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<19・いざ、対決へ>
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享には、感謝してもしきれないと思っている。
本当は心のどこかで楓にも迷いがあったのだ。最善策を考えるならば、“神様”を自分が引きつけておくのがベストであるはずで。自分でもわかっていたからこそ提案したことであるのは事実で。
それでも本当は――本当は、言いたかったのである。その前に助けてほしいと。見知らぬ人間の男と行為を行うだけで嫌なのに、怪物相手だなんて最悪以外の何物でもないと。
まさかステイと関係を持ったことで、未練がより強くなるだなんて思ってもみなかったのだから。
――体だけでいいと思ったのに。一生伝えないで、墓まで持って行くと決めたのは自分だったのに。
『楓は、本当にこれでいいの?』
何から何までお見通しだった。
自分とステイは、本当に得難い友人を得たものだと思う。体を繋げてしまってから明らかにぎくしゃくしていただろうに、事態を察して良い意味でずんずんと踏み込んできてくれた。彼が動いてくれなかったら、自分は気持ちを誤魔化して“友達だから”と言い続け、あらぬ未練を残してしまっていたかもしれないのだから。
「……よし」
契約書は書いたが(南方楓、の名前をそれとなく間違えておいた。楓、の時の木辺を省略するという実にみみっちいやり方だが、幸い眞鍋には気づかれなかったらしい)、今のところ特に変化はない。今日から神子として任務を行うため、第三応接室まで来るようにと言われているだけである。契約書に意味はなかったのか、あるいは自分が名前を書き間違えたことが功を奏したのか。いずれにせよ、今夜全てが決まることになる。不安はあるが――享のおかげで、進むべき場所は見えた。たどり着きたい未来がはっきりさえしているのなら、あとはただそれに向かって全力で努力するだけなのだ。
ステイに抱いて貰ったのは、あの一回きり。
想いをしっかり言葉に乗せたのも、契約書を書く前日の夜の一回だけ。――それでも、楓には十分だった。その二つの記憶があれば、自分は戦える。正式に両思いになったと言っていいのか、結局付き合ってることになっているのかどうかも微妙だけれどそれでいいのだ。
はっきりした答えは、これから先で出せばいい。
その時間を、未来を掴み取るために、これから自分は戦場へ向かうのだから。
「もしもし、先生。来ました、南方です」
第三応接室に、ノックを三回。そして呼びかけ。眞鍋は先に部屋で待っているはずである。
最初は、神子となった楓を地下室から引っ張り出し、学校の外に脱出させるというプランもあった。実際未だ行方不明のままの角松と内田も、夜中に講義棟に侵入して地下室の村松を救出し、そのまま学校から逃げ出すという作戦を立てていたことだろう。実際、自分達がもしその方法を考えるのならば、夜の講義棟にどうにか侵入するやり方を考えなければならなかったはずである。神子が深夜に通る時だけ渡り廊下の鍵が開かれる。そのタイミング以外は、殆ど全てのドアも窓も施錠され、二つの建物の行き来は極めて難しくなるからだ。
だが、今回の作戦は、主体が大きく異なる。
地下室にいる楓をこっそり助け出すのではなく、とにかくこの学校に救う“神様”そのものを討伐しようとう方法だ。神様、が消えれば楓も開放され、先生達も自分達と敵対する理由がなくなるはずである。あとはもう、こっそりでもなんでもなく、堂々と窓でもブチ破って脱出するor脱出させればいいだけのことだ。
クラスメート達は、危険を承知で作戦に手を貸すと言ってくれた。
成功の鍵を握るのは、他でもない楓である。
「どうぞ」
がちゃり、とドアの鍵が開けられる音がした。応接室に楓を招き入れた眞鍋は、いつもと変わらぬにこやかな笑みで答える。
「よく、逃げずに来たわね。さすが南方君、候補に残しただけのことはあるわ」
「候補……やはり、くじ引きの箱の中には、全生徒の名前が入っていたわけではなかったのですね」
「まあ、そうね。最終的には、神子は神様に気に入られないといけないもの。神様が嫌いだと言った子は外すしかないし、将来有望でない子はやはりすぐ卒業させるには値しないわ。私達教師で、神様のお眼鏡に叶う子を選び抜いてから籤の箱に入れるの。そこから、先代の神子様が次の神子様を選ぶ、ということにしているのよね」
