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<第二十二話>
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相手を知る為に、ぶつかり合うという事は。時にそれで相手を傷つけることになるのだとしても――きっと、意味のあることなのだと思う。
もちろん、時と場合というヤツはあるし、言葉を選び損ねれば相手を苦しめ、自分を苦しめて結果決別するという最悪のケースに陥ることもある。また、悲しいことだがどうあっても人には相性というものがあり、どんな人間とも仲良くなれるかといえばそれもまた無理な話なのだ。どれだけ話し合っても理解しあえない相手は必ずいる。そんな相手に当たった場合はもう、そういうものだと諦めるしかない場合もあるものだ。
だが結果を言えば、ミリーにとってつぐみは、幸運にもそんな相手ではなかったのだと言える。つぐみのことを知りたいからこそ、踏み込んで、自分の本音を告げた。彼女ならきっと届くと信じてはいたものの、自信があったかと言えば別問題で。実際、自分の口にした言葉は、ホープ・コードからすればなんとも図々しいものであるということは、わかっていたのだから。
「ミリーの言う通りさ。アタシ、寂しかったんだ。待っている自分が情けないと思うのに、待つこともやめられやしない。……一人で待つ、強さもない。だから……一緒に待っていてくれる友達が、欲しかったんだと思う」
でも、そんな自分の弱さを認める勇気もなくてさ、と彼女は苦い顔で笑う。
「ありがとね。アタシの身勝手な理由であんたを選んだのに、結局助けられちゃった。つか、むしろアタシがあんたを助けてやるんだーくらい思ってたのにさあ」
「そうなの?」
「そうだよ。落ちこぼれだ、劣等生だーってすごい自分のこと卑下してるっぽいからさあ。もっとポジティブにイケやー!って言うつもりだったの!ほら、自分より劣ってる人間見ると、自分の方がマシなような気がしてくるじゃん?アタシのこのダメっぷり見てみ?料理も掃除も選択もろくにできないんだぜー?あんたのがマシっしょ、遥かに!」
「うーん、その点は……否定できないなあ」
「コラ!少しはフォローしろー!」
まるで、昔からの親友であったようだった。クリス達と再会し、つぐみと話をして。三ヶ月も経つ頃には、二人はすっかり意気投合し、独自の関係を築いていたのだった。
三ヶ月で、二人が何をしていたかといえば。まずは部屋の掃除を完了させることであり、つぐみの生活習慣を少しはマシにさせることであり、同時に――つぐみの待っている想い人を探すことでもあった。
彼女の想い人の名前と、最終的に住んでいた土地。単純な聞き込みと検索に加えて、個人的に探偵に依頼するということもした。幸い、つぐみは貯金だけはあったのである。本人いわく、お金はお菓子とカップ麺ばっかりに使ってたから、とのこと。しかも、高級なお菓子より、そのへんに売ってる易いポテチとかが大好きなものだから、大した額にもなっていなかったのだという。
――それにしても、この部屋の家賃だって安くはないとはいえ、お金使わなすぎじゃないのかなあ……。
三ヶ月すぎても、まだやるべき事は山ほどあった。掃除関連グッズがまるで家に無かったこともさながら、キッチン用品もとても足りるものではなく。また、洗濯機はつい最近、つぐみが乱暴な扱いをして壊してしまっていた。まさか今のご時世に、ちゃんと動かないからと洗濯機を蹴り飛ばして直そうとする輩がまだいようとは。正直あいた口が塞がらないというものである。
ちなみに、この三ヶ月の間に、ミリーはつぐみと共に、シオンのいるであろう研究室も覗きに行ったのだった。シオンは、いつの間にかご主人様の助手のようなポジションに定着していたらしい。同時に――あのシオンがまさか、ではあるものの。ご主人様である時枝瞬とはかなり良好な関係を築いているらしかった。態度でわかる。青年と一緒にいるシオンの姿は、どこからどう見ても仲睦まじい夫婦のそれであったのだから。今は研究が忙しいようだが、あれならば子供が出来るのも時間の問題なのかもしれなかった。
物事は殆どが順調に進んでいる。クリスも麻里子お嬢様にパシリのごとくコキ使われながらも楽しく生活しているようだし、自分とつぐみは言わずもがなだ。問題があるとすれば、一つだけ。
