【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ

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11話 沈黙の晩餐

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「記憶を…それは、本当に身体に問題はないのか。」

「はい。一応は安静に、とは言われておりますけれど、もうすっかり良くなりました。」

ロイスとほんの少しではあるものの、会話ができていることに静かな高揚感を覚えて、鼓動が早くなっていることをティアルーナが自身で感じ取っていると『大丈夫』という言葉を聞いたロイスは、若干緩まった頬をまたぴしりと硬直させるとドーラとアルフに向き直った。

「そうか、なら良いんだ。…では公爵閣下、公爵夫人。僕はこれで失礼させて戴きます。」

息子に肩書きで呼ばれた衝撃で意識が呼び戻されたアルフは慌てて口を開く。まさか、ティアルーナは仕方がないとして幼い頃に会ったのが最後のロイスまでそう呼ぶようにと言ってしまったことを覚えていてそれを守ろうとするとは。まだまだ素直とは言い難い硬さがあるが一年前に比べればアルフとて、かなり柔らかく素直な物言いができるようになったのだ。

「ロイス。これからは私たちのことは肩書きではなく、その…もっと砕けた呼び方をするように。例えば…そう、父上、母上だとかだな……。」

「? わかりました、父上母上。僕はこれで。」

ロイスはまたしても奇妙なアルフの言動に内心首を傾げながらも、なんて事のないように呼び方を改めるとそそくさと大量の荷物を自ら抱えたまま自室へ向かっていった。しかし、ロイスが去って行った後、娘と息子に父と呼ばせるという長年の夢が叶ったアルフはとても心穏やかではいられず、その厳格な顔にはお世辞でもあまり似合うとは言えない満面の笑顔が浮かんでいたという。

───────

その日の晩餐。いつも通り、ティアルーナとドーラとアルフの三人は公爵家の巨大なテーブルの席に着いていたのだがこの日は何時もと様子が少しばかり違った。何しろロイスが帰ってきたのだ、当然ながら晩餐はロイスも交えての事となる。少し前に執事に伝言を預けたのでそろそろだろうとロイスが部屋から出てくるのをそわそわと三人が待っていると、伝言を預けた執事が大変控え目に申し訳なさそうな顔で入室してくる。
待ちきれず、思わずがたりと席を立ってしまいそうになるのを抑えつつ、アルフが報告を許すと執事は眉を寄せて若干青白い顔で口を開いた。

「だ、旦那様。ロイス様はお部屋でご夕食を召し上がられると仰っておりまして、こちらには来られないとのことです。」

「な、体調でもすぐれないのか!?」

先程見た時は元気そのものの姿だったが、そう見えただけで実際は部屋から出られないほど体調が優れないのか、と思い至ったアルフは執事が言葉を返す前に公爵邸の別棟で寝こけているであろう抱えの医者を呼び寄せさせようとした。すぐさまメイドの一人が走ろうとするところを冷や汗のようなものを薄らと額に浮かばせたドーラが手を挙げて抑え、執事に言葉の続きを促す。

「いえ、その…『学園」から持ち帰られた書類にとても熱心に目を通されておいでで、今後も全ての食事は自室でお摂りになられるそうです。それから、嫡男として最低限度の社交や執務は行われますがそれ以外は自室に籠る、と。」

非常に言いずらそうに伝言を伝えると更に顔を白くさせて執事が下がっていく。
楽しみに浮かれてロイスを待っていた三人が囲む晩餐の席には暫く重たい沈黙が落ちていた。
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