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<第十五話>
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果たして、つぐみは何の仕事をしているのだろうか?彼女の体格の良さからして、何らかのスポーツ選手だったんじゃないだろうかとミリーは踏んでいたのだが――どうにも彼女は自らのガッチリさ加減を気にしている様子だので、ついここまでずるずる聞けずにいたのである。つぐみ達人間の客側には、予め最低限自分たちのプロフィールが伝わっているはずだった。しかし、ホープ・コード側は違う。ミリーは結局のところ、つぐみについて殆ど何も知らないまま婿入りしたようなものなのだった。
もちろん、一日過ごしただけで分かったこともないわけではない。
例えば、非常に大雑把で細かい事を気にしない性格。あとは壊滅的に掃除などの家事が苦手。まさか、使った皿などをいつまでも流しに残したまま放置して平気な人間がいようとは想像もしていなかった。昨日つぐみの家に来てすぐ、とりあえず今夜の食事をどうにかしなければと思ったミリーは台所のありさまを見て眩暈を覚えたものである。自分もけして、几帳面な方ではないが――これはいくらなんでも、ナイというものだ。
あと、皿の洗い方もいい加減だった。一人暮らしだから、使っている皿などさほど多くはないはずなのに、コップに茶渋がついたままなのは仕方ないとしても黄ばんでいる皿が大量にあるのはどうなのか。ミリーは初日から、食器棚をひっくり返す羽目になったのである。
あとはそう――その時分かったこと。こんな状態で今までどうやって生活していたのかと思っていたら。どうやらつぐみには、もともと彼氏がいたらしかった。食器棚の奥、彼女と肩を組んで笑っている男性の写真が出てきたのである。友人同士というには、あまりにも距離が近く――笑っているつぐみが幸せそうに見えたものだから。――もしかしたらつぐみはレズビアンなんじゃないか、という予想は否定された形となったのだった。
もちろん、つぐみがレズではなくても、バイである可能性は十分にある。既婚者だが別に同性の恋人がいる、なんてのも別に珍しくない話だ。もしもそうなら、いかにも女の子っぽく見えるらしいミリーを選んだのも、わからない話ではない。
――つぐみって、その彼氏さんと……一緒に住んでたのかな?
なんとなく、そう予想した。このマンションの部屋。3LDKに女が一人暮らしというのは、少々違和感がある。誰かと一緒に住む予定だったがドタキャンになったとか、誰かと一緒に住んでいたけどその誰かがいなくなったとか――そういう風に言われれば納得がいくというものだ。しかも、このマンションの家賃である。聞いたらそこそこの額だった。一人暮らしの女性が払っていくにはかなり厳しいのではないか、というくらいには。つぐみはそれほどまで稼ぎがあるのだろうか?――正直、家具もそこまで高いものではなさそうだし、とてもそうは見えないのだが。
そしてきっと、その彼氏はつぐみと違って、几帳面な性格だったのだろう。なんとなく、そう思う。でなければ彼女はここに住んでからずっと、ろくな料理も掃除もせず、散らかしっぱなしで生活していたことになる。それで本人がうまくやれていると思うならそれでもいいのだが、どうにも――今まで家事を担ってくれていた誰かの場所を埋めきれないでいるような、そんな違和感を覚えてしまうのだ。あの写真を見たからかもしれないが。
もちろん、こんなこと、自分からつぐみに聞けるはずもない。自分はあくまで、彼女に仕える番役の機械人形。パート-ナーとは名ばかりの、実質召使役のようなものなのだ。つぐみがいくら自分を気遣ってくれても、優しくしてくれても、その立ち位置は永遠に覆ることがないのである。それが自分たちホープ・コードなのだから仕方のないことだ。ご主人様の機嫌を損ねるようなことなど、尋ねられるはずもない。
いや、機嫌云々もそうだけれど。彼女を傷つけるようなことはしたくないな、というのもミリーの本音ではあるのだった。たった一日で絆されすぎだ、とも思う。それでもたった一日で思ったのだ。――こんな人に選んでもらえた自分は、きっと幸せなのだろう、と。