やはりな、と楓は思った。同時に――そういう名目で、生徒達が自らの“お気に入り”をこっそり外している可能性もありそうだ、とも。
選ばれる生徒を選りすぐることができるということはつまり、選ばれない生徒を選ぶこともできるということである。積極的に神子関連の任務に従事した教師には、特定の生徒を“守る”権利も与えられるのかもしれなかった。――そうだとすれば、まったく良くできたアメとムチである。
「では、行きましょう?神様がお待ちよ」
眞鍋はそれ以上を語らず、第三応接室の棚をよっこらせ、とどかしていく。その向こうに地下への扉があることは予め調べがついていた。角松達の調査は正しかったというわけだ。ただし、有事の際以外はドアにはしっかりと鍵がかけられている。鍵の管理は教師がしており、必ず神子の出入りを教師一名が見守って施錠を徹底するという仕組みであるようだ。
ドアを開くと、さらに冷たいコンクリートを打ちっぱなしにした階段が現れる。その奥に、もう一枚の扉。“神様”はその奥で神子の到着を待ち望んでいるのだ。
「一つ、訊かせて頂けますか」
眞鍋に連れられて階段を降りながら、楓は口を開く。
「あの。……先代神子の、村松先輩が心配だからって。様子を見に行くつもりだと言っていた先輩達がいたんです。実際に、実行したかどうかは知りませんが。その先輩達が、ずっと寮に戻ってきていないらしくて。眞鍋先生、ご存知ではありませんか?」
葵城の言葉が正しいのなら、先代神子の始末は次の神子の仕事だが、裏切り者の始末は新人教師の仕事であるという。ならば、彼らは新人の教師達に拷問された挙句殺されてしまっている可能性も高い。ただ、最近新しい教師が入った話を聞かないので、“洗礼”を受けさせる対象がいないという事実もある。ならば、彼らがまだ生きている可能性もゼロではない。名前を出さずに、それとなくカマをかけてみた楓であるが。
「すぐに分かるわ」
意外にも、彼女はすぐに返事をした。それも、先ほどとは打って変わって、氷点下とも思うような冷たい声色で。
「とても残念ね。……特に内田君は、頭も良いし見た目も可愛いし……私は期待していたのだけれど」
「それは、どういう……」
言いかけて、楓は先ほど自分が考えたことを思い出した。教師は、己のお気に入りを神子の候補から外す権利を与えられている可能性が高い(とはいえ、一人の教師につき一人二人がせいぜいなのかもしれない。実際葵城は、倉橋を守ることができなかったのだから)。もしや、眞鍋のお気に入りが内田だった、なんてこともあるのだろうか。それが、結局神子として外れたのに裏切り者として処分されることになったから――彼女としては不満、ということだろうか。全ては憶測の域を出ないが。
思考を回しているうちに、階段の最下層に到着する。先導していた眞鍋が“神様”のいる扉の鍵を開け、ゆっくりと押し開いた。重たい扉に見えるが、どうやら見た目によらず存外軽いものであったらしい。女性一人の力で問題なく押し開かれていく扉。その奥に見えるのは、たくさんの松明に照らされた洞窟のような空間だ。
「此処に、“神様”がいらっしゃるわ。さあ、入って」
いよいよ、ご対面だ。ごくり、と唾を飲み込み、楓はゆっくりと洞窟の中へ足を踏み入れる。神様の外見について、騎乗のレポートに書かれていた事実しか自分は知らない。とにかく今の自分は、神様に気に入られ、時間を稼がなければならない立場である。間違っても、不機嫌にさせるようなことがあってはならない。自分が神様の機嫌を取れば取るほど、きっとステイ達がやっている行動が発覚しにくくなるはずなのだから。
――携帯電話の持ち込みは、禁止されてない。
この地下ゆえ、Wi-Fiがどこまで通じるか不安ではあったが。幸いにも、やや弱いながら電波は通っているようだ。楓は白装束のポケットの中にこっそりとスマートフォンを仕込み、少し前から通話状態にしている。自分の状況が、リアルタイムでステイに伝わるように。バレたら非常にまずいのは事実なので、バレそうになったらその場で通話を切る度胸が必要になってくるが。
――神様がどんなおぞましい姿でも、怯むな。恐るな。気持ち悪がるな。……立ち向かえ!
