かつて一夜を共にした皇子様と再会してしまいまして

紺原つむぎ

文字の大きさ
5 / 17

最初で最後の夜 1

しおりを挟む
 
 フェイロンは好き勝手にアデルの身体を暴いた。
 唇で、指で、触れられるところすべてを探るみたいに、隅々まで丁寧に愛撫される。

 アデルを見下ろす瞳は決して愛情深いものではない。もっと激しく、もっと鋭い──身体の奥まで突き刺すような視線で、アデルの反応をたしかめている。

(こんなフェイロンを……忘れられる、はずが……)

 本を読んでいるときの静かな横顔も、アデルをからかう意地悪な笑いも大好きだった。
 けれど、アデルを抱く彼が、今までみた彼の表情のなかで一番、狂おしいくらいに好きだ。

 薄い夜着は、フェイロンの爪で切り裂かれた。

「な、なんてことするのっ」

「リボンを解くのが面倒くさいじゃないですか」

「面倒くさいって……! はぁ、もう、ほんと最低……」

「やめますか?」

 アデルはじろりとフェイロンをにらんで、「やめない」と口を尖らせた。
 ただの布切れになってしまった夜着は彼の手でベッドの下に落とされる。いまアデルの身を守るのはレースの下着だけだ。

「私ばっかり……あなたも脱ぎなさいよ」

 アデルはこぼれる乳房を腕で隠し支えて、寝台の上に身を起こした。

 フェイロンはフレイル国にいるあいだも、自国の民族衣装だという異国風のワンピースのようなものを着ていた。
 濃紺や黒など暗い色を好んで纏い、シルクの光沢をたたえる生地に銀の糸で大きく刺繍がされている──フレイルではあまり見ない図案のそれは、東国で信仰されている龍という幻想生物らしい。

 妖艶で高貴な衣服は彼の雰囲気によく合っているのだけど、寝台の上で抱き合うには、襟から足元に至るまであまりに露出がなさすぎた。

 けれど、異国の服は釦の外し方すらわからない。アデルの指は宙をさまよった。

「男の身体なんて見ても面白くないでしょうに」

「私が、見たいの」

「はぁ……好奇心旺盛なのはかまいませんが、いつか痛い目を見ますよ」

 ──痛い目なら、もう見ている。彼を好きになった時点で、諦めるべきことだ。

「余計なお世話」

「はい、はい」

  フェイロンは首と胸元の留め具を外し、長袍をすとんと腰下に落とした。それを足で蹴飛ばしてベットの下に落とす。脱ぎ捨てられた服がまるで蛇の脱皮のあとのよう。

 服に隠されていた肌があらわになる。細身でも鍛えられた肉体を不躾にならない程度に、けれど興味津々に眺めた。

(傷……?)

 腕。腹。胸。彼の身体のいたるところに、大小の傷がある。

「……人間はおそらく、曲線を美しいと感じる生き物なのでしょう」

 アデルの視線を遮るように、フェイロンは唐突に言った。

「曲線? どういうこと?」

「円という形には数学的ロマンが詰まっています。円周を求める数式の魅力について以前、お嬢様にお話したことがありましたね」

「……おぼえているわ。たしか、循環せず永遠に続く小数の話ね」

「そう」

「でもどうしてこんな状況で、数学の話になるのよ」

「女性の身体は円と曲線でできているでしょう」

 フェイロンはアデルの腕をどけて、こぼれた乳房をわしづかみにした。

「それが美しいなと、思っただけです」

 弾力をたしかめるみたいに、ぎゅうっと揉まれる。適度な痛みというのは、快感になるらしい。
 自分の肌に食い込む彼の指を見るだけでも下半身がうずく。

「痛い……フェイロン」

「やめますか」

「……やめない」

 そのまま勢いで寝台に押し倒されて、アデルは小さく悲鳴をあげた。主導権はいつまでもフェイロンが握っている。

 彼は胸を放した手でそのままアデルの腹を撫で、腰の曲線をたどった。
 こめかみに彼のくちびるが触れる。それに気をとられていると、今度は尻に指が食い込むくらい強く両手で揉みしだかれた。

「やだ……もう」

「……もし次に男を誘うことがあるなら、あなたは上半身より下半身で攻めなさい」

「はっ? なんて?」

「この尻のかたちと肌触りが良いと、言っているんですよ」

「胸だって……わ、悪くないと思うんだけど……」

「それはそう。でもあなたは知らないでしょう。自分の後ろ姿の艶やかさを」

 背中を出すドレスなら、社交界にデビューしてから何度も着ている。

 感想を求めて彼の前に見せに言っても、いつも適当な返事が返ってくるばかりだったのに。

(……うれしい)

 アデルはにやけそうになる顔を隠そうと、彼の腕の中でくるりと身を返してシーツに伏せた。

 そしてそのまま柔らかなベッドにひざをついて、腰を持ち上げる。

「……こう?」

 うつ伏せになって、尻を突き上げたかっこうだ。きっと彼の前に恥ずかしいところが丸見えの姿。
 内腿から手を入れて下着を押さえ、なけなしの羞恥心で秘部を隠す。触れたそこが、布越しにでもとろりと濡れているのがわかる。

 そのアデルの指の上から、フェイロンの指が重なる。

「んっ」

「アデル。……僕は爪が長いので、ここを指でならしてやることができません」

「う、うん……」

「ですので」

 言って、フェイロンの指が離れた。そのかわり、しめった吐息が脚の付け根に吹きかかる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる

ラム猫
恋愛
 王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています ※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。

処理中です...