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<5・聖域に触れるべからず>
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図書室などの文献を調査するのは、享がやってくれる。同時に被害者周りの聞き込みは、コミュニケーション能力に最も秀でたステイが頑張ってくれるはずだ。ならば自分がするべきことは、次期神子という立場を利用して、教員達に探りを入れることだろう。
ステイが現時点で聞いた様子だと、どうにも神子周辺を下手に嗅ぎ回るのは危険なことであるらしい。現在の神子である村松英太の周辺でも、様子のおかしい村松を心配して調査をしようとしたクラスメイトやチームメイトが数名、謎の失踪を遂げているようだ。
だが、そんな話が朝礼やホームルームで出たことはない。二年生のことだから自分達が知らないのは無理もないことであるが、不慮の事故で死んだり山の中に迷い込んで行方不明になってしまったなどのパターンなら当然全体にお知らせが行くはずである。それさえもないのは、彼らの失踪そのものをなかったことにしようとしたか、あるいは存在そのものを抹消しようとした可能性が高いのではないか。
――だから、ステイと享にはあまり深く突っ込んで調べさせない方がいい。……万が一のことがあってからじゃ遅いからな。
そういうことは、次期神子であり――そう簡単に手出しできない立場であろう自分やするべきことだ。
楓にとって、彼らはかけがえのない友人だった。今でこそ“変わり者だが頼りになる奴”といった風に受けと取られているらしい自分だが。元々、楓は彼らほど人付き合いが得意なわけではない。孤児院に来る経緯は人それぞれだが、元より虐待されて送り込まれた楓は大人達にも他の子供達にも腫れ物扱いであったのだ。
来た当初は、人が怖くて仕方なかった。
特に自分より体が大きい存在は全て恐ろしかった。大人は気に食わないと、人を叩く。足蹴にする。もっと不機嫌になると、もっともっと酷いこともする。引き取られた当初はまともに声も出ない状態だたのだから、自分で言うのもなんだが無理からぬことではあったのだろう。
それが変わったのは、別の孤児院が潰れたことで移ってきたステイと享が来たからだ。親に赤ん坊の状態で捨てられたステイと、親が事故で死んでしまった享。どちらも辛い境遇であるはずなのに、いつも孤児院の隅で本ばかり読んでいる楓を真っ先に気にかけてくれたのである。
彼らが楓にとって、特別な存在になるのは自然なことであっただろう。彼らはただの友人ではない、ある意味命の恩人なのだ。彼らがいなければ、今の楓は此処にはいなかったのだから。
ゆえにこれは、神子として選ばれた己の保身だけではなく――彼らの未来を守るための行動なのだ。自分の次が、彼らのどちらかになる可能性は十分にあるのだから。
――あいつらは、俺にとって聖域なんだ。絶対に、穢させるわけにはいかない……!
授業が終わっても、講義棟に入ることは十分可能だ。何故なら自由時間の間に、先生にわからないところを質問しに行ったり、図書室で調べ物をしたいという生徒は少なくないからである(図書室も講義棟の一角にあるのだ。二つは渡り廊下で繋がっていて、就寝時間以前なら行き来することができるのである)。
実際ほとんど日の落ちたこの時間であっても、すれ違う生徒の数は少なくない。ふと、上級生の二人組が廊下で駄弁っているのが聞こえた。
「マサトさあ、卒業したらどうすんべ?せっかくならタレント事務所にでも応募してみたらどうだよ、せっかくイケメンなんだしさー」
からかい半分なのだろう、片方の少年が笑いながら言う。すると、マサトと呼ばれた茶髪の少年がノリよく髪をかきあげながらこんな事を言った。
「うむ、それも良きかな!……まあ、八尾とか見てると自信なくすんだけどなあ。一番女にモテるのってああいうタイプじゃん?孤児院時代に彼女いたっていうし」
「うーんどうだろ、どっちかというと最モテは五十嵐じゃね?やっぱ細マッチョ好きな女いそーだし」
「あー……筋肉じゃ勝てないな、絶対勝てないわ。つか思ったけどうちのガッコ顔面偏差値全体的に高いよな。孤児院時代結構モテてたと思ってるんだけど、それでも自信なくすっつーか」
「わかるー。つかやっぱモテてたのかよ、爆発しろ」
――顔面偏差値?