「やー!うっれしいなあ!今日が休みで良かったわー。ミリーのお蔭で片付く片付く!」
ミリーがやってきた翌日。部屋のあまりのありさまにミリーが片付けを提案すると、つぐみは快く乗ってくれた。この様子だと、片づけなければヤバイ、という気持ちは本人にもあったらしい(そして片づけなければと思いつつ面倒くさがって放置していたし、どこから手をつければいいのかもわからなかったのだろう)。ミリーは自分の裁量で手際よく物を分別していき、つぐみがそれを手伝って要るもの要らないものを仕訳する。――つぐみ本人の自室(という名のジャングル)までは手が及ばなかったものの、とりあえず半日もあれば玄関と廊下、キッチンダイニングくらいは見れるものになってきたのだった。
「……私より要領悪い人、初めて見た」
「どやっ!」
「何でそこでドヤ顔なの!?もうちょっと反省しようよつぐみ!」
今のは怒る場面ではないのだろうか。ミリーは頭を抱える。悪い人ではない。悪い人ではないのだが、時々――というか頻繁につぐみはネジが外れるようだった。うん、一日と半日で充分学んだぞ。
「そういえばさあ、ミリー」
洗濯機に、洗物籠の中身をひっくり返しながらつぐみが言う。
「あんたの一人称なんだけど……うお!?」
「ああああ!ダメだよつぐみー!!それ完全に容量オーバーだから!半分に減らして、洗濯機壊れちゃう!!」
「えええ一回で回せないと面倒くさいじゃんか……」
「誰のせいだと思ってるの!?洗物ここまで溜めた誰かさんのせいだよね、ね!?」
ダメだこりゃ。ぶーたれるつぐみを押しのけて、洗濯機から半分洗濯物を引っ張り出す。一人暮らしの女性のはずだ。実際拾ったのは全て彼女の着替えや下着だったはず。それなのにどうして、75L入る洗濯機が容量オーバーするなんてことになるんだろうか。何日溜めこめばこんなことになるのだろう。
通常の洗い物もさることながら、この後手洗いのセーターや色落ちするシャツが控えている。今日だけで全部終えるのは無理かもしれない、とミリーは遠い目になった。
家事は嫌いではないけれど。いや本当に、ホープ・コードの中では落ちこぼれと揶揄されてきた自分がまさか家事の天才に見えるような職場があろうとは。一体誰が想像したことだろうか。
「あー、でさあ。あんたの一人称ね。何がいい?」
そして、つぐみはあっさりと口にする。――ホープ・コードにとっては、自らの存在の根幹にかかわるような、存在価値を決めるような――その問いかけを。
「あんた、昨日からアタシのパートナーになったわけでしょ、正式に。で、ホープ・コードってのは、ご主人様が決まるまで女の子にも男の子にもなっちゃいけないから……一人称も全員“私”しか許されてないって聞いたんだけど」
「それは……そうだけど」
「やっぱりそうか。だったらさ、アタシが許せば、あんたは好きな自分になれるってことでしょ?……アタシは構わないわよ、あんたがどんな自分になりたがってもさ。どんなしゃべり方しようが、どんな姿になろうが、アタシが選んだあんたに変わりはないんだし」
それは――どういう意味なのだろう。ミリーは困惑する。一見するとそれは、ミリーに好きな一人称や好きな性別を選んでも構わないと許してくれているように聞こえる。しかし、自分はあくまでつぐみの“伴侶”として此処に来たはずなのだ。――なら、求められる性別は基本的に、男か女のどちらかであって。どちらでもいいということはないはずなのだが。
稀に、両性具有のまま伴侶になってほしいと願うご主人様もいるのは知っているし。性別というものの概念は必ずしも男と女だけではないことも理解している。しかしつぐみのその言い方はどちらかというと、まるで――。
――投げやりというか。私がどっちになっても、そういう興味がないって言ってるように聞こえる……。
傷ついた、ということはない。つぐみには恩があるし、彼女がそういう風に人を傷つける人間だとも思っていない。ただ、戸惑っただけだ。いや、最初から違和感を感じてはいたのである。対面日の初日も。昨日も。彼女の対応は恋人に対してでもなければ、機械人形の召使に対してでもなく。
