デッドエンド・パレード

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<22・武器>

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 そいつが腕をぶんっと振り回すと、それだけで壁に大穴が開いた。いっそもう少しパワーがあれば良かったのにな、と聖也は思う。そうすれば、侵入禁止のドアをこいつの手で壊して貰うこともできたかもしれないのに。
 どうやらこの怪物の力を持ってしてでも、あのドアを破ることはできないらしい。一番最初に登場した時にドアをひっぺがしたというのだから、恐らくそれを支える壁の方をピンポイントで壊せばなんとかなるのかもしれないが。いかんせん、そんな細かなコントロールを誘導できる相手でもない。そもそもドアがなくなったところで、罠が解除できなければ自分達にそのルートは使えないのだ。
 実は、前々回に化物が登場した時、化物が出てきた扉が破壊されたことで、そこから脱出できないかとも考えたのである。よって、大毅の『仕掛』によって、罠を看破して貰ったのだが。

『……聖也。この罠はちょっと無理かもしんね。入ってすぐのところに、化物を一時貯めておく小さな部屋みたいなのがあるんだけど。そこに予期せぬ異物が入ると、ドアが全部ロックされる仕組みになってる』
『そこまで行ったところで仕掛が発動するのか?』
『侵入禁止のドアのところにもあったみたいだが、そこは化物が一緒に破壊していったらしくて無効になってるんだ。こっちの罠は、俺達が逆に侵入してきた用というより、化物が万が一暴走した時に破壊するためみたいだぜ。ドアをノックして、四方八方からレーザー光線を発射して切り刻む……って言ったらなんとなくわかるか?』

 某ゾンビ映画か、と聖也も呆れたものである。そんな仕掛があっては、そのトビラから逆走して脱出するのは難しいだろう。そこを使いたいなら、敵のコンピューターにでも侵入して、罠を解除してからにしなければなるまい。まあ、某映画のお約束を考えるなら、それこそフラグであるとしか言い様がないのだが。
 何にせよ、多少面倒で時間がかかっても、化物を倒しながら鍵を集めていくしかなさそうな状況である。そろそろ武器の方がしんどくなってきた、というのが問題として挙げられるのだが。――聖也が最初に集に渡されて使っていたハサミは、既に使用不能になってしまっていた。敵の防御力を下げることのできるなほがもういないのである。聖也の怪力に任せて、敵の目玉を狙って抉り、脳を損壊する方法を取っていたツケだった。有効ではあるが、武器の負担と、反撃された時のダメージが洒落にならないのである。
 聖也は怪力に自身はあるし体力もあるが、身体の頑丈さという意味では普通の人間とさほど違いがないのだ。受身を撮ったりガードをしてダメージを軽減する術は持っているとしても。

「って……!」

 すぐ頭上を、灰色の拳が通過していく。
 新しい武器が見つからなかったため、やむなく聖也の能力『武器』を発動させている。五回という非常に少ない制限の武器である。手を離すと効果が切れてしまうので、右手にはずっと顕現させた『刀』を縛り付けた状態にしてあった。おかげさまで、非常に不便で仕方ない。刀を持ち替えることさえできないし、他の用事の時に刀を別の場所に置くこともできないのだ。
 この力は本当に諸刃の剣だ、と思う。やはり、残り四回は可能な限り温存しておかねばなるまい。普通の刀よりも丈夫で刃こぼれしにくようだが、それでも化物の体液まみれになればすぐに油で使い物にならなくなることは明白なのだから。

――なほが生きてたら、もう少し楽に戦えたんだけどな……!

 現在戦っている廊下の向こう側、今も集が一生懸命武器探しと鍵探しをしてくれているはずだった。それでも何も飛ばされてこないのなら、やはりめぼしい武器らしきものが見つからない状況なのだろう。
 やはり、暫くはこの刀一本で倒すしかない。唯一の幸いは、聖也が近接武器の訓練もしてきているということだけだが。

「がっ!」

 化物は、足による攻撃はまずしてこない――前二回の対戦でそう判断していたのだが。その足を切断しようと近づいた途端、今度はその足を思い切り蹴り上げてきたからどうしようもない。聖也は思い切り吹っ飛ばされた。寸前に自分も後ろに飛んでダメージを軽減したが、その分加速がついて遠くまで飛ばされてしまう。

「聖也!」
「大丈夫だ、お前はちゃんと隠れてろ!」

 部屋の中にいる集、彩也、天都、大毅と連絡を取る役として廊下の角には夏俊が待機している。また、一応戦闘向きの能力に属している未花子も同じ場所に隠れていた。ただ、未花子の『毒薬』は回数制限が十回と厳しいものとなっている。できれば彼女の能力を使わず、敵を倒してしまいたいのが本音だった。
 ぐずぐずしていると、次の化物の放出時間になってしまう。化物が出てから次が来るまでの時間しか、自分達はまともな探索ができないのだ。急いで倒してしまわなければ意味がない。――彼らは、自分が守るしかないのだから。

「うぜえんだよ罪喰い!まがい物のくせによ!」

 聖也は叫び――息を大きく吸い込んで、地面を蹴った。
 罪喰い――あの灰色の巨人がどのようなものであるのか、自分達はよく知っている。なんせ伝説的な存在だ。かつて世界の意思が人間の失望し、世界をリセットするべく人類に向けて解き放った、最悪の悪夢とも言うべき存在なのだから。
 幸い、その存在を知っている者は、自分達『組織』と僅かな一部の者達のみである。そう、そのはずだった。こんなところでお目にかかることなど通常有り得ないのである。誰かが、情報を流したわけでないのなら。

――あの女が、俺達から情報を盗んで……アランサの使徒にまがい物を作らせたってとこだろうな!