洞窟の内部に、ゆっくりと裸足の足をすすめる。ゴツ地面の岩はそれなりに丁寧に磨かれているようで、素足で歩いてもさほど痛みを感じることはなかった。松明で照らされた部屋の中央まで行ったところで、後ろに控えた眞鍋が声を出す。
「“神様”。次なる神子を、連れて参りました。どうぞ、お姿をお店くださいませ」
ずぶり、と。広間の奥の空間が、ゆっくりと蠢く。松明の明かりの届かない闇の中から、ずる、ずる、と濡れた音を響かせて何かが這い出してくるのが見えた。
やがて、気味の悪いピンク色の触手の束が見え始める。ねちゃり、ねちゃりと粘液が滴る気持ち悪い音と、血と腐臭を混ぜたような吐き気のするような臭いが濃くなってくる。この時点で気分は最悪だったが、楓は全力でそれを顔に出さないように努めていた。今だけは、思ったことが表情に出づらい自分の性質に救われたなと思う。
そうでなければ、きっと凄まじい顔になっていたはずだ。――闇の中からずるずると現れた、“神様”を見て。
――ふざけるなよっ……!
ぶよぶよとした肉に、無数の触手が生え。洞窟の天井まで埋め尽くすほどの巨体を蠢かせ。その中央に、頭の禿げ上がった老人の顔を貼り付けた――化け物。
――これのどこが、“神様”だ……!
悪魔と融合した、醜い“邪神”――宗像藤之助は。人として唯一残った老いた男の顔に、にやり、とおぞましい笑みを浮かべて告げた。
「ようこそ、新たな神子……我が、この学園の“神”である。歓迎しよう」
ガサガサにひび割れ、しゃがれた老人の声。醜い欲望にまみれたその顔を見上げる楓に対し、悪魔はずるりと触手を伸ばした。
「さあ、まずは一番最初に行う……神聖な儀式を始めよう。命をもって執り行う……二人の神子の、交代の儀を」
本当は心のどこかで楓にも迷いがあったのだ。最善策を考えるならば、“神様”を自分が引きつけておくのがベストであるはずで。自分でもわかっていたからこそ提案したことであるのは事実で。
それでも本当は――本当は、言いたかったのである。その前に助けてほしいと。見知らぬ人間の男と行為を行うだけで嫌なのに、怪物相手だなんて最悪以外の何物でもないと。
まさかステイと関係を持ったことで、未練がより強くなるだなんて思ってもみなかったのだから。
――体だけでいいと思ったのに。一生伝えないで、墓まで持って行くと決めたのは自分だったのに。
『楓は、本当にこれでいいの?』
何から何までお見通しだった。
自分とステイは、本当に得難い友人を得たものだと思う。体を繋げてしまってから明らかにぎくしゃくしていただろうに、事態を察して良い意味でずんずんと踏み込んできてくれた。彼が動いてくれなかったら、自分は気持ちを誤魔化して“友達だから”と言い続け、あらぬ未練を残してしまっていたかもしれないのだから。
「……よし」
契約書は書いたが(南方楓、の名前をそれとなく間違えておいた。楓、の時の木辺を省略するという実にみみっちいやり方だが、幸い眞鍋には気づかれなかったらしい)、今のところ特に変化はない。今日から神子として任務を行うため、第三応接室まで来るようにと言われているだけである。契約書に意味はなかったのか、あるいは自分が名前を書き間違えたことが功を奏したのか。いずれにせよ、今夜全てが決まることになる。不安はあるが――享のおかげで、進むべき場所は見えた。たどり着きたい未来がはっきりさえしているのなら、あとはただそれに向かって全力で努力するだけなのだ。
ステイに抱いて貰ったのは、あの一回きり。
想いをしっかり言葉に乗せたのも、契約書を書く前日の夜の一回だけ。――それでも、楓には十分だった。その二つの記憶があれば、自分は戦える。正式に両思いになったと言っていいのか、結局付き合ってることになっているのかどうかも微妙だけれどそれでいいのだ。
はっきりした答えは、これから先で出せばいい。
その時間を、未来を掴み取るために、これから自分は戦場へ向かうのだから。
