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10話 兄帰還②

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「え、いいえ。…その、会うのはとても久しぶりだから出迎えに、と。」

ロイスの小さな衝撃の発言から初めに口を開いたのはドーラだった。しどろもどろになりつつも、誤解を解くためにそう口にしながら、内心は頭を抱えて蹲りたい程の後悔と自己嫌悪に苛まれていた。ロイスが国外にある学園に行くために公爵家を出てからは手紙のやり取りは勿論の事、顔を合わせてもいなかった、殆ど他人に近い関係だ。だが、そうだとしてもそれまでは一応は共に暮らしており、血の繋がった親子だというのにロイスにそう言わせてしまうだけの環境で育ててしまったという事実を改めて突きつけられたのだから、ドーラの心を苛む後悔が再び襲ってくるのも当然と言えた。一方、アルフはと言うと、此方も今までの言動に対する後悔に胸を痛ませてはいるものの、今はただそれよりも久しぶりに対面する息子を見て感無量といった心境だった。こんな使用人が揃っている場で間違っても涙など零さないようぐっと堪えながらも若干震える唇を開いた。

「ああ、ドーラの言う通り出迎えに出ただけだ。ロイス、久しぶりだな。息災だったか?」

緊張とは別に、ロイスが山ほど抱え込んでいる書類やら鞄やらを見てひとりでそんなに持って大丈夫なのかと思いながらも先程、執事が受け取ろうとした際に断固として拒否したのを見ていた為どうすることも出来ず視線をロイスに戻す。ロイスはそんなアルフの仕草には少しも気が付かず、おぼろげな記憶の中の両親の印象とはまるで違う、こちらを気遣うような言葉に若干ではあるが戸惑っていた。あまり気にしていた訳でもないが、帰還の報告をしたらそれきり話す機会もないだろうと考えていただけにその分驚きがある。

「は、ええ…お久しぶりです。風邪のひとつも引くことなく元気にやらせていただいておりました。…それで、先程耳に入れたのですがティアルーナが毒に倒れたと。様子を見る限り、命に関わるわけではないようですが。」

ロイスが『学園』を発つ時期を考えると手紙を送ったとしてもロイスには届かない為、ティアルーナの身に起こった事件をロイスは公爵邸に到着する直前まで知らなかった。交流は一切と言って良いほどなかったものの、それでも実の妹だ。それなりに心配ではある。ロイスがちらりとティアルーナを見遣り、そう口にすると途端に、柔らかな笑みを浮かべていたアルフとドーラは眉根を寄せ、苦い表情を浮かべた。それもそのはず、二人にとってはまだまだ真新しい最悪の記憶なのだから。危うくティアルーナを永遠に失うところだったことを考えれば、今でも脈が早くなるのだ。

「その、一時期はとても危なかったそうですが、今は体調に問題はありませんわ。…ですがその、毒を受ける前の記憶の一切を失ってしまって…」

アルフとドーラが唇を噛んで俯いてしまったのを見て、ティアルーナが説明を代わるとロイスは軽く息を飲んだ。
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