけられる日だ。しかし、その声は虎宗のものでも大志朗のものでもなかった。
禮がキョロキョロと辺りを見回すと、ゲーム機の椅子に腰かけて手を振る男を見つけた。禮はすぐにその人物が誰であるか気づき、小走りに近づいた。
「勇ちゃん。何してんのー?」
備前 勇炫[ビゼン ユーゲン]――――
線が細く中性的で、端整な顔立ちをした青年。禮の実家・相模道場が流れを汲む備前金剛古武術の跡取り息子だ。
相模道場は備前金剛の分家のひとつであり、古くから交流試合や弟子の行き来などは珍しいことではなかった。禮と虎宗、備前は幼い頃からの顔見知りだ。
「トモダチと遊びに来てん。今ちょっと別行動中やけど。禮ちゃんもトモダチと来てるんか?」
「と、とと、友だちゆーか……っ」
備前は何てことはなく世間話を振ったつもりだった。しかし、禮は目を逸らして吃ってしまった。
禮にとっては渋撥が初めての彼氏。それを知人に宣言するのはまだまだ照れ臭かった。
備前は禮が困っていることを何となく察し、それ以上追及しなかった。
「こんなトコで会うなんて偶然やな。街歩いてても擦れ違うこともなかなかあれへんのに」
「うん。今日はよう人と会うからビックリやよ」
「俺の他にも誰かと会うたん?」
禮は自分が歩いてきた方向を指差した。
「さっきね、トラちゃんと会うたよ」
「トラちゃんて――……ああ、虎宗クンか。相模師範のお気に入りの死ぬほど愛想ないド近眼な」
――んん? 今のは悪口ではないか?
禮は備前の顔をジッと見詰める。
禮の知る限り、備前は端正な顔でいつも愛想よくニコニコして、気さくに話しかけてくれる。しかし、先ほどの発言には何となく敵意のようなものを感じた。
「虎宗クンは高校からは寮か独り暮らしかで、相模の家から出たやなかった?」
「うん。ウチもさっきそこで久し振りに会うたんよ、めっちゃ偶然。何かご用事あるんか遊びに来てるんか分かれへんけど」
「へー。虎宗クンがなァ」
備前は興味があるのかないのか、どうでもよさそうな相槌を打った。
それから禮に向かって愛嬌よくニコッと笑った。
「禮ちゃん。トモダチと来てんねやろ? トモダチのトコまで送ったるよ。こーゆー場所は禮ちゃんみたいな子がひとりでおったら声かけられるさかい」
「ウチみたいな子?」
「とにかく心配やから送ったるよってこと」
禮はフルフルと首を左右に振った。
送ってもらったりしたら照れ臭くて仕方ない彼氏を見られてしまうではないか。備前の厚意は嬉しいがここは絶対に断らなくては。
「ウチ、ちょお待たしてしもてるから急いで戻るし大丈夫。勇ちゃんおおきに」
備前は察しのよい男だ。絶対に送られたくないという禮の心境をまたしても敏感に感じ取り、すぐに引き下がった。
「ほな気ィ付けて」
備前は小走りに駆けてゆく禮の後ろ姿に手を振り、その姿が見えなくなるとまたゲーム機の椅子に腰を下ろした。
「虎宗クンが戻て来てる、なあ。このタイミングで……」
独り言を零してゲーム機に頬杖を突いた。
足を組んで物思いに耽っていると、何処からか数人の男たちがゾロゾロと集まってきて周囲を囲まれた。
備前は頬杖を突いたまま男たちの顔を一瞥した。
「いつもどおりのおもンない顔やな。その辺彷徨いてきた割には有力情報ナシ~って顔に書いてあるで」
備前がそう言って意地悪そうに口許を歪め、男たちの内のひとりが口を尖らせた。
「俺たちが躍起になって調べることでもないスから」
俺たち――――彼らは市立深淵高等学校の生徒だ。私立荒菱館高等学校と校区を隣接する学校であり、両校は彼らの代のずっと以前から対立関係にある。悪名高い荒菱館高校は、抜群の知名度や圧倒的人的リソースでの優位を誇るものの、深淵高校は長年、周辺地域でほぼ唯一の対抗馬で在り続けている。
「それに今の段階じゃまだこっちには影響ないこと……」
