神殺しのステイ

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<23・独りきりのケモノ>

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 動脈を傷つけかねない勢いで、一気に切り裂いた結果。ステイの左腕は文字通り血だらけで、酷い有様になっている。
 だが、それだけのリスクを犯しただけの意味はあったようだ。ぼたぼたと落ちた血を靴で魔法陣にすり込むと、さきほどまでびくともしなかった陣があっさりと歪んで消えていく。やはり、血には血を、ということらしい。血の魔法陣を打ち消せるのは、部外者の血であるのは間違いないようだった。

「な、なんてことを、なんてことを……!」

 享を突き飛ばし、校長がよろめきながら中庭へ降りてくる。消えていく魔法陣の前で四つん這いになり、あたふたと光を押さえ込もうとしている。全く意味のない行為だった。赤く光る魔法陣は、彼の手の下でどんどん輝きを弱くしていく。ステイの血で、かき消された場所を中心に。

「おま、お前は、なんてことをしてくれたんだ!神様が、これで神様が死んでしまうではないか!」

 やはり、これで正解だったらしい。安堵の息を吐くステイのところまでやってきた校長は、ステイの服の裾を掴んで罵倒する。その内容は、聞くに耐えない実に幼稚なものであったが。

「このクズ!間抜け!馬鹿者がぁ!お前は、お前はなんてことをしてくれた!この学園から神様がいなくなる、それがどういうことなのかわかっているのか!」
「語彙が貧弱なんですけど、校長センセ。いなくなったらどうなるっていうんですか」
「決まっている!」

 進んで邪神に手を貸していた狂信者は、血走った目で叫び、唾を飛ばした。

「私達は、今日からどうやって生活していけばいいんだ!神を殺すなどなんと罪深いことを……罰が下るぞ、みんなみんな祟られてしまう!何より私達の給料は、生活は……私は神様のおかげで家族を養えてたんだぞ、お前、お前一体、一体どうしてくれるんだあああ!」

 あまりにも愚かすぎて、惨めすぎて、怒る気にもなれなかった。いっそ笑い出したいほど滑稽とはまさにこのことなのだろう。彼は結局、神様のことなんか考えていない。この学園を守るという名目で、自分自身を守っていただけだ。安全圏から神様を言い訳に生贄を捧げ、自分は神様に忠実な従者として糧を得る。どれだけ快適で、面白い見世物であったことだろう。実に反吐が出る。
 楓が神子にされ、しかもそれが実質生贄と同等の役目だと知った時。最初は、それを画策した連中を殴り殺してやろうと思っていたものである。何回殴っても、蹴っても、それこそ殺しても気が済まないほど憎いと。
 だが、ここまで私利私欲と自己保身しかない男を見ると、そんな価値さえないように思えてきてしまうから不思議だ。
 間違いなく今、この場に立っている者の中で。この男は、最大にして最低の敗者であることに違いはないのだから。

「神様なんかいねぇよ、最初から」

 故に、ステイは冷たい目で、縋り付く男を見下ろして言うのだ。

「いるのは、自分の欲望に負けて馬鹿をやらした……どっかのくそったれな、人間だけだ」

 その言葉に、校長は何を思ったのか。その手が緩み、ずるずると地面に崩れ落ちるのを見て、ステイは歩き出した。
 魔法陣はこうして見ている間にもどんどん姿を消しつつある。これ以上血を落とす必要もなさそうだ。ならば、自分がやるべきことは一つだろう。

――楓!

 今、助けに行く。
 自分達の英雄たる、彼の元へ。



 ***



 学園の建物全体が、鳴動している。
 楓の腹の中に思い切り欲望を吐き散らかしたところで、やっと“神様”は周囲の異変に気づいたらしかった。

「何……?」

 ずるり、と後孔から巨根が抜けていこうとする。楓は怪物にしなだれかかり、わざと力を込めて締め上げた。怪物が呻き、全てが引き抜かれないまま動きが止まる。どうやらこいつは何度も“復活”するタイプであるようだし、このまま引き止めて時間を稼ぐことは可能だろう。

「抜かないで……」

 潤んだ眼で、老人の顔を見上げる。

「足らないです……奥、からっぽで……寂しくて……もっと、もっと欲しい……っ」

 気持ち悪いとしか言い様がないが、こんな臭い演技が効果的であることは既に実証済みである。意図的に後ろをひくひくと震わせ、絞り上げるように締め上げてやれば。その淫靡な動きに、欲望に忠実な邪神は獣のような声を上げた。
 異変に気づいていても、体がそれに対応できる状態でなければどうにもならない。スマホは隙を見て通話を切ったし、現状ステイ達がどの段階まで達成したのかわからないのだ。まだ、魔法陣を隠す結界を壊しただけかもしれない。ならば、魔法陣が確実に壊れるまで自分が全力で時間を稼がなければ。

「地震の中で、神様に抱かれるなんて……まるで、世界の終わりみたいで、興奮してしまいます。俺、おかしいんでしょうか……?」

 ただの地震だと、ギリギリまで思わせておきたくて、わざとそんなことを言う。
 此処が地震大国で、地域的にも地震が多いのは事実だ。多少厳しくても、全く誤魔化しがきかないということはないだろう。少なくとも、ほんの少しの時間が稼げればそれでいいのだ。

