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<21・本当の強さとは>
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その後、どうなったのかというと。
半グレの四人組は逃走したものの、さほど間も置かずに全員が捕まって現行犯逮捕。千愛も相手に拳を振るってしまったので多少お咎めを受けたものの(やや過剰防衛では?と思われたらしい)こちらが女性であることと向こうが手を出してきた経緯が経緯だったため、罪に問われることはなく済むだろうということになった。相手に大きな怪我がなかったのも大きいだろう。ここで、骨の一本でもブチ折っていたらややこしいことになっていたかもしれない。――手加減していて良かったと思った瞬間である。
「こっちは被害者なのに、怪我させたら罪に問われるかもしれないって納得いかないんですけど」
それから約一週間後の土曜日。現在、成都の部屋でまったりとテレビを見ている状況である。今日はお泊りセットもかっつり用意していて、二人仲良くお泊りパーティである。まあ、パーティと言っても食事を作ったのは成都だが。なんだかんだ言っても、彼が作ってくれる料理ほど美味しいものはないのだから仕方ない。
その成都は、警察から聴かされた話が少々不満だったようで、さっきからソファに座ってムクれている状況だった。千愛がプレゼントした水色のパジャマが妙に似合っている。家の中でしか着ないとはいえ、完全に千愛の趣味で選んでしまったクマさんのパジャマだ。可愛すぎる、と言って引かれてしまったらどうしようかと思っていたものの、完全に杞憂であったらしい。背中に小さなクマミミのフードがついているのについつい萌えてしまう。千愛のパジャマとお揃いである。
「というか、俺だって本当はボコりたかったんですよ。心の中ではめっちゃ罵詈雑言吐いてたんですけど我慢してたんですよ、逆上されると面倒くさいから。……手を出す勇気もないボンクラだとギリギリまで思われてた方が油断させられると思ったのもあるんですが」
「あ、本当は殴りたかったんだ」
「当たり前でしょ、好きな女の子が捕まってるんですよ!俺だって相手をギッタギタのメッタメタにして華麗に救出する王子様くらいやりたいですよ、それができる技量がないのわかってたから凄い悔しかったですけど!」
少なくとも、と彼は続ける。
「隙あらば千愛さんに直接触った男の股間、思いきり蹴り上げてやろうと思ってました。……ああ、ちょっときもいけど、握りつぶした方が良かったかなあ。一応内臓だし、潰されたらショック死することもあるんですよねー。もうそれでも良かったかも。地獄見て死ねってかんじ?」
「お、おう」
同じ男であるはずの成都が死んだ目でそんなことを言うあたり、相当怒りが溜まっていたのだろう。実は命拾いしたのは向こうだったんじゃないかな、なんてことを思う千愛である。というか、千愛もはっきり言って隙あらば同じことを狙っていたから尚更だ。真面目にショック死させる危険性があるので本当の本当に最終手段ではあるが(これがか弱い女性ならともかく、一般女性よりかなり腕力脚力がある自覚があるから尚更である)、相手を怯ませるのに股間への攻撃というのはなかなかにして有効なのである。そもそも忘れているようだが、キンタマいうのはようするに内臓が露出している形なのだ(熱がこもってしまうので、適温を保つためにそういう構造になったと聞いたことがある)。そりゃ、衝撃に強い筈もないわけで。
というか、実は女性相手であっても有効だったりする。男からすると“俺達の受ける痛みはそんなもんじゃない”と思うかもしれないが、女だって股間に食らうのは充分すぎるほど激痛なのだ。外性器が存在するのは女性も同じ。そうでなくても骨盤に響くだけでかなりの衝撃である。――と、幼いころジャングルジムに上ろうとしてうっかり股間を強打し、大事なところを負傷して悶絶したことのある千愛が言うのだからまあ間違いあるまい。あれは本気で痛かった。
「……すみませんでした、できなくて」
成都はどうやら、最終的にどちらも全く怪我なく助かったとはいえ、自分の力不足を相当後悔していたらしい。というか、それが今回一番言いたかったことであったようだ。
「千愛さんが気を遣ってくれたのはわかってるんですけど。本当は、男達を制するために戦うのは俺がやるべきで、千愛さんに通報任せるのが普通だったと思うんです。でも俺、結局千愛さんに守られただけで終わってしまって。相手を一発も殴らなかったし、殴れなかったし」