もちろん、シェルのことである。
『私の方で、個人的に調べたことなんですけどね』
研究室で再会した時、シオンはミリーに、シェルについての情報をくれた。どうやら彼女――今のシオンはもう、彼女、と呼んでもいい存在だろう――彼女も、シェルの安否が気になり、独自に調査してくれていたようだった。恐らく、ご主人様も協力してくれているのだろう。
『本多政紀ですが。彼はほとんど別荘にこもって、最近は会社にも出てくることがないという話、でしたね。でもどこの別荘なのかまではわからない、と』
『うん。クリスはそう言ってたよ』
本多政紀の別荘については、クリスと彼のご主人様が調べを進めてくれているはずだった。が、財閥の力を持ってしても、調査は難航しているらしい。ホンダネッットワークスは大企業だ、妨害も工作もあるのだろう。自分には分からない世界の話ではあるが。
『最近、新しい目撃情報が入ったんです。主に金曜日になると、E町のこの居酒屋で、政紀さしき人物を見かける、と。しかも……隣に、目の覚めるような美女を連れて。ただ……』
シオンは嫌悪感を隠しもせず、告げた。
『その美女は包帯だらけの傷だらけで、その……首輪と鎖をつけて、引きずられるように連れ回されているとのことで。そもそもその酒場自体、そういう趣味の人間のたまり場になっているとのことなんです。本来なら、近づくことも避けるべき場所でしょうね』
それでも、ミリーにそれを話したということは。シオンなりのGOサインである、ということなのだろう。シオンは、どれだけミリーはシェルのことを想っているかを知っているはずで。そんな話を聞いて、じゃあやめるね!と引き下がるような性格でもないことくらい理解しきっている筈なのである。
それが分かっていて、話したのはつまり。彼女なりに、黙認するということに他なるまい。
『ひとつだけ、言っておきます……ミリー。私だって、本多政紀は許しがたい。友を助けたい。ですが、私達はあくまでホープ・コードなんです。何かあったとしても法律はけして守ってはくれない。そして……あなたがもし、何か暴走して、犯罪を犯したとして。その場合あなたの主人である彼女もまた、管理責任を問われる可能性が高い。場合によっては共犯扱いされるかもしれない。それはよく、肝に銘じておきなさい。それから……』
シオンも、本当は成したい事があったのかもしれない。見た目に反して実に男前というか、手が早いというか、行動派なのがシオンだった。なんだかんだで義理にも厚いし間違ったことは許せないタイプでもある。自分でどうにかできるのであればそうした、そう考えていてもおかしくはあるまい。
『それから。……貴方に何かあって悲しむ者がたくさんいることを、どうか忘れないでくださいね。すみません、ひとつではなかったですね』
それでも、調査するまでしかできないと、そう思ったのであれば多分。――彼女にも、葛藤があったということだろう。危機に晒されている友人と、今隣にいるであろう愛すべき主人との間で。
そのどうにもならない痛みの間で、もしかしたらまだ、悩みもがいている最中であるのかもしれなかった。だから、ミリーは。
『うん。……ありがとう、シオン』
是とも、否とも言うでもなく、ただ――感謝を告げた。大丈夫だなんて、もう無責任なことは言えず。同時に大丈夫、だなんて言ってしまえば、それがサヨナラと同じ意味に変わってしまうかもしれなかったから。
自分は、無力だ。ホープ・コードなんて大層な名前でありながら、誰の希望にもなれやしない、ちっぽけで落ちこぼれで、そのくせ無鉄砲な面倒くさい機会人形。自分の価値など、自分が一番よくわかっているのである。
だからこそ、ミリーは。己の周りにいる者たちを、己を助けてくれる者たちを、精一杯愛すると決めたのである。自分は非力だけれど、自分は一人ではない。そんな彼等が助けてくれるからこそ、今の自分には価値があって、生きたいように生きることができるのである。
落ちこぼれで、誰の役にも立てないと沈んていた自分を助けてくれた。機械に、自由な恋などできないのだからと諦めていた自分に、それでも心は誰にも支配できないことを教えてくれた。シェルはとても身勝手だが、何よりも尊い存在で――自分に、愛を伝えてくれた愛でなのである。