ふと、楓は気になり窓の外を見た。
今の時間はまだ、敷地内の一部なら建物の外に出ることも可能である。グラウンドでは、数名の少年達がボールを蹴っているのが見えた。部活動によっては、それこそ夜まで練習を許可されている場合もある。至れりつくせりのこの学校は、ナイター設備も充実しているからだ。勿論敷地の外、フェンスを乗り越えようとするとサイレンが鳴って先生が駆けつけてくるという噂であるが(試したことがないのでわからない)。
――確かに、うちの学校って妙に顔が整っている奴、多くないか?
自分で言うのもなんだが、楓が己の見目が並以上であることを理解している。だからどうした、といったくらいで特にそれを誇りに思ったり自慢したりしたいと思うことはないのだが。
問題は、他の生徒達もほぼほぼみんな顔が整っているということだ。勿論、一言で整っているといってもいろんなタイプがいる。精悍で男らしい顔立ちのやつ、少女みたいに繊細な顔立ちのやつ、童顔で小学生みたいにちんまりしたやつもいる。どちらかというと気になるのは、誰がどう見ても不細工という人間が一人もいないということではないだろうか。少なくとも、太っていて脂ぎっているやつとか、顔がパグのように潰れ気味のやつ、なんていうものをこの学校で一人も見たことがない気がしているのである。
これは偶然、なのだろうか。思えばあの村松という当代神子の少年も、窶れてはいたが顔だけ見ればそれなりのものであった気がするのだが。
――孤児ばかり集められた学校。しかも、基本的には是認が並以上の容姿。……ゲームや漫画の世界とかならそういうのも珍しくないけど、現実なら普通に考えて違和感ばりばりだよな。……意図的にそういう生徒で固めた?何のためにだ?
そして、この学校の高そうな設備と、どこから来ているのかわからない予算。今朝あれだけ当代神子が暴れてみんなを動揺させたのに、先生達からは非常に軽い説明しかなかった。神子とはもしや、何らかの金銭を得るための“生贄役”なのではないか?血を怖がるようになっていた、というステイが聞いた情報が正しいのなら、それは到底真っ当な方法とは思えないのだが。
そんなことをつらつら考えていると、職員室の前に到着した。ノックをして入室し、学年主任のところへ行く。この学校でも数少ない女性である、学年主任の眞鍋由美教員。神子に関する説明は、基本的に眞鍋からすべて受けることになっていた。まだ話を聞くのは数日先の予定ではあるが。
「眞鍋先生、少しよろしいですか?」
「あら、何かしら」
化粧の濃い年配の女史は、楓が声をかけるとにこやかに返事をしてくる。次の神子だからなのか、あるいは楓の成績が良いことで覚えが愛でたいのかは定かでないが。
「その、少し神子についてお訊きしたいことが。いいですか?」
数日後に説明するから後でね、と突っぱねられる可能性はあった。しかし、他の生徒ならともかく、次の神子になることが決まっている楓が神子について突っ込んで聞いても、そうそう危険視されることはないだろう。なんせ、すぐにすべてを知らされることになる立場なのだから。
それがわかっているからか、眞鍋は机の上をざっと片付けると、ちょっと待ってね、と告げた。
「そうね、色々不安なことが多いものね。職員室じゃなんだし、生徒指導室まで行きましょうか?」
「ありがとうございます、お忙しいでしょうに」
「いいのよ。神子のケアについても、私のお仕事なんだから」
生徒指導室。基本的に、楓には縁のない部屋である。生徒指導室がある部屋が、講義棟の一階の隅の隅にあって、まずそれ以外の目的で前を通ることもないというのも大きい。ちなみにステイは、成績不振で既に二回ほどお呼ばれしたことがあるとヘコんでいた。まだ一年なのに既に二回も呼ばれるなんて相当やばいだろ、と思うのだが。素行そのものはけして悪くはないはずなのだが。
生徒指導室と言うからどれほど簡素なものかと思ったら、実際の内部は応接室を変わらないくらい立派なものだった。ふかふかの黒ソファーがあり、資料やら何やらがぎっしり詰まった棚が置いてある。茶色い壁際、四隅には観葉植物が。窓がないせいで少し窮屈な印象だが、けして粗末な内装ではなかった。これはひょっとしたら、普段は応接室としても使っているのではなかろうか。こんな山奥の学校に、そうそう訪れる客がいるとも思えないのだが。
「入って。訊きたいことがあるんでしょう?」
部屋は綺麗だし、眞鍋も笑っているのに――異様に空気が重いと感じるのは何故だろうか。
楓は意を決して、ソファーに腰掛けた。真正面に眞鍋が座ったのを確認して、まずは当たり障りのないところから話し始める。
