【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ

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8話 誤解

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相変わらず豪華絢爛を極めたランヴァルド侯爵家の休憩室にて、エルヴィラはアランにソファに座らされていた。未だ軽いしゃくりを上げながらも気持ちの落ち着いたエルヴィラはアランに頭を垂れていた。

「も、うし訳ありません。ご迷惑を」

「違う、僕が悪い。エルが気に病むことなどない…エルヴィラ、先程の話だが婚約の解消を許すことは出来ない」

「…何故ですか。外聞ならば、王家にとって宜しいようになさって構いません」

アランにハンカチーフで頬を優しく拭われながら理由を問うエルヴィラにアランは迷うように視線を泳がせる。らしくなく恐怖で手と脚が震えているアランは長い沈黙の後、その震えたままの手でソファに置かれた婚約者の手に恐る恐る触れた。

「兄上は、アウストリア帝国の皇女を娶る。だからもう、兄上のことは諦めて僕でも好きになってくれないか」

初めは真っ直ぐにエルヴィラを見上げていたアランだが、振り絞った勇気を遥かに上回る恐怖心に押し負けて目線を下げる。その時目に入った、みっともなく震える膝が憎たらしかった。

「……………」

「小さな頃から、一番近くにいるのは僕なのにどうして兄上ばかりを見る? 確かに僕は兄上のような、優しそうな顔ではないし、勉学で一度も兄上に勝てた事はない。僕は第二王子で、所詮は兄上のスペアに過ぎない。でも、エルを想う気持ちだけは兄上なんかには負けないし、一生大切にすると約束する。だから」

足元に視線を落としているアランにはエルヴィラがどのような顔をしているのか分からない。ただ、その沈黙が何よりも恐ろしくて矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。その言葉を聞かされたエルヴィラは、きょとんとした困惑の表情を浮かべていたのだが。

「お待ちください…わたくしが、お慕い申し上げておりますのはアル様ただおひとりです。まさか、有り得ぬこととは思いますが、わたくしがヴェヴェル様をお慕いしていると勘違いをされているのではないですよね…?」

触れられた手を握り返されてアランは顔をあげた。聞こえた言葉が信じられなかった。自分に都合の良すぎる言葉が聞こえた気がしたのだ。

「は…え…?」

「まさか、ずっとわたくしがヴェヴェル様をお慕いしていると勘違いをされていたのですか? だから、あんなにも急に冷たくなられたの?」

問い詰めるような、何処か縋るような瞳を向けられてアランは困惑する。だって、アランはしっかりと覚えているのだ。悪夢のような…今も毎晩忘れるなとばかりに夢に見るあの日のことを。

「嘘だ、だって、エルはあの日、兄上に告白していたじゃないか」

エルヴィラは素っ頓狂な悲鳴をあげそうになったのを慌てて抑える。口元を両手で抑えたままエルヴィラは責めるような視線でアランを見た。

「何、を…わたくしはアル様にお慕いしているとお伝えしようと、そうしたら想う事は許すが、それ以上は決して許さないって仰ったのはアル、アラン様じゃない。口調もまるで他人みたいに変わってしまわれて。だからわたくし、貴方様に想いを告げることも疎まれるほど嫌われていたのだと思って」

アランとエルヴィラの脳裏に浮かぶのは同じ一年ほど前のこと。しかし、二人が信じて疑わないそれは真実とは何もかも異なっていた。
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