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強さ
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恐怖で本能的に目を閉じようとした時だった。
バンッと大きな音がして、温室の扉が開く。
ベラも周りの女性たちも驚いたように動きを止め、扉を見つめる。
「あなたは…」
マリアンヌ以外の女性たちが礼をする。
紅茶と涙でぐしゃぐしゃになった顔をぬぐいながら、扉を振り返る。
「ギル、様」
そこには漆黒の髪にアメジストの瞳を持つ、ギルバートが立っていた。
「無礼ですよ。女性だけの茶会に何の挨拶もなしに入ってくるなんて」
マリアンヌがギルバートとは違う青の瞳をすがめ、ギルバートを見つめる。
「失礼。妻の普段とは違う声が聞こえたと部下から報告があったので」
そう言うと、ずんずん私のところに大股で近寄ってくる。
「大丈夫か、無理をさせたな」
私の姿を見て、苦しそうに眉を寄せると、私を抱き上げた。
突然のことに焦ったが、状況が状況なので何も言わず、身を任せる。
そして温室に集まった全員を見渡し、最後にマリアンヌを睨みつける。
「私の妻リーゼに、今後手出しすればただで済むと思わないでください」
ベラを含め、女性たちはギルバートの氷のようなまなざしによる脅しに肩を震わせる。
いくらマリアンヌ寄りとは言え、現時点でギルバートはこの国の次期王になる確率が高い。
そのような彼の脅しに少なからず恐怖を感じているようだ。
マリアンヌはギルバートのその睨みにも負けず、ふっと笑う。
「思わぬ収穫があったわ。お前がそんなに慌てているところを初めて見た。お前の弱点を知れた気がするわ」
マリアンヌが私をじっと見つめる。その視線に手が震える。
ギルバートは私を抱く手にさらに力を込め、もう一度マリアンヌを睨みつけると、背を向けた。
「ごきげんよう、リーゼ。また会いましょう」
温室を出る時、最後にマリアンヌの声がギルバート越しに聞こえた。
*****
ギルバートに抱えられ、温室を出るとハリーが駆け寄ってきた。
「リーゼ様!その姿は」
ハリーが私のぐちゃぐちゃになった姿を見て泣きそうな顔になる。
「至急セシルに風呂の準備をさせてくれ」
ギルバートが告げると、ハリーは大きく頷き、廊下を走っていく。
ハリーの姿が完全に消え、廊下にはギルバートと自分の二人になった。
長い廊下を歩きながら、ギルバートが口を開く。
「すまなかった」
突然の謝罪にギルバートの顔を見つめる。
ギルバートは苦しげな表情をしており、見ているこちらの方が胸が痛くなるくらいだった。
「ギル様が謝ることはありません」
「いや、危険だと分かっていたのに向かわせた」
「私が弱いのです…」
覚悟が足りなかった。分かっていたのに体が震えた。
何も出来なかった。変わりたいと思ったはずなのに。
涙が出そうになって唇を噛み、うつむく。
「違う、お前は。リーゼは強い」
いつの間にかたどり着いた部屋の椅子におろされ、ギルバートが私の頭を撫でる。
ぎこちないが、あたたかい手のひらに驚き、思わず顔をあげる。
「何もできませんでした。あなたにとって有益な情報を手に入れるどころか、やり込められて…」
我慢していた涙が一筋溢れる。
するとギルバートに思いっきり抱きしめられる。
「そんなことはない。お前は十分よくやった。あの女たちに1人で立ち向かったんだ。自分を誇れ」
ギルバートのあたたかさと今まで聞いたことがない優しい声に嗚咽が漏れる。
ベラに偶然傷つけられた頬をギルバートが親指でそっと撫でる。
「リーゼ、泣くな。お前はやり切ったんだから」
そうだろうか、ギルバートが助けに来てくれていなければどうなっていたかわからない。
自分の不甲斐なさに涙が止まらない。
そんな私を見て珍しく困ったような顔をして、それから顔を近づけた。
チュッと音を立てて、私の唇にギルバートの唇が触れ、離れる。
「えっ」
驚いて目を見開き、涙が止まる。
結婚式の時に儀礼的にしたくちづけ以来だった。
「ど、どうして」
「別にいいだろ、夫婦なんだから」
ふいっとギルバートが視線を外す。
それでも私は動きが止まり、ギルバートを見つめ続けてしまう。
するとその視線に耐えかねたように、ギルバートがこちらを向くと、もう一度唇を重ねた。
「したかったからした!それでいいだろ。はやく風呂に入れ」
ギルバートは睨むように私を見て、セシルを呼んでくると言い、部屋を出て行った。
私をぽかんと口を開けていたが、徐々に頬が熱くなる。
さっきまで恐怖に震え、泣いていたのに、もう今は何も考えられない。
ほてった頬を押さえ、ぱたりと腰掛けている椅子に倒れ込む。
「ずるい」
何がずるいのかわからないが、口から漏れたのはそんな言葉だった。