「それはちょっと誤解だって、成都君」
千愛は成都の頭をぽんぽんと撫でる。
「確かにヤンキー漫画とかだと、女の子を守って拳で戦う男はカッコイイみたいな扱いされるじゃん?絡まれた時、喧嘩強い男が割って入って助けて貰えるっていうのにきゅんきゅんするって子もいるんだとは思うよ。でも、私から言わせると……あれ、フィクションだからいいわけであって、現実ではどうなんだろうって思っちゃうんだよね」
「というと?」
「本物の暴力に憧れる女の子ってそんなにいないと思うんだ。例え、自分を守る為であってもさ。彼氏が相手を殴りまくって、血まみれになるくらい怪我させたりしてたら。それに、本当にときめいたりするのかなって。……私は自分が、格闘技できる人間だから説得力ないかもだけど。それでも、人様の暴力を見せられるって、実はそれも一つ暴力なんだよ。正直私は……成都君のそういう場面、見たいとは思わないな。成都君に怪我してほしくないのもあるし、怪我させてほしくもない。……君が、人を傷つけて平気な人間じゃないって知ってるから、尚更」
自分を守る為、であっても。暴力は暴力だ。そんな彼氏の姿に喜ぶより、怖いが先に立ってしまう女性は少なくないのではないか。いや、これが男女逆でも、同性でも同じような気がするのである。守る側も守られる側も喧嘩上等の不良男子だったなら感銘を受けるかもしれないが、それはそれレアケースだろう。
人が人を殴るシーンなんて。人生で一度も見ないで済むなら、それに越したことはないではないか。
「だから私は、連中をぶっとばしても……なるべく怪我させないように気を付けてたんだよね。本気の暴力を成都君に見せたくなかったから」
怪我をさせないように、は相手への気遣いだけではない。
自分の守りたい、誰かへの気遣いでもあるのだ。
「そう考えると。私の選択は、正直正しいものだとは言えなかったと思う。成都君が通報する時間を稼いだって意味では正解だったかもだけど、それは結果論。私からすると、成都君がやったことの方がずっと正しいよ。……だって誰も殴らず、暴力に頼らずに、私を守ってくれたんだから」
「でも、俺……」
「自分に勇気がなかったから殴れなかったんだ、なんて思わないでね。殴らないことだって、勇気なんだよ。そもそも、私が捕まった時ちゃんと前に出てくれて、一生懸命助ける方法を考えてくれたじゃない。……本当の臆病者なら、そんなことできなかったよ」
人が人を傷つける方法に際限はないように。人が人を守る方法に、救う方法にもまた際限はないはずなのだ。
誰かを殴って守るのが一つの方法ならば、殴らないで守るのも間違いなく尊い一つの方法だろう。それをけして、見誤らないで欲しいと思う。自分が好きになったのは、そういう強さを持った人なのだから。
拳を振るって力を誇示することしかできない人より。心と心で誰かに寄り添える勇気を持っている人の方がずっといい。少なくとも、千愛はそう思っている。
「……じゃあ」
す、と成都の手が伸びてくる。ソファーの上で重なる二つの手。さっきシャワーを浴びたこともあって、ちょっとだけ汗ばんでいる気がする。エアコンはきいているはずなのに。
「次に、何かあった時は。……囲まれる前に、千愛さんの手を握って一緒に逃げることにします」
「三十六計逃げずに如かず、だね?」
「そうそう。それが駄目だったら、その時ですから」
寝る前に、二人で映画を見ようという話になっていた。何故ならまだ夜の九時半、寝るには少々時間が早いからだ。布団はもう敷いてあるけれど、二時間ものの映画を見てから眠ることにしてもなんら問題はなかっただろう。
そう、その筈だったのだが。
「……どうしよ」
既に、恥ずかしいところが疼いているのを自分でも感じている。成都と話していて、手を握っただけだというのに。お腹の中がうずうずするというか、足がもじもじしてしまうというか。
「やりたいんだけど、だめ?」
映画を見ている間、内容に集中できる自信がなくなってしまった。心臓がもう、そういう雰囲気ではないかと盛り上がってしまっている。ワンテンポ遅れて千愛の言葉を理解してか、成都の頬が一気に赤く染まった。
「う、嬉しい、ですけど。せ、積極的、すぎや、しません?」
「……今更気づいたの?私、セックス大好きだし、自分でも誘っちゃう系女子だよ?そんな私、好きじゃない?恥ずかしい?」
「そ、そ、そんなことないです!ないですけど!」
「ねー。成都君も結構むっつりだもんねー」
