ラブリー・ゴースト！～事故物件で幽霊に好かれた俺～

＜１０・意外な事実。＞

●Yasaka @yayaya88
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああガチャ出ないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい！！

↓

●野生の本田 @Uk4sFA31
　返信先: @yayaya88
朝からヤサカ氏が荒ぶっておられるｗｗｗｗ
何があった？

↓

●Yasaka @yayaya88
　返信先: @Uk4sFA31
聴いてくれるか友よ！！！
期間限定ガチャやってたんだけど見事に爆死してだな
諭吉が十枚ほどお亡くなりになったんや……

↓

●野生の本田 @Uk4sFA31
　返信先: @yayaya88
は！？！？！？！十枚！？！？！？！？
十万円てこと！？！？！？！？
マジで！？！？！？！？

↓

●Yasaka @yayaya88
　返信先: @Uk4sFA31
マ　ジ　だ

↓

●野生の本田 @Uk4sFA31
　返信先: @yayaya88
やべえええええええええ！！ちょ、それ一回の期間限定ガチャでってことだよな？ゲーム廃人の俺だってそんなに使った事ねーよｗｗｗｗ
一体何がどうしてそんなに使ったの？何のゲーム？そんなに確率低かったの？

↓

●Yasaka @yayaya88
　返信先: @Uk4sFA31
ガチャの確率はウルトラレアでも0.5％だから、今までのガチャと比べるとかなり有情なはずだったんだよ……それなのに、溜めてた分含めて二千回回しても出ないってどゆこと？ねえどゆこと？？？
おそらきれいで泣いちゃう

↓

●野生の本田 @Uk4sFA31
　返信先: @yayaya88
な、涙ふけよ……。
そんなに辛いゲームってあるんだな、って思ったけど、ガチャなんてそんなもんか。そんなにそのキャラ欲しかったの？すげえ強いとか？

↓

●Yasaka @yayaya88
　返信先: @Uk4sFA31
『異世界ラヴァーズ』知ってる？それに出てくる八鎖学園テニス部のさ、新條レイきゅんが欲しかったわけ
スキルもそれなりに役立つんだけど、それ以上に推しなんだ……推しのエンジェルバージョンが絶対欲しかったんだぁ……！

↓

●野生の本田 @Uk4sFA31
　返信先: @yayaya88
あ、ああ……推しなら仕方ないな、うん
異世界ラヴァーズって、異世界転移系のアニメだっけ？

↓

●Yasaka @yayaya88
　返信先: @Uk4sFA31
元はゲーム。一見するとよくある異世界転移系のファンタジーなんだけど、そもそも原作二十五年くらい前からあるからね
今第八シリーズやってるし。
イケメンも美女もよりどりみどりだし、バトルも結構頭脳系で面白いからぜひとも見て
あ、でもリョナが嫌いな人にはちょっと勧めないかも。男も女も割と流れるようにリョナられるから
特に第八シリーズの第三話ではヒロインの一人が両足の指を……あ、ごめんこれ以上は言わない方がいいね

↓

●野生の本田 @Uk4sFA31
　返信先: @yayaya88
そこまで言われたら逆に気になるんですが？！！！？？
流れるようにリョナられるようなアニメが地上波で流れてるってすごくない？？？

↓

●Yasaka @yayaya88
　返信先: @Uk4sFA31
地上波だけど深夜枠だよ、いろいろ察して

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●野生の本田 @Uk4sFA31
　返信先: @yayaya88
察して正座した

↓

●Yasaka @yayaya88
　返信先: @Uk4sFA31
素直でよろしいｗｗｗ
そして私は十万消し飛んだけど、まだ結局レイきゅんと巡り合えてないから今日のお昼まで回そうと思ってて
そのために仮病使って休んであと五万くらい投入するか真剣に検討してるんだけどどう思う？

