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<24・そして僕等は未来を語る>
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マークを外すのは、昔から得意だ。なんといってもステイは幼い頃から、人の視線を読むことが大得意なのだから。
ついでに、人より鋭敏な聴覚は、見えない位置に走っている敵の位置を察知するのにも優れている。狭いフィールドで戦うバスケットボールだからこそ、死角に走り込んだ人間にパスを通されるのだけは避けなければいけない。それは、自分がパスを通す際にも同じことが言えるのだ。なんせ、バスケットボールは一人の人間が長くボールを持ちすぎていけないという、厄介なルールがあるのだから。
――こっちだ!
ステイは振り返ることなく、自分の股下からボールを通した。すぐ後ろに走り込んいる味方の存在に気づいていたがゆえに。お前は後ろに眼がついているのか、と言われる所以。げ、とステイのマークについていた赤チームの少年二人が青ざめた。
大体、いくらステイが内からも外からも打てるスモールフォワードだからといって、常に二枚もマークをつける作戦がどうかしているのだ。ステイにマークが集中するということはつまり、一人フリーができるということ。そのフリーを、足が速くて見失いがちな白チームの大塚《おおつか》にしてしまっている時点で向こうは大失敗なのである。
「大塚!」
びっくりしてボールを、大塚を目で追ってしまった赤チームの二人。その隙をついて飛び出すのはステイにとって訳ないことだった。あ、と思って振り返った時にはもう遅い。ステイは既に、ゴール前に走りこんでいる。ゴール真正面、どんぴしゃり。飛んできたボールを空中で掴んで、そのままゴールに叩き込んだ。アリウープ大成功。ガンッ!とゴールが派手に揺れ、ホイッスルが鳴った。
「ちょ、ブザービーターじゃん、すっげえ!」
わあああ、とベンチから歓声が上がった。白チームの方が大幅にリードしていたとはいえ、やはり終了と同時にゴールを決めるというのは気持ちの良いものである。笑顔で駆け寄ってきた大塚とハイタッチすると、ステイー!と甲高い声が響いた。グラウンド端からてとてと駆け寄って来るのは、享である。
「お疲れ様、見てたよ!今日も絶好調じゃん」
「さんくすー。あれ、お前も今日はクラブ活動あるんじゃなかったっけ?文芸部の取材は?」
「ちょっと前に帰ってきたところなんだよ、日が落ちる前に帰らないといけなかったしねー、あっちは夜真っ暗になっちゃうから」
「なるほど」
彼からタオルを受け取り、少々日焼けした享の腕を見つめる。小柄で子供っぽい見た目の享だが、それでも楓とは違うんだな、なんてことを少し思った。享は日焼けすると、綺麗に黒くなるタイプである。すぐ赤くなってしまい、健康的に焼くことができないと嘆いている楓とは違う。最近は文芸部の取材という名目で農作業を手伝うようになってか、享も少し筋肉がついてきた気がするから尚更だ。既に秋口に入っているとはいえ、今年は残暑がなかなか厳しい。作品のためとはいえ、元々運動系ではない享にとってはなかなか厳しい野外活動だろう。
それでも、ここ最近の彼は以前よりずっとキラキラしているし、毎日楽しそうではある。本が大好きで、ずっと自分探しをしていた彼が、やっと見つけた“やりたいこと”だ。小さな文芸部とはいえ、仲間と一緒に執筆活動をするのはきっと刺激されることも多いのだろう。
ステイが神殺しを行い、皆と山を下りて宗像誠心学園を告発してから約三週間。
自分達の学校は山奥にあるとばかり思っていたが、意外にも大きな国道はそう遠くない場所にあったのである。そもそも、全員がバスに乗せられてこの学園まで運ばれたのだ、バスが通ることのできるような大きな道がなければどうにもならないだろう。暗いとはいえ、大きな道ならしっかり街頭もあるし、そこまで行けば携帯電話も通じるようになる。あとは警察を呼んで、助けを呼ぶだけで終わりだった。
そこから先は、あっけないものである。
なんせ、神様絡みで死んだ生徒や教師達の遺体は、まとめて学校の敷地からそう遠くはない特別な“処理場”でまとめて燃やされ、埋められていたのだから。火葬に立ち会ったことのある者ならわかるだろうが、人の身体というのは燃やしても全てが灰になることはない。むしろ、多くの骨が残ってしまう。そして、凄まじいペースで四人がでるこの学園では、全てをすぐに火葬していけるわけではない。中には燃やされることもなく、そのまま埋められていた遺体もあったのだそうだ。