救いたい。今度は、自分が。つぐみに言った言葉は、そのままミリー自身への言葉に等しい。待っているだけでは駄目なのだ。囚われた愛しい人を、この手で迎えに行く勇気を持たなければ――世界はどう足掻いても、変わることなんてない。幸いにして、自分はそれを、機械でありながらも許されたのだから。
つぐみは、黙って頷いてくれた。あんたが一緒に待ってくれると言ったから、自分も一緒にあんたの大切な人を迎えにいくよ――と。
――私って、本当に酷いな。ホープ・コード失格だ。つぐみの元から来る前から、本当に出来損ないで、駄目な機械人形。
ミリーは自嘲する。つぐみが許してくれることを最初からわかった上で、協力を頼んだ自分の意地汚さに反吐が出そうだ。それでいて、少し罪悪感を抱いただけで――反省も後悔もしていないなんて、本当に馬鹿げた話である。
結論なんて単純なものだ。結局自分達は心を持った時点で、自分を偽るなんてことはできないのだ。本能より、規則より、使命より。大切なものがあると知ってしまった時点でどうにもならなかった。それだけのことだろう。
自分をそういうアンドロイドとして作ったのも人間なわけで。この際、人間の自業自得ということにしてしまえばいい。自己都合と言いたければ言え。
――ごめんね高橋さん。私の幸せは……私が、決めたいんだ。
E町の酒場に、つぐみと二人で潜入する。本来つぐみは危ないから家で待っていてほしかったのだが、本人は頑として聞き入れなかった。
「言ったでしょ、一緒に迎えに行くって。アタシら相棒じゃないの?……安心しなよ。プロの格闘家なんだからね、これでも。ホープ・コードのあんたの足引っ張らない程度には立ち回れるつもりだよ。少くとも、危ない時自力で逃げるくらいはできるんだから。ね」
確かに、彼女ならミリーが守らなくてもなんとかなるかもしれない。つぐみの眼と、その言葉で。ミリーも信じることにした。同時に――少しでもつぐみに迷惑がかからない作戦を考えなければ、と。
実行は自分とつぐみの二人。しかし作戦の補佐には、クリスとシオンと、それぞれの主人もある程度協力してくれるらしい。仲間に恵まれたことを感謝するべきだろう。落ちこぼれな自分の、唯一誇れる武器。それは、仲間がいることだ。
――シェル。待ってて、今度は私が助けるから。
やがて、ミリーは知ることになる。シェルが置かれた、想像を絶する劣悪な環境を。
同時に。人間の悪意と欲望ほど救いようがなく――おぞましいものもまた、無いのだということを。
もちろん、時と場合というヤツはあるし、言葉を選び損ねれば相手を苦しめ、自分を苦しめて結果決別するという最悪のケースに陥ることもある。また、悲しいことだがどうあっても人には相性というものがあり、どんな人間とも仲良くなれるかといえばそれもまた無理な話なのだ。どれだけ話し合っても理解しあえない相手は必ずいる。そんな相手に当たった場合はもう、そういうものだと諦めるしかない場合もあるものだ。
だが結果を言えば、ミリーにとってつぐみは、幸運にもそんな相手ではなかったのだと言える。つぐみのことを知りたいからこそ、踏み込んで、自分の本音を告げた。彼女ならきっと届くと信じてはいたものの、自信があったかと言えば別問題で。実際、自分の口にした言葉は、ホープ・コードからすればなんとも図々しいものであるということは、わかっていたのだから。
「ミリーの言う通りさ。アタシ、寂しかったんだ。待っている自分が情けないと思うのに、待つこともやめられやしない。……一人で待つ、強さもない。だから……一緒に待っていてくれる友達が、欲しかったんだと思う」
でも、そんな自分の弱さを認める勇気もなくてさ、と彼女は苦い顔で笑う。
「ありがとね。アタシの身勝手な理由であんたを選んだのに、結局助けられちゃった。つか、むしろアタシがあんたを助けてやるんだーくらい思ってたのにさあ」
「そうなの?」
「そうだよ。落ちこぼれだ、劣等生だーってすごい自分のこと卑下してるっぽいからさあ。もっとポジティブにイケやー!って言うつもりだったの!ほら、自分より劣ってる人間見ると、自分の方がマシなような気がしてくるじゃん?アタシのこのダメっぷり見てみ?料理も掃除も選択もろくにできないんだぜー?あんたのがマシっしょ、遥かに!」
「うーん、その点は……否定できないなあ」
「コラ!少しはフォローしろー!」
まるで、昔からの親友であったようだった。クリス達と再会し、つぐみと話をして。三ヶ月も経つ頃には、二人はすっかり意気投合し、独自の関係を築いていたのだった。