↓

●野生の本田 @Uk4sFA31
　返信先: @yayaya88
いい子だからやめなさい（真顔）

↓

●Yasaka @yayaya88
　返信先: @Uk4sFA31
で、デスヨネー……！



　＊＊＊



「……とまあ、こういう呟きがツイッター検索でやっと引っかかってきたわけやんな」

　久遠のポルターガイスト騒動から数日後。
　学校で出会った風人に仁が見せられたのが、上記のツイッターのやり取りだった。勿論、Yasakaなる人物も、野生の本田なる人物も知り合いではない。大切なのは、そのやりとりの中身である。

「八鎖学園って、いくら探しても出てこんと思ったら……これ、現実に存在する学校じゃないねん。ようは、ゲームと、それをメディア化した作品にだけ出てくる異世界の学校の名前みたいやな」
「二十五年くらい前からあるアニメなのか。なら……」
「せや、二十年前にも当然存在してたっちゅーことになる。このアニメについて、おれも調べてみたんやけど……」

　風人によれば。
　この異世界ラヴァーズというのは、元々は小さなゲーム会社が作った異世界RPGだったという。普通の高校生の少年がある日突然事故に遭って異世界に飛ばされる――というところまでは、今大流行している異世界転生・転移モノとあまり変わらない。違うのは、この少年が元の世界に帰るために真剣に頑張ることと、特にチート能力のようなものは一切持たずに地道に鍛錬で強くなっていくタイプということか。
　また、異世界モノあるあるの、やたらと美少女が大量に出てきてモテまくりのハーレムを形成するということもないらしい。メインヒロインは二人だけ。むしろ、友人や仲間のポジションの男性キャラの方が登場率が高いくらいだという。
　どんな状況でも諦めない熱血な主人公と魅力的なキャラクター達、自分好みの育成ができるシステムに感動的なストーリー。最初はかんばしくなかった売上も、それらが評価されて口コミで広まっていくうちに徐々に人気を伸ばし、二年後には続編が発表。そして、若干時間をかけつつも第三、第四とシリーズが作られ、現在は第八シリーズが発売中だという。
　また、アニメも放送されたのだが、いかんせんエロは皆無なのに暴力描写と残酷描写は結構どぎついため放送コードに引っかかりまくり、深夜枠で１クールずつちょっとずつ放送するのが限界という状況であるという。
　まあ、ちらっと聞いただけでも敵に捕まったヒロインが両手足の指を切断された上で股関節から引きちぎられて死にかけるとか（ギリギリ蘇生魔法が間に合って助かるが）、別のヒロインが毒を盛られて上からも下からも大量に漏らしながらもだえ苦しむとか（これも一応助かるが）、主人公を助けてくれた宿屋のおじさんが生きたまま首を引き抜かれて死ぬとか（助からない）、主人公を庇った仲間の青年の腕がなくなってそのまま命を落とすとか（助からない）まあ、それはもうアウトな描写が大量にあるという。
　異世界を蝕む特殊なモンスターを討伐する魔法軍を育成する学校という設定なので、過酷な戦闘シーンが非常に多いのだ。作品のコンセプトも“誤魔化しも容赦もない非情な現実を、主人公たちが血と汗にまみれて必死で生き抜く話”であるそうなので、そのへんに一切手を抜いていないのである。なお、流石に生きたまま女性が腹を裂かれて腸を巻き上げられるシーンは深夜枠でさえ規制が入り、黒塗りにされてしまったそうだが。――恐るべし異世界ラヴァーズ。
　とにかくだ。
　パッケージだけ見ると、可愛らしい絵柄のキャラクター達がにこやかに制服姿で魔法や剣を使っているという、なんとも明るい学園ファンタジーっぽいのでなかなかの詐欺だというのである。実際、R15G指定にも拘らず（むしろよくそこまでやってR15で済んだものである）。