教師や職員達は全員が警察に連れて行かれ、生徒達は保護された。
ステイは腕に大きな傷を負っていたものの、思ったより傷が浅かったのかステイの回復能力が劇的であるためか、数日入院してすぐに解放されていた。多少跡は残ったものの、傷はもうほとんどくっついているので動くのに支障はない。医者にも驚かれたほどである。
直前に三人もの生徒を手にかけた楓は、自分も逮捕されることを覚悟していたようだが。性的暴行を受けたのが濃厚な状態でぐったりしていたこと、意外にも眞鍋が“自分が彼を脅迫して人殺しを強要させた”と証言したことから特殊な環境下における叙情酌量の余地ありとみなされることになりそうだということである。心身ともに衰弱が激しかったため、今だ彼は入院しているが、保護観察処分になる可能性もありそうだという話だった。
法律に疎いステイには、そのへんのことはよくわかっていない。そもそも、“邪神による虐待や殺人”を果たして現在の法で立証できるかどうかが謎だ。なんといっても、当の邪神は既に倒され、跡形もなく消滅してしまったのだから。ただ防犯カメラなどである程度映像は残っているはずなので、それを警察が証拠として採用してくれれば話は変わってくるだろう。それこそ、楓はほとんど罪を問われない結果になるかもしれないし、ステイとしてはそうであってほしかった。どんな理由であったとはいえ、自分は法の裁きを受けて然るべきと思っていた楓は少し不満であったようだが。
自分達は皆一度、かつていた孤児院に戻される結果となった。
今後をどうするのかは、まだ大人達の間で検討中といったところである。ステイとしては、このまま楓や享と一緒に、どこかの学校に進学できたらいいというのが本心ではあるけれど。
「享はさ、バスケの選手になりたいとかあるの?」
白チームのダブルスコアで終わったゲーム、スコアボードを見ながら享が言った。
「高校進学を考えるにしてもさ、どこの学校に入るとか、入りたいとかあるでしょ。勿論、編入試験は受けないといけないだろうけど。本気でバスケの選手になりたいとかあるなら、享はバスケが強いところに行くべきだろうし。まあ、頭が足りるかどうかは知らないけどさ」
「うぐ」
「……その様子だと享、最近勉強サボってるね?バスケばっかりしてちゃだめだよ、カッコいいのはわかるけど」
思わずうめき声を漏らしたことで、享にはしっかり見抜かれてしまったらしい。
元々、宗像誠心学園でも成績が超低空飛行だったステイである。その見た目で英語できないとかお前も大変だな、と楓に心の底から同情されたこともあるほどだ。まあ、ステイの場合英語どころか五教科全て壊滅的なわけだが。
「思ったんだけどさ、宗像誠心学園にだって一応入学試験はあったはずでしょ?なんでステイ入れたんだろうね。運動神経良いからオマケされたのかなあ」
永遠の謎だねえ、と享はしれっと失礼なことを言う。ステイはぐうの音も出ない。なんせ自分でも不思議でしょうがないのだから。
まああの学校は、顔やらなんやらで選んでいたフシもあったようだし。白人にしか見えないステイの外見を気に入って、頭の悪さをおまけした可能性がなくもないのが残念なところだが。
「まあ、僕と楓と一緒の学校に行きたい気持ちがあるなら、ステイも頑張らないとねえ」
そして、彼はしれっとトドメを刺してくるのである。
「なんといっても、楓は将来学校の先生になりたいっていうんだからさ」
***
――はあ、入院生活って、ほんと退屈だな。
楓はベッドで本を読みながら、小さく欠伸をした。どんな理由があれ、人を三人も殺した自分が逮捕されなくていいものなのか。楓自身疑問に思うこともあったが、そもそも今回の事例は現行の法律では例のない“邪神による強要・殺人・虐待”という事件である。今頃公的機関もどう扱えばいいのか頭を抱えていることだろう。防犯カメラ映像が提出できたのならば、宗像藤之助の存在を証明することはできなくはないだろうが。すぐに信じられるか、関わった人間達をどう処罰するかはそう簡単に決められることでもあるまい。
自分の入院が長引いている理由は、楓の対処に悩んでいるというのもあるのかもしれなかった。自分としては、いくら角松自身が望んでいて楓も断れない状況だったとはいえ、殺人は殺人として裁かれて然るべきだと思っているのだけれども。