 素早く刀を振り抜き、すれ違いざま化物の足を切り落とした。うつぶせに倒れたところ、後ろから頚椎を切り落としにかかる。次に顕現するなら刀より、もっと頑丈な大剣にしようと聖也は思った。化物の首を何度も切りつけて落とした直後、刃の半ば部分が音を立てて折れてしまったからである。さきほど蹴りを食らった時、とっさに武器でガードしてしまった弊害だった。
 どうにか今回も怪物を倒すことはできたものの、まだ三匹目。鍵の三本目である。このペースで能力を使ってしまうと、近く弾切れを起こすのは明白だった。まだ生き残っている仲間はたくさんいる。全員分の鍵を、自分はなんとしてでも見つけないといけないというのに。

――やっぱり、罠のある部屋の探索をしないといけないってか……?

 薄々、嫌な予感はしていたのだ。自分達は最初のスタート地点から、どんどん上に上っていく形で探索を続けているが。まだ、化物以外から鍵を入手できていないのである。つまり、建物の中にあるはずの鍵が一つも見つかっていないのだ。
 考えられる理由はただ一つ。自分達が、部屋の前で必ず大毅の『仕掛』を使い、部屋に危険そうな罠がある場合は避けて通って来たからである。アランサの使徒が腕輪の能力を本気でテストしたいと考えているのなら、ただの探索だけで鍵が入手できるのは喜ばしいことではないのだろう。そう考えると、鍵は罠のある部屋に隠してあると考えるのがごく自然だ。
 できれば皆に不安を抱かせたくない(ただでさえ、隠されている鍵の数が人数分より足らないであろうということがバレてしまっているのだ)ので黙っていたが。ここまで見つからない状況であるとなると、探索のやり方を考え直さなければならないかもしれない。既に、ここまで犠牲者が出てしまっているから尚更だ。

「聖也、大丈夫?さっき思いっきり吹っ飛ばされてたけど……!」

 化物の頭から聖也が鍵を抜き取っていると、てとてとと未花子と夏俊が駆け寄ってきた。鍵の一つ目は彩也、二つ目は集に預けてある。聖也は三つ目の鍵を、そのまま未花子にぽん!と投げた。

「未花子、三つ目はお前が持っていてくれ」
「え、で、でもあたし……」
「お前の能力は役に立ちそうではあるし、お前自身も優秀なんだけどな。回数制限がやっぱりきついわ。そろそろ、誰かに脱出してもらうことも検討してる。でもって、できれば脱出するなら三人で一緒に行ってもらいたい。鍵三本あって三人出るならペナルティはないだろ」

 鍵を入手した今、誰に優先的に脱出してもらうか、誰を残すかというのが課題である。それはつまり、最終的には“全員分揃えられないかもしれない”という危惧を聖也がし始めていることも理由だった。自分は一番最後で問題ない。だが、自分一人分だけ欠けるならともかく、こうして恐怖に立ち向かってくれている未花子達の分まで見つからないなんてことになるのは絶対にごめんなのだった。
 犠牲者は、既に何人も出てしまっている。
 このままでは、今生きている彼らをも守りきれないかもしれない。それならばいっそ、先に脱出して安全圏に逃げて貰った方が正解であるように思われた。断じて、彼らを足でまといだと判断しているわけではないのだが。

「……そうやって、聖也は最後まで残る気でしょ」

 そして。そんな聖也の考えは、未花子にはとっくにお見通しであったらしい。

「わかるよ?聖也は強いし、みんなのことをすごく大事に思ってくれてる。あたし達は聖也と比べれば全然戦えない、度胸もない。足でまといだと思われても仕方ないよ。でもさ。聖也だって、あたし達に言わせれば一人の女の子なんだよ?一人だけ残して、あたし達だけ先に脱出しろなんて言われて、罪悪感感じないとでも思ってる?」
「思わねえよ、優しいもんなお前ら。それでも、効率考えたらそろそろ何人か脱出して欲しい。作者もこの人数動かすのきついって言ってるし」
「そこでメタに逃げるのやめてくんないかな!?」

 少しでも空気を和らげようとジョークを飛ばしたというのに、未花子は本気で泣きそうな顔になってしまった。そんな顔をさせたかったわけじゃない。聖也は心底申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 彼女達だって、本当は自分でなんとかしたいのだ。自分の身は、自分で守りたい。それでもできない。大体、鍵を使って脱出した先さえも本当に安全という保証がないのだ。恐怖と不安、後ろめたさ、罪悪感。いろいろなものがないまぜになって潰れそうなのは、未花子に限ったことでもあるまい。

「澤江、落ち着けって。聖也だって、何も自分を犠牲にしようとしてるわけじゃない、だろ?」

 さすがに見かねたのか、夏俊が間に入ってくれた、まさにその時である。
 ぶるる、と彼のブレスレットが震えた。通信が入った合図だ。はっとして聖也は夏俊を見る。先ほどから、連絡が途絶えている班――西側を探索していた前田南歩のチームからの通信かもしれない、と。
 だが。

「前田か!?」

 夏俊が声をかけると、応答したのは少女ではなく――少年の声だった。

『……ごめんね、南歩じゃなくて。僕だよ、小倉篠丸』

 小倉篠丸。建物の地階方面を探索していたチームのリーダー兼通信係だ。物静かだが、人懐っこい性格であったはずの篠丸。その声がやけに沈んでいることに、聖也は胸騒ぎを覚えた。そして。

『次、もう連絡が取れないかもしれないから。とりあえず僕達が現時点で持ってる情報は全部渡しておくね。……僕はもう、脱出できないかもしれないからさ』
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