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31話 ウェルガム領 ④
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夜も更け、書類の確認とサインも既に終わりティアルーナは昼用のドレスからディナー用のドレスに着替えさせられ、ぼんやりと外を眺めていた。
「ではお嬢様、ディナーの準備が整いましたらお呼び致します」
「ええ、ありがとう…兄様は、やはり明日まではお戻りにならないのよね?」
着替えを担当したメイド数人の中の一人がそう言って下がろうとしたところにティアルーナが問いかけるとその様に伺っておりますと返事が返った。
「一人で夕食なんて、変な気分…」
変わらずぼんやりと空を眺めながら席を立ち、バルコニーに繋がる大きなガラス扉を開く。ふわりと風が締め切られた室内に流れ込み、何枚か紙が落ちるが構わずにそのまま外へ出る。備え付けられた手すりに寄り掛かり、ウェルツの街並みを眺める。
「私、ずっとこの街で過ごすのよね」
(王都にも近くて、商業も発展しているし街並みは蒼と白で統一されていて、王都近郊では観光の要と言われるほど綺麗で…メイドも執事もみんな優しくて大好きで、シーズンが終わればお父様とお母様、兄様もいる)
「何もかも、ここにはあるのに。私は何が気になっているの…?」
空を見上げれば、満月が輝いていてそれを見つめていると、思い出すのはたった半月前の王都のことばかり。ティアルーナが訳のわからない感傷に思わずため息を零すとふと眼下に人影が見えたような気がした。
「! ティアルーナ」
人影を探して視線を落とすと同時に、ティアルーナを呼ぶ声が聞こえる。久方振りに耳に届くその声は間違えるはずもなく、婚約者のものだった。
「……ルードルフ様?」
聞こえるはずがないその声にティアルーナがとくとくと鼓動を早めながら手摺に掴まり、身を乗り出すとほぼ真下と言って差し支えない場所にルードルフが一人、立っていた。
「な、ど…どうして、ルードルフ様。ここにいらっしゃるのですか! 伴の方は?」
あまりに王太子らしからぬ様子に心配からティアルーナが声を上げれば、心配は要らないと声が返る。
「伴は影が付いている…あ、不当な立ち入りではないからな! 公爵にはきちんと許可を取った」
「ふふふ…っ、そのようなことは心配しておりませんわ。どうしてこちらへ?」
おかしな慌てように思わずティアルーナが笑いを零すとルードルフも釣られて頬を緩める。
「いや…たった半月だが、君に会えないのがもどかしくて。未練がましくもこうして来てしまったんだが会えるとは思っていなかったから、嬉しいな」
「私も嬉しいです、ルードルフ様にとってもお会いしたかったのですよ。御手紙の隠しに今日気が付いて、会いに来てくださらないかと考えていたのです」
中々聞くことの叶わない王太子の素直な言葉に、ティアルーナもつい昼間の考えを口走る。あっと声を上げ、口元を抑えた時には既にその言葉はルードルフの耳に届いていた。
「あ…っ、いや…気付いたのか。分からないだろうと考えていたのだが…恥ずかしいな」
じわじわと頬を赤く染め、気恥しさからうっすらと冷や汗を浮かべながら照れたように俯いたルードルフにティアルーナがいたずらっ子のような表情を浮かべる。
「まあ、私に向けて送ってくださったのかと思いましたの…に」
「どうかしたか? 夜風は冷えるだろう、すまない」
「あ…いえ、車輪の音がしたような気がして」
不思議そうな面持ちで気のせいですと返すティアルーナとは対照的にルードルフは何やら思い至ったように周囲を気にする様子を見せる。
「! もうか…こんな時間にすまなかった、また王都で」
「あっ……消えた?」
そんなルードルフを気にするのも短く、婚約者は短い別れの言葉を告げると姿を掻き消す。先程までの会話がまるで夢であったかのような摩訶不思議な出来事にティアルーナはぱちくりと瞳を瞬かせる。
(影…って、王族直属部隊の俗称、よね。不思議…)
「でも、ふふっ…少しの時間だったけれど、楽しかった」