「もしもし、先生。来ました、南方です」
第三応接室に、ノックを三回。そして呼びかけ。眞鍋は先に部屋で待っているはずである。
最初は、神子となった楓を地下室から引っ張り出し、学校の外に脱出させるというプランもあった。実際未だ行方不明のままの角松と内田も、夜中に講義棟に侵入して地下室の村松を救出し、そのまま学校から逃げ出すという作戦を立てていたことだろう。実際、自分達がもしその方法を考えるのならば、夜の講義棟にどうにか侵入するやり方を考えなければならなかったはずである。神子が深夜に通る時だけ渡り廊下の鍵が開かれる。そのタイミング以外は、殆ど全てのドアも窓も施錠され、二つの建物の行き来は極めて難しくなるからだ。
だが、今回の作戦は、主体が大きく異なる。
地下室にいる楓をこっそり助け出すのではなく、とにかくこの学校に救う“神様”そのものを討伐しようとう方法だ。神様、が消えれば楓も開放され、先生達も自分達と敵対する理由がなくなるはずである。あとはもう、こっそりでもなんでもなく、堂々と窓でもブチ破って脱出するor脱出させればいいだけのことだ。
クラスメート達は、危険を承知で作戦に手を貸すと言ってくれた。
成功の鍵を握るのは、他でもない楓である。
「どうぞ」
がちゃり、とドアの鍵が開けられる音がした。応接室に楓を招き入れた眞鍋は、いつもと変わらぬにこやかな笑みで答える。
「よく、逃げずに来たわね。さすが南方君、候補に残しただけのことはあるわ」
「候補……やはり、くじ引きの箱の中には、全生徒の名前が入っていたわけではなかったのですね」
「まあ、そうね。最終的には、神子は神様に気に入られないといけないもの。神様が嫌いだと言った子は外すしかないし、将来有望でない子はやはりすぐ卒業させるには値しないわ。私達教師で、神様のお眼鏡に叶う子を選び抜いてから籤の箱に入れるの。そこから、先代の神子様が次の神子様を選ぶ、ということにしているのよね」
やはりな、と楓は思った。同時に――そういう名目で、生徒達が自らの“お気に入り”をこっそり外している可能性もありそうだ、とも。
選ばれる生徒を選りすぐることができるということはつまり、選ばれない生徒を選ぶこともできるということである。積極的に神子関連の任務に従事した教師には、特定の生徒を“守る”権利も与えられるのかもしれなかった。――そうだとすれば、まったく良くできたアメとムチである。
「では、行きましょう?神様がお待ちよ」
眞鍋はそれ以上を語らず、第三応接室の棚をよっこらせ、とどかしていく。その向こうに地下への扉があることは予め調べがついていた。角松達の調査は正しかったというわけだ。ただし、有事の際以外はドアにはしっかりと鍵がかけられている。鍵の管理は教師がしており、必ず神子の出入りを教師一名が見守って施錠を徹底するという仕組みであるようだ。
ドアを開くと、さらに冷たいコンクリートを打ちっぱなしにした階段が現れる。その奥に、もう一枚の扉。“神様”はその奥で神子の到着を待ち望んでいるのだ。
「一つ、訊かせて頂けますか」
眞鍋に連れられて階段を降りながら、楓は口を開く。
「あの。……先代神子の、村松先輩が心配だからって。様子を見に行くつもりだと言っていた先輩達がいたんです。実際に、実行したかどうかは知りませんが。その先輩達が、ずっと寮に戻ってきていないらしくて。眞鍋先生、ご存知ではありませんか?」
葵城の言葉が正しいのなら、先代神子の始末は次の神子の仕事だが、裏切り者の始末は新人教師の仕事であるという。ならば、彼らは新人の教師達に拷問された挙句殺されてしまっている可能性も高い。ただ、最近新しい教師が入った話を聞かないので、“洗礼”を受けさせる対象がいないという事実もある。ならば、彼らがまだ生きている可能性もゼロではない。名前を出さずに、それとなくカマをかけてみた楓であるが。
「すぐに分かるわ」
