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<3・奈落の底の腕>
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床に思い切り叩きつけられ、小さく悲鳴を上げた。打たれた薬のせいで意識が朦朧とする上、体も満足に動かない。村松英太に出来たことはただ、自分を引きずってきた教師を怯えて見上げることだけである。
「言ったはずだな?」
その場にいる教師二人のうち、屈強な体育教師の方がじろりとこちらを睨みつけてくる。
「神子の仕事に関することは、何一つ漏らすなと。神子は神聖な仕事。栄誉ある役目。皆がそう思っているし、それが紛れもない事実だろう。次の神子やその候補達に不安を抱かせるようなことを言うなど言語道断だ。一番最初に、しっかり契約書は書かせた筈だがな?」
「だ、だって……!」
舌が絡まりそうになりながらも、英太は必死で訴える。
確かに、契約書は仕事の前に交わしている。この仕事に関することは一切口外しないこと。卒業するまで、極力皆の前で肌を晒すことを避け、共同風呂なども利用しないこと。万が一約束を破った場合は、重い処罰が課せられることなどなど。
確かに、妙な約束事ではあると思ったのだ。しかし、会社などにおいても企業秘密を守りたがるというのはよくあることであったし、“神様”は神聖な存在とされている。その姿を内緒にしておきたいのなら、秘密を守るために契約書を交わすくらいは普通のことだと思っていたのだ。だから何の疑問も抱かず、サインをしてしまった。神様に認められて卒業することができれば、孤児であった自分も高給取りの安泰な仕事ができるようになる。明るい人生が待っているはずだ――という言葉に惹かれたものであるから。
しかし。
「こ、こんな“お役目”だなんて、何処にも書いてなかったじゃないか!最近なんか毎晩だ。毎晩毎晩あいつのところで……もう嫌だ、嫌だ!しかも役目が終わったらどうなるんだ?俺は殺されるんだろ、だって“神様”に嫌われちまったんだからよお!」
一番最初。
本当に一番最初に自分は、そんな考えが甘すぎたことを悟るハメになるのである。何故なら、神子としてやらされる最初の仕事というのはつまり――。
「俺はどうなるんだ?どんな風に殺されるんだ?嫌だ死にたくない、俺は死にたくないっ!」
「それはお前次第だと言ったはず。あと二週間あるからな」
ぐい、と体育教師は英太の髪の毛を掴んで引き上げる。その向こうで、もう一人の細身の男性教諭ががらがらと棚を移動させるのが見えた。
第三応接室の、棚の後ろ。そこに、秘密の扉がある。そこを開くことで、地下の祭壇へ降りることができるのだ。
“神様”は、その下にいる。
扉を開いた途端、唸るような音と共に凄まじい怒気が伝わってきて――英太は悲鳴を上げた。神様が、怒っている。自分が約束を破ろうとしたことがバレているのだ。いや、助けて、死にたくないと口にしてしまったからもうアウトなのかもしれない。聡い生徒ならば、神子の仕事に疑問を抱くようになるだろう。同時に、神子の仕事をあてがわれ、“卒業した”と思われていた生徒達が果たしてどうなったのかということも。
「い、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!ごめんなさい、ごめんなさい神様!ゆ、ゆ、許して!許してください、許してえええ!」
絶叫する英太の口を強引に塞ぐと、体育教師は英太を小脇に抱えて階段を下り始めた。地下に降りることができるのは、一部の教師と神子のみ。一般の生徒は、この部屋に地下室があることさえも知らないだろう。
今朝も、朝早くまで奉仕させられ、食事もろくに取っていないでくたくただというのに。こんな時間からまた捕まってしまったら、本当に休む時間さえなくなってしまう。既に、疲れ果てて幻聴が聞こえてきそうなほどだというのに。
――もう嫌だ、嫌だ、嫌だ!どうして俺が、よりにもよって俺がこんな目に!