「あっそ。俺は全然ないでもないで、有力情報」
思ってもみなかった発言。男たちは備前を注視した。この場にひとり陣取ってゲームを楽しんだり煙草を呑んだり待っているだけの男が、情報を拾うなど誰が思うだろうか。
「例の《荒菱館キラー》な、思い当たるヤツひとりおったわ」
男たちはさらにジリッと半歩ずつ備前との距離を詰めた。
「何者スかソイツ」
「んー……俺の同門、ちゅうたらええんかな。親善試合とかでなァ、昔からよう試合組まれたで」
「備前さんと同じ格闘技やってるってことスよね。やっぱ強ェーんスか」
「対戦成績は? やっぱ備前さんの圧勝なんしょ」
彼らから見れば、備前の強さや武技は群を抜いて鮮烈であり賞嘆に値する。備前の腕前は確実に深淵高校で一、二を争うものだった。
「俺はソイツにだけは一遍も勝ったことあれへんねん」
「はぁあッ⁉」
男たちは驚いて上半身を仰け反らせた。
「び、備前さんが⁉」
「それはムカつくヤローっスね……」
「アホ言え。ケンカちゃう、スポーツの試合やで。ムカツクなんか思わへん」
「そーいうモンスか。サスガ人間できてますね、備前さん」
「なーんて、な」
男が感心したように言った直後、備前は口の端を引き上げてニヤッと笑った。底意地の悪そうな笑み。これは禮には見せない類の表情だ。
「俺かて聖人君子ちゃう。ほんまは気に入らんに決まっとるやろ。完璧な人間なんかおってたまるか。胸糞悪い」
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
当時、渋撥は荒菱館高校三年生、禮は石楠女学院中等部三年生であった。ふたりきりで過ごすことも、渋撥の友人である鶴榮や美作を交えて遊ぶこともあった。何をしても楽しい頃で、いつも笑っていた記憶しかない。
その日は週末で、禮と渋撥、鶴榮、美作の四人で街へ繰り出した。
四人がやって来たのは、ビル一棟を丸ごと使用した複合レジャー施設。時間制限ありの定額制で、地下から屋上まで各種スポーツやカラオケ、ゲームセンターなど様々な娯楽を楽しめる。
まず彼らが選択したのはビリヤードだった。
禮と渋撥はビリヤード台の傍に立ち、何やら会話をしている。
美作はキューを床に突き立てて支えにし、禮を眺めて目を輝かせる。
「女のコがひとりおるだけで華やか~✨ 男だけでこういうトコ来たら下品に騒ぐだけですもんねえ」
鶴榮は美作の正直な感想を聞いてカッカッと笑った。
美作ほど露骨に喜ぶことはないが、長いことほぼ男子校の環境に置かれると異性がいるだけで浮つく気持ちは理解できる。
渋撥は禮にキューを差し出した。
禮は受け取ったキューを物珍しそうに眺める。
「禮はビリヤードやったことあれへんのか」
「うん。あれへんよ」
「女だけではあんまやれへんか」
「ハッちゃんはビリヤードでけるの?」
「オウ」
「へえ~。スゴイ✨✨」
渋撥はキューを握ってタップにチョークを擦った。その慣れた手付きに、禮は尊敬の眼差しを向ける。
そのような視線を注がれれば無論、気分がよくなる。渋撥は上機嫌でやや笑顔を見せた。
「教えたろか?」
「ええのー。うん。ありがとう」
(なんちゅう素直でカワイイ生き物や)
満面の笑みで答えた禮の頭を渋撥はグリグリと撫でた。
美作はそのような渋撥を見て感心した。それは荒菱館では決して見ることのできない光景だったからだ。
「おお~。あの近江さんが人にモノ教えるなんちゅうクソ面倒臭いことを自分からッ」
「禮ちゃんの前ではええカッコしたいんやろ。アイツ、カッコマンやから」
§ § §
同施設内喫煙ルーム。
喫煙ルーム内には、ふたりの男がいた。眼鏡をかけた坊主頭の男と、長髪の男。ひとりは虎宗、もうひとりは虎宗の幼馴染みだ。
伯耆 大志朗[ホーキ タイシロー]――――
虎宗とは物心付いた頃からの親友であり、同時に虎宗と同じく禮の実家・相模道場の門下生でもある。
