ベスティエン ――強面巨漢×美少女の〝美女と野獣〟な青春恋愛物語

熒閂

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#03: The flawless guy

Across the other side.

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「グガッ……! カッハア……ッ!」

 ズシャアッ、と渋撥シブハツは地面に片手と両膝を突いた。
 脳内が盛大にグラグラと揺れ、一瞬でも気を緩めたら意識が途切れそうだ。気力だけが辛うじて意識を繋ぎ止めている。手を突いているアスファルトの感触がよく分からない。視界が霞んでよく見えない。
 本能で首を擡げて虎宗タケムネを睨みつけても、坊主頭と眼鏡のフレームがうっすら見える程度だった。

「……えらい頑丈やな。こっちの手が痛なってくるわ」

 虎宗は渋撥を見下ろして手をプラプラと振った。
 常人ならばとっくにダウンしているはずの一撃を先ほどから何発も叩きこんでいるのに、この男はまだに食い下がろうとする。正直、その闘争心だけには感服する。

「もうええやろ、あんだけの人数相手した後やのにお前よう頑張ったで」

 虎宗は感心と倦厭とが入り混じった溜息を漏らした。

(的確に肝臓突いてきよるしパンチの重さがハンパちゃう。クソッ、めっちゃ脇腹痛い。死ねクサレ坊主ッ!)

 虎宗はもう終わりだとでも言うように、ポケットの中に両手を仕舞った。

「もうやめとけや。なんぼやったかて無駄や。俺は負けたことあれへんねん」

 虎宗は臆面もなく放言した。
 確乎たる自信に裏打ちされているから誰に遠慮をすることも、ましてや目の前の襤褸雑巾のような男に憚ることもない。
 渋撥はハッと鼻で笑い飛ばした。
 肉体に残された力を隅から隅まで掻き集めるようにグッと両膝に力を入れ、蹌踉めきながら立ち上がった。額に脂汗を浮かべながらも苦痛を噛み殺し、背筋を伸ばしてしっかりと自分の足で地面を踏んだ。そして、対等な立ち位置から虎宗を睨みつけた。まだ立ち上がれる、まだ拳を作る力が残っている、ならばむざむざ引き下がるなど有り得ない。
 虎宗は表情の変化は乏しいが、内心やや驚いた。
 渋撥に叩きこむ一撃一撃に、確かに手応えがあった。あれだけ喰らって立ち上がるのだから成程、評判どおりの怪物だ。

「負けたことあれへんやと……?」

 渋撥は独り言のように零してククッと嘲笑した。

「奇遇やな。俺も負けたことあれへんねん」

 獣は首輪に繋がれても獣。家畜にはならぬ。
 戦士は息絶えても戦士。乞食にはならぬ。
 王は首を刎ねられても王。徒人にはならぬ。

 虎宗はますますもって感心させられた。自分はボロボロで相手はピンピンして、力の差もまざまざと見せつけられ、尚も自負と矜持を喪失しない。これほどまでに強靱な男は稀に見る。

「……ワレェ……」

 虎宗が口を開いて何かを言いかけたところ、背後から轟くエンジン音が聞こえてきた。

近江オーミさーーんッ!」

 自動二輪に跨がった曜至ヨージが、渋撥を大声で呼びながら此方に向かって疾走してきた。虎宗の横を擦り抜け、渋撥の前で急停止した。
 曜至は渋撥の有様を見て一瞬顔を顰めた。脂汗が浮いているのも殴られた後があるのも薄汚れた恰好も、渋撥にしては珍しいことだった。苦戦を強いられたことが見て取れる。

「近江さん大丈夫か」

「大丈夫なよに見えんのかボケ」

「とりあえず乗れ乗れ!」

 曜至は「カモンカモン」と手招きするが、渋撥は虎宗から目を逸らさず動かなかった。
 虎宗も、加勢が現れても自分の立ち位置から一歩も動かなかった。
 加勢など何の問題でもないと、事の成り行きを見守る。相も変わらず、一段高い地点から見下ろしていた。