やがて階段を降りた先の、重い鉄扉が開かれ。英太は強引に、その向こうに投げ込まれることになる。
ずん、と部屋の奥で闇が蠢くのがわかった。教師が無感動に、申し訳ありません“神様”と謝罪しているのが聞こえる。
「大変失礼いたしました。どうやらこの者には調教が足らなかったようです。……神様、お手数ですが引き続き、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。それでは」
「まっ」
待って、と。それさえ聞き届けることはなく。重い鉄扉は音を立ててしまっていく。暗闇の中に、英太ひとりを残して。
「せ、先生!先生!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!許して、許してください、お願いだから、お願いだからあああ!」
泣いても叫んでも、扉が開く気配はない。英太の叫びが、聞き届けられることなどないのだ。
やがて、暗闇の中にぼんやりと明かりが灯る。誰も触れていないのに、壁に掲げられた松明が火を燃やしたのだ。うっすらと明るくなる、岩肌を削った洞窟のような地下室。その奥で、うぞり、と蠢く“神様”の気配。
扉に縋りついた状態のまま、英太は動けなくなっていた。背中に突き刺すような視線を感じる。それも、けして好意的ではない気配だ。不機嫌――怒り、失望。それらがないまぜになった目が自分を睨みつけてきているのを感じる。これ以上何か一つでも気に食わないことをしたら、本当に自分はどうされるのかわからない。それを確信してしまうほどには、恐怖を感じる視線だ。
「何故、逃げようとした」
闇の中、声が反響する。
「何故、我を拒もうとした」
しゅるり、と音がする。ガクガクと震え、振り返ることもできない英太の裸足の足首に――ずるん、と濡れた何かが触れたのがわかった。
“神様”の“腕”だ。それが、まるで舌のような濡れて生暖かい感触で、ずるんと英太の足首に巻き付くのである。そして、じわじわと這い上がっていく。慣れているずの最悪級のおぞましさに、全身かわぶわああと鳥肌が立つのを感じるほどだ。緩慢に足を這い上がってくる“腕”。一体今日は、どれほど恐ろしい目に遭わされるのか。想像したくないのに、今までの経験によって想像させられてしまう。そもそも“神様”が不機嫌である時は、いつもよりも激痛を伴う責めが課せられることが殆どなのだ。
ならば、今夜は。
「ひっ」
ローブの舌に、入り込んでくる“腕”。
神子のローブの下には、一枚下着を身につけているだけだ。あっさりと“腕”は下着さえも掻い潜り、その下の最も守らなければいけない箇所に触れようとする。
ぞり、と舐め上げられたのは、英太の足の間に垂れ下がったもっとも敏感な機関だ。
「や、やだ、それだけは、やめ、そこだけは」
切れ切れに訴え掛ける英太。何度も恐ろしい目に遭ってはきたが、中でもひときわ恐怖であったのがそこを責められる行いだった。そもそも、袋を責められて痛みや恐怖を感じない男性が一体何人いるだろう。柔く巻き付かれ、袋をゆっくり圧迫されていくのを感じて震えが止まらなくなる。少し押されるだけで、痛みと違和感がせり上がる。もしそのまま、力を込められでもしたら。
「罰は必要だ、そうだろう?あと二週間……最後の時になるまで致命的な傷は与えないようにしようと思っていたが。こうも反抗的ならば、仕方あるまい。痛みと絶望でもなければ、お前達は学習しない生き物であるようだ……」
低く、笑うような声が響いた。次の瞬間。
ぶちゅり、と。聞きたくもなかった音が、響き渡る。そして。
「ひ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
英太は全身をズタズタにするかのような激痛に、絶叫していたのである。
***
「確かに、よくよく考えてみればこの学校は奇妙なことが多いな」
授業がひとしきり終わった夕方。寮の部屋へ戻ってきたステイは、享と楓と共に早速作戦会議を開始することにした。