体格は虎宗と比較すると細身で、立ち振る舞いや所作は美しい。母親似の端正な顔立ちも手伝って、男子高校生にしては珍しく色気の漂う男だった。
虎宗と同じ高校へ進学し、共に実家を離れて寮生活をしている。
喫煙ルームはフロアの端に設置され、ドアを閉め切って使用するので、人の話し声や店内BGMなど喧噪が少し遠くに聞こえる。
「久し振りにこっち帰ったのに、こんなトコで足止めとはな」
大志朗は、紫煙を薫らせている虎宗の隣で肩を竦めた。
彼らはふたりとも実家を恋しがる質ではなかった。入寮以来、故郷に帰ってくるのは久し振りだった。
虎宗はフーッと煙を吐き出した。
「いつまでここにおらなあかんのや」
「んー。なんや情報収集? しとるんやと。そんな長い時間はかけへん言うてたさかい、もうちょいしたら出れるやろ」
さてと、と大志朗は腕を上げて背伸びをした。
「ボーッとしとってもヒマやし、俺は女引っかけにいくけどトラはどうする?」
「興味あれへん」
「健全な高校生男子が女に興味あれへんわけないやろ。そんなヤツは心か体のどっちかに重大な問題があんねん」
「俺は健康や」
「ひとりの女以外は全部カボチャに見えるのは病気やで」
大志朗の冗談じみた一言に、虎宗はフッと笑みを零した。
「カボチャか。確かにな」
「認めよったで……」
大志朗は嘆息を漏らした。冗談で言ったつもりが素直に受け容れられたのでは惘れるしかない。
「まーええわ。トラのビョーキは今に始まったことちゃう。女引っかけには俺ひとりで行ってくるで。愛想悪いヤツがおったら上手くいくモンもあかんようになるでな」
大志朗はそう言い捨てて虎宗の隣から離れた。
喫煙ルームから出て行こうとドアの取っ手に手をかけ、その場でピタリと停止した。
「トラ……。アレ見てみい」
大志朗は何処かを指差していたが、興味のない虎宗はそちらを見ようとはしなかった。大志朗は我が友ながら女性関係が派手な人物だ。彼の注意を引くものなど、どうせ女関係だと高を括っていた。
「俺はべつに女はええ言うてるやろ」
「ええから見てみい」
大志朗はわざわざ虎宗の傍に戻ってきた。その坊主頭をむんずと両手で掴み、無理矢理顔をそちらに向かせた。
大志朗があまりに懸命になるものだから、虎宗は面倒臭そうに視線を巡らせてやった。
「何が……」
虎宗は言おうとした言葉を途中で止めた。
目を奪われた、ガラス張りの喫煙ルームの前を颯爽と通りすぎてゆく少女に――――。
風に靡く柔らかそうな黒。長い睫毛に縁取られた大きな瞳。端正な愛らしい顔。すべてに見覚えがあった。すべてに脳を刺激された。すべてに心が惹きつけられた。これこそが、愛おしいと感じるもののすべて。
次の瞬間には、身体が勝手に動いた。
禮がひとりでそこを歩いていたのは、渋撥たちから離れてお手洗いに行った帰りだったからだ。偶然にも喫煙ルームとお手洗いは、隣接していた。
「禮ちゃん!」
虎宗は気づいたときには部屋を飛び出していた。
名前を呼ぶと少女は立ち止まって此方を振り返った。月下の精が如く軽やかな身のこなしで。
嗚呼、星屑を散らしたような檳榔子黒の瞳が白昼夢のように美しい。
「――――……トラちゃん?」
その声を聞いただけで、虎宗は熱いものが込み上げた。同時にほっと安堵の笑みを漏らした。
「俺を、憶えといてくれたか……禮ちゃん」
「うわー。ほんまにトラちゃんや」
禮は虎宗の許へ駆け寄ってきた。数年振りに顔を合わせる〝兄〟に喜ばないはずがなかった。
「俺のことはー?」
大志朗が虎宗の背中からひょこっと顔を出した。
禮はその顔を見た途端、さらに嬉しそうに表情を綻ばせた。
「シロちゃんも一緒なんやー」
高校進学以来一度も顔を合わせなかったのに、禮は変わらぬ笑顔を見せてくれた。変わらぬ雰囲気と朗らかさ。急に懐かしさが押し寄せてきた虎宗と大志朗は、それを噛み締めるようにはにかんだ。
