最弱の無能力者は、最強チームの指揮官でした

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中

文字の大きさ
9 / 22

<9・Effort>

しおりを挟む
「ぐむむむむむむむむ!」

 唸る。

「ぐむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ!」

 唸るったら唸る。

「ぐむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」

 唸るったら唸るったら唸るったら唸る。

「と、トーリスさん、無理しないで!?」

 あわわわわ、とレナが慌てたように言う。しかし、こっちにも男のプライドというものはあるのだ。レナがベンチプレスで三百五十キロを上げられるのだ。ならば自分はその半分ちょい、二百キロくらい上げられてもいいはずである!
 はい、わかってます、ただの意地です、ハイ。

「むうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!び、びくともせんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!な、何故だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 そして数十分汗びっしょりで頑張ったものの、撃沈するまでがお約束。二百キロの錘は、ぴくりとも動いてはくれないのだった。
 まあ、自分の記録がマックス百キロであることを考えてみると、最初から無謀なのはわかりきっていたことではあるが。

「む、無茶しないで!血管切れちゃうわ!わ、私はちょっと練習したから上げられるようになっただけだし、トーリスさんだって地道に練習すればきっと上げられるようになるし!」
「うう、慰めてくれてありがと、レナ……」

 気配りのできる女性っていいよね、なんてついつい思ってしまう。わたわたとこちらを覗きこんでくるレナは、よく見るとなかなかの美人である。少々マッチョ感とノッポ感が強いが、それもそれ彼女の美を損なうものではない。
 なお、自分を案内してくれたあのポーラも美人だったが、彼女はどっちかというと可愛い系美人であり、かっこいい系美人のレナとはだいぶ方向性が違う。

「……レナは、本当にすごいな。あんた、よっぽど練習したんだな……」

 つい、分析、のスキルを再び使ってしまう。レナは元々筋肉の密度が濃いタイプではあったのだろう。しかし、彼女のみっちりと鍛え上げられた肉体はただ素質があっただけでは足らない。紛れもない、努力の証が伺える。彼女は一体どれほど一人で黙々と、地道な訓練を続けたのだろう?

「そんな、私なんて。……インドア派のぼっちだったから、一人で体鍛えるのが好きだっただけで。そ、それでスキルもあって軍隊にスカウトされたけど……結局臆病だから、いつも逃げてしまうし。誰の役にも立てていないわ」
「そんなことねえよ」

 思わずトーリスは即答していた。

「俺から言わせれば、“努力できる”ってのも才能だと思うぜ。場合によってはどんな天才にも勝る価値があると思う。あんたの体と結果見てればわかる。人の百倍は練習した、そのために地道に努力して汗を流した。それは他の人には真似できねえ、立派なことだ。もっと自分を誇っていいと思うぜ」
「そうかしら……」
「それに、五年前逃げたことを相当悔やんでるようだが。俺はやっぱり、地雷で味方ともども吹っ飛ばすってやり方をした奴らを肯定はしたくない。あんたはそれを早い段階で察知して撤退した、それだけのことだろ。……生きてなきゃ、そのあと人の役に立つこともできないんだぜ?」

 それは、心からの言葉だった。彼女は何も、誰かを突き落として自分だけ助かったわけではない。彼女が生きようが死のうが、仲間たちの結果はきっと変わらなかったことだろう。上の無茶な命令も、きっと止めることはできなかった、なら。
 生き残って、今も軍にいて誰かの役に立とうと足掻いている。この時間は、きっと無意味などではないはずだ。

「それにな。臆病っていうのは、言い換えれば慎重ってことだ。俺は、無謀と勇気は違うと思ってる」

 ついつい、かっこつけたことを言うトーリス。

「あんたのその慎重さはきっと、この部隊じゃ自分と味方の命を守ることに繋がるんじゃないだろうか。クリスさんもそれをわかってたから、俺にあんたを引き合わせたんじゃないかなって思うし」
「トーリス、さん……」