元々ステイと楓は二人部屋のルームメイトであるし、享も同じ学年の同じクラスということもあって部屋は遠くないのである。定められた就寝時間や食事の時間以外は、部屋や遊戯室などで自由に過ごして良いことになっているのだ。
「まずそのうちの一つ。俺、結構先輩達とも話するんだけどさ。元孤児、じゃない先輩ってのにひとりも会ったことない気がするんだよ。クラスの奴らとかもな。孤児を寄付金やりくりしながら学習・養ってくれる学校だってのは聴いてたけどよ。一般の生徒がもしかしてひとりもいねーんじゃないか?って疑惑があんのよね」
「それは俺も妙だなと思っていた。孤児が多いというより、孤児を集めている印象だ。それも、全国各地から。この国の孤児なんて、総数は本来そう多いものではないはずなのだが」
「だよな?発展途上国でもないし」
一クラスの平均人数が、約三十二人前後。それが、一学年につき五クラス分あるのだ。単純計算にして、32×5×3――四百八十人もいるということになる。この国で、これだけの数の孤児が自然と集まるとは到底思えない。集めた、にしてもやや多すぎるような気がするほどだ。
「さらに、外界から隔絶されすぎてるよね。元々孤児院で一緒だったみんながいるから、そんなに気にしてなかったけど」
そっと立ち上がり、窓の方へと歩いていく享。気休めかもしれないが、外に設置されている防犯カメラを嫌ったのだとわかった。カーテンを締めれば一応それで中の様子が見られる心配はない。あれは名目上は、外部から危険な人間が近寄ってこないようにするため、ということであるらしいが。それならそれで、何故カメラが外か内側に向かってついているのかが謎で仕方ないのだけれど。
そもそも警戒しているのは、本当に“外部からの侵入者”なんだろうか。
此処は山奥で、関係者以外学校の敷地に近づくことも殆どないというのに。
「寮の窓も入口出口も、防犯カメラがしっかりついてる。決められた時間以外には、寮の外に出ることもできない。そして、決められた時間であっても……学校の敷地の外に出るのは絶対禁止って言われてるよね。敷地の外には熊が出て危ないからって」
外に出たいと、思ったこともなかった。そもそも孤児院にいた時も、孤児院の外に友人や家族がいるわけではない。連絡を取りたい相手もいない。強いていうなら、インターネットができないことに不便を感じるくらいなものである。学校の施設内にそれなりに娯楽も揃っているし、その結果外に出られないことを疑問視したことはなかったのだ。熊が出るというのを、特に疑ったこともない。きっとそれは、享や楓も同じなのだろう。
熊がいて危ないから出るな。
そう言われれば、大抵の真っ当な生徒はそれに従うものだろうから。
「何がなんでも、僕達を学校から出したくないってかんじだ。なんだかこうして考えると……本で読んだ“監獄”ってこんなんなのかなって思うよ。閉じ込められて、監視されてさ。……しかもここにきて、“神様”っていうのにも疑問が出てきたし」
「それな」
宗教の学校ではない。
神様にお祈りしましょう、と言われてお祈りさせられることはあるがそれだけだ。どこかにそれらしい仏壇などがあるわけでもなく、宗教であるならば出てこなければおかしい“神様”の名前も一般に周知されていない。神様という存在は敬わなければいけない存在であれど、名称は他につけようがなかったのではないか、というのが自分達の共通見解だった。
もっと言えば、本当は神様なんてファンタジックな存在ではなく、学校関係者のえらい人の仮称ではないのかということも。
「神子が何をさせられるのかは、二週間後になってみればわかる。俺が選ばれたからな」
だが、と楓が険しい顔で続けた。
「問題は、前任神子である村松英太の様子があまりにもおかしかったということ。死にたくない、助けて……一体どういう意味だ?殺されるかもしれないと思うほど酷い仕事内容なのか、あるいはこれから殺されることを悟ってしまうような状況に置かれているのか。いずれにせよ、調べる必要がある。いつも通り事が進むなら、俺の次にも神子は選ばれることになるのだから」