まるで、同性の友達を得たかのうような、そんな印象を受けたものだったから。
――ホープ・コードとどんな関係を築くかは自由。だから、ご主人様が望むなら“友達”だって全然かまわないことではあるけれど……。
さきほどの片付けで見た写真を思い出した。彼女は、無性愛者ではない。少なくとも、恋愛のできない人間ではない。あの写真一枚だけでそれは伝わってきた。彼女は今も本当は――別に、愛している人間がいるのではないだろうか。
それでも、恋人申請をしなかったのは、その恋人が死んでしまったからなのか。それとも、別に事情があるのか。
――つぐみ。私はどこまで、貴女の心に踏み込んでもいいの?……もっと、貴女のこと、知りたいんだけどな。
こういう時、シェルならどうするのだろう、と考えた。同時に、シェルを引き取ったであろうあの男のことも思い出してしまい、慌てて意識をシャットアウトする。
今の自分が一番考えてはいけないことが何か、薄々気づいてはいるのだ。――このドス黒く醜い感情が、誰に対する嫉妬であり。それがけして、許されていない感情であるということも。
「えっと、つぐみはさ、あの……」
気持ちを切り替えれば、疑問が浮かんでは消えていく。ミリーの言いたいことを察知したのか、はたまたいつものように空気が読めないだけなのか、彼女はあー!と大きな声を上げてみせた。
「ミリー!アタシすっごい大事なこと思い出した!」
「え、な、なに!?」
「ちょっと待ってて!」
ドタドタドタ、と廊下を走っていくつぐみ。向かった先はキッチンのようだった。彼女は冷蔵庫を見て再び悲鳴を上げている。
「がー!やっぱり!やっぱりだわ!中身が寂しいどころじゃないわ!最近カップメンばっか食べてたから忘れてた!野菜もお肉もない……あれ、冷凍してたのなかったっけ!?」
「……さすがに四年前の冷凍肉とか食べられるわけないじゃん……昨日の時点で捨てたよ、つぐみ」
「ウッソォ!もったいない!」
もったいないと思うなら何故買ってすぐ食べなかったんだ。ミリーは再び頭痛を覚える。
「買い物!買い物行かなきゃ、ねえミリー一緒に行こう!駅前にでっかいショッピングモールあるの、見たでしょ!」
思い立ったが吉日と言わんばかりに、つぐみはミリーの腕を引っ張った。
「せっかくミリー来てくれたんだしさ、手料理ごちそうしてよ、ね?」
それは女友達と遊びに行けるのが楽しいのか。それとも面倒な掃除を中断できるのが嬉しいのか。眩しいばかりのつぐみの笑顔の真意を、図りかねるミリーだった。
もちろん、一日過ごしただけで分かったこともないわけではない。
例えば、非常に大雑把で細かい事を気にしない性格。あとは壊滅的に掃除などの家事が苦手。まさか、使った皿などをいつまでも流しに残したまま放置して平気な人間がいようとは想像もしていなかった。昨日つぐみの家に来てすぐ、とりあえず今夜の食事をどうにかしなければと思ったミリーは台所のありさまを見て眩暈を覚えたものである。自分もけして、几帳面な方ではないが――これはいくらなんでも、ナイというものだ。
あと、皿の洗い方もいい加減だった。一人暮らしだから、使っている皿などさほど多くはないはずなのに、コップに茶渋がついたままなのは仕方ないとしても黄ばんでいる皿が大量にあるのはどうなのか。ミリーは初日から、食器棚をひっくり返す羽目になったのである。
あとはそう――その時分かったこと。こんな状態で今までどうやって生活していたのかと思っていたら。どうやらつぐみには、もともと彼氏がいたらしかった。食器棚の奥、彼女と肩を組んで笑っている男性の写真が出てきたのである。友人同士というには、あまりにも距離が近く――笑っているつぐみが幸せそうに見えたものだから。――もしかしたらつぐみはレズビアンなんじゃないか、という予想は否定された形となったのだった。
もちろん、つぐみがレズではなくても、バイである可能性は十分にある。既婚者だが別に同性の恋人がいる、なんてのも別に珍しくない話だ。もしもそうなら、いかにも女の子っぽく見えるらしいミリーを選んだのも、わからない話ではない。
――つぐみって、その彼氏さんと……一緒に住んでたのかな?
