神殺しのステイ

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<6・神は何処にいる>

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「神様って、貴方は信じているかしら。この学校の、に限らず……イエス様とか仏様とか、全てひっくるめた上での神様よ」

 まるで新興宗教をお誘いでもするかのような言葉である。楓はハァ、と曖昧な返事をした。神様云々について、今まで考えたことはない。無神論者というほど極端ではないつもりだが、あまり神様という存在が好きではないのも事実だった。
 神様なんてものがいるのなら。
 こんなに世界が平等ではないなんて、それを許しているなんて――と。文句の一つも言いたくなってしまうのだから。

「あんまり、信じてはいませんが」

 素直にそう告げると、予想通りだったのか、そうよねと眞鍋は頷いた。

「この学校は孤児が殆どだもの。神様を信じない子の方が多いと思うわ。一部、教会などに預けられてた子はイエス様を信じていたりするみたいだけどね。私も、別に神様って存在を信じてるわけじゃないの。この学校にいる“神様”もね。実のところそれが本当に“神様”であるのかどうかなんて誰にもわからないのよ」
「わからないのに、神様って呼んでいるんですか?」
「そう。まあ、他に呼び方がないからと、本人がそう呼んで欲しいと願っているからってだけね。先生の中には、本物の神様だと信じて信仰している方もいるようだけど、私はどっちでもないかしら。そもそも、あんまりその姿を見たことがあるわけでもないし。確かなのは一つ……この学校にとっては間違いなく、神様が“救世主”であったということだけなの」

 お、と楓は思う。思いのほか、突っ込んだ話が聞けるのかもしれないと。
 この学校が、何故ここまでセキュリティを完備させることができ、かつ生徒達を無償で衣食住保証して養うことができているのか。やはり資金面の援助にもその“神様”が関わってきているのか。

「元々この宗像誠心学園は。宗像藤之助むなかたとうのすけという人が、身寄りのない子供達を救うために設立したものとされているわ。宗像氏は実業家として成功した人物だったけれど、元々は幼い頃に天涯孤独になった元孤児だったのよ。自分が苦労したからこそ、孤児達に辛い思いをさせたくなかったのね。彼は学校を設立し、孤児達が社会に出る手助けをしたいと考えた。ところが……いくら彼がお金持ちであるとはいえ、かかる費用は莫大なものよ。資金源は当然必要だった……」

 そこでね、と眞鍋はとんでもないことを口にする。

「彼は、魔術に手を染め、富を与えてくれる“神様”の力を借りたんですって」
「は?」
「一気に話がファンタジーになったと思ったでしょう?でも、私はそう聞いているからそうとしか伝えられないわ。宗像藤之助は神様と契約した。そして、神様に富を与えて貰う代わりに、ある約束をしたのよ。……魂が清らかな神子を一人ずつ選び、その人物に特定の時間お祈りをさせることをね。神様は、信仰してくれる人がいないとその力を保つことができないの。神子の仕事というのは、そのお祈りをする清らかな存在を言うのよ。女子ならば処女、男子なら童貞ってところ?」

 いくら年配とはいえ、女性の口からこうも明け透けな言葉が出るのは若干引いてしまう。言いたいことはわかりますが、とやや呆れながら告げる楓である。
 ふと、そこで一つの考えがよぎった。そういえば、男子高校生である以上多少下世話な話が話題に上ることもあるが――この学校に入るまでに童貞を捨てました、なんて奴は一人もいなかったように思う。まあ、中学の時点で童貞を卒業しているのもそれで問題な気がするが。ひょっとしたら、それもひそかに調べて、学園の入学基準になっていたりするのだろうか。

――でもなあ……此処、特殊な環境下の男子校だぞ?男子同士でカップルになった、なんて噂も時々聞くんだけどそれはいいのか?

 男子同士でカップルになってやることをやっていれば、少なくとも片方は童貞を卒業している可能性が高いだろう。それは問題ないのだろうか。まあ、楓の口からそこまで品のない話題を続けたいとは思えなかったが。

「お祈りさせるだけで、対価になるのですか?それに、村松君はお祈りだけで、あんなにも疲れ果てていたのでしょうか?それに神様が齎してくれる富とは?」

 質問攻めのような形になってしまうが、聞けば聞くほど疑問は増えていく。

「それに。……この学校が“男子校”であるのも理由があるのでしょうか。先ほどのお言葉を借りるのならば、神子は女性であっても良いような気がしますが」
「まあ、当然の疑問ね」

 うんうん、と頷きながら言う眞鍋。

「お祈りの詳しいやり方は、神様が直接指示をしてくれるらしいから私達は誰も知らないのよ。ただ、神様の気分次第でとても長い時間を要求されることになることがあって……村松君は昨日は相当長いことお願いされちゃってたみたいなのよね。だから、あまり眠ることができなかったんじゃないかしら」
「止めなかったんですか?」
「そこは申し訳なかったと思っているわ。神様が生徒達の命を奪うようなことは一度もなかったし、ここまで長時間に及んだのは初めてだったんだもの。今後は気を付けないといけないわね。ただ、神様の要求はなるべく呑むのが私達の仕事ではあるの。神様は“お祈り”と引換に、莫大な資金援助をしてくれると約束していて、今までその約束が守られなかったことはない。神様のお願いを守らずそれが絶たれてしまったら、この学校は立ち行かなくなってしまうわ」

 じ、と楓は語る眞鍋を観察した。にこやかに話しているが、ほんの一瞬目が泳いだ瞬間があったのを見逃さなかった。彼女は、たった今、嘘をついたようだ。だが、全部が嘘ではない。こういうのは実に厄介である。人を騙すならほどほどに真実を織り込むのがいいというのは本当なのだろう。
 一番引っかかるのはここだ。神様の、お祈り。果たして彼らがその内容を全く知らないなんて、そんなことが本当に有り得るのだろうか。

――神様の援助で学校が成り立っている、というのは本当っぽい、か?