「そうだな、でもまずはお前に危ないことなんかさせたくないってのが本心だ。神子が何をさせられてるのか、何が起きてるのか突き止めようぜ。犯罪紛いの行為なら、それこそそんなことに楓を加担なんかさせられないしな」
「だね」
自分達の心は既に決まっている。問題は、どうやってその調査をすすめるか、ということ。神子は仕事内容について口止めされているようだし、本人に直接問いただしても口を割ってくれるなんてことはないだろう。ならば。
「村松英太の周りの奴らに話を聴いてみるか。……お前ら、二年生に知り合いいる?」
まずはオーソドックスに、周辺の聞き込みから始めるのがベターだろう。
「言ったはずだな?」
その場にいる教師二人のうち、屈強な体育教師の方がじろりとこちらを睨みつけてくる。
「神子の仕事に関することは、何一つ漏らすなと。神子は神聖な仕事。栄誉ある役目。皆がそう思っているし、それが紛れもない事実だろう。次の神子やその候補達に不安を抱かせるようなことを言うなど言語道断だ。一番最初に、しっかり契約書は書かせた筈だがな?」
「だ、だって……!」
舌が絡まりそうになりながらも、英太は必死で訴える。
確かに、契約書は仕事の前に交わしている。この仕事に関することは一切口外しないこと。卒業するまで、極力皆の前で肌を晒すことを避け、共同風呂なども利用しないこと。万が一約束を破った場合は、重い処罰が課せられることなどなど。
確かに、妙な約束事ではあると思ったのだ。しかし、会社などにおいても企業秘密を守りたがるというのはよくあることであったし、“神様”は神聖な存在とされている。その姿を内緒にしておきたいのなら、秘密を守るために契約書を交わすくらいは普通のことだと思っていたのだ。だから何の疑問も抱かず、サインをしてしまった。神様に認められて卒業することができれば、孤児であった自分も高給取りの安泰な仕事ができるようになる。明るい人生が待っているはずだ――という言葉に惹かれたものであるから。
しかし。
「こ、こんな“お役目”だなんて、何処にも書いてなかったじゃないか!最近なんか毎晩だ。毎晩毎晩あいつのところで……もう嫌だ、嫌だ!しかも役目が終わったらどうなるんだ?俺は殺されるんだろ、だって“神様”に嫌われちまったんだからよお!」
一番最初。
本当に一番最初に自分は、そんな考えが甘すぎたことを悟るハメになるのである。何故なら、神子としてやらされる最初の仕事というのはつまり――。
「俺はどうなるんだ?どんな風に殺されるんだ?嫌だ死にたくない、俺は死にたくないっ!」
「それはお前次第だと言ったはず。あと二週間あるからな」
ぐい、と体育教師は英太の髪の毛を掴んで引き上げる。その向こうで、もう一人の細身の男性教諭ががらがらと棚を移動させるのが見えた。
第三応接室の、棚の後ろ。そこに、秘密の扉がある。そこを開くことで、地下の祭壇へ降りることができるのだ。
“神様”は、その下にいる。
扉を開いた途端、唸るような音と共に凄まじい怒気が伝わってきて――英太は悲鳴を上げた。神様が、怒っている。自分が約束を破ろうとしたことがバレているのだ。いや、助けて、死にたくないと口にしてしまったからもうアウトなのかもしれない。聡い生徒ならば、神子の仕事に疑問を抱くようになるだろう。同時に、神子の仕事をあてがわれ、“卒業した”と思われていた生徒達が果たしてどうなったのかということも。
「い、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!ごめんなさい、ごめんなさい神様!ゆ、ゆ、許して!許してください、許してえええ!」
絶叫する英太の口を強引に塞ぐと、体育教師は英太を小脇に抱えて階段を下り始めた。地下に降りることができるのは、一部の教師と神子のみ。一般の生徒は、この部屋に地下室があることさえも知らないだろう。
今朝も、朝早くまで奉仕させられ、食事もろくに取っていないでくたくただというのに。こんな時間からまた捕まってしまったら、本当に休む時間さえなくなってしまう。既に、疲れ果てて幻聴が聞こえてきそうなほどだというのに。
――もう嫌だ、嫌だ、嫌だ!どうして俺が、よりにもよって俺がこんな目に!
