神殺しのステイ

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<4・神が隠すモノ>

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 こうして考えてみると、この学校に対する違和感や奇妙な点はいくつも散見されるように思う。二年生の寮まで歩いていきながら、ステイは考えを巡らせていた。
 外部の侵入者より、内部の脱走者を気にするような防犯カメラの設置もそうなのだが。元よりこの学校と寮は、随分セキュリティが厳しい印象なのである。例えば敷地内の校舎に入るのも寮に戻るのも、いちいち学籍カードを通してゲートを開く必要がある。夜の遅い時間には、そのゲートそのものが閉まってしまう上、シャッターも閉じるので一切出られなくなる仕組みだ。
 同時に、それだけのガチガチのセキュリティを構築するならば、相当のお金が必要であるのは言うまでもないこと。一体どこからそのお金を捻出しているのか、非常に気になるところである。運営している学校法人は、あくまで“孤児達に健全な教育を提供する”慈善事業という体だ。そして自分達生徒もみんな孤児であるため、学校に学費などを支払えるはずもない。どこかにパトロンでもいるのか、国が支援してくれているのか。後者の場合は、一体何のためにここまでの費用を?という新たな疑問が浮上することになるが。ちょっと支援された程度で、こんなに綺麗でセキュリティばっちりな校舎と寮が立つとは思えない。いくら山の中で、土地代そのものは安いのだとしてもだ。

――神様、に関することは……神子に選ばれた楓が、先生達にそれとなく訊いてみてくれるらしいからいいとして。俺は、別方向でアプローチしてみないとな。

 ステイといえど二年生に知り合いは少なく、村松英太の知り合いを探すのは少々困難であったのだが。幸いなことに、村松英太の友人、が同じハンド部の先輩である人物をクラスに発見した。ステイが彼に事情を話すと、彼から先輩に対して話をしてくれるように通しておいてくれるという。どうやら、昨日の神子騒動に関して、疑念を抱いているのは自分だけではないようだ。本当のところを知りたいし、それが自分達の身にも降りかかってくるかもしれないならなんとか阻止したい。そう思うのは、何もおかしなことではないだろう。
 持つべきものは、友である。こういう時、自分もそうだが楓にも人望があって良かったと思うべきか。変わり者でぼんやりした印象の楓だが、彼は昔から同性にも異性にもモテるタイプである――それはもう、いろんな意味で。博識であるし、なんだかんだで面倒見がいい。それに加えてあの美形ぶりときている。此処は男子校だから、カノジョがいたり女子にきゃーきゃー言われて嫉妬の対象になることがないというのも大きいのだろう。
 なお、男子校にも関わらず、楓が何度かラブレターらしきものを貰っていることをステイは知っている。本人はそのたび、律儀に断りの手紙を書くなり、本人に丁寧に謝罪しに行っているらしい。モテる男も楽ではないようだ。モテすぎて神子にも選ばれてしまうなんて、まったく災難としか言い様がないが。

――そう、本来なら災難じゃないはず、だったんだよな。でも。

 先生達が言っている言葉と状況には、やはり色々と矛盾点があるのも事実なのだ。
 そのうちの一つが、神子の行く先である。
 神子は“神様”に認められると、二ヶ月の後に此処を卒業して政治に関わる重要な仕事や、高給で安泰な仕事に就けるというのは既に説明されている通りだ。が、その“神子が具体的にはどんな仕事に就けるのか”に関しては、随分と曖昧になっている印象なのである。以前ちらりと先生に訊いてみたところ、“その生徒の適正によって選ばれるから”という実にぼんやりした言い方ではぐらかされてしまっていた。つまり、実際は神子が卒業後にどうなるのか、誰にもわからないのである。同時に、“認められなかった”神子がどうなってしまったのかについても、だ。
 何故なら、此処は外部との連絡が一切断たれた環境である。卒業後の神子と連絡を取り合うことも当然できない。彼らが本当に先生達の情報通り、凄い仕事に就くことができたのか?それとも実は生きてさえいないのか、なんてころもわからないわけだ。ただ刷り込まれるまま、多くの生徒が“選ばれることは非常に名誉である”と思い込んでいたに過ぎない。確かに疲れて壇上に上がる神子は過去にもいたが、村松英太ほど疲労困憊で錯乱した生徒は過去に例がないからだそうだ。

――昨日のことで……神子ってのはろくな存在じゃないんじゃないか?神様ってやばいんじゃないか?そう思った生徒は多かったはずだ。いくら神子本人が口を閉ざしても、それならそれで調べようとする生徒は増えるはずだろ。先生達は、どう対処するつもりだ?