「早く乗れって!」

 痺れを切らした曜至が、渋撥のシャツを掴んで引っ張った。
 渋撥はそれを振り払った。

「ちょお待っとけ。まだアイツぶっ飛ばしてへんねん」

「何言ってんだ、アンタがぶっ飛ばしたのがその辺にいっぱい転がってんじゃねェか! もう充分だろッ」

 曜至はもう一度渋撥のシャツを掴み、今度は渋撥が振り払えないようにしっかりと握り締めて引っ張った。
 渋撥はダメージが膝にきていて踏ん張れず、グラリと揺らぎながら曜至のほうへ引き寄せられた。
 曜至は渋撥の顔に口を近づけ、静まった声で耳打ちする。

「とりあえず今は一旦退け。アイツらの本隊がこっち来てんだよ。アイツらはアンタの首を狙ってる。相手の頭数も分かんねェし、俺たちはまだ数も集めてねェ。一旦退いて鶴榮ツルエと合流してとっとと体勢を立て直す。準備が整ったらアンタの好きなようにブッ殺させてくれるさ、頭のキレる№2がな」

「数? そんなモン知るか。俺は今、アイツとケンカしとんねん」

 渋撥にギロッと睨まれ、曜至はチッと舌打ちした。
 澤木サワキ曜至ヨージは、自身は荒菱館コーリヨーカンを形成する有象無象の数多のように、獣のサガに生まれ付いたのだと寸分疑わず信じている。そして、近江オーミ渋撥シブハツは紛れもなく獣たちの王だ。一匹の獣に過ぎない曜至は王の命令に服従することに反感などはない。
 しかしながら、曜至はその手を放さなかった。自分に有象無象の数多と異なる点があるとすれば、忠臣であると自覚している点だ。王を繋ぎ止める手、それは忠臣だけに許された最後の手綱。

「アンタひとりのケンカじゃねェんだよ! 大概に解れよ! アンタは《荒菱館の近江》なんだよ‼」

 獣たちから一身に注がれる畏怖と崇拝、獣を統べる王を冠すること、それを渋撥自身が望んだことはただの一度もない。ともすればこの身の自由を奪う枷、この心の自由を奪うしがらみ、煩わしさを感じながらもそれを無碍にすることもできないのは、すでに束縛されているからなのだろうか。

「クソッ……」

 渋撥は小さく叱咤し、大きな体を重々しく揺らして曜至の後ろに跨がった。
 渋撥の体重で車体が沈んだことを確認すると曜至は顔を上げて前方を向いた。
 渋撥が虎宗へと視線を移すと、彼奴は微動だにしていなかった。逃亡を阻止する意思はまったく見られない。眉ひとつ動かさない能面のような顔をして、顎をやや仰角にし此方を俯瞰気味に眺めてくるその様が、何とも癪に障った。
 渋撥が凝視していると、その能面は意外にもフッと笑みを零した。フラッと小さく手を振った。

「行くなら行け」

「ッ……!」

「俺はアンタを潰す。遅かれ早かれ、どうせまたどっかで会う。次はお互い万全やとええなァ、《荒菱館の近江》」

 バイクから降りようとした渋撥の前に、曜至が素早くバッと腕を伸ばして行動を阻止した。

「挑発なんか無視しろ近江さん!」

「上等じゃコラァアーッ‼ 次会うたら絶対殺すッ!」

「オウ、よう覚えとけ。俺は能登ノト虎宗タケムネや」

 バウゥンッ! ――曜至はバイクを急発進させた。
 渋撥をこれ以上この場に置いていたら、いつバイクから飛び降りて掴みかかりに行くか分かったものではない。

 バイクは爆音と共に風のような速さで消え去った。
 虎宗は何の感慨もない無表情でふたり乗りのバイクが米粒になるのを見送った。それからズボンのポケットに手を差しこみ、悠然と踵を返した。




 夕陽が落ちきった時分、国道や大きな道路は交通量が多い時間帯。
 曜至は渋滞を回避する為、所謂裏道と言われる道を、バイクで走った。思惑どおり行き交う自動車は少なくスムーズに走行できた。
 近江さん、と曜至は後方に乗っている渋撥に声をかけた。

「病院キライだったよな。どーする、とりあえずブラジレイロで鶴榮と落ち合うか、家帰るか。家に救急箱とかあんのか? 無いよりマシっつーレベルだけど何もしねェよりは……て、聞いてっか? オーイ」