三ヶ月で、二人が何をしていたかといえば。まずは部屋の掃除を完了させることであり、つぐみの生活習慣を少しはマシにさせることであり、同時に――つぐみの待っている想い人を探すことでもあった。
彼女の想い人の名前と、最終的に住んでいた土地。単純な聞き込みと検索に加えて、個人的に探偵に依頼するということもした。幸い、つぐみは貯金だけはあったのである。本人いわく、お金はお菓子とカップ麺ばっかりに使ってたから、とのこと。しかも、高級なお菓子より、そのへんに売ってる易いポテチとかが大好きなものだから、大した額にもなっていなかったのだという。
――それにしても、この部屋の家賃だって安くはないとはいえ、お金使わなすぎじゃないのかなあ……。
三ヶ月すぎても、まだやるべき事は山ほどあった。掃除関連グッズがまるで家に無かったこともさながら、キッチン用品もとても足りるものではなく。また、洗濯機はつい最近、つぐみが乱暴な扱いをして壊してしまっていた。まさか今のご時世に、ちゃんと動かないからと洗濯機を蹴り飛ばして直そうとする輩がまだいようとは。正直あいた口が塞がらないというものである。
ちなみに、この三ヶ月の間に、ミリーはつぐみと共に、シオンのいるであろう研究室も覗きに行ったのだった。シオンは、いつの間にかご主人様の助手のようなポジションに定着していたらしい。同時に――あのシオンがまさか、ではあるものの。ご主人様である時枝瞬とはかなり良好な関係を築いているらしかった。態度でわかる。青年と一緒にいるシオンの姿は、どこからどう見ても仲睦まじい夫婦のそれであったのだから。今は研究が忙しいようだが、あれならば子供が出来るのも時間の問題なのかもしれなかった。
物事は殆どが順調に進んでいる。クリスも麻里子お嬢様にパシリのごとくコキ使われながらも楽しく生活しているようだし、自分とつぐみは言わずもがなだ。問題があるとすれば、一つだけ。
もちろん、シェルのことである。
『私の方で、個人的に調べたことなんですけどね』
研究室で再会した時、シオンはミリーに、シェルについての情報をくれた。どうやら彼女――今のシオンはもう、彼女、と呼んでもいい存在だろう――彼女も、シェルの安否が気になり、独自に調査してくれていたようだった。恐らく、ご主人様も協力してくれているのだろう。
『本多政紀ですが。彼はほとんど別荘にこもって、最近は会社にも出てくることがないという話、でしたね。でもどこの別荘なのかまではわからない、と』
『うん。クリスはそう言ってたよ』
本多政紀の別荘については、クリスと彼のご主人様が調べを進めてくれているはずだった。が、財閥の力を持ってしても、調査は難航しているらしい。ホンダネッットワークスは大企業だ、妨害も工作もあるのだろう。自分には分からない世界の話ではあるが。
『最近、新しい目撃情報が入ったんです。主に金曜日になると、E町のこの居酒屋で、政紀さしき人物を見かける、と。しかも……隣に、目の覚めるような美女を連れて。ただ……』
シオンは嫌悪感を隠しもせず、告げた。
『その美女は包帯だらけの傷だらけで、その……首輪と鎖をつけて、引きずられるように連れ回されているとのことで。そもそもその酒場自体、そういう趣味の人間のたまり場になっているとのことなんです。本来なら、近づくことも避けるべき場所でしょうね』
それでも、ミリーにそれを話したということは。シオンなりのGOサインである、ということなのだろう。シオンは、どれだけミリーはシェルのことを想っているかを知っているはずで。そんな話を聞いて、じゃあやめるね!と引き下がるような性格でもないことくらい理解しきっている筈なのである。
それが分かっていて、話したのはつまり。彼女なりに、黙認するということに他なるまい。
『ひとつだけ、言っておきます……ミリー。私だって、本多政紀は許しがたい。友を助けたい。ですが、私達はあくまでホープ・コードなんです。何かあったとしても法律はけして守ってはくれない。そして……あなたがもし、何か暴走して、犯罪を犯したとして。その場合あなたの主人である彼女もまた、管理責任を問われる可能性が高い。場合によっては共犯扱いされるかもしれない。それはよく、肝に銘じておきなさい。それから……』