ふふふ、と笑って見せる。たまにトばされてしまうこともあるが、まだまだ主導権を譲ってやるつもりはなかった。元より、今日のお泊りでは最初からそういうことをがっつり楽しむつもりで計画されているのだ。明日のお出かけは昼からにしようか、なんて言っていたあたりでお察しなのである。それこそ、ものすごく長く、ねちっこく遊ぶのも悪い話ではないではないか。
ついでに言うなら、今日は新兵器もしっかり購入してきているわけで。いろいろ試してみたいプレイとか、やってみたい遊びも少なくないわけで。
「私、成都君とやってみたいこといーっぱいあるわけー。……前にも言ったように……成都君を私が抱きたいんだよねえ。だめ?そういう女、みっともないかな?」
すすす、と彼のお尻の方に手を回す。すべすべとしたお尻の感触を楽しんだところで、そっと割れ目に手をのばした。下着とズボンごしに、彼の秘められた蕾にそっと触れてみる。触った途端、わかりやすくひくついたのがなんとも可愛らしい。
彼氏が自分の力でえっちになってくれて、嬉しくない彼女がどこにいるというのか。
「……本当に、やるんですか?」
「本当にやるの。……さっきのシャワーで準備終わってたりするんじゃないの、実はー?」
「――っ!」
ああ、これは完全に図星だろう。千愛はよいしょ!という声と共に彼を抱き上げていた。
「わ、わ、わあああ!?」
「お、できたできた、お姫様だっこだー!」
「ちょ、ちょ、千愛さーん!?」
うまく行ったらかっこいいなと思ったら、本当にできてしまった。千愛は成都をお姫様抱っこしつつ、足で寝室のドアを開けると布団の上に放り投げる。思ったよりも軽々と持ち上がってしまったのは、千愛の腕力もあるが成都の体重が思ったよりも軽かったのが原因だろう。多分、六十キロない。彼の身長からすると少々軽すぎるとしか思えない。
「成都君、もっと体重重くした方がいいぞ?軽すぎ軽すぎ!もっとご飯食べよう、いっつも私ばっかりもりもり食べてるからこうなるんだよ!」
「ううっ!」
彼は真っ赤な顔で、やややけくそ気味に叫んだ。
「お、俺も鍛えますから!筋肉つけて重くなって、千愛さんを逆にだっこしてあげるんですからねっ!覚悟しててくださいよ!!」
「どんな宣言だよー」
「俺だって男ですもん、ほんとはマッチョになりたいんですもん!」
「わかったわかった、じゃあいつかスポーツジムデートもしようねー」
「それじゃあいつまでたっても千愛さんに勝てないじゃないですか、もー!」
ああ、なんとも愛しくてたまらない。想いの滾るまま、千愛は彼の髪にキスを落としたのだった。
半グレの四人組は逃走したものの、さほど間も置かずに全員が捕まって現行犯逮捕。千愛も相手に拳を振るってしまったので多少お咎めを受けたものの(やや過剰防衛では?と思われたらしい)こちらが女性であることと向こうが手を出してきた経緯が経緯だったため、罪に問われることはなく済むだろうということになった。相手に大きな怪我がなかったのも大きいだろう。ここで、骨の一本でもブチ折っていたらややこしいことになっていたかもしれない。――手加減していて良かったと思った瞬間である。
「こっちは被害者なのに、怪我させたら罪に問われるかもしれないって納得いかないんですけど」
それから約一週間後の土曜日。現在、成都の部屋でまったりとテレビを見ている状況である。今日はお泊りセットもかっつり用意していて、二人仲良くお泊りパーティである。まあ、パーティと言っても食事を作ったのは成都だが。なんだかんだ言っても、彼が作ってくれる料理ほど美味しいものはないのだから仕方ない。
その成都は、警察から聴かされた話が少々不満だったようで、さっきからソファに座ってムクれている状況だった。千愛がプレゼントした水色のパジャマが妙に似合っている。家の中でしか着ないとはいえ、完全に千愛の趣味で選んでしまったクマさんのパジャマだ。可愛すぎる、と言って引かれてしまったらどうしようかと思っていたものの、完全に杞憂であったらしい。背中に小さなクマミミのフードがついているのについつい萌えてしまう。千愛のパジャマとお揃いである。
「というか、俺だって本当はボコりたかったんですよ。心の中ではめっちゃ罵詈雑言吐いてたんですけど我慢してたんですよ、逆上されると面倒くさいから。……手を出す勇気もないボンクラだとギリギリまで思われてた方が油断させられると思ったのもあるんですが」
「あ、本当は殴りたかったんだ」
「当たり前でしょ、好きな女の子が捕まってるんですよ!俺だって相手をギッタギタのメッタメタにして華麗に救出する王子様くらいやりたいですよ、それができる技量がないのわかってたから凄い悔しかったですけど!」