やがて階段を降りた先の、重い鉄扉が開かれ。英太は強引に、その向こうに投げ込まれることになる。
ずん、と部屋の奥で闇が蠢くのがわかった。教師が無感動に、申し訳ありません“神様”と謝罪しているのが聞こえる。
「大変失礼いたしました。どうやらこの者には調教が足らなかったようです。……神様、お手数ですが引き続き、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。それでは」
「まっ」
待って、と。それさえ聞き届けることはなく。重い鉄扉は音を立ててしまっていく。暗闇の中に、英太ひとりを残して。
「せ、先生!先生!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!許して、許してください、お願いだから、お願いだからあああ!」
泣いても叫んでも、扉が開く気配はない。英太の叫びが、聞き届けられることなどないのだ。
やがて、暗闇の中にぼんやりと明かりが灯る。誰も触れていないのに、壁に掲げられた松明が火を燃やしたのだ。うっすらと明るくなる、岩肌を削った洞窟のような地下室。その奥で、うぞり、と蠢く“神様”の気配。
扉に縋りついた状態のまま、英太は動けなくなっていた。背中に突き刺すような視線を感じる。それも、けして好意的ではない気配だ。不機嫌――怒り、失望。それらがないまぜになった目が自分を睨みつけてきているのを感じる。これ以上何か一つでも気に食わないことをしたら、本当に自分はどうされるのかわからない。それを確信してしまうほどには、恐怖を感じる視線だ。
「何故、逃げようとした」
闇の中、声が反響する。
「何故、我を拒もうとした」
しゅるり、と音がする。ガクガクと震え、振り返ることもできない英太の裸足の足首に――ずるん、と濡れた何かが触れたのがわかった。
“神様”の“腕”だ。それが、まるで舌のような濡れて生暖かい感触で、ずるんと英太の足首に巻き付くのである。そして、じわじわと這い上がっていく。慣れているずの最悪級のおぞましさに、全身かわぶわああと鳥肌が立つのを感じるほどだ。緩慢に足を這い上がってくる“腕”。一体今日は、どれほど恐ろしい目に遭わされるのか。想像したくないのに、今までの経験によって想像させられてしまう。そもそも“神様”が不機嫌である時は、いつもよりも激痛を伴う責めが課せられることが殆どなのだ。
ならば、今夜は。
「ひっ」
ローブの舌に、入り込んでくる“腕”。
神子のローブの下には、一枚下着を身につけているだけだ。あっさりと“腕”は下着さえも掻い潜り、その下の最も守らなければいけない箇所に触れようとする。
ぞり、と舐め上げられたのは、英太の足の間に垂れ下がったもっとも敏感な機関だ。
「や、やだ、それだけは、やめ、そこだけは」
切れ切れに訴え掛ける英太。何度も恐ろしい目に遭ってはきたが、中でもひときわ恐怖であったのがそこを責められる行いだった。そもそも、袋を責められて痛みや恐怖を感じない男性が一体何人いるだろう。柔く巻き付かれ、袋をゆっくり圧迫されていくのを感じて震えが止まらなくなる。少し押されるだけで、痛みと違和感がせり上がる。もしそのまま、力を込められでもしたら。
「罰は必要だ、そうだろう?あと二週間……最後の時になるまで致命的な傷は与えないようにしようと思っていたが。こうも反抗的ならば、仕方あるまい。痛みと絶望でもなければ、お前達は学習しない生き物であるようだ……」
低く、笑うような声が響いた。次の瞬間。
ぶちゅり、と。聞きたくもなかった音が、響き渡る。そして。
「ひ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
英太は全身をズタズタにするかのような激痛に、絶叫していたのである。
***
「確かに、よくよく考えてみればこの学校は奇妙なことが多いな」
授業がひとしきり終わった夕方。寮の部屋へ戻ってきたステイは、享と楓と共に早速作戦会議を開始することにした。
元々ステイと楓は二人部屋のルームメイトであるし、享も同じ学年の同じクラスということもあって部屋は遠くないのである。定められた就寝時間や食事の時間以外は、部屋や遊戯室などで自由に過ごして良いことになっているのだ。