 渋撥から反応がなかった。思えばバイクが発進した直後からまったくの沈黙だ。坊主頭の男に対してあんなに激昂していたのに妙だ。
 さらに曜至が不思議に感じているのは、先ほどから背中にずっしりと重みを感じること。あの渋撥が素直に曜至に体重を任せるなどいまだかつてなかったことだ。男同士で体を密着させるなど正気ならば有り得ない。
 信号が赤に変わった。曜至はバイクにブレーキをかけ、片足を路面に突いた。ドッドッドッ、と振動を感じながら上半身を捻って後方を振り返った。

「なあ、どうする。近江さ……」

 ぐらあ、と音もなくゆっくりと渋撥の身体が傾いた。
 曜至は慌ててバイクのハンドルから手を放してその巨体を抱き留めた。しかし、中途半端な体勢で自分より大柄な渋撥を支えるのは苦しい。曜至は筋肉を振り絞り、片足でどうにか渋撥を落とさないように、バイクも倒さないように踏ん張った。

「だああああッ! 重てえ~ッ!」

 曜至はぜえはあと荒い息をしつつ、項垂れた渋撥の顔を覗きこんだ。
 わずかに見えた横顔は両目の瞼が落ちていた。反応がないはずだ、意識がない。心なしか顔色も悪い。名前を呼びながら体を揺すってみても反応が返ってこなかった。
 曜至は自分の顔面から血の気が引く気配を感じた。

「マジかよオイオイオイオイ! 大丈夫か近江さんッ」

「スー…………」

 健やかな寝息が聞こえ、曜至の動作はピタッと停止した。
 ピクッピクッと痙攣する曜至の眉間。人を柄にもなく本気で心配させておいて当人は夢の世界。途端に腹立たしくなってきた。

「……コレも意識不明っていうのか? 随分暢気じゃねェかクソォ」




  § § §




 鶴榮ツルエが通り抜けようとしたあの橋は、人も自動車も通らず静まり返っていた。時偶遠くから自動車の走る音は聞こえてくるが、この空間だけは外界から遮断されたかのように邪魔が入らなかった。
 沈みかけの夕陽が河面に反射してキラキラと眩しい。しかし、誰も風景になど関心はなかった。みな、対峙する少女と青年を、固唾を呑んで見守った。
 レイ大志朗タイシローは、橋のほぼ中央で、まるで合わせ鏡のようにピッタリと同じ構えで停止したままピクリともしなかった。
 一体どれほどの時間が経過しただろうか。目が合えば殴り合う短慮な彼らにとって、ふたりの睨み合いは少々長すぎるほどだ。しかし、誰も展開を急かすことも割って入ることもなかった。
 得も言われぬ緊張感。それは紛れもなくふたりが縦横無尽に張り巡らせた警戒心の網羅であり、相手の一挙手一投足、呼吸のテンポまでも見逃さない為の武人のサガ。ふたりは戦いの舞台に上がった武人の領域にいて、そこに立ち入ることのできぬ彼らは観客になるしかない。

「シロちゃん、相変わらず隙あれへんね」

 禮が独り言のように零すと、大志朗はフフッと笑った。

(俺は〝相変わらず〟か……。禮ちゃんは変わったな。隙の無さも眼光も気魄も、禮ちゃんは別人みたいに成長しとる。……そうや。やっぱりそうなんや。禮ちゃんやトラと違て、俺だけが変われへん。もう限界の見えた武道家や)

 隙を見つけられないのならばいつまで見詰め合っても同じこと。禮は、力強く地面を踏みこんだ。それは強ければ強いほど、爆発的な推進力となる。
 その瞬間に禮から発せられる気魄が倍増して、大志朗はカッと目を見開いた。
 ガギィンッ!
 側頭部へと伸びる長く流麗な足。大志朗はそれをガードして踏み留まり、禮へと素早く手を伸ばした。
 捕まれば体格の差が如実となる。禮は大志朗の手をバシンッと弾き返して一歩離れた。片足を軸に回転し、対象に背を向けた。
 ぱしぃんっ。――禮が繰り出した後ろ蹴りを、大志朗は白い足をしっかりと捕まえて受け止めた。
 禮の身体がフッと宙に浮いた。大志朗に捕まえられた状態で地面を蹴り、捕まえられて固定された足を軸にもう一歩の足を思いっ切り引き寄せる。
 大志朗の側頭部に斜め上方から蹴り下ろされるように迫り来る脚。
 ガギャァンッ!