「あの、その。……今朝の、当代神子の村松さんなんですけど……大丈夫でした?明らかにパニックになっていたみたいで。相当神子の仕事が大変なんじゃないかと思って、不安になってしまって」
これは、次の神子を命じられた人間なら当然の疑問だろう。きっと眞鍋は本当のことなど言わない。それでも、どのような誤魔化し方をしてくるか、も情報にはなるはずである。
「そうね、ごめんなさいね。私達のケアが足らなくて、心配させてしまったわね」
一見すると優しそうにも見える女史は、目尻を下げてそう告げた。
「村松君には、少々無茶な仕事をさせてしまってね。それで、今は疲れて眠って貰っているの。睡眠不足って何でいけないか知っている?疲れるってだけじゃないのよ。人は眠っている間に、記憶や感情を整理するものなの。だから、眠らないと幻覚や幻聴を聴いたりする。もっと早く休ませてあげるべきだったと反省しているわ」
その言葉に、楓は眉を寄せた。睡眠不足の説明を丁寧にして誤魔化そうとしているようだが、既にこの時点で最初に教頭が言ってきた言葉と食い違っている、と感じるのは自分だけだろうか。
『えー……大変お騒がせして申し訳ありません。神子様は、早朝までのお勤めで大変お疲れであり、ここ数日は悪い夢に魘されて精神的にも非常に参っておられたようです。そのため、このタイミングでパニックを起こされたのではないかと思われます』
彼はそう言ったのだ。
悪夢を見る、ということは多少なりに眠れていたということ。睡眠不足という説明とは、少し違っている気がする。
「……眠る暇もないほど、神子の仕事というのは大変なのでしょうか?」
特に探ろうとしているわけではなく、ただこれから自分の身に起きていることに不安を感じているだけ――そういう体を装って楓は告げる。すると。
「そうね、少し早いけれど……簡単に貴方には説明しておいてもいいかしら。次の神子だものね」
楓の疑念に気づいているのかいないのか。眞鍋は笑顔を崩すことなく、告げた。
「教えてあげるわ。神様と、神子について」
ステイが現時点で聞いた様子だと、どうにも神子周辺を下手に嗅ぎ回るのは危険なことであるらしい。現在の神子である村松英太の周辺でも、様子のおかしい村松を心配して調査をしようとしたクラスメイトやチームメイトが数名、謎の失踪を遂げているようだ。
だが、そんな話が朝礼やホームルームで出たことはない。二年生のことだから自分達が知らないのは無理もないことであるが、不慮の事故で死んだり山の中に迷い込んで行方不明になってしまったなどのパターンなら当然全体にお知らせが行くはずである。それさえもないのは、彼らの失踪そのものをなかったことにしようとしたか、あるいは存在そのものを抹消しようとした可能性が高いのではないか。
――だから、ステイと享にはあまり深く突っ込んで調べさせない方がいい。……万が一のことがあってからじゃ遅いからな。
そういうことは、次期神子であり――そう簡単に手出しできない立場であろう自分やするべきことだ。
楓にとって、彼らはかけがえのない友人だった。今でこそ“変わり者だが頼りになる奴”といった風に受けと取られているらしい自分だが。元々、楓は彼らほど人付き合いが得意なわけではない。孤児院に来る経緯は人それぞれだが、元より虐待されて送り込まれた楓は大人達にも他の子供達にも腫れ物扱いであったのだ。
来た当初は、人が怖くて仕方なかった。
特に自分より体が大きい存在は全て恐ろしかった。大人は気に食わないと、人を叩く。足蹴にする。もっと不機嫌になると、もっともっと酷いこともする。引き取られた当初はまともに声も出ない状態だたのだから、自分で言うのもなんだが無理からぬことではあったのだろう。
それが変わったのは、別の孤児院が潰れたことで移ってきたステイと享が来たからだ。親に赤ん坊の状態で捨てられたステイと、親が事故で死んでしまった享。どちらも辛い境遇であるはずなのに、いつも孤児院の隅で本ばかり読んでいる楓を真っ先に気にかけてくれたのである。
彼らが楓にとって、特別な存在になるのは自然なことであっただろう。彼らはただの友人ではない、ある意味命の恩人なのだ。彼らがいなければ、今の楓は此処にはいなかったのだから。
ゆえにこれは、神子として選ばれた己の保身だけではなく――彼らの未来を守るための行動なのだ。自分の次が、彼らのどちらかになる可能性は十分にあるのだから。
――あいつらは、俺にとって聖域なんだ。絶対に、穢させるわけにはいかない……!