禮は自分の前に並び立つふたりを交互に眺めて自分の身長と見比べてみた。二年ぶりに見る青年たちは、身長も肩幅も禮とは比べ物にならないほど成長しており、別れた頃よりも随分と大人びて見えた。
「トラちゃんもシロちゃんも背、伸びたね」
「禮ちゃん相変わらずやってんか?」
大志朗は禮に拳を作って見せ、禮はクスッと笑った。
「トラちゃんとシロちゃんがいてへんよになってからは、昔ほどはアレやけど……まーぼちぼち。今いはる門下生の人らァはウチに気ィ遣て本気で相手してくれはらへんから」
「そうかァ。そら残念やな。禮ちゃんせっかくのセンスやのに、それじゃあ鈍ってまうな」
「道場はどんな感じ? 親っさんは元気してはるか?」
「何も変わってへんよ」
虎宗は高校に進学すると同時に入寮し、必然的に道場にも通えない情況になったが、禮と、師である禮の父と、道場のこと――――つまりは幼少の頃から一緒に生活している家族について常に気懸かりだった。禮の口から何も変わっていないと聞いて心底安心できた。
「なあ、禮ちゃん……。ちょっと、話ええか?」
虎宗は思い詰めたような表情で言い出した。
彼がそのような顔を見せるのは珍しく、禮はピタリと目を奪われた。
「話……?」
禮は渋撥たちを待たせている手前、いくら懐かしい再会とはいえ、あまり時間をかけられないと思った。しかし、虎宗の見慣れない表情が、禮に否と言わせなかった。
フロアの端に設置された喫煙ルームよりもさらに奥まった、非常階段のドアの前。先ほどの場所よりもまた一段と騒音が遠のき静かになった。
禮は、改まって話があると言うくらいだから大切な話なのだろうと思ったが、何故か大志朗は同席しなかった。大志朗も虎宗と同じ門弟であり幼馴染み。虎宗と同じく禮との再会を懐かしんでいるはずなのに。
禮と虎宗はふたりきり。
禮は実の兄と相違ないと思っている虎宗に対していささか緊張した。
いくら顔を合わせるのが久方振りとは言え妙な感覚だ。それはおそらく、虎宗自身が柄にもなく緊張しているからだ。
「トラちゃん。話ってなに?」
禮は虎宗が緊張していることに気づかない振りをして、なるべく力まずに尋ねた。自分まで緊張してしまっては、尚更虎宗が切り出しにくくなると思った。
「シロちゃん置いてきてしもて、よかったん?」
「うん、今は……ええんや」
「そお」
やはり虎宗はなかなか言い出せない様子で、禮の顔と自分の靴の間で何度も視線を行ったり来たりさせる。
「禮ちゃん」
或る瞬間、虎宗は意を決したように禮の腕を捕まえた。
禮は腕を振り払おうともせずに虎宗を見上げた。当然だ、実の兄同然に思っているのだから。
虎宗は禮の目を見詰めた。「何?」と素直に聞き返してきた禮の大きな黒い瞳に、強張った表情をした自分が映りこんでいた。
「禮ちゃん、あんな……」
――胸に抱き続けたこの想いをぶつけたら、キミは受け容れてくれるだろうか。
幾度か異性と付き合ったり肌を重ねたりしたが、脳味噌で恋をして神経で快感を味わって、心は置き去りだった。経験を積む度にまた違ったと、ああこれは恋ではないと、自分はすでに違う人物に恋をしているのだと、確信した。
禮に恋をしたのは勘違いだと思った。禮と距離を置けば恋心は薄れてゆき、自分の意識を男ではなく〝兄〟に戻せると思った。そうすべきだと思った。
しかしながら、数年離れても恋慕は薄れなかった。禮と離れたことはむしろ、虎宗を苛んだ。苦しめて苦しめて、恋心を情愛を思い知らせた。
――初めて愛した。心から愛している。俺はそうだ。命をも懸けられる。……キミはどうだ。
「禮ちゃんは今……好きな男、おるか?」
禮が長い睫毛を揺らしてまじろきをして、虎宗はゴクッと生唾を嚥下した。