「クッ……!」

 大志朗は禮の脚を放して両手でガードを造ったが、急造である上に不意を突かれ、蹴りの威力に突き破られた。禮の蹴りは大志朗の顎先を捉えた。




「何ちゅう動きや……」

 鶴榮は感心してポロッと零した。
 単純な体力や腕力なら自分が禮に勝ることは明らかだ。しかし、禮の身の軽さだけは真似の仕様がない。鍛錬された無駄のない動作には素直に感服する。目の前で繰り広げられるのは、街中に有り触れた喧嘩などではなく正真正銘の武人同士のぶつかり合い。元より物見高い鶴榮は眼福ものだ。
 背後から「オイ」と声をかけられたが、鶴榮は振り返らなかった。やや興奮すら覚える、眼福と称するに値する貴重な時間を邪魔されたくなかった。

「余所見すんな、グラサン野郎」

「ちょお黙っとけ。せっかくのええシーン見逃したら勿体ないやろ」

「知るか。あのクソジャリ、大志朗さんの顔にキズ付けよって。代わりにオドレのツラもぐちゃぐちゃにしたるからな」

 鶴榮は、はあぁー、と溜息を吐いて西ノ宮ニシノミヤのほうへ振り返った。

「節操のないメンクイやな。何でワシがこんなのの相手せなあかんねん、邪魔臭いのォ」

 大志朗は禮に足蹴にされた顎を、学生服の袖からはみ出したセーターの袖で拭った。

「ハハッ……。やっぱやりよんなァ禮ちゃん」

 大志朗からの賞賛に禮は応じなかった。無言で構えたまま表情を一瞬たりとも変えなかった。

(チラッと掠ったくらいか……。あんな体勢からの蹴りがそんな効くとは思てへんケド)

 大志朗は気合いを入れ直して、禮に躍りかかった。
 禮や虎宗タケムネと自分は異なると頭では理解しても、現実を目で見て身を以て体感しても、一度身に付けたサガが容易に消失してしまうわけではない。体内に炎のようなものを感じる。胸の奥のほうが熱を持つ。ユラユラと、チラチラと、燻るように揺れる心の中の炎。自分にも一握りでも武人のサガがあるのなら、一気に天まで燃え上がれ。燃え上がって燃え尽きてしまえ。
 自分は、禮のように虎宗のようにどこまでも純粋に武人として生き抜くことなどできない。ならば、貫き通せぬプライドなどいっそのこと今この場で燃え尽きて果ててしまえばよい。面前の少女のなりをした武人は、そうなるに相応な相手。全身全霊で戦うに見合う相手。
 バシンッ! バシンッ! パァンッ!
 禮は大志朗の拳を寸分見切っては回避し、回避しては間合を縮め、懐に飛びこむ機会を窺う。流石に禮と同等の鍛練を積んだ大志朗には隙が無く、間隙を突こうにも攻撃の手が早くて潜りこむ間がない。

(早く――……)

 大志朗は禮とて油断の許されない相手。何よりも目の前の攻撃に集中しなくてはならないときに、ずっと渋撥の顔がちらついている。
 余裕がないのは大志朗ではなくて禮のほうだ。焦っているのは自分でも分かる。落ち着け、集中しろ、と己を諫めても逸る気持ちを抑えられない。
 ガシィッ。――大志朗は禮のセーラーの襟を掴んだ。
 禮はハッとした。焦りは判断を鈍らせる。パンチを回避したはよいが間合を見誤った。大志朗は瞬時に拳を開いて逆手に返して禮を捕まえた。
 大志朗はセーラーの襟を下方に引っ張った。華奢でも男の力、グインッと禮の体勢は前のめりに崩れた。

「……ッ!」

 禮は咄嗟に両足を地面から浮かせた。
 ドスンッ! ――大志朗の肘が禮の背中を打った。
 しかし、足が宙に浮いていた御陰で布を打つように威力は半減した。
 禮は両手を突いて地面に突っ伏した瞬間に下半身を引きつけて大志朗の膝裏をズバァンッと蹴り飛ばした。今度は大志朗が体勢を崩し、その隙に禮は素早く起き上がりながら掌打を突き上げた。
 カパァンッ! ――禮の掌打が真面に大志朗の顎を捉えた。