授業が終わっても、講義棟に入ることは十分可能だ。何故なら自由時間の間に、先生にわからないところを質問しに行ったり、図書室で調べ物をしたいという生徒は少なくないからである(図書室も講義棟の一角にあるのだ。二つは渡り廊下で繋がっていて、就寝時間以前なら行き来することができるのである)。
実際ほとんど日の落ちたこの時間であっても、すれ違う生徒の数は少なくない。ふと、上級生の二人組が廊下で駄弁っているのが聞こえた。
「マサトさあ、卒業したらどうすんべ?せっかくならタレント事務所にでも応募してみたらどうだよ、せっかくイケメンなんだしさー」
からかい半分なのだろう、片方の少年が笑いながら言う。すると、マサトと呼ばれた茶髪の少年がノリよく髪をかきあげながらこんな事を言った。
「うむ、それも良きかな!……まあ、八尾とか見てると自信なくすんだけどなあ。一番女にモテるのってああいうタイプじゃん?孤児院時代に彼女いたっていうし」
「うーんどうだろ、どっちかというと最モテは五十嵐じゃね?やっぱ細マッチョ好きな女いそーだし」
「あー……筋肉じゃ勝てないな、絶対勝てないわ。つか思ったけどうちのガッコ顔面偏差値全体的に高いよな。孤児院時代結構モテてたと思ってるんだけど、それでも自信なくすっつーか」
「わかるー。つかやっぱモテてたのかよ、爆発しろ」
――顔面偏差値?
ふと、楓は気になり窓の外を見た。
今の時間はまだ、敷地内の一部なら建物の外に出ることも可能である。グラウンドでは、数名の少年達がボールを蹴っているのが見えた。部活動によっては、それこそ夜まで練習を許可されている場合もある。至れりつくせりのこの学校は、ナイター設備も充実しているからだ。勿論敷地の外、フェンスを乗り越えようとするとサイレンが鳴って先生が駆けつけてくるという噂であるが(試したことがないのでわからない)。
――確かに、うちの学校って妙に顔が整っている奴、多くないか?
自分で言うのもなんだが、楓が己の見目が並以上であることを理解している。だからどうした、といったくらいで特にそれを誇りに思ったり自慢したりしたいと思うことはないのだが。
問題は、他の生徒達もほぼほぼみんな顔が整っているということだ。勿論、一言で整っているといってもいろんなタイプがいる。精悍で男らしい顔立ちのやつ、少女みたいに繊細な顔立ちのやつ、童顔で小学生みたいにちんまりしたやつもいる。どちらかというと気になるのは、誰がどう見ても不細工という人間が一人もいないということではないだろうか。少なくとも、太っていて脂ぎっているやつとか、顔がパグのように潰れ気味のやつ、なんていうものをこの学校で一人も見たことがない気がしているのである。
これは偶然、なのだろうか。思えばあの村松という当代神子の少年も、窶れてはいたが顔だけ見ればそれなりのものであった気がするのだが。
――孤児ばかり集められた学校。しかも、基本的には是認が並以上の容姿。……ゲームや漫画の世界とかならそういうのも珍しくないけど、現実なら普通に考えて違和感ばりばりだよな。……意図的にそういう生徒で固めた?何のためにだ?
