チート勇者が転生してきたので、魔王と共に知恵と努力で撃退します。

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中

文字の大きさ
7 / 42

<7・勢い任せの本心>

しおりを挟む
「ああああああああ……」

 マーテルを説得するどころか、結局思い切り脅してしまった。城に一度戻ってきてから、紫苑は完全に頭を抱えてうずくまることになる。
 ちゃんと“話し合い”でなんとかしようと決めていたのに。これではどこのヤンキー女だ、といった有様だ。しかもキレた時だけ、火事場の馬鹿力でも出るのか、若干嬉しくない方向に腕力が上がっている気がするのである。
 いつもこうなのだ。冷静になんとかしようと思って、常に丁寧な言葉使いと態度を心がけているはずが。本気でムカっとくるとタガが外れてしまい、結局暴力に頼ってしまうのである。

「お、落ち着いてよ紫苑。確かにびっくりしたのは事実だけどさ、結果として情報は手に入ったわけだし……」
「そうかもしれないですけど、そうかもしれないですけど!結局、暴力と脅迫で解決なんて最低です……!しかも貴方にまであんなクチのききかたををををを」

 しかも、何がショックって、アーリアの目の前で醜態を晒したことである。彼に手を貸したいと思った理由の一つも、“あの人”の意思を継ぎたかったのと――彼がなんとなく“あの人”に似ているような気がしたからで。そんな相手の目の前で、みっともない姿を見せるなど本来言語道断であったはずなのだ。

「確かに、マーテルはちょっと……