「カッハ……ッ!」

 大志朗は空を仰ぎ、その視界から禮の姿はフレームアウト。
 攻撃するには絶好の好機。禮の攻撃が来ると直感した大志朗は、両腕を十字に交差して取り敢えずのガードを造った。
 禮は好機を見逃さなかった。冷静に突くべき最良のポイントを見出した。
 ドッボォオッ!
 ノーガードの大志朗の脇腹に禮の蹴りがめり込んだ。
 先ほどの不安定な体勢からの一撃など比較にならない。メリメリッと骨と内臓が悲鳴を上げる。

「グアァッ……!」

 大志朗は込み上げてくる吐き気を押し戻し、禮のほうへ顔を引き戻した。
 禮の背中が見えていてマズイと思った。ガードを造るのは最早条件反射。しかし、大志朗は敢えて拳で対抗することを選択した。今から放たれる一撃は不完全なガードなどで凌げる代物ではない。
 禮の肩がわずかに浮いた瞬間、肩から先が一瞬消えた。
 大志朗は禮に向かって拳を突き出した。チュンッと風を切る音がするほど高速の大志朗の拳が、禮の顔面の直ぐ横を通過した。
 禮の裏拳は大志朗の頬骨を捉えた。禮は渾身の力で腕を振り抜いた。
 バキャンッ!
 脳を撃ち抜かれるような衝撃が駆け抜けた。視界いっぱいに真白い火花が弾け、頭がぐらあっと揺れた。ダメだ、天地が分からなくなる。立っていられなくなる。大志朗は地面を踏み締めて意識を繋ぎとめた。
 ズサッスシャアッ。――大志朗は踏み留まり、二、三歩後退した。
 大志朗が顔を引き上げると、禮はすでに構えを整えて此方を見据えていた。それはまさしく、敵を打倒する為に一切の慈悲なく研ぎ澄まされた存在。
 大志朗は禮の有り様に、連綿と受け継がれる武人の血脈と崇高な精神を見た。愛らしい姿をしていても、少女の形をしていても、武人は武人。何かを得る為には拳を握り、敵を討ち滅ぼすしか道はない。

「ハアッ……ハアッ……」

 大志朗は荒く呼吸をしながら禮と同じように構えた。

(最大出力、耐久性、持続時間……物事には何でもリミットがある。大抵のリミットは禮ちゃんより俺のほうが上や。禮ちゃんのリミットまで引き延ばせば、俺に負けはない)

 禮も肩を上下させて息をし、体力を消耗していることは明白だ。如何にキレはよくてもか細い少女の身に詰まったエネルギーなど、蓄えているスタミナなど、たかが知れている。それらのプールをすべてペイし終わったとき、それが禮のタイムリミット。
 禮には天より授けられた武人の遺伝子があるというのなら、大志朗には努力によって体得した技や経験により培った情況判断能力がある。勝利を妄信する天才のようには振る舞えずとも、情況を鑑みて冷静に勝機を見出すのだ。




「ガッ! ……カハッ、クソ……ッ」

 西ノ宮は四つん這いの体勢で地面を睨んでいた。口を押さえる指の隙間から真っ赤な液体が漏れ出てきて地面に落ちた。
 それは刹那の出来事だった。殴りかかったのは自分のほう、一歩先に踏みこんだのも自分のほうだったはずだ。
 にも拘わらず、気づいたときには顔面を撃ち抜かれていた。鶴榮が何か少し動作したと思った次の瞬間、鉄球がぶち当たったかのような強烈な衝撃、そして地面に這い蹲っていた。このような無様な恰好からは早く復帰したいが、脳が急激に揺さぶられた所為か足に上手く力が入らない。

「バケモン、が……!」

 西ノ宮は顔を上げて鶴榮を睨んだが、彼はすでに此方を向いてすらいなかった。腕組みをして禮と大志朗のぶつかり合いを鑑賞している。お前などに眼中にないと態度で物語っている。

「西ノ宮。大丈夫か」

 頭上から声が降ってきて、西ノ宮はハッと顔を上げた。
 煙草を咥えた虎宗が自分を見下ろしていた。

能登ノト、さ……ゲホッ」

 虎宗は西ノ宮の腕を掴んで軽々と引き上げた。
 西ノ宮はふらつきながらも立ち上がり、口腔内に溜まった血液をベッと地面に吐き出した。
 鶴榮もいつの間にか現れた坊主頭の男の存在に気づき、禮たちから男へと視線を移した。

(何やコイツ。他のヤツらとはちょお雰囲気がちゃうな)