 問題は、その“お祈り”の内容。
 本当は知っているのに、隠しているのだとしたら。

「神子は男子にしてほしいと、お願いしてきたのは神様よ。神様は、男子の神子の方が神聖な祈りが得られると思っているらしいわ。まあ……――」

 その時、眞鍋がぼそりと呟いた言葉は。楓を一瞬にして青ざめさせるには十分だった。

「……え?」

 多分。眞鍋も言うつもりはなかったのだろう。同時に、小さな声なので聞こえてはいない、誤魔化しがきくとでも思ったのか。
 彼女ははっとしたように顔を上げて、ああ、なんでもないわ!とすぐ笑顔を作った。

――おい、どういうことだ。確かに、小さな声だったけど……聞こえたぞ。

 それは。自分が心のどこかで、そうでなければいいと願っていたこと。

――“子供が生まれても困るしね”って、それ……どういう意味だ。

 思いつくのは。
 最悪の可能性以外に、なかった。



 ***



 予想はしていたものの、図書室にめぼしい情報はまりないようだった。享はいくつもの学校関連書籍をテーブルに並べて、ため息をつく。
 自分は、ステイのように高いコミュニケーション能力はないし、楓のように神子として突っ込んだ情報収集ができる立場にもない。だからこそ、細かな調べ物くらいでは役に立たないといけないと、そう意気込んでいたはずなのに。

――学校の歴史……神様って存在も神子も、この学校が出来た時からあるみたいだ。宗像藤之助って人がこの学校の創設者なのか……。

 神様という存在が昔からあるなら、この宗像藤之助という老人が何かを知っていた可能性は高い。
 だが、資料にはこの人物が“魔術によって神様を呼び出して、莫大な富を得た”などという実に眉唾な話が堂々と書いてあるばかり。神様、というキーワードは繰り返し出てくるというのに、その正体についてはあまりにもあやふやなことが多すぎるのだ。
 そもそも神様と呼ぶのに、その見た目も、どの宗教の神様なのかもわからない。そんなこと、普通有り得るのだろうか。

――神子は、神様にお祈りを捧げるのがお仕事。神子がお祈りすることで神様は信仰を保ち、その対価に富を与えてくれるおかげで学校運営が成り立っている、と。……あるのかなあ、そんなこと。

 信仰を保ちたいというのなら、何故公に姿を現さないのだろう。神子にだけ祈りを捧げてもらっても、神様の存在が皆に知られなければ信者を増やすことなど叶わないはずなのだが。
 そう、本当に信仰心だけが理由であるというのなら。姿を現し、教員達に積極的に布教活動をさせることを対価にした方がよほど自然であるような気がするのである。それをしないのは何故だろう。お祈りをさせるために神子を選ぶ、というのがそもそもただの建前なのだろうか。ならば神様とやらが、神子にさせたい役目は他にあるということか?

――うう、生贄とかじゃない、よね?だって、村松先輩も生きてるもんね……?

 ぶるる、と背中が冷たくなった。そんなことあってたまるか、と思う。次の神子は楓なのだ。楓が生贄にされるなんて冗談ではなかった。その次には、自分やステイや、他の友達が選ばれるかもしれないというのなら尚更である。
 ああ、殺されるだけが生贄、ではないのかもしれない。ステイが聞いた話によれば、村松少年は選ばれた初日に、随分と長く手を洗っていたり、血を怖がるようになったというではないか。何かもっと、犯罪めいたことに加担されられるのではないか。それこそ、殺人のような。

――ふざけるなよ、そんなこと……そんなこと絶対に楓にさせるもんか!

 イライラしながらページを捲る。自分は、あの二人に今まで何度も助けられてきたのだ。今度こそ、恩返しをしなければならない。あの二人の幸せこそ自分の幸せなのだ。
 だって、享は知っているのである。

『あのさ、享。……相談したいことが、あるんだけど』

 楓は、本当は――ずっと前からステイのことを。

「村松、まだ部屋に帰って来ないんだって?大丈夫か?」
「心配だよな。神子って選ばれたら、一生安泰に暮らせるすごい栄誉な仕事なんじゃなかったのかよ」
「だよな、そう聞いてたのにな……」

 図書室で、先輩二人が話しているのが聞こえた。
 けして他人事などではない。早く、神様と神子について調査を進めなければと享は焦る。
 もしかしたら本当の期限は、二週間よりもずっと短いいかもしれないのだから。
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