シオンも、本当は成したい事があったのかもしれない。見た目に反して実に男前というか、手が早いというか、行動派なのがシオンだった。なんだかんだで義理にも厚いし間違ったことは許せないタイプでもある。自分でどうにかできるのであればそうした、そう考えていてもおかしくはあるまい。
『それから。……貴方に何かあって悲しむ者がたくさんいることを、どうか忘れないでくださいね。すみません、ひとつではなかったですね』
それでも、調査するまでしかできないと、そう思ったのであれば多分。――彼女にも、葛藤があったということだろう。危機に晒されている友人と、今隣にいるであろう愛すべき主人との間で。
そのどうにもならない痛みの間で、もしかしたらまだ、悩みもがいている最中であるのかもしれなかった。だから、ミリーは。
『うん。……ありがとう、シオン』
是とも、否とも言うでもなく、ただ――感謝を告げた。大丈夫だなんて、もう無責任なことは言えず。同時に大丈夫、だなんて言ってしまえば、それがサヨナラと同じ意味に変わってしまうかもしれなかったから。
自分は、無力だ。ホープ・コードなんて大層な名前でありながら、誰の希望にもなれやしない、ちっぽけで落ちこぼれで、そのくせ無鉄砲な面倒くさい機会人形。自分の価値など、自分が一番よくわかっているのである。
だからこそ、ミリーは。己の周りにいる者たちを、己を助けてくれる者たちを、精一杯愛すると決めたのである。自分は非力だけれど、自分は一人ではない。そんな彼等が助けてくれるからこそ、今の自分には価値があって、生きたいように生きることができるのである。
落ちこぼれで、誰の役にも立てないと沈んていた自分を助けてくれた。機械に、自由な恋などできないのだからと諦めていた自分に、それでも心は誰にも支配できないことを教えてくれた。シェルはとても身勝手だが、何よりも尊い存在で――自分に、愛を伝えてくれた愛でなのである。
救いたい。今度は、自分が。つぐみに言った言葉は、そのままミリー自身への言葉に等しい。待っているだけでは駄目なのだ。囚われた愛しい人を、この手で迎えに行く勇気を持たなければ――世界はどう足掻いても、変わることなんてない。幸いにして、自分はそれを、機械でありながらも許されたのだから。
つぐみは、黙って頷いてくれた。あんたが一緒に待ってくれると言ったから、自分も一緒にあんたの大切な人を迎えにいくよ――と。
――私って、本当に酷いな。ホープ・コード失格だ。つぐみの元から来る前から、本当に出来損ないで、駄目な機械人形。
ミリーは自嘲する。つぐみが許してくれることを最初からわかった上で、協力を頼んだ自分の意地汚さに反吐が出そうだ。それでいて、少し罪悪感を抱いただけで――反省も後悔もしていないなんて、本当に馬鹿げた話である。
結論なんて単純なものだ。結局自分達は心を持った時点で、自分を偽るなんてことはできないのだ。本能より、規則より、使命より。大切なものがあると知ってしまった時点でどうにもならなかった。それだけのことだろう。
自分をそういうアンドロイドとして作ったのも人間なわけで。この際、人間の自業自得ということにしてしまえばいい。自己都合と言いたければ言え。
――ごめんね高橋さん。私の幸せは……私が、決めたいんだ。
E町の酒場に、つぐみと二人で潜入する。本来つぐみは危ないから家で待っていてほしかったのだが、本人は頑として聞き入れなかった。
「言ったでしょ、一緒に迎えに行くって。アタシら相棒じゃないの?……安心しなよ。プロの格闘家なんだからね、これでも。ホープ・コードのあんたの足引っ張らない程度には立ち回れるつもりだよ。少くとも、危ない時自力で逃げるくらいはできるんだから。ね」
確かに、彼女ならミリーが守らなくてもなんとかなるかもしれない。つぐみの眼と、その言葉で。ミリーも信じることにした。同時に――少しでもつぐみに迷惑がかからない作戦を考えなければ、と。
実行は自分とつぐみの二人。しかし作戦の補佐には、クリスとシオンと、それぞれの主人もある程度協力してくれるらしい。仲間に恵まれたことを感謝するべきだろう。落ちこぼれな自分の、唯一誇れる武器。それは、仲間がいることだ。
――シェル。待ってて、今度は私が助けるから。
やがて、ミリーは知ることになる。シェルが置かれた、想像を絶する劣悪な環境を。
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