「まずそのうちの一つ。俺、結構先輩達とも話するんだけどさ。元孤児、じゃない先輩ってのにひとりも会ったことない気がするんだよ。クラスの奴らとかもな。孤児を寄付金やりくりしながら学習・養ってくれる学校だってのは聴いてたけどよ。一般の生徒がもしかしてひとりもいねーんじゃないか?って疑惑があんのよね」
「それは俺も妙だなと思っていた。孤児が多いというより、孤児を集めている印象だ。それも、全国各地から。この国の孤児なんて、総数は本来そう多いものではないはずなのだが」
「だよな?発展途上国でもないし」
一クラスの平均人数が、約三十二人前後。それが、一学年につき五クラス分あるのだ。単純計算にして、32×5×3――四百八十人もいるということになる。この国で、これだけの数の孤児が自然と集まるとは到底思えない。集めた、にしてもやや多すぎるような気がするほどだ。
「さらに、外界から隔絶されすぎてるよね。元々孤児院で一緒だったみんながいるから、そんなに気にしてなかったけど」
そっと立ち上がり、窓の方へと歩いていく享。気休めかもしれないが、外に設置されている防犯カメラを嫌ったのだとわかった。カーテンを締めれば一応それで中の様子が見られる心配はない。あれは名目上は、外部から危険な人間が近寄ってこないようにするため、ということであるらしいが。それならそれで、何故カメラが外か内側に向かってついているのかが謎で仕方ないのだけれど。
そもそも警戒しているのは、本当に“外部からの侵入者”なんだろうか。
此処は山奥で、関係者以外学校の敷地に近づくことも殆どないというのに。
「寮の窓も入口出口も、防犯カメラがしっかりついてる。決められた時間以外には、寮の外に出ることもできない。そして、決められた時間であっても……学校の敷地の外に出るのは絶対禁止って言われてるよね。敷地の外には熊が出て危ないからって」
外に出たいと、思ったこともなかった。そもそも孤児院にいた時も、孤児院の外に友人や家族がいるわけではない。連絡を取りたい相手もいない。強いていうなら、インターネットができないことに不便を感じるくらいなものである。学校の施設内にそれなりに娯楽も揃っているし、その結果外に出られないことを疑問視したことはなかったのだ。熊が出るというのを、特に疑ったこともない。きっとそれは、享や楓も同じなのだろう。
熊がいて危ないから出るな。
そう言われれば、大抵の真っ当な生徒はそれに従うものだろうから。
「何がなんでも、僕達を学校から出したくないってかんじだ。なんだかこうして考えると……本で読んだ“監獄”ってこんなんなのかなって思うよ。閉じ込められて、監視されてさ。……しかもここにきて、“神様”っていうのにも疑問が出てきたし」
「それな」
宗教の学校ではない。
神様にお祈りしましょう、と言われてお祈りさせられることはあるがそれだけだ。どこかにそれらしい仏壇などがあるわけでもなく、宗教であるならば出てこなければおかしい“神様”の名前も一般に周知されていない。神様という存在は敬わなければいけない存在であれど、名称は他につけようがなかったのではないか、というのが自分達の共通見解だった。
もっと言えば、本当は神様なんてファンタジックな存在ではなく、学校関係者のえらい人の仮称ではないのかということも。
「神子が何をさせられるのかは、二週間後になってみればわかる。俺が選ばれたからな」
だが、と楓が険しい顔で続けた。
「問題は、前任神子である村松英太の様子があまりにもおかしかったということ。死にたくない、助けて……一体どういう意味だ?殺されるかもしれないと思うほど酷い仕事内容なのか、あるいはこれから殺されることを悟ってしまうような状況に置かれているのか。いずれにせよ、調べる必要がある。いつも通り事が進むなら、俺の次にも神子は選ばれることになるのだから」
「そうだな、でもまずはお前に危ないことなんかさせたくないってのが本心だ。神子が何をさせられてるのか、何が起きてるのか突き止めようぜ。犯罪紛いの行為なら、それこそそんなことに楓を加担なんかさせられないしな」
「だね」
自分達の心は既に決まっている。問題は、どうやってその調査をすすめるか、ということ。神子は仕事内容について口止めされているようだし、本人に直接問いただしても口を割ってくれるなんてことはないだろう。ならば。
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