――もし、罪が罪として裁かれないなら、俺は別の償いを見つけなければいけない。……愚かな大人に、苦しめられる子供達を一人でも減らせるように。自分自身は、やつらと同じような馬鹿な大人にならないように。
あの日。救出された楓は、化物の体液を全身に浴びたせいもあって一度大きく体調を崩した。発熱するわ、頭痛と腹痛は酷いわ、散々な状態であったのである。ただ、ずっと泣いていた眞鍋が呟いた言葉だけは聞こえていたのだ。
『ごめんなさい。……本当に、ごめんなさい』
彼女は一体、誰に、何を今更謝っていたのか。
楓に対してか、それとも――今まで救えなかった生徒達にか。最終的に自分が殺人を命じたと証言したことからして、神様に対する罪悪感であったわけではなさそうだが。
「ん」
ぶるる、とバイブモードにしていたスマートフォンが震えた。見れば、ステイからLANEが入っている。大泣きする熊のスタンプに、これはまた何かやらかしたな、と思ってメッセージをスクロールすれば。
『どうしよう、楓!●●高校の入試問題やってみたら、マジで一問もわからねえ!電気分解ってなんだっけ!?火で燃えるのって酸素だっけ二酸化炭素だっけ!?』
「そ、そのレベルからわからないのか……」
というか、酸素は助燃性があるだけだし二酸化炭素は火を消してしまう。どっちも不正解なんですがそれは。楓は頭痛を覚えつつ、返信を打ち始める。
退院した後で。こんな自分でももう一度、ステイと享と一緒に過ごすことが許されるなら。そして、罪を償い、未来に向かうための夢を見ることができるというのなら。彼らとやりたいことがたくさんあったし、話したいことも多くあった。ステイ個人相手ならば、恋人になるためのステップも少しずつ踏んでいきたいところであったのである。まずはデートから、というレベルの話ではあるけれど。
しかし残念ながらこの様子だと、浮かれた話をする前にやらなければいけないことがありそうだ。そう、何よりまずは。
『どっちも燃えないだろアホ。戻ったら徹底的に勉強会だな。一緒の高校に行きたいならもうちょい頑張れ』
光に満ちた時間の中、生きることを許された自分が今此処にいる。
愛することを、愛されることを知って、息をしているのだ。
きっといつか、そうして貰ったものを、新しい誰かに繋いでいく――そのために。
ついでに、人より鋭敏な聴覚は、見えない位置に走っている敵の位置を察知するのにも優れている。狭いフィールドで戦うバスケットボールだからこそ、死角に走り込んだ人間にパスを通されるのだけは避けなければいけない。それは、自分がパスを通す際にも同じことが言えるのだ。なんせ、バスケットボールは一人の人間が長くボールを持ちすぎていけないという、厄介なルールがあるのだから。
――こっちだ!
ステイは振り返ることなく、自分の股下からボールを通した。すぐ後ろに走り込んいる味方の存在に気づいていたがゆえに。お前は後ろに眼がついているのか、と言われる所以。げ、とステイのマークについていた赤チームの少年二人が青ざめた。
大体、いくらステイが内からも外からも打てるスモールフォワードだからといって、常に二枚もマークをつける作戦がどうかしているのだ。ステイにマークが集中するということはつまり、一人フリーができるということ。そのフリーを、足が速くて見失いがちな白チームの大塚《おおつか》にしてしまっている時点で向こうは大失敗なのである。
「大塚!」
びっくりしてボールを、大塚を目で追ってしまった赤チームの二人。その隙をついて飛び出すのはステイにとって訳ないことだった。あ、と思って振り返った時にはもう遅い。ステイは既に、ゴール前に走りこんでいる。ゴール真正面、どんぴしゃり。飛んできたボールを空中で掴んで、そのままゴールに叩き込んだ。アリウープ大成功。ガンッ!とゴールが派手に揺れ、ホイッスルが鳴った。
「ちょ、ブザービーターじゃん、すっげえ!」
わあああ、とベンチから歓声が上がった。白チームの方が大幅にリードしていたとはいえ、やはり終了と同時にゴールを決めるというのは気持ちの良いものである。笑顔で駆け寄ってきた大塚とハイタッチすると、ステイー!と甲高い声が響いた。グラウンド端からてとてと駆け寄って来るのは、享である。
「お疲れ様、見てたよ!今日も絶好調じゃん」
「さんくすー。あれ、お前も今日はクラブ活動あるんじゃなかったっけ?文芸部の取材は?」