なんとなく、そう予想した。このマンションの部屋。3LDKに女が一人暮らしというのは、少々違和感がある。誰かと一緒に住む予定だったがドタキャンになったとか、誰かと一緒に住んでいたけどその誰かがいなくなったとか――そういう風に言われれば納得がいくというものだ。しかも、このマンションの家賃である。聞いたらそこそこの額だった。一人暮らしの女性が払っていくにはかなり厳しいのではないか、というくらいには。つぐみはそれほどまで稼ぎがあるのだろうか?――正直、家具もそこまで高いものではなさそうだし、とてもそうは見えないのだが。
そしてきっと、その彼氏はつぐみと違って、几帳面な性格だったのだろう。なんとなく、そう思う。でなければ彼女はここに住んでからずっと、ろくな料理も掃除もせず、散らかしっぱなしで生活していたことになる。それで本人がうまくやれていると思うならそれでもいいのだが、どうにも――今まで家事を担ってくれていた誰かの場所を埋めきれないでいるような、そんな違和感を覚えてしまうのだ。あの写真を見たからかもしれないが。
もちろん、こんなこと、自分からつぐみに聞けるはずもない。自分はあくまで、彼女に仕える番役の機械人形。パート-ナーとは名ばかりの、実質召使役のようなものなのだ。つぐみがいくら自分を気遣ってくれても、優しくしてくれても、その立ち位置は永遠に覆ることがないのである。それが自分たちホープ・コードなのだから仕方のないことだ。ご主人様の機嫌を損ねるようなことなど、尋ねられるはずもない。
いや、機嫌云々もそうだけれど。彼女を傷つけるようなことはしたくないな、というのもミリーの本音ではあるのだった。たった一日で絆されすぎだ、とも思う。それでもたった一日で思ったのだ。――こんな人に選んでもらえた自分は、きっと幸せなのだろう、と。
「やー!うっれしいなあ!今日が休みで良かったわー。ミリーのお蔭で片付く片付く!」
ミリーがやってきた翌日。部屋のあまりのありさまにミリーが片付けを提案すると、つぐみは快く乗ってくれた。この様子だと、片づけなければヤバイ、という気持ちは本人にもあったらしい(そして片づけなければと思いつつ面倒くさがって放置していたし、どこから手をつければいいのかもわからなかったのだろう)。ミリーは自分の裁量で手際よく物を分別していき、つぐみがそれを手伝って要るもの要らないものを仕訳する。――つぐみ本人の自室(という名のジャングル)までは手が及ばなかったものの、とりあえず半日もあれば玄関と廊下、キッチンダイニングくらいは見れるものになってきたのだった。
「……私より要領悪い人、初めて見た」
「どやっ!」
「何でそこでドヤ顔なの!?もうちょっと反省しようよつぐみ!」
今のは怒る場面ではないのだろうか。ミリーは頭を抱える。悪い人ではない。悪い人ではないのだが、時々――というか頻繁につぐみはネジが外れるようだった。うん、一日と半日で充分学んだぞ。
「そういえばさあ、ミリー」
洗濯機に、洗物籠の中身をひっくり返しながらつぐみが言う。
「あんたの一人称なんだけど……うお!?」
「ああああ!ダメだよつぐみー!!それ完全に容量オーバーだから!半分に減らして、洗濯機壊れちゃう!!」
「えええ一回で回せないと面倒くさいじゃんか……」
「誰のせいだと思ってるの!?洗物ここまで溜めた誰かさんのせいだよね、ね!?」
ダメだこりゃ。ぶーたれるつぐみを押しのけて、洗濯機から半分洗濯物を引っ張り出す。一人暮らしの女性のはずだ。実際拾ったのは全て彼女の着替えや下着だったはず。それなのにどうして、75L入る洗濯機が容量オーバーするなんてことになるんだろうか。何日溜めこめばこんなことになるのだろう。
通常の洗い物もさることながら、この後手洗いのセーターや色落ちするシャツが控えている。今日だけで全部終えるのは無理かもしれない、とミリーは遠い目になった。
家事は嫌いではないけれど。いや本当に、ホープ・コードの中では落ちこぼれと揶揄されてきた自分がまさか家事の天才に見えるような職場があろうとは。一体誰が想像したことだろうか。
「あー、でさあ。あんたの一人称ね。何がいい?」
