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6話 両親との和解
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主一家の話に割り込むことなど当然出来ないのでメアリや使用人一同がまさかの展開に驚いたり、感動してすすり泣いたりしながらも大人しく固まっている。
そんな中、まだ若干瞳を潤ませながらも泣き止んだティアルーナの母、ドーラはティアルーナを抱き締める腕を緩め、居心地が悪そうに視線をさ迷わせていた夫のアルフに向き直る。次は何を言い出すのかと内心どぎまぎしながらアルフがドーラの言葉を待っているとドーラは握ったままのティアルーナの手を無意識のうちにさらに強く握りながら懇願するような声音で話し始める。
「ティアルーナ、それでね。もし…もし良かったらなのだけど、旦那様のこともお父様と呼んであげてくれないかしら…?」
「っ…!! ドーラ、何を言い出すかと思えば!」
びく、と強く肩を揺らして動揺を顕にしながらも先程よりも一際大きい声量でアルフが絶叫するように、非難ともとれる声を上げるがドーラはそれを気にも止めずに眉を下げ、若干呆れたような様子でティアルーナに向かって話し始める。
「あの日…あなたが目覚めた時に言伝があったでしょう。ひと月後までにどうにかしておけって…あれは確かに旦那様が出したものよ。でも、勘違いしないであげて欲しいのだけどあれはよく休んで体調を整えろという意味なの…分からないわよね。」
十数年連れ添っている妻のドーラが言うには、アルフ・ウェルガム公爵は昔から嫌味や変な意味にしか聞こえない言葉しか言えないのだという。かく言うドーラもそれに気がついたのはつい最近で、気がついてみればわかりやすいことこの上ない…と話すがティアルーナやメアリには全くそのようには思えない。何をどう捉えればあの言伝を見舞いの言葉だと捉えられるのだろうか疑問で仕方がない。
「それと…ひと月も会いに来られなかったのはね、あなたに毒を盛った者を追いかけていたからなの。ようやく落ち着いたから戻ってこれたのだけど…やはり、その日に来るべきだったわ。旦那様はね、分かりにくいだけじゃなくてとても照れやすくて直ぐに思ってもないことや思っていることと反対のことを言うのよ。だから…もし許してくれるのなら旦那様のこともお父様と呼んで差しあげて…? ほんとうは、先程から羨ましがっているのよ。」
ほんとうは、羨ましがっている。との言葉を受けてメアリは先程自分が見た光景を思い出して若干納得しかけるが、ティアルーナは信じられず恐る恐るアルフを見つめ、そうであるなら良いなと期待を込めてそうなのかと問いかける。
「………そうなのですか?」
「ち、違う! これまで通り、私の事は公爵と呼ぶように!」
ティアルーナの期待は虚しく、アルフに否定された。ここまで来れば殆ど誰が見ても照れ隠しなのだと分かるのだが如何せん、ティアルーナは鈍く、言葉そのままを受け取ってしまい先程までとは打って変わった泣いてしまいそうな悲しげな表情を浮かべる。
思わず、礼節を無視してメアリがフォローしようとするがその前にドーラの非難の声が上がった。
「旦那様! せっかく素直になる機会を差し上げましたのに何故そのように思ってもないことを言われるのです? ティアルーナが真に受けてしまっているではないですか!」
今までのドーラからは想像も出来ないほど激しくアルフの言葉に噛みつき、反発する。そんなドーラに気圧されながらもアルフがティアルーナに視線を移すとその瞳からは今にも涙が零れ落ちそうで、アルフはその様子を見て顔を青ざめさせる。
「……父と、呼んでも良い。」
若干の間を空けて小さな声でそうぽつりと言う。アルフにとっては精一杯の言葉だったがドーラにとってはそうではない。ドーラがギロ、と擬音が付きそうなほど鋭くアルフを睨みつけるとアルフはさらに長い間を空けながらも遂に素直な心からの言葉を口にした。
「…………父と……呼んで欲しい。」
そんな中、まだ若干瞳を潤ませながらも泣き止んだティアルーナの母、ドーラはティアルーナを抱き締める腕を緩め、居心地が悪そうに視線をさ迷わせていた夫のアルフに向き直る。次は何を言い出すのかと内心どぎまぎしながらアルフがドーラの言葉を待っているとドーラは握ったままのティアルーナの手を無意識のうちにさらに強く握りながら懇願するような声音で話し始める。
「ティアルーナ、それでね。もし…もし良かったらなのだけど、旦那様のこともお父様と呼んであげてくれないかしら…?」
「っ…!! ドーラ、何を言い出すかと思えば!」
びく、と強く肩を揺らして動揺を顕にしながらも先程よりも一際大きい声量でアルフが絶叫するように、非難ともとれる声を上げるがドーラはそれを気にも止めずに眉を下げ、若干呆れたような様子でティアルーナに向かって話し始める。
「あの日…あなたが目覚めた時に言伝があったでしょう。ひと月後までにどうにかしておけって…あれは確かに旦那様が出したものよ。でも、勘違いしないであげて欲しいのだけどあれはよく休んで体調を整えろという意味なの…分からないわよね。」
十数年連れ添っている妻のドーラが言うには、アルフ・ウェルガム公爵は昔から嫌味や変な意味にしか聞こえない言葉しか言えないのだという。かく言うドーラもそれに気がついたのはつい最近で、気がついてみればわかりやすいことこの上ない…と話すがティアルーナやメアリには全くそのようには思えない。何をどう捉えればあの言伝を見舞いの言葉だと捉えられるのだろうか疑問で仕方がない。
「それと…ひと月も会いに来られなかったのはね、あなたに毒を盛った者を追いかけていたからなの。ようやく落ち着いたから戻ってこれたのだけど…やはり、その日に来るべきだったわ。旦那様はね、分かりにくいだけじゃなくてとても照れやすくて直ぐに思ってもないことや思っていることと反対のことを言うのよ。だから…もし許してくれるのなら旦那様のこともお父様と呼んで差しあげて…? ほんとうは、先程から羨ましがっているのよ。」
ほんとうは、羨ましがっている。との言葉を受けてメアリは先程自分が見た光景を思い出して若干納得しかけるが、ティアルーナは信じられず恐る恐るアルフを見つめ、そうであるなら良いなと期待を込めてそうなのかと問いかける。
「………そうなのですか?」
「ち、違う! これまで通り、私の事は公爵と呼ぶように!」
ティアルーナの期待は虚しく、アルフに否定された。ここまで来れば殆ど誰が見ても照れ隠しなのだと分かるのだが如何せん、ティアルーナは鈍く、言葉そのままを受け取ってしまい先程までとは打って変わった泣いてしまいそうな悲しげな表情を浮かべる。
思わず、礼節を無視してメアリがフォローしようとするがその前にドーラの非難の声が上がった。
「旦那様! せっかく素直になる機会を差し上げましたのに何故そのように思ってもないことを言われるのです? ティアルーナが真に受けてしまっているではないですか!」
今までのドーラからは想像も出来ないほど激しくアルフの言葉に噛みつき、反発する。そんなドーラに気圧されながらもアルフがティアルーナに視線を移すとその瞳からは今にも涙が零れ落ちそうで、アルフはその様子を見て顔を青ざめさせる。
「……父と、呼んでも良い。」
若干の間を空けて小さな声でそうぽつりと言う。アルフにとっては精一杯の言葉だったがドーラにとってはそうではない。ドーラがギロ、と擬音が付きそうなほど鋭くアルフを睨みつけるとアルフはさらに長い間を空けながらも遂に素直な心からの言葉を口にした。
「…………父と……呼んで欲しい。」
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