 虎宗のほうはというと、仲間であるはずの西ノ宮をこのような状態にした犯人には興味がないようで、鶴榮のほうには見向きもしなかった。西ノ宮から手を離し、大志朗のほうへと顔を向けた。

「大志朗の相手、女やろ。随分ええ動きして――」

「ハイ。なんや大志朗さんの知り合いみたいです。さっきまで訳アリ風に話してはりましたケド」

 大志朗の相手の正体を確かめた瞬間、虎宗の身体はピクンッと跳ねた。そののち石像のように硬直した。目を見開いて一点のみを凝視した。西ノ宮が「能登さん」と何度か呼びかけても反応は無かった。
 かと思ったら、虎宗は突然足を前に出して歩き出した。西ノ宮がさらに何度か声をかけても立ち止まることなく、大志朗に向かって一直線にズンズンと進んでゆく。




「大志朗」

 背後から声をかけられ、大志朗が振り返る前に肩を掴まれた。半ば強引に振り返らせられると、信じられないという表情をしている虎宗と目が合った。

「お前、何でや……? 何してんねん大志朗」

「しゃあないねん、トラ」

 大志朗は禮のほうへ顔を戻そうとしたが、虎宗が肩から手を放さなかった。

「しゃあないて何やねん。何で禮ちゃんとお前がやり合うて……」

「禮ちゃんは俺らの敵に回った」

「は?」

 虎宗は即座に聞き返した。いつも冷静な彼にしては片方の眉を引き上げて随分と間抜けだった。
 たった今登場したばかりの虎宗が情況を把握できないのも、理解できないのも、仕方がない。察しが悪いと責める気は毛頭ないが、自分でも納得できないでいるから、大志朗は確かに苛立った。

「禮ちゃん、この前お前に付き合うてるヤツいてるて言うたんやろ。それが《荒菱館の近江オーミ》や。禮ちゃんは《荒菱館の近江オーミ》のオンナや!」

 大志朗は苛立ちに任せて怒鳴るように言った。それを聞いたときの虎宗の顔など、少し考えればすぐに思いつくのに。
 大志朗がおそるおそる虎宗の顔を見ると、虎宗は目を見開き黒眼を微動させていた。ポーカーフェイスの虎宗が動揺を隠しもしない、大志朗は直視できなくなってパッと顔を逸らした。
 虎宗はハハッと乾いた笑みを漏らした。それも虎宗らしくはなかった。

「何の冗談や……。有り得へんやろ。禮ちゃんとあの男が……? アホ言え、その冗談は笑えへんで」

「せやったら何で禮ちゃんがここにいてんねん。何で俺とやり合うてんねん。俺らの敵やからやろ!」

「禮ちゃんが《荒菱館の近江》のオンナなんか有り得へんやろ! お前の勘違い――」

 大志朗はドンッと虎宗の肩を叩き飛ばした。

「現実見ろや! 今ここにいてんのが禮ちゃんやなかったらアレは誰や⁉」

 西ノ宮は、剣幕で言い合う大志朗と虎宗を見ていられなくなり、ふたりの間に割って入った。

「何してはるんスかふたりとも! モメてる場合ちゃうでしょ! 今やり合うてる最中でっせ!」

 虎宗と大志朗は口を閉ざして睨むような眼光で見詰め合った。
 どちらかが折れてくれるのを待っているようだった。両者ともにいま目の前にある現実を夢か冗談だと否定してほしかった。禮が笑いながら「嘘やよ」とでも言ってくれれば何はなくとも受け入れるのに。

「トラちゃん」

 ――その声で一言「嘘やよ」と言ってくれればよいのに。
 虎宗はその恋しい声に引かれるように禮のほうへ身体を向けた。眉間には深い皺が刻まれていた。

「トラちゃん。ハッちゃんとまだ会うて……」

「ほんまに……禮ちゃんが言うてたカレシて《荒菱館の近江》のことなんか?」

 禮はやや目を大きくした。自分の言葉を遮ってまでされた虎宗の質問が意外だったから。

「うん」

 恋しくて堪らない鈴を転がすような可憐な声が、この時ばかりは静かに冴えて脳幹に染みこんでいった。
 虎宗は無意識に拳を握っていた。ギリギリと震えるほど握り締め、禮の返事を噛み締めた。
 禮自身から恋人がいると聞かされたときよりも、その恋人があの男だと知らされた今のほうが、到底冷静ではないことが自分でも分かった。
 何故、よりにもよってあの男なのだ。あの男はもう虎宗が敵と認定してしまった。倒すべき男だと決定てしまった。敵がどれほど強くても構わなかった、それこそ世界最強の男が敵でも構わなかった。何故に、よりにもよって禮と同じ側にいる男なのだ。あの男との敵対は、即ち禮との敵対。禮と敵対することは、虎宗にとって冷静さを喪失するに充分すぎる理由だった。