 なんとなく、急いだ方が良いような気がする。もしかしたら本当の意味での猶予は、楓が仕事に就く二週間までないかもしれない。今までの神子は仕事が始まっても普段は寮生活を続けられたし、授業にも出ることができたが。先生達が秘密の漏えいを警戒するなら、楓が二週間まったく戻ってこられなくなってしまう可能性もゼロではないと踏んでいた。
 つまり、そうなる前に。少しでも真実を明らかにし、阻止できることは事前に阻止しなければならないのである。それが楓のためであり、自分達のためでもあるからだ。

「あの、すみませーん」

 辿りついた、二年生の寮の一室。話が通ってるなら、相手はこの部屋の向こうにいるはずだ。301と書かれた茶色いドアをノックすると、すぐにがちゃりと鍵が開く音がした。現れたのは、黒髪をつんつんに逆立てた体格の良い青年だ。

「こ、こんにちは。俺、一年A組の、ステイ・オルフォードです。二年ハンド部の、角松先輩ですか?」

 身長はさほどないが、なるほど運動部というだけあって鍛えているようだ。横幅の方なら、ステイをはるかに上回っている。
 ツンツン頭の彼は、下から上までステイを見上げると、一言。

「す、すげえ!お前本当に一年か!?噂以上のタッパじゃないか……ハンド部に入らないか!?」

 いきなり勧誘された。はい?と目を点にしていると奥からもうひとりの声がかかる。

「角松角松、用件それじゃないから。いくら魅力的な素材だからって勧誘しちゃだめ。そいつバスケ部のホープなんだからね、喧嘩したいの?」
「ぐぬぬ、惜しい……」
「ぐぬってもどうしようもない。立ち話させるんじゃないよ、さっさと中入れてあげな」
「うい……」

 基本的に、寮は二人一部屋だ。たまに一人部屋生徒がいるくらいである。この部屋も、当然角松ともうひとりの二人部屋構成だったということだろう。なんとなく力関係が見えた気がして苦笑する他ない。自分も部屋の掃除やら物も配置やらはしっかり楓に仕切られてるもんなあ、と思うステイである。
 失礼します、と中に入れてもらえば。視界に入るのはいかつい男性のポスターや、ハンドボールの教本、筋トレの道具などがごろごろ転がっている部屋である。その脇に、恐らくもうひとりの私物であろう文庫本や参考書が置かれた棚がちんまりと存在していた。噂には聴いていたが、角松という先輩は本当にハンドボール馬鹿であるらしい。
 外界から隔絶された環境の学校だが、大きな大会などに出場する際などごく一部の例外は、バスで山を降りることが許されているのである。ハンドボール部は県大会までは出場できるレベルだと聞いたことがあった。実際に試合を観戦することはできないので、あくまで結果とビデオでちらりと見ただけの知識しかないが。

「汚い部屋ですまんな。そのへんに座ってくれ」
「は、はい」

 私物が大量に転がる部屋の中心に、高校生の男子三人が囲むにはあまりに小さなテーブルがある。一応礼儀のつもりなのか、もうひとりの先輩がお茶を入れてくれた。彼は角松と違い、比較的細身な体格をしている。運動部ではないのかもしれない。