「神様、もう、終わり、ですか?」

 欲しい、と訴えるようにひくひくと蕾を蠢かせる。すると、二度も出して柔らかくなったはずの巨根が、じわじわと硬さを取り戻していくのを感じた。びくびくと脈打ち、再び楓の蕾を押し広げ始める。腹の中を満たす圧迫感に苦しさを感じながらも、楓は内心ほくそ笑んでいた。なんともまあ、単純な神様だ。否。

――知ってるさ。あんたは結局、神様になんかなれなかったんだ。

 心の中で、盛大に見下す。
 だってそうだろう、どれほどおぞましい姿を、悪魔の力を得ても。結局宗像藤之助は、ただの人間以外の何者でもなかったのだ。農村で、自分を認めない者が、環境が悪いと誰かのせいにして。するべき努力を間違えて腐っていた、哀れな男から何も変わっていないのである。
 本当に誰かに認められ、愛されたいのなら。自分より弱いものに欲望の矛先を向け、強引に自分へ視線を向けさせても――何も変わることなど、なかったというのに。

――クズ人間は、クズ人間らしく。……地獄に堕ちろよ。

 欲望に負け、邪神が再びストロークを始める。異変をなんとなく察知していても、下半身の欲望に抗うことができなかったということだろう。
 だが、流石に看過できないと考える者もいる。ずっとこのおぞましい儀式を“監視者”として見ていたであろう、眞鍋教師だ。

「か、神様!ぎ、儀式の中断を!何かがおかしいです……!」

 それをわざわざ進言するのは、眞鍋に神様への忠誠心があったからなのか。それとも、神様のため進言したという事実を作ることによって、自分の安全を買おうとしているのか。

「神、様……眞鍋先生が、俺達の、邪魔をしようとしてきます……」

 自分も意地が悪いな、と思いながらも神様に囁けば。欲望に支配され、楓の身体に溺れている邪神は殺気に満ちた眼で眞鍋を睨む。哀れな年配の女教師は、ひっ、と悲鳴を上げて尻餅をついた。なんとも他愛ない。そして、今更ジタバタしてももう遅い。
 楓には、見えていた。必死で欲望を見たそうと、自身をより深く楓の後孔にねじ込まんとする邪神の身体が。壁に接触している端から徐々に――紅い光になって、消えていこうとしている様を。
 魔法陣の破壊に成功した。ステイが、やってくれたのだ。

――ざまあみろ、俺達の、勝ちだ……!

 なんとも無様なことであろうか。邪神は、自分の身体が半分ほど消えてもまだ自分の異変に気づかない。そればかりか、血走った眼で懸命に触手を、巨根を振り続けている。さすがに結腸の口まで思い切りねじ込まれれば、痛みと快楽で楓も喘がざるをえない。思わず喉を晒して再度達した時、霞みかけた意識の中で怪物の声が聞こえた。
 それは今まで聞いた、多少なりの威厳を持った声ではなく。

「愛してくれ……」

 情けない、結局矮小でしかなかった一人の男のもの。

「愛してくれ、ああ、愛してくれ……我を、俺を、どうか……!我は何も悪くない、ただ愛されたかっただけだ、なのにどれほど求めても愛してくれる者はいなかった。誰も俺の欲を受け止め、愛を満たしてくれる者はいなかった……今も昔も、ずっとずっとずっと。神になれば、万能の神となれば誰もが俺を一番に愛してくれるはずだったのに、俺は、俺は……!お前は、なあお前なら愛してくれるか?くれるんだろう……?」

 殺してやる、くらいのことを思っていたはずなのに。己がまさに消されていくことにも気づかず、愛欲しか見えていない男はいっそ哀れなほどだった。
 怪物としての肉が消えていき、最期は人としての身体にまとわりついた僅かな触手と、股間から生えたおぞましい肉だけを残すばかりのとなった“元・神様”。それに対し、楓は抱かれながら、凄絶に微笑んでみせたのである。そう。



「んなわけあるか。てめぇは一生独りぼっちだよ、クソ野郎」



 愛を与えられたと信じた老人の眼が、絶望に見開かれ。やがて、その僅かに残った裸の肉も砂のように崩れて消えていく。ずるん、と尻から抜けていく肉に、楓は大きく息を吐いた。
 やっと。多くの少年達を、人々の心を弄んだ邪神が消える。このおぞましい学園の実態もいずれ、世間に明らかになることだろう。

「あ、あぁ……!」

 眞鍋は崩れ堕ち、頭を抱えて蹲った。楓が首謀者であると気づいても良さそうなものだが、彼女は楓の方を見ることもなかった。ただ呻き、嗚咽を漏らしている。それは一体、どのような涙であるのだろう。
 怪物の趣味なのか、楓は下着以外は何も脱がされていなかった。服を整え直していると、途端全身に疲労が来る。特に、酷使された下腹部が今になってじくじくと痛み始めた。よく見れば、僅かに血が滴っている。腹の中に傷がついたかもしれない、と思うと実に忌々しいが。

「楓!」

 そして、階段を駆け下りてくる音。差し込む光と共に、暗く冷たい地下の扉が開かれる。
 真っ先に駆けつけてくる人物が誰であるかなど、今更問うまでもない。

「ステイ」

 駆け寄ってきた愛しい少年に、全身で抱きしめられて――楓はそっと、幸福に目蓋を下ろしたのだった。
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