「トラちゃん。ハッちゃんと会うた……?」

 禮からの問いかけに虎宗は素直にコクッと頷いた。

「ねえ、トラちゃんがここにいてるいうことは……ハッちゃんは? ハッちゃんはどうしたん……?」

 禮へ想いを告げ損ねた日から、虎宗の胸にはナイフが刺さっている。禮が不安げな声を絞り出す度に、胸に突き刺さったナイフが心の臓を貫かんと奥へ奥へと押しこまれる。その痛みもまた虎宗から冷静さを失わせてゆく。

「…………。死んでへんとは思うで、多分」

 ――あの場で殺してしまえばよかった。
 そう本音をぶちまけたら、キミは俺を憎むだろうか。




「あ……」

 禮の口から、か細い声が零れた。
 あの人が斃されてしまったなんて信じたくない。否定したい。嘘吐きと糾弾したい。それなのに、言葉が出てこない。何かを紡ぎかけた唇が震え、今にも泣き出しそうな顔で、悪魔を見るような目で、虎宗を見詰めるしかできなかった。
 それこそ悪魔的なほどの虎宗の強さを、禮は充分すぎるほど知っている。幼い頃から兄のように共に育った人だから。

「オイ。そこのハゲ」

 禮の隣までやって来た鶴榮が、虎宗に乱暴に投げかけた。

ハツがどうなったて? 近江オーミ渋撥シブハツがどうなったっちゅうたワレ。《荒菱館の近江》はなァ、そう簡単にヤられるほどヤワちゃうで」

 虎宗は大志朗に視線を送って「これは?」と尋ねた。
 先ほどの言い合いの所為で不機嫌な大志朗から「荒菱館の№2」とだけ返ってきた。虎宗はフゥンと零して鶴榮に視線を戻した。

「ほんまはシロの役目やけど、《荒菱館の近江》は逃してしもたし俺がやるわ」

 虎宗の爪先が鶴榮のほうを向き、禮はザワッと皮膚が粟立った。虎宗の両肩から立ち上る敵意によって何をしようとしているのかピンと来た。

「トラちゃんやめて」

 禮からキッと睨みつけられ、虎宗の眉尻がピクッと撥ねた。

「禮ちゃん退いてくれ。俺の前に立つんなら……俺と敵同士になるっちゅうことやで」

 それは虎宗としても一縷の望みだった。この期に及んで往生際が悪いことだけれど。
 ――これでキミが引いてくれれば、何もかもを笑って許すことができる。すべて笑って元どおりになる。何を案ずることもなくキミを想っている、あの日々に立ち戻ることができる。

「もう……敵やんか」

 けれども禮の答は、虎宗の期待を裏切り、同時に予想どおりでもあった。

「トラちゃんがハッちゃんの敵になるなら、もうウチも敵やよ……」

 禮は眉に細かな皺を刻んで泣き出しそうになりながら、それでもやはり強い意志でもって虎宗を見た。一歩も退かぬ眼差し、それをこんなにも痛く感じたのは初めてだ。
 互いに道は別たれたのだと知る――――。

 ゴウッ、と突風が吹くような気配を感じて禮はハッとした。

ツルちゃん!」

 禮は叫んで鶴榮の前に飛び出した。
 鶴榮が「は?」と驚いている視界の外で、ヒュッと風を切る音がした。
 ガギィンッ!

「う……くっ!」

 鶴榮の前に飛び出した禮は、腕を十字に組んで虎宗の蹴りを止めた。しかし、その威力を受け止めきれず地面から両足が離れた。

「禮ちゃん!」

 ぶわあっ、と禮の体が宙に浮かされ、鶴榮は咄嗟に禮へ腕を伸ばした。禮の制服を掴んで体を引き寄せ、ズシャアアッと数歩後退りながらも抱き留めて踏み留まった。

「大丈夫か禮ちゃん!」

「う……ッ、つぅ」

 刹那であったとはいえ、禮は完璧に虎宗の蹴りをガードした。ガードに抜かりはなかったが、到底虎宗のパワーには太刀打ちできなかった。

(ガードしても手が……ッ)

 虎宗は禮を見下ろして眉根を寄せ、つらそうな申し訳なさそうな、何とも言えない表情を見せた。素直にゴメンと言ってしまえる立場なら、彼はすぐさまそれを口にしただろう。

「禮ちゃんに何してくれてんねんハゲコラァッ!」

 鶴榮は禮から手を離して虎宗の胸座むなぐらを掴んだ。肩を引いて拳を振りかぶった。

「オラァッ!」

 バチィインッ! ――鶴榮が繰り出した拳を虎宗は手の平で捕まえた。

「!」

 鶴榮のパンチは虎宗の想定を超えていた。手の平で衝撃を吸収して受け止めることができず、肩ごとグインッと圧倒された。パンチの威力に押し切られ、パァンッと手の平を弾かれた。
 虎宗は手の平にジンジンと留まる熱を感じながら、眼鏡の分厚いレンズ越しに鶴榮をジッと見た。その見る目は、先ほどと明らかに異なった。

「……№2言うだけあってパンチだけは半端ないな。想像以上や」

「ナメんのも大概にせえよクソ坊主」

 鶴榮は虎宗の顔をギロッと睨みつけた。サングラスと分厚いメガネを超えて目と目がかち合った瞬間――――ゾクッと鶴榮の背筋を何かが駆け抜けた。
 本能が、直感が、野生の勘が、脳内でけたたましく警鐘を鳴らして一瞬思考が急停止。思考とは真逆に肉体の反射は過敏に反応し、全身の皮膚が総毛立った。
 ガキィインッ!
 衝撃音が鼓膜を揺らし、鶴榮はハッとした。視界の真ん中にセーラーの襟がパサッとはためく。
 鶴榮が思考停止している間に、虎宗は容赦なく拳を放っていた。
 禮は素早く鶴榮と虎宗の隙間に滑りこみ、虎宗の拳を受け止めた。今度は押し負けてしまわぬようにしっかりと足腰に力を入れた。

「!」

 一度ならず二度までも立ちはだかる禮に、虎宗が動揺しないはずはなかった。実力の差が分からない禮ではない。
 そして、禮はその動揺を見逃さなかった。虎宗が隙を見せてくれることなどそうはない。
 虎宗の学生服の胸座を捕まえ、素早い体捌きで左半回転しながら懐に潜りこんだ。虎宗の軸足を払って全力で踏ん張って引きつけると、虎宗の足が巻き取られるように浮いた。
 虎宗自身が気づいたときには、禮の小さな身体に背負われていた。

「ちょッ……!」

 ズドオンッ! ――虎宗は背中からアスファルトに叩きつけられた。

「ガッハ!」

 虎宗が仰ぎ見た禮の顔は、笑ってはいなかった。
 一本を取ったときはいつも眩しいくらい溌溂と笑うのに、今は笑顔を見せてはくれなかった。泣き出しそうな、悔しそうな、哀しい表情。そんな顔を見たかったわけではないのに。
 虎宗が「禮ちゃん」と呼びかける前に、禮はフイッと顔を背けた。後ろ髪引かれることなく離れていった。
 腕を伸ばして掴めばよかったのかもしれない。投げられたとはいえ五体満足であり、意識もハッキリしていた。何より禮と敵になることを回避したかったのだから、離れてゆくその細腕を掴んで力尽くで引き留めて、素直に「行くな」と言えばよかったのだ。

 ――行くな、行くな、行くな! 何で俺の敵になるんや! 何であの男なんや! 何で俺ちゃうんや!

 頭のなかでは叫べるのに、声にはできなかった。想いだけで胸は張り裂けそうなのに、喉が蓋をする。

「鶴ちゃん。行こ」

 視界の外で禮の声が聞こえた。離れていってしまう。虎宗の手の届かない彼岸へと。いずれ相見える対岸へと。
 腹の底から声を出して「行くな」と言ったとして、捕まえて縋りついて「行くな」と言ったとして、果たしてその足を停められただろうか。その結果を知るのが恐いから、言葉にできなかった。
 ――キミの為に俺は、こんなにも臆病に成り下がる。




熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
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