 その言葉に、レナは少し泣きだしそうに顔をゆがめた。多分五年間、ずっとずっと苦しんできたのだろう。

「……ありがと。本当の本当に、ありがとうございます」

 それでも彼女は、臆病と言いながら軍をやめなかった。この場所から逃げることはしなかったのだ。
 それは本当に大事な時、立ち向かえる人間だからこそではないだろうか。

「あ、ちょっとトーリスさん、レナさん!何いちゃいちゃしてるんですかあ!?」
「!?」

 その時、底抜けに明るい声がした。はっとして振り向けば、ポーラがその童顔をぷくーっと膨らませて立っているではないか。

「自主練しようと思ってきたら、まさかこんなところでデートなんて!まったく、隅に置けませんねえ!」
「ででででで、デート!?ち、ちちち、違うって!な、なあレナ!?」
「そそそそそ、そうよポーラ!わ、わ、私はただ、その、トーリスさんがベンチプレスやるっていうから!そ、そういうポーラだって、今日はバランの飲み会に参加しなかったの!?」

 かなり強引な話題転換だった。しかし、顔を真っ赤にしてパニクっているであろうレナからすれば頑張った方だろう。
 するとポーラもそれを知ってか知らずか、つーんとそっぽを向いて答えるのだった。

「今日は自主練日にしました。明日からトーリスさんと一緒に初めての訓練するのに、みっともないところ見せるわけにはいきませんからね。それに、今日は7並べをやる日にするってあの人達言ってたんですもん」
「7並べ?」
「知りませんか?ファンタンを元にしたトランプゲームなんです。ケンスケさんが教えてくれて、結構うちの軍では流行ってるんですよ。ルールはファンタンとそっくりなんですけど、最初に7を持っている人は強制的に出さなくちゃいけなくて、場に四枚の7が揃ったところからゲームスタートになるって違いがあるんです。それ以外のルールはほぼ一緒ですね」
「へえ」

 ファンタンならやったことがある。まあ、あのへんのゲームは、町によってかなりハウスルールが付加される傾向にあるので、自分が知っているファンタンと7並べは全く異なるゲームである可能性もあるが。

「ああいうゲームだと、ケンスケさんやったら強いんですよねえ。引きが良いといいますか。ついでに、すっごくイジワルなところで止めてくるので、私はちっとも勝てる気がしません。手元にAや2ばっかり残って惨めにパスを続ける羽目になるののです。しくしくです。必勝法ないものかと探してるんですけどねえ」
「はは……」

 本当に、彼らは階級も年齢も問わず交流しているらしい。なんだか羨ましいと思ってしまった。本当に、トーリスが今までいたところでは、ここまでみんなで遊ぶような機会はなかったからだ。自由時間が少なかったというのもあるが、あったところでみんな一人で鍛えるか、部屋でゆっくりゲームでもするのが関の山だったのである。
 なんとなく、周囲の人間は仲間というより、ライバルみたいな印象があったのは否めない。同時に、いつ無茶な命令が飛んでくるか、パワハラかまされるかとびくびくしていたのも事実だ。――実際、トーリスの部隊は無茶な任務を言い渡されて、壊滅状態に陥ったわけなのだから。

「ここだと、みんな仲が良いんだな。軍とは思えないくらい」

 上下関係にガチガチに縛られているわけでもない。なんとも新鮮で、不思議な基地だと思った。そんな場所に、自分がいることも。

「そうですよ!そして、今日からトーリスさん達も私たちの仲間なわけです!」

 そして、ポーラはぐい、とトーリスの腕を掴んで言ったのだった。

「というわけでトーリスさん!私と一緒にルームランナーで爽やかな汗を流しましょう、そうしましょう!」
「あ、あ、ちょっとポーラ!?ま、まだトーリスさんは私とっ……」
「トーリスさんもベンチプレスばっかりじゃ飽きちゃいますよね、ね?さあさあ遠慮なくこっち来てくださいーい!」
「もう、ポーラってばあああああ!」
「え、ええええええ!?」

 女性二人に両側から腕を引っ張られ取り合われるという、ハーレムさながらの事案。まさか、こんなところで経験することになるとは思わなかった。
 いや、嬉しいのは確かだ。二人とも美人だし。でも。

「ままままままって二人とも力つよっ……いだだだだだだだ!ちぎれる、俺ちぎれちゃううううううううう!」

 結構本気で、命の危機は感じたわけだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...