「一応自己紹介をしておこう。角松哲也かどまつてつやだ、どうぞよろしく」
「は、はい。よろしくお願いします。ステイ・オルフォーフォードです。こんな外見ですが英語は全然喋れないです」
「らしいな!前園まえぞのから話は聞いているぞ、バスケ部で大活躍しているらしいじゃないか。どこの部活にも入っていなかったらうちに勧誘しようと思っていたのに、実に残念だ」
「は、はあ」
「ちなみに、今お茶を入れてくれたあいつは内田遼一郎うちだりょういちろうだな。少々偏屈だが悪い奴じゃない、仲良くしてやってくれ」
「偏屈、は余計」

 どうやら内田、という細身の彼も話に参加するつもりらしい。むすっとしながらも、角松の隣に座った。なんとなく、雰囲気が楓に似ている人だなと感じる。

「俺はハンド部で、こいつもハンド部。内田は選手じゃなくてマネージャーだけどな。村松も選手だ。クラスも同じだし、俺は特に仲良くしていた自覚がある」

 元々声が非常に大きい質なのだろう。角松の声は、がんがん腹の底に響く印象がある。それが内田の尻に敷かれているっぽいのだから、世の中はわからない。いや、それを言ったら自分と楓もそうなのだが。

「俺に話を訊きにきたってことはつまり、お前も神子について疑問を持っているということだろう?」
「そう、ですね。今回の……その、村松先輩の様子は明らかにおかしかったし。先生達から聞いて言いた情報と明らかに異なるかんじだったので。神子の仕事は本人は絶対に口外しちゃいけないっていうけど、その周りの人から話を聞くならできるんじゃないかなって」
「賢明な判断だな。村松は今日はまだ寮に帰ってきていないようだし、そもそも直接訊いたところで何も語らんだろう。俺もあいつの様子がおかしくなってから何度も実情を聞き出そうとしたが、奴は一切口を割ってくれなかった。よほど強く脅されていたか、何かどうしても言えない事情があったんだろうな」
「それってつまり……」

 ステイは眉をひそめた。

「今日みたいなことになる前から、いろいろ変だったってことですか?」

 昨日突然豹変したというのなら、昨日だけ何かおかしなことがあったとも解釈できるが。それが、前からおかしな様子があったというのなら話は別である。以前から、何か嫌なことに従事させられていたと解釈するべきだろう。
 ステイからすれば、それは何らかの暴力である可能性が高いと思っていた。ローブの下から、僅かに痣のように変色した彼の足が目撃されているからである。

「元々村松って、メンタルがそんなに強い方じゃなかったんだよ」

 口を開いたのは、内田の方だ。

「ちょっと神経質というか、臆病なところがあるというか。雷落ちたらそれだけでびびるし、結構すぐ謝っちゃうようなとこはあったんだけどさ。それを差し引いても、初日の仕事が終わった直後から変だったらしいんだよ。俺達は村松のルームメイトじゃないから、あくまでルームメイトだった奴から相談を受けただけなんだけどさ」
「どんな風におかしかったんです?いつもより尋常じゃなく怯えてるとか?」
「まあ、そんなかんじ。……異様に手を洗い続けてたり、あとすごく血に敏感になるようになったりね。それと、風呂が滅茶苦茶長くなった。あいつが風呂に入ってる時うっかりドア開けようとしちゃって、凄い剣幕で怒られたって話も聞いたことがあるな。あと、風呂場でずっと泣いてたとか」
「それって……」

 どっからどう見ても、予兆がありまくりではないか。それを知っていて、仲間達は何もしなかったのだろうか。言外にそう思ったのが顔に出たのか、内田はため息をついて首を振った。

「様子がおかしいから、先生に言おうか……ってルームメイトは言ったんだけど。それを言ったら、村松本人に凄い勢いで止められたらしい。こんなにびびってるのが先生にバレたら、何されるかわからないって。あれ、絶対脅迫されたんだと思うんだよ。実際、その時にはもう、神子について疑問を覚えて調べようとした奴が何人もいたんだ」

 だけどね、と。彼は続けた。やや青ざめた顔で。

「先生たちに直談判すると言った奴。神様について調べると言った奴。そんな奴の中から何人も……いなくなってるんだよね。ある日突然、煙のようにさ」
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