くたりと肩から力を抜いて手摺りに寄り掛かり、空を仰ぎ見る。その光景を誰かが見ていたのなら、うつくしい少女が火照った頬を柔らかい月光の元に晒すその姿は乙女そのものだと言うに違いなかった。
「ではお嬢様、ディナーの準備が整いましたらお呼び致します」
「ええ、ありがとう…兄様は、やはり明日まではお戻りにならないのよね?」
着替えを担当したメイド数人の中の一人がそう言って下がろうとしたところにティアルーナが問いかけるとその様に伺っておりますと返事が返った。
「一人で夕食なんて、変な気分…」
変わらずぼんやりと空を眺めながら席を立ち、バルコニーに繋がる大きなガラス扉を開く。ふわりと風が締め切られた室内に流れ込み、何枚か紙が落ちるが構わずにそのまま外へ出る。備え付けられた手すりに寄り掛かり、ウェルツの街並みを眺める。
「私、ずっとこの街で過ごすのよね」
(王都にも近くて、商業も発展しているし街並みは蒼と白で統一されていて、王都近郊では観光の要と言われるほど綺麗で…メイドも執事もみんな優しくて大好きで、シーズンが終わればお父様とお母様、兄様もいる)
「何もかも、ここにはあるのに。私は何が気になっているの…?」
空を見上げれば、満月が輝いていてそれを見つめていると、思い出すのはたった半月前の王都のことばかり。ティアルーナが訳のわからない感傷に思わずため息を零すとふと眼下に人影が見えたような気がした。
「! ティアルーナ」
人影を探して視線を落とすと同時に、ティアルーナを呼ぶ声が聞こえる。久方振りに耳に届くその声は間違えるはずもなく、婚約者のものだった。
「……ルードルフ様?」
聞こえるはずがないその声にティアルーナがとくとくと鼓動を早めながら手摺に掴まり、身を乗り出すとほぼ真下と言って差し支えない場所にルードルフが一人、立っていた。
「な、ど…どうして、ルードルフ様。ここにいらっしゃるのですか! 伴の方は?」
あまりに王太子らしからぬ様子に心配からティアルーナが声を上げれば、心配は要らないと声が返る。
「伴は影が付いている…あ、不当な立ち入りではないからな! 公爵にはきちんと許可を取った」
「ふふふ…っ、そのようなことは心配しておりませんわ。どうしてこちらへ?」
おかしな慌てように思わずティアルーナが笑いを零すとルードルフも釣られて頬を緩める。
「いや…たった半月だが、君に会えないのがもどかしくて。未練がましくもこうして来てしまったんだが会えるとは思っていなかったから、嬉しいな」
「私も嬉しいです、ルードルフ様にとってもお会いしたかったのですよ。御手紙の隠しに今日気が付いて、会いに来てくださらないかと考えていたのです」
中々聞くことの叶わない王太子の素直な言葉に、ティアルーナもつい昼間の考えを口走る。あっと声を上げ、口元を抑えた時には既にその言葉はルードルフの耳に届いていた。
「あ…っ、いや…気付いたのか。分からないだろうと考えていたのだが…恥ずかしいな」
じわじわと頬を赤く染め、気恥しさからうっすらと冷や汗を浮かべながら照れたように俯いたルードルフにティアルーナがいたずらっ子のような表情を浮かべる。
「まあ、私に向けて送ってくださったのかと思いましたの…に」
「どうかしたか? 夜風は冷えるだろう、すまない」
「あ…いえ、車輪の音がしたような気がして」
不思議そうな面持ちで気のせいですと返すティアルーナとは対照的にルードルフは何やら思い至ったように周囲を気にする様子を見せる。
「! もうか…こんな時間にすまなかった、また王都で」
「あっ……消えた?」
そんなルードルフを気にするのも短く、婚約者は短い別れの言葉を告げると姿を掻き消す。先程までの会話がまるで夢であったかのような摩訶不思議な出来事にティアルーナはぱちくりと瞳を瞬かせる。
(影…って、王族直属部隊の俗称、よね。不思議…)
「でも、ふふっ…少しの時間だったけれど、楽しかった」
くたりと肩から力を抜いて手摺りに寄り掛かり、空を仰ぎ見る。その光景を誰かが見ていたのなら、うつくしい少女が火照った頬を柔らかい月光の元に晒すその姿は乙女そのものだと言うに違いなかった。
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