そして、急に答を聞くのが恐くなった。その程度の勇気は用意していたはずなのに、目前にすると恐くなった。恐怖のあまり、虎宗は禮の腕からスルリと手を放した。
「うん」
虎宗は目を見開いて驚愕の表情で目を瞠った。
勇気は、覚悟は、決心は、何処へ消え失せた。賢く落ち着き払った振りをして何も準備できていなかった。カウンターを喰らったら、頭は真っ白じゃないか。情けない。頭がクラクラする。拳で思いきりぶん殴られるより、よっぽど痛い。鋭利なナイフで刺し貫かれたように胸が痛い。
痛い。痛い。痛い。肉体の痛覚には慣れている。しかし、心の痛覚はなんとも無様じゃないか。
「好きな人いうか……カレシ」
禮は、はにかみつつ少し頬を赤らめた。
その可愛らしく羞じらう仕草で、虎宗の胸にナイフをもっともっと押し刺す。
「カレシ……」
虎宗はポロリと口走った瞬間に、胸に火が付いたことが自分でも分かった。
目先のことしか見えないのも、欲しがるばかりなのも、腹を立てるのも、嫉妬するのも、みっともないと頭では分かっている。しかし、本音は目の前にいる愛しい娘を、手が届く距離にいる内に、掻っ攫ってしまいたい。この娘が好きな男を、この娘を好きな男を、殴り殺して踏み拉いて、奪い取りたい。
そのような自分の願望と我が儘を、肉体を貫通して胸の真ん中に居残る痛みが、どうにか押さえこんでくれる。現実と痛覚と理性とはよく出来たものだ。
「……そうか……」
虎宗の口からは、上の空の相槌が零れた。
ぶつけ損ねた想いの正体が、破壊衝動によく似ていることを初めて知った。
§ § §
禮は虎宗と分かれ、渋撥たちのほうへ戻ろうとアーケードゲーム機の間を縫って進んだ。
(結局、トラちゃんの話って何やったんやろ?)
先ほど再会した虎宗と大志朗のことを考えながら、少々ぼんやりしながら歩く。
再会自体は純粋に嬉しかった。しかし、何の前触れもなく、おそらくは師である父に連絡もなく、突然帰ってきた点になんとなく引っかかった。
(そういえばトラちゃんとシロちゃん、ふたりで何してるんやろ。お正月とかも帰ってこおへんかったのに)
禮は足を停めた。
実の兄のように慕う虎宗と数年ぶりに会えたのだから、理由など何であっても、理由など無くとも、嬉しいはずなのに、なんとなく胸が落ち着かない感じがする。虎宗の話の内容よりも、その理由のほうが気になった。
「禮ちゃん」
よく声をかけられる日だ。しかし、その声は虎宗のものでも大志朗のものでもなかった。
禮がキョロキョロと辺りを見回すと、ゲーム機の椅子に腰かけて手を振る男を見つけた。禮はすぐにその人物が誰であるか気づき、小走りに近づいた。
「勇ちゃん。何してんのー?」
備前 勇炫[ビゼン ユーゲン]――――
線が細く中性的で、端整な顔立ちをした青年。禮の実家・相模道場が流れを汲む備前金剛古武術の跡取り息子だ。
相模道場は備前金剛の分家のひとつであり、古くから交流試合や弟子の行き来などは珍しいことではなかった。禮と虎宗、備前は幼い頃からの顔見知りだ。
「トモダチと遊びに来てん。今ちょっと別行動中やけど。禮ちゃんもトモダチと来てるんか?」
「と、とと、友だちゆーか……っ」
備前は何てことはなく世間話を振ったつもりだった。しかし、禮は目を逸らして吃ってしまった。
禮にとっては渋撥が初めての彼氏。それを知人に宣言するのはまだまだ照れ臭かった。
備前は禮が困っていることを何となく察し、それ以上追及しなかった。
「こんなトコで会うなんて偶然やな。街歩いてても擦れ違うこともなかなかあれへんのに」
「うん。今日はよう人と会うからビックリやよ」
「俺の他にも誰かと会うたん?」
禮は自分が歩いてきた方向を指差した。
「さっきね、トラちゃんと会うたよ」
「トラちゃんて――……ああ、虎宗クンか。相模師範のお気に入りの死ぬほど愛想ないド近眼な」
――んん? 今のは悪口ではないか?