「それに出てくるのが、八鎖学園」

　スマホの上で指を滑らせ、画像を表示させる風人。そこには、仁も見た覚えのある紺色のブレザーを着た、派手な赤い髪の少年の絵が表示されていた。紺色の布地に三角形の大きな襟、青いネクタイに金色のピンバッチ。間違いない、久遠が着ているのと同じ制服だ。勿論、アニメ絵の少年の顔立ちと、久遠の髪型・顔は似ても似つかないものだが。

「八鎖学園ってのは、主人公が在籍することになる魔法学園なんやて。他にもいくつかライバルの学校は登場するんだけど、第一シリーズではこの八鎖学園以外の学校が出てこん。第二シリーズまでいっても、ライバル校が一つ増えるだけらしいで」
「つまり、二十年前の時点で発売されていたシリーズにも、八鎖学園は出て来てたってわけか」
「そういうこと。で、勿論これは架空の学校だから現実には存在せえへんし、この学校の生徒が現実におるわけやない。せやから普通に考えるなら……久遠君は、この異世界ラヴァーズの八鎖学園の生徒のコスプレ、をした状態で幽霊になったんとちゃうやろか。コスプレってカツラ被って派手な衣装着てってイメージが強いけど、世の中にはちょっと服を変えるだけの地味なコスプレもあるわけやからな」
「なるほど」

　と、ここまで風人が言うからには。

「ひょっとして久遠と同じように、長い黒髪に一つ結びの男の子キャラが出てきたりとかする？」
「正解。主人公の親友キャラが、まさにそんな見た目やな」

　風人が開いていたのは、このゲームのキャラクター紹介ページだったようだ。何度かタップした後、ほれ、と仁に画像を見せてくれる。
　青い目に、長い黒髪の細面の少年の絵。確かに、久遠とよく似た雰囲気だ。

「何でコスプレなんだ？……303号室に住んでた鹿島先生とやらがそのゲームが好きで、コスプレさせてたとかそういう？」

　自分で言ってみて、仁は嫌な気持ちになった。もし、学校の先生と教師で、勉強を教えて貰っていただけなどという健全な関係ならば――生徒に地味系とはいえコスプレを頼んだりなどしないだろう。
　やはり、鹿島教諭と仁は、そのような関係だったということなのか。このゲームの画像を久遠に見せたら何か思い出すかもしれない。また、パニックを起こさせてしまうかもしれないと考えると少々気が重いところではあるが。

「あんま、深く考えたくない感じやなあ」

　風人も同じことを思ったのか、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「どうにかおれが分かったのはここまでや。ストレートに考えるなら、その先生との因果を明らかにして未練を断ち切れない限り、久遠君は成仏できひんと思う。あと、本人の死体がどこにあるか見つける必要もあるんとちゃうやろか」
「やっぱりそうなるか……」
「二十年も前の死体やけど、骨くらいなら残ってる可能性高いやろ。川とか海に沈んでたら厳しいけどな」

　死体。当たり前だが、その言葉がずしんとのしかかる。
　本当の彼の体は、未だに冷たい水の中や土の中に放置されているかもしれないのだ。無論、きちんと埋葬されてるのに未練があって現世に残っている可能性もあるのだろうが。

――……真実を知ることは、あいつにとって辛いだけかもしれない。でも。



『その、先生とやらにも。ひょっとしたら、依存してたのかもね。恋愛なのか、そうじゃないのかはわからないけど。だから捨てられて今、俺はこんな惨めな幽霊になってこの部屋に囚われてるのかも。外に出ることもできず、何十年もさ。馬鹿みたいだよねえ』



　やっぱり、このままでいいはずがない。
　仁だって永遠にあの部屋にいるわけではないのだから。

――時計の針は、進めないといけないはずだ。俺も、あいつも。

　ありがとな、と仁は風人に礼を言った。その時の風人の渋い顔が忘れられない。
　きっと相当酷い顔になっていたのだろう。自分では、想像もつかないほどの。