少なくとも、と彼は続ける。
「隙あらば千愛さんに直接触った男の股間、思いきり蹴り上げてやろうと思ってました。……ああ、ちょっときもいけど、握りつぶした方が良かったかなあ。一応内臓だし、潰されたらショック死することもあるんですよねー。もうそれでも良かったかも。地獄見て死ねってかんじ?」
「お、おう」
同じ男であるはずの成都が死んだ目でそんなことを言うあたり、相当怒りが溜まっていたのだろう。実は命拾いしたのは向こうだったんじゃないかな、なんてことを思う千愛である。というか、千愛もはっきり言って隙あらば同じことを狙っていたから尚更だ。真面目にショック死させる危険性があるので本当の本当に最終手段ではあるが(これがか弱い女性ならともかく、一般女性よりかなり腕力脚力がある自覚があるから尚更である)、相手を怯ませるのに股間への攻撃というのはなかなかにして有効なのである。そもそも忘れているようだが、キンタマいうのはようするに内臓が露出している形なのだ(熱がこもってしまうので、適温を保つためにそういう構造になったと聞いたことがある)。そりゃ、衝撃に強い筈もないわけで。
というか、実は女性相手であっても有効だったりする。男からすると“俺達の受ける痛みはそんなもんじゃない”と思うかもしれないが、女だって股間に食らうのは充分すぎるほど激痛なのだ。外性器が存在するのは女性も同じ。そうでなくても骨盤に響くだけでかなりの衝撃である。――と、幼いころジャングルジムに上ろうとしてうっかり股間を強打し、大事なところを負傷して悶絶したことのある千愛が言うのだからまあ間違いあるまい。あれは本気で痛かった。
「……すみませんでした、できなくて」
成都はどうやら、最終的にどちらも全く怪我なく助かったとはいえ、自分の力不足を相当後悔していたらしい。というか、それが今回一番言いたかったことであったようだ。
「千愛さんが気を遣ってくれたのはわかってるんですけど。本当は、男達を制するために戦うのは俺がやるべきで、千愛さんに通報任せるのが普通だったと思うんです。でも俺、結局千愛さんに守られただけで終わってしまって。相手を一発も殴らなかったし、殴れなかったし」
「それはちょっと誤解だって、成都君」
千愛は成都の頭をぽんぽんと撫でる。
「確かにヤンキー漫画とかだと、女の子を守って拳で戦う男はカッコイイみたいな扱いされるじゃん?絡まれた時、喧嘩強い男が割って入って助けて貰えるっていうのにきゅんきゅんするって子もいるんだとは思うよ。でも、私から言わせると……あれ、フィクションだからいいわけであって、現実ではどうなんだろうって思っちゃうんだよね」
「というと?」
「本物の暴力に憧れる女の子ってそんなにいないと思うんだ。例え、自分を守る為であってもさ。彼氏が相手を殴りまくって、血まみれになるくらい怪我させたりしてたら。それに、本当にときめいたりするのかなって。……私は自分が、格闘技できる人間だから説得力ないかもだけど。それでも、人様の暴力を見せられるって、実はそれも一つ暴力なんだよ。正直私は……成都君のそういう場面、見たいとは思わないな。成都君に怪我してほしくないのもあるし、怪我させてほしくもない。……君が、人を傷つけて平気な人間じゃないって知ってるから、尚更」
自分を守る為、であっても。暴力は暴力だ。そんな彼氏の姿に喜ぶより、怖いが先に立ってしまう女性は少なくないのではないか。いや、これが男女逆でも、同性でも同じような気がするのである。守る側も守られる側も喧嘩上等の不良男子だったなら感銘を受けるかもしれないが、それはそれレアケースだろう。
人が人を殴るシーンなんて。人生で一度も見ないで済むなら、それに越したことはないではないか。
「だから私は、連中をぶっとばしても……なるべく怪我させないように気を付けてたんだよね。本気の暴力を成都君に見せたくなかったから」
怪我をさせないように、は相手への気遣いだけではない。
自分の守りたい、誰かへの気遣いでもあるのだ。
「そう考えると。私の選択は、正直正しいものだとは言えなかったと思う。成都君が通報する時間を稼いだって意味では正解だったかもだけど、それは結果論。私からすると、成都君がやったことの方がずっと正しいよ。……だって誰も殴らず、暴力に頼らずに、私を守ってくれたんだから」
「でも、俺……」
「自分に勇気がなかったから殴れなかったんだ、なんて思わないでね。殴らないことだって、勇気なんだよ。そもそも、私が捕まった時ちゃんと前に出てくれて、一生懸命助ける方法を考えてくれたじゃない。……本当の臆病者なら、そんなことできなかったよ」