禮は備前の顔をジッと見詰める。
禮の知る限り、備前は端正な顔でいつも愛想よくニコニコして、気さくに話しかけてくれる。しかし、先ほどの発言には何となく敵意のようなものを感じた。
「虎宗クンは高校からは寮か独り暮らしかで、相模の家から出たやなかった?」
「うん。ウチもさっきそこで久し振りに会うたんよ、めっちゃ偶然。何かご用事あるんか遊びに来てるんか分かれへんけど」
「へー。虎宗クンがなァ」
備前は興味があるのかないのか、どうでもよさそうな相槌を打った。
それから禮に向かって愛嬌よくニコッと笑った。
「禮ちゃん。トモダチと来てんねやろ? トモダチのトコまで送ったるよ。こーゆー場所は禮ちゃんみたいな子がひとりでおったら声かけられるさかい」
「ウチみたいな子?」
「とにかく心配やから送ったるよってこと」
禮はフルフルと首を左右に振った。
送ってもらったりしたら照れ臭くて仕方ない彼氏を見られてしまうではないか。備前の厚意は嬉しいがここは絶対に断らなくては。
「ウチ、ちょお待たしてしもてるから急いで戻るし大丈夫。勇ちゃんおおきに」
備前は察しのよい男だ。絶対に送られたくないという禮の心境をまたしても敏感に感じ取り、すぐに引き下がった。
「ほな気ィ付けて」
備前は小走りに駆けてゆく禮の後ろ姿に手を振り、その姿が見えなくなるとまたゲーム機の椅子に腰を下ろした。
「虎宗クンが戻て来てる、なあ。このタイミングで……」
独り言を零してゲーム機に頬杖を突いた。
足を組んで物思いに耽っていると、何処からか数人の男たちがゾロゾロと集まってきて周囲を囲まれた。
備前は頬杖を突いたまま男たちの顔を一瞥した。
「いつもどおりのおもンない顔やな。その辺彷徨いてきた割には有力情報ナシ~って顔に書いてあるで」
備前がそう言って意地悪そうに口許を歪め、男たちの内のひとりが口を尖らせた。
「俺たちが躍起になって調べることでもないスから」
俺たち――――彼らは市立深淵高等学校の生徒だ。私立荒菱館高等学校と校区を隣接する学校であり、両校は彼らの代のずっと以前から対立関係にある。悪名高い荒菱館高校は、抜群の知名度や圧倒的人的リソースでの優位を誇るものの、深淵高校は長年、周辺地域でほぼ唯一の対抗馬で在り続けている。
「それに今の段階じゃまだこっちには影響ないこと……」
「あっそ。俺は全然ないでもないで、有力情報」
思ってもみなかった発言。男たちは備前を注視した。この場にひとり陣取ってゲームを楽しんだり煙草を呑んだり待っているだけの男が、情報を拾うなど誰が思うだろうか。
「例の《荒菱館キラー》な、思い当たるヤツひとりおったわ」
男たちはさらにジリッと半歩ずつ備前との距離を詰めた。
「何者スかソイツ」
「んー……俺の同門、ちゅうたらええんかな。親善試合とかでなァ、昔からよう試合組まれたで」
「備前さんと同じ格闘技やってるってことスよね。やっぱ強ェーんスか」
「対戦成績は? やっぱ備前さんの圧勝なんしょ」
彼らから見れば、備前の強さや武技は群を抜いて鮮烈であり賞嘆に値する。備前の腕前は確実に深淵高校で一、二を争うものだった。
「俺はソイツにだけは一遍も勝ったことあれへんねん」
「はぁあッ⁉」
男たちは驚いて上半身を仰け反らせた。
「び、備前さんが⁉」
「それはムカつくヤローっスね……」
「アホ言え。ケンカちゃう、スポーツの試合やで。ムカツクなんか思わへん」
「そーいうモンスか。サスガ人間できてますね、備前さん」
「なーんて、な」
男が感心したように言った直後、備前は口の端を引き上げてニヤッと笑った。底意地の悪そうな笑み。これは禮には見せない類の表情だ。
「俺かて聖人君子ちゃう。ほんまは気に入らんに決まっとるやろ。完璧な人間なんかおってたまるか。胸糞悪い」
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
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