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■本編 (ヒロイン視点)

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(……これこれ。『臨場感のないえっち』といわれる私の漫画な……)

 なにが悪いかと考えるに、まずは前戯が悪いのかもしれないとふと気がついた。
 シチュエーションが地味だ。背景の描き込みに自信はあっても、寝室ばかりでは華やかさが欠けている。
 前戯のバリエーションだってないし、会話も、喘ぎだって控えめで……まるで作者の恥じらいが透けて見えるかのよう。
 自作品の欠点に向き合うのは気が滅入る。
 けれど非日常の空間で作業しているおかげか、いつもよりポジティブに物事を考えることができそうだ。

(ここですぐに指でイくっていうのも読者視点で見れば物足りないのかも。えっちって、とりあえずイかせりゃいいわけじゃないって聞くしね? ……そうだ、シャワー室での前戯なんてどうだろう)

 しだいに琴香の集中が、意識が、漫画の世界へと向かう。

 眼鏡を通して見ているものはもう、この部屋のショートケーキ風のベッドではない。
 ヒロインと同じ目線で、ヒーローを見上げている。

──湯気でくもったバスルーム。シャワーの水しぶきが、ヒーローの身体にあたって弾ける。
 2人はお互い一糸まとわぬ姿で、シャワーを浴びながら向かい合って抱き合っている。
 濃厚なキスを繰り返しながら、やがてヒーローの手がヒロインの胸をつかんで……

「新作っすか」
「うわああああああ!?」
「うお、あぶね」
「きゃーっ! すみませんすみませんすみません!」

 琴香が奇声をあげて飛び上がったせいで、ペンが机から転がり落ちる。
 鳴瀬はそれを素早くキャッチして苦笑いを浮かべた。

「集中されてましたね。コーヒーでも飲みます?」
「あ……は、はい、すみません、いただきます……」
「あいよー」

 鳴瀬は濡れた髪をふきながらケトルで湯を沸かしはじめた。
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