そして、この学校の高そうな設備と、どこから来ているのかわからない予算。今朝あれだけ当代神子が暴れてみんなを動揺させたのに、先生達からは非常に軽い説明しかなかった。神子とはもしや、何らかの金銭を得るための“生贄役”なのではないか?血を怖がるようになっていた、というステイが聞いた情報が正しいのなら、それは到底真っ当な方法とは思えないのだが。
そんなことをつらつら考えていると、職員室の前に到着した。ノックをして入室し、学年主任のところへ行く。この学校でも数少ない女性である、学年主任の眞鍋由美教員。神子に関する説明は、基本的に眞鍋からすべて受けることになっていた。まだ話を聞くのは数日先の予定ではあるが。
「眞鍋先生、少しよろしいですか?」
「あら、何かしら」
化粧の濃い年配の女史は、楓が声をかけるとにこやかに返事をしてくる。次の神子だからなのか、あるいは楓の成績が良いことで覚えが愛でたいのかは定かでないが。
「その、少し神子についてお訊きしたいことが。いいですか?」
数日後に説明するから後でね、と突っぱねられる可能性はあった。しかし、他の生徒ならともかく、次の神子になることが決まっている楓が神子について突っ込んで聞いても、そうそう危険視されることはないだろう。なんせ、すぐにすべてを知らされることになる立場なのだから。
それがわかっているからか、眞鍋は机の上をざっと片付けると、ちょっと待ってね、と告げた。
「そうね、色々不安なことが多いものね。職員室じゃなんだし、生徒指導室まで行きましょうか?」
「ありがとうございます、お忙しいでしょうに」
「いいのよ。神子のケアについても、私のお仕事なんだから」
生徒指導室。基本的に、楓には縁のない部屋である。生徒指導室がある部屋が、講義棟の一階の隅の隅にあって、まずそれ以外の目的で前を通ることもないというのも大きい。ちなみにステイは、成績不振で既に二回ほどお呼ばれしたことがあるとヘコんでいた。まだ一年なのに既に二回も呼ばれるなんて相当やばいだろ、と思うのだが。素行そのものはけして悪くはないはずなのだが。
生徒指導室と言うからどれほど簡素なものかと思ったら、実際の内部は応接室を変わらないくらい立派なものだった。ふかふかの黒ソファーがあり、資料やら何やらがぎっしり詰まった棚が置いてある。茶色い壁際、四隅には観葉植物が。窓がないせいで少し窮屈な印象だが、けして粗末な内装ではなかった。これはひょっとしたら、普段は応接室としても使っているのではなかろうか。こんな山奥の学校に、そうそう訪れる客がいるとも思えないのだが。
「入って。訊きたいことがあるんでしょう?」
部屋は綺麗だし、眞鍋も笑っているのに――異様に空気が重いと感じるのは何故だろうか。
楓は意を決して、ソファーに腰掛けた。真正面に眞鍋が座ったのを確認して、まずは当たり障りのないところから話し始める。
「あの、その。……今朝の、当代神子の村松さんなんですけど……大丈夫でした?明らかにパニックになっていたみたいで。相当神子の仕事が大変なんじゃないかと思って、不安になってしまって」
これは、次の神子を命じられた人間なら当然の疑問だろう。きっと眞鍋は本当のことなど言わない。それでも、どのような誤魔化し方をしてくるか、も情報にはなるはずである。
「そうね、ごめんなさいね。私達のケアが足らなくて、心配させてしまったわね」
一見すると優しそうにも見える女史は、目尻を下げてそう告げた。
「村松君には、少々無茶な仕事をさせてしまってね。それで、今は疲れて眠って貰っているの。睡眠不足って何でいけないか知っている?疲れるってだけじゃないのよ。人は眠っている間に、記憶や感情を整理するものなの。だから、眠らないと幻覚や幻聴を聴いたりする。もっと早く休ませてあげるべきだったと反省しているわ」
その言葉に、楓は眉を寄せた。睡眠不足の説明を丁寧にして誤魔化そうとしているようだが、既にこの時点で最初に教頭が言ってきた言葉と食い違っている、と感じるのは自分だけだろうか。
『えー……大変お騒がせして申し訳ありません。神子様は、早朝までのお勤めで大変お疲れであり、ここ数日は悪い夢に魘されて精神的にも非常に参っておられたようです。そのため、このタイミングでパニックを起こされたのではないかと思われます』
彼はそう言ったのだ。
悪夢を見る、ということは多少なりに眠れていたということ。睡眠不足という説明とは、少し違っている気がする。
「……眠る暇もないほど、神子の仕事というのは大変なのでしょうか?」
特に探ろうとしているわけではなく、ただこれから自分の身に起きていることに不安を感じているだけ――そういう体を装って楓は告げる。すると。
「そうね、少し早いけれど……簡単に貴方には説明しておいてもいいかしら。次の神子だものね」
楓の疑念に気づいているのかいないのか。眞鍋は笑顔を崩すことなく、告げた。
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