人が人を傷つける方法に際限はないように。人が人を守る方法に、救う方法にもまた際限はないはずなのだ。
誰かを殴って守るのが一つの方法ならば、殴らないで守るのも間違いなく尊い一つの方法だろう。それをけして、見誤らないで欲しいと思う。自分が好きになったのは、そういう強さを持った人なのだから。
拳を振るって力を誇示することしかできない人より。心と心で誰かに寄り添える勇気を持っている人の方がずっといい。少なくとも、千愛はそう思っている。
「……じゃあ」
す、と成都の手が伸びてくる。ソファーの上で重なる二つの手。さっきシャワーを浴びたこともあって、ちょっとだけ汗ばんでいる気がする。エアコンはきいているはずなのに。
「次に、何かあった時は。……囲まれる前に、千愛さんの手を握って一緒に逃げることにします」
「三十六計逃げずに如かず、だね?」
「そうそう。それが駄目だったら、その時ですから」
寝る前に、二人で映画を見ようという話になっていた。何故ならまだ夜の九時半、寝るには少々時間が早いからだ。布団はもう敷いてあるけれど、二時間ものの映画を見てから眠ることにしてもなんら問題はなかっただろう。
そう、その筈だったのだが。
「……どうしよ」
既に、恥ずかしいところが疼いているのを自分でも感じている。成都と話していて、手を握っただけだというのに。お腹の中がうずうずするというか、足がもじもじしてしまうというか。
「やりたいんだけど、だめ?」
映画を見ている間、内容に集中できる自信がなくなってしまった。心臓がもう、そういう雰囲気ではないかと盛り上がってしまっている。ワンテンポ遅れて千愛の言葉を理解してか、成都の頬が一気に赤く染まった。
「う、嬉しい、ですけど。せ、積極的、すぎや、しません?」
「……今更気づいたの?私、セックス大好きだし、自分でも誘っちゃう系女子だよ?そんな私、好きじゃない?恥ずかしい?」
「そ、そ、そんなことないです!ないですけど!」
「ねー。成都君も結構むっつりだもんねー」
ふふふ、と笑って見せる。たまにトばされてしまうこともあるが、まだまだ主導権を譲ってやるつもりはなかった。元より、今日のお泊りでは最初からそういうことをがっつり楽しむつもりで計画されているのだ。明日のお出かけは昼からにしようか、なんて言っていたあたりでお察しなのである。それこそ、ものすごく長く、ねちっこく遊ぶのも悪い話ではないではないか。
ついでに言うなら、今日は新兵器もしっかり購入してきているわけで。いろいろ試してみたいプレイとか、やってみたい遊びも少なくないわけで。
「私、成都君とやってみたいこといーっぱいあるわけー。……前にも言ったように……成都君を私が抱きたいんだよねえ。だめ?そういう女、みっともないかな?」
すすす、と彼のお尻の方に手を回す。すべすべとしたお尻の感触を楽しんだところで、そっと割れ目に手をのばした。下着とズボンごしに、彼の秘められた蕾にそっと触れてみる。触った途端、わかりやすくひくついたのがなんとも可愛らしい。
彼氏が自分の力でえっちになってくれて、嬉しくない彼女がどこにいるというのか。
「……本当に、やるんですか?」
「本当にやるの。……さっきのシャワーで準備終わってたりするんじゃないの、実はー?」
「――っ!」
ああ、これは完全に図星だろう。千愛はよいしょ!という声と共に彼を抱き上げていた。
「わ、わ、わあああ!?」
「お、できたできた、お姫様だっこだー!」
「ちょ、ちょ、千愛さーん!?」
うまく行ったらかっこいいなと思ったら、本当にできてしまった。千愛は成都をお姫様抱っこしつつ、足で寝室のドアを開けると布団の上に放り投げる。思ったよりも軽々と持ち上がってしまったのは、千愛の腕力もあるが成都の体重が思ったよりも軽かったのが原因だろう。多分、六十キロない。彼の身長からすると少々軽すぎるとしか思えない。
「成都君、もっと体重重くした方がいいぞ?軽すぎ軽すぎ!もっとご飯食べよう、いっつも私ばっかりもりもり食べてるからこうなるんだよ!」
「ううっ!」
彼は真っ赤な顔で、やややけくそ気味に叫んだ。
「お、俺も鍛えますから!筋肉つけて重くなって、千愛さんを逆にだっこしてあげるんですからねっ!覚悟しててくださいよ!!」
「どんな宣言だよー」
「俺だって男ですもん、ほんとはマッチョになりたいんですもん!」
「わかったわかった、じゃあいつかスポーツジムデートもしようねー」
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