そして、つぐみはあっさりと口にする。――ホープ・コードにとっては、自らの存在の根幹にかかわるような、存在価値を決めるような――その問いかけを。
「あんた、昨日からアタシのパートナーになったわけでしょ、正式に。で、ホープ・コードってのは、ご主人様が決まるまで女の子にも男の子にもなっちゃいけないから……一人称も全員“私”しか許されてないって聞いたんだけど」
「それは……そうだけど」
「やっぱりそうか。だったらさ、アタシが許せば、あんたは好きな自分になれるってことでしょ?……アタシは構わないわよ、あんたがどんな自分になりたがってもさ。どんなしゃべり方しようが、どんな姿になろうが、アタシが選んだあんたに変わりはないんだし」
それは――どういう意味なのだろう。ミリーは困惑する。一見するとそれは、ミリーに好きな一人称や好きな性別を選んでも構わないと許してくれているように聞こえる。しかし、自分はあくまでつぐみの“伴侶”として此処に来たはずなのだ。――なら、求められる性別は基本的に、男か女のどちらかであって。どちらでもいいということはないはずなのだが。
稀に、両性具有のまま伴侶になってほしいと願うご主人様もいるのは知っているし。性別というものの概念は必ずしも男と女だけではないことも理解している。しかしつぐみのその言い方はどちらかというと、まるで――。
――投げやりというか。私がどっちになっても、そういう興味がないって言ってるように聞こえる……。
傷ついた、ということはない。つぐみには恩があるし、彼女がそういう風に人を傷つける人間だとも思っていない。ただ、戸惑っただけだ。いや、最初から違和感を感じてはいたのである。対面日の初日も。昨日も。彼女の対応は恋人に対してでもなければ、機械人形の召使に対してでもなく。
まるで、同性の友達を得たかのうような、そんな印象を受けたものだったから。
――ホープ・コードとどんな関係を築くかは自由。だから、ご主人様が望むなら“友達”だって全然かまわないことではあるけれど……。
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それでも、恋人申請をしなかったのは、その恋人が死んでしまったからなのか。それとも、別に事情があるのか。
――つぐみ。私はどこまで、貴女の心に踏み込んでもいいの?……もっと、貴女のこと、知りたいんだけどな。
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今の自分が一番考えてはいけないことが何か、薄々気づいてはいるのだ。――このドス黒く醜い感情が、誰に対する嫉妬であり。それがけして、許されていない感情であるということも。
「えっと、つぐみはさ、あの……」
気持ちを切り替えれば、疑問が浮かんでは消えていく。ミリーの言いたいことを察知したのか、はたまたいつものように空気が読めないだけなのか、彼女はあー!と大きな声を上げてみせた。
「ミリー!アタシすっごい大事なこと思い出した!」
「え、な、なに!?」
「ちょっと待ってて!」
ドタドタドタ、と廊下を走っていくつぐみ。向かった先はキッチンのようだった。彼女は冷蔵庫を見て再び悲鳴を上げている。
「がー!やっぱり!やっぱりだわ!中身が寂しいどころじゃないわ!最近カップメンばっか食べてたから忘れてた!野菜もお肉もない……あれ、冷凍してたのなかったっけ!?」
「……さすがに四年前の冷凍肉とか食べられるわけないじゃん……昨日の時点で捨てたよ、つぐみ」
「ウッソォ!もったいない!」
もったいないと思うなら何故買ってすぐ食べなかったんだ。ミリーは再び頭痛を覚える。
「買い物!買い物行かなきゃ、ねえミリー一緒に行こう!駅前にでっかいショッピングモールあるの、見たでしょ!」
思い立ったが吉日と言わんばかりに、つぐみはミリーの腕を引っ張った。
「せっかくミリー来てくれたんだしさ、手料理ごちそうしてよ、ね?」
それは女友達と遊びに行けるのが楽しいのか。それとも面倒な掃除を中断できるのが嬉しいのか。眩しいばかりのつぐみの笑顔の真意を、図りかねるミリーだった。
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