目を瞑ると、先ほどのギルバートばかりが頭に浮かんだ。
バンッと大きな音がして、温室の扉が開く。
ベラも周りの女性たちも驚いたように動きを止め、扉を見つめる。
「あなたは…」
マリアンヌ以外の女性たちが礼をする。
紅茶と涙でぐしゃぐしゃになった顔をぬぐいながら、扉を振り返る。
「ギル、様」
そこには漆黒の髪にアメジストの瞳を持つ、ギルバートが立っていた。
「無礼ですよ。女性だけの茶会に何の挨拶もなしに入ってくるなんて」
マリアンヌがギルバートとは違う青の瞳をすがめ、ギルバートを見つめる。
「失礼。妻の普段とは違う声が聞こえたと部下から報告があったので」
そう言うと、ずんずん私のところに大股で近寄ってくる。
「大丈夫か、無理をさせたな」
私の姿を見て、苦しそうに眉を寄せると、私を抱き上げた。
突然のことに焦ったが、状況が状況なので何も言わず、身を任せる。
そして温室に集まった全員を見渡し、最後にマリアンヌを睨みつける。
「私の妻リーゼに、今後手出しすればただで済むと思わないでください」
ベラを含め、女性たちはギルバートの氷のようなまなざしによる脅しに肩を震わせる。
いくらマリアンヌ寄りとは言え、現時点でギルバートはこの国の次期王になる確率が高い。
そのような彼の脅しに少なからず恐怖を感じているようだ。
マリアンヌはギルバートのその睨みにも負けず、ふっと笑う。
「思わぬ収穫があったわ。お前がそんなに慌てているところを初めて見た。お前の弱点を知れた気がするわ」
マリアンヌが私をじっと見つめる。その視線に手が震える。
ギルバートは私を抱く手にさらに力を込め、もう一度マリアンヌを睨みつけると、背を向けた。
「ごきげんよう、リーゼ。また会いましょう」
温室を出る時、最後にマリアンヌの声がギルバート越しに聞こえた。
*****
ギルバートに抱えられ、温室を出るとハリーが駆け寄ってきた。
「リーゼ様!その姿は」
ハリーが私のぐちゃぐちゃになった姿を見て泣きそうな顔になる。
「至急セシルに風呂の準備をさせてくれ」
ギルバートが告げると、ハリーは大きく頷き、廊下を走っていく。
ハリーの姿が完全に消え、廊下にはギルバートと自分の二人になった。
長い廊下を歩きながら、ギルバートが口を開く。
「すまなかった」
突然の謝罪にギルバートの顔を見つめる。
ギルバートは苦しげな表情をしており、見ているこちらの方が胸が痛くなるくらいだった。
「ギル様が謝ることはありません」
「いや、危険だと分かっていたのに向かわせた」
「私が弱いのです…」
覚悟が足りなかった。分かっていたのに体が震えた。
何も出来なかった。変わりたいと思ったはずなのに。
涙が出そうになって唇を噛み、うつむく。
「違う、お前は。リーゼは強い」
いつの間にかたどり着いた部屋の椅子におろされ、ギルバートが私の頭を撫でる。
ぎこちないが、あたたかい手のひらに驚き、思わず顔をあげる。
「何もできませんでした。あなたにとって有益な情報を手に入れるどころか、やり込められて…」
我慢していた涙が一筋溢れる。
するとギルバートに思いっきり抱きしめられる。
「そんなことはない。お前は十分よくやった。あの女たちに1人で立ち向かったんだ。自分を誇れ」
ギルバートのあたたかさと今まで聞いたことがない優しい声に嗚咽が漏れる。
ベラに偶然傷つけられた頬をギルバートが親指でそっと撫でる。
「リーゼ、泣くな。お前はやり切ったんだから」
そうだろうか、ギルバートが助けに来てくれていなければどうなっていたかわからない。
自分の不甲斐なさに涙が止まらない。
そんな私を見て珍しく困ったような顔をして、それから顔を近づけた。
チュッと音を立てて、私の唇にギルバートの唇が触れ、離れる。
「えっ」
驚いて目を見開き、涙が止まる。
結婚式の時に儀礼的にしたくちづけ以来だった。
「ど、どうして」
「別にいいだろ、夫婦なんだから」
ふいっとギルバートが視線を外す。
それでも私は動きが止まり、ギルバートを見つめ続けてしまう。
するとその視線に耐えかねたように、ギルバートがこちらを向くと、もう一度唇を重ねた。
「したかったからした!それでいいだろ。はやく風呂に入れ」
ギルバートは睨むように私を見て、セシルを呼んでくると言い、部屋を出て行った。
私をぽかんと口を開けていたが、徐々に頬が熱くなる。
さっきまで恐怖に震え、泣いていたのに、もう今は何も考えられない。
ほてった頬を押さえ、ぱたりと腰掛けている椅子に倒れ込む。
「ずるい」
何がずるいのかわからないが、口から漏れたのはそんな言葉だった。
目を瞑ると、先ほどのギルバートばかりが頭に浮かんだ。
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