意外にも、彼女はすぐに返事をした。それも、先ほどとは打って変わって、氷点下とも思うような冷たい声色で。
「とても残念ね。……特に内田君は、頭も良いし見た目も可愛いし……私は期待していたのだけれど」
「それは、どういう……」
言いかけて、楓は先ほど自分が考えたことを思い出した。教師は、己のお気に入りを神子の候補から外す権利を与えられている可能性が高い(とはいえ、一人の教師につき一人二人がせいぜいなのかもしれない。実際葵城は、倉橋を守ることができなかったのだから)。もしや、眞鍋のお気に入りが内田だった、なんてこともあるのだろうか。それが、結局神子として外れたのに裏切り者として処分されることになったから――彼女としては不満、ということだろうか。全ては憶測の域を出ないが。
思考を回しているうちに、階段の最下層に到着する。先導していた眞鍋が“神様”のいる扉の鍵を開け、ゆっくりと押し開いた。重たい扉に見えるが、どうやら見た目によらず存外軽いものであったらしい。女性一人の力で問題なく押し開かれていく扉。その奥に見えるのは、たくさんの松明に照らされた洞窟のような空間だ。
「此処に、“神様”がいらっしゃるわ。さあ、入って」
いよいよ、ご対面だ。ごくり、と唾を飲み込み、楓はゆっくりと洞窟の中へ足を踏み入れる。神様の外見について、騎乗のレポートに書かれていた事実しか自分は知らない。とにかく今の自分は、神様に気に入られ、時間を稼がなければならない立場である。間違っても、不機嫌にさせるようなことがあってはならない。自分が神様の機嫌を取れば取るほど、きっとステイ達がやっている行動が発覚しにくくなるはずなのだから。
――携帯電話の持ち込みは、禁止されてない。
この地下ゆえ、Wi-Fiがどこまで通じるか不安ではあったが。幸いにも、やや弱いながら電波は通っているようだ。楓は白装束のポケットの中にこっそりとスマートフォンを仕込み、少し前から通話状態にしている。自分の状況が、リアルタイムでステイに伝わるように。バレたら非常にまずいのは事実なので、バレそうになったらその場で通話を切る度胸が必要になってくるが。
――神様がどんなおぞましい姿でも、怯むな。恐るな。気持ち悪がるな。……立ち向かえ!
洞窟の内部に、ゆっくりと裸足の足をすすめる。ゴツ地面の岩はそれなりに丁寧に磨かれているようで、素足で歩いてもさほど痛みを感じることはなかった。松明で照らされた部屋の中央まで行ったところで、後ろに控えた眞鍋が声を出す。
「“神様”。次なる神子を、連れて参りました。どうぞ、お姿をお店くださいませ」
ずぶり、と。広間の奥の空間が、ゆっくりと蠢く。松明の明かりの届かない闇の中から、ずる、ずる、と濡れた音を響かせて何かが這い出してくるのが見えた。
やがて、気味の悪いピンク色の触手の束が見え始める。ねちゃり、ねちゃりと粘液が滴る気持ち悪い音と、血と腐臭を混ぜたような吐き気のするような臭いが濃くなってくる。この時点で気分は最悪だったが、楓は全力でそれを顔に出さないように努めていた。今だけは、思ったことが表情に出づらい自分の性質に救われたなと思う。
そうでなければ、きっと凄まじい顔になっていたはずだ。――闇の中からずるずると現れた、“神様”を見て。
――ふざけるなよっ……!
ぶよぶよとした肉に、無数の触手が生え。洞窟の天井まで埋め尽くすほどの巨体を蠢かせ。その中央に、頭の禿げ上がった老人の顔を貼り付けた――化け物。
――これのどこが、“神様”だ……!
悪魔と融合した、醜い“邪神”――宗像藤之助は。人として唯一残った老いた男の顔に、にやり、とおぞましい笑みを浮かべて告げた。
「ようこそ、新たな神子……我が、この学園の“神”である。歓迎しよう」
ガサガサにひび割れ、しゃがれた老人の声。醜い欲望にまみれたその顔を見上げる楓に対し、悪魔はずるりと触手を伸ばした。
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