「ちょっと前に帰ってきたところなんだよ、日が落ちる前に帰らないといけなかったしねー、あっちは夜真っ暗になっちゃうから」
「なるほど」
彼からタオルを受け取り、少々日焼けした享の腕を見つめる。小柄で子供っぽい見た目の享だが、それでも楓とは違うんだな、なんてことを少し思った。享は日焼けすると、綺麗に黒くなるタイプである。すぐ赤くなってしまい、健康的に焼くことができないと嘆いている楓とは違う。最近は文芸部の取材という名目で農作業を手伝うようになってか、享も少し筋肉がついてきた気がするから尚更だ。既に秋口に入っているとはいえ、今年は残暑がなかなか厳しい。作品のためとはいえ、元々運動系ではない享にとってはなかなか厳しい野外活動だろう。
それでも、ここ最近の彼は以前よりずっとキラキラしているし、毎日楽しそうではある。本が大好きで、ずっと自分探しをしていた彼が、やっと見つけた“やりたいこと”だ。小さな文芸部とはいえ、仲間と一緒に執筆活動をするのはきっと刺激されることも多いのだろう。
ステイが神殺しを行い、皆と山を下りて宗像誠心学園を告発してから約三週間。
自分達の学校は山奥にあるとばかり思っていたが、意外にも大きな国道はそう遠くない場所にあったのである。そもそも、全員がバスに乗せられてこの学園まで運ばれたのだ、バスが通ることのできるような大きな道がなければどうにもならないだろう。暗いとはいえ、大きな道ならしっかり街頭もあるし、そこまで行けば携帯電話も通じるようになる。あとは警察を呼んで、助けを呼ぶだけで終わりだった。
そこから先は、あっけないものである。
なんせ、神様絡みで死んだ生徒や教師達の遺体は、まとめて学校の敷地からそう遠くはない特別な“処理場”でまとめて燃やされ、埋められていたのだから。火葬に立ち会ったことのある者ならわかるだろうが、人の身体というのは燃やしても全てが灰になることはない。むしろ、多くの骨が残ってしまう。そして、凄まじいペースで四人がでるこの学園では、全てをすぐに火葬していけるわけではない。中には燃やされることもなく、そのまま埋められていた遺体もあったのだそうだ。
教師や職員達は全員が警察に連れて行かれ、生徒達は保護された。
ステイは腕に大きな傷を負っていたものの、思ったより傷が浅かったのかステイの回復能力が劇的であるためか、数日入院してすぐに解放されていた。多少跡は残ったものの、傷はもうほとんどくっついているので動くのに支障はない。医者にも驚かれたほどである。
直前に三人もの生徒を手にかけた楓は、自分も逮捕されることを覚悟していたようだが。性的暴行を受けたのが濃厚な状態でぐったりしていたこと、意外にも眞鍋が“自分が彼を脅迫して人殺しを強要させた”と証言したことから特殊な環境下における叙情酌量の余地ありとみなされることになりそうだということである。心身ともに衰弱が激しかったため、今だ彼は入院しているが、保護観察処分になる可能性もありそうだという話だった。
法律に疎いステイには、そのへんのことはよくわかっていない。そもそも、“邪神による虐待や殺人”を果たして現在の法で立証できるかどうかが謎だ。なんといっても、当の邪神は既に倒され、跡形もなく消滅してしまったのだから。ただ防犯カメラなどである程度映像は残っているはずなので、それを警察が証拠として採用してくれれば話は変わってくるだろう。それこそ、楓はほとんど罪を問われない結果になるかもしれないし、ステイとしてはそうであってほしかった。どんな理由であったとはいえ、自分は法の裁きを受けて然るべきと思っていた楓は少し不満であったようだが。
自分達は皆一度、かつていた孤児院に戻される結果となった。
今後をどうするのかは、まだ大人達の間で検討中といったところである。ステイとしては、このまま楓や享と一緒に、どこかの学校に進学できたらいいというのが本心ではあるけれど。
「享はさ、バスケの選手になりたいとかあるの?」
白チームのダブルスコアで終わったゲーム、スコアボードを見ながら享が言った。
「高校進学を考えるにしてもさ、どこの学校に入るとか、入りたいとかあるでしょ。勿論、編入試験は受けないといけないだろうけど。本気でバスケの選手になりたいとかあるなら、享はバスケが強いところに行くべきだろうし。まあ、頭が足りるかどうかは知らないけどさ」
「うぐ」
「……その様子だと享、最近勉強サボってるね?バスケばっかりしてちゃだめだよ、カッコいいのはわかるけど」
思わずうめき声を漏らしたことで、享にはしっかり見抜かれてしまったらしい。
元々、宗像誠心学園でも成績が超低空飛行だったステイである。その見た目で英語できないとかお前も大変だな、と楓に心の底から同情されたこともあるほどだ。まあ、ステイの場合英語どころか五教科全て壊滅的なわけだが。
「思ったんだけどさ、宗像誠心学園にだって一応入学試験はあったはずでしょ?なんでステイ入れたんだろうね。運動神経良いからオマケされたのかなあ」
永遠の謎だねえ、と享はしれっと失礼なことを言う。ステイはぐうの音も出ない。なんせ自分でも不思議でしょうがないのだから。
まああの学校は、顔やらなんやらで選んでいたフシもあったようだし。白人にしか見えないステイの外見を気に入って、頭の悪さをおまけした可能性がなくもないのが残念なところだが。
「まあ、僕と楓と一緒の学校に行きたい気持ちがあるなら、ステイも頑張らないとねえ」
そして、彼はしれっとトドメを刺してくるのである。
「なんといっても、楓は将来学校の先生になりたいっていうんだからさ」
***
――はあ、入院生活って、ほんと退屈だな。
楓はベッドで本を読みながら、小さく欠伸をした。どんな理由があれ、人を三人も殺した自分が逮捕されなくていいものなのか。楓自身疑問に思うこともあったが、そもそも今回の事例は現行の法律では例のない“邪神による強要・殺人・虐待”という事件である。今頃公的機関もどう扱えばいいのか頭を抱えていることだろう。防犯カメラ映像が提出できたのならば、宗像藤之助の存在を証明することはできなくはないだろうが。すぐに信じられるか、関わった人間達をどう処罰するかはそう簡単に決められることでもあるまい。
自分の入院が長引いている理由は、楓の対処に悩んでいるというのもあるのかもしれなかった。自分としては、いくら角松自身が望んでいて楓も断れない状況だったとはいえ、殺人は殺人として裁かれて然るべきだと思っているのだけれども。
――もし、罪が罪として裁かれないなら、俺は別の償いを見つけなければいけない。……愚かな大人に、苦しめられる子供達を一人でも減らせるように。自分自身は、やつらと同じような馬鹿な大人にならないように。
あの日。救出された楓は、化物の体液を全身に浴びたせいもあって一度大きく体調を崩した。発熱するわ、頭痛と腹痛は酷いわ、散々な状態であったのである。ただ、ずっと泣いていた眞鍋が呟いた言葉だけは聞こえていたのだ。
『ごめんなさい。……本当に、ごめんなさい』
彼女は一体、誰に、何を今更謝っていたのか。
楓に対してか、それとも――今まで救えなかった生徒達にか。最終的に自分が殺人を命じたと証言したことからして、神様に対する罪悪感であったわけではなさそうだが。
「ん」
ぶるる、とバイブモードにしていたスマートフォンが震えた。見れば、ステイからLANEが入っている。大泣きする熊のスタンプに、これはまた何かやらかしたな、と思ってメッセージをスクロールすれば。
『どうしよう、楓!●●高校の入試問題やってみたら、マジで一問もわからねえ!電気分解ってなんだっけ!?火で燃えるのって酸素だっけ二酸化炭素だっけ!?』
「そ、そのレベルからわからないのか……」
というか、酸素は助燃性があるだけだし二酸化炭素は火を消してしまう。どっちも不正解なんですがそれは。楓は頭痛を覚えつつ、返信を打ち始める。
退院した後で。こんな自分でももう一度、ステイと享と一緒に過ごすことが許されるなら。そして、罪を償い、未来に向かうための夢を見ることができるというのなら。彼らとやりたいことがたくさんあったし、話したいことも多くあった。ステイ個人相手ならば、恋人になるためのステップも少しずつ踏んでいきたいところであったのである。まずはデートから、というレベルの話ではあるけれど。
しかし残念ながらこの様子だと、浮かれた話をする前にやらなければいけないことがありそうだ。そう、何よりまずは。
『どっちも燃えないだろアホ。戻ったら徹底的に勉強会だな。一緒の高校に行きたいならもうちょい頑張れ』
光に満ちた時間の中、生きることを許された自分が今此処にいる。
愛することを、愛されることを知って、息をしているのだ。
きっといつか、そうして貰ったものを、新しい誰かに繋いでいく――そのために。
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