【本編・番外編完結】風と会話できるせいで引きこもりでしたが、そのおかげで王子の嫁になりました

対峙

ベラに不都合な部分はもちろん隠された状態で、私が変わり者で嘘つきだということを話される。



それに対して茶会に集まった女性たちが

「まぁなんて恐ろしい方なの」

と笑いながら相槌をうつ。



もうだめ、過去を乗り越えて変わりたいと思ったのに、結局私は何も変われない。

ぽろりと涙がこぼれ落ちそうで、必死に歯を食いしばって耐える。



そんな私を見てベラが言う。

「突然王子の嫁になったのも、何か裏があるはずですわ。例の怪しげな力で王子の弱味でも握ったのでは？」

ベラの顔が意地悪く歪む。



「王子の弱点。それは興味深い。言えばあなたにはそれなりの報酬をしますよ」

それまで沈黙を保っていたマリアンヌが口を開く。



マリアンヌが私をじっと見つめる。

「反対に何も言わないのであれば、あなたは用済みです。今後どうなるでしょうね」


それは殺されるということだろうか。

まさかそう簡単に人を…

そう思う一方でギルバートの話を思い出し、この人ならやりかねないと思う。



「さぁ答えなさい、リーゼ」

マリアンヌに睨みつけられ、手が震える。

周りの女性たちは意地の悪い顔で行く末を見守っている。



「…ません」

「はっきり言いなさいよ」

声が掠れ、しっかり言えない私に苛立たしげにベラが大声を出す。



その聞き覚えのある金切り声にどうしても体が反応する。

手だけではなく、足も震える。

しかし懸命に立ち上がって、隣に座っているマリアンヌを見下ろす。



「ありません。あの方に弱点など、ありません！」

声も恐怖で細く揺れてしまったが言い切る。

それを聞いたマリアンヌの目が広がる。



「それがあなたの答えというわけね」

マリアンヌのまなじりが上がり、口から低い声が漏れる。

怖い。怖いけど私はあの方を、ギル様を裏切りたくない。



そもそも弱点は本当に知らない。

だが、知っていたとしても絶対に教えない。



「あなた、自分の立場をわかっているの？たかだか辺境伯の娘なのよ。本当に昔から生意気ね」

ベラが立ち上がり、自分のコップを掴む。そしてあっと思った時には中身が私の頭の上からかけていた。



自分の髪の毛からぽたぽたと雫が落ちる。

「どうやら学生時代、いじめ足りなかったみたいね。これからあなたの立場わからせてやるわ」


そう言って今度は私の髪に手を伸ばす。

セシルが丁寧にといで、結い上げてくれた髪。



咄嗟に逃げるように頭を避けると、彼女の手が私の顔を引っ掻いた。

頬に小さな痛みが走り、触ると指に赤がついた。



「ざまぁないわね。綺麗な顔に傷がついて。王子もあなたの顔が好きなのかもしれないし、もっと痕が残るくらい傷つけてやりましょうか」

ベラがケーキの近くに置いてあった小さなナイフを手に取る。



そこまでするのか。

「どうする。ここで改めて王子に関して何か有益な情報を言うのであれば止めるわよ」

マリアンヌが背後から言う。



『リーゼ、逃げよう。ここは危ないよ』

ルーナが悲鳴に近い声をあげる。

その声に少し恐怖が和らぎ、深呼吸をする。



ブレスレットに触れる。

私は変わるのだ。自分の人生を変えるために。

「私はもう逃げません。あなたたちには屈しません」

涙で視界が滲むが、必死で言う。



脳裏にギルバートの顔が思い浮かぶ。

まだ彼のことを理解しているとは言いがたい。

けれど彼は初めて会った時から真っ直ぐだった。



悪魔の子と言われていて怖い人かと思っていた。
しかし私のことを気遣ってくれたり、素直にルーナたちのことやハリーの力を認めたり、そういう上に立つ者としての強さや優しさもあった。



私は彼のことをこれからもっと知りたいし、支えたい。



『リーゼ、本当に危ないよ』

『俺たちが突風を起こすから逃げて』

『リーゼ、リーゼ！』

ルーナ、ウィリアム、アンナが必死で呼びかけてくれる。

しかしそっと首を小さく横に振る。



今この室内で風が吹けば、私になんらかの力があることがバレてしまう。

ギルバートとの約束だ。

能力はマリアンヌたちに知られないようにしなければ。



「私たちに刃向かったこと後悔するのね」

ベラがナイフを片手に私の肩を掴む。

必死にその手から逃れようと身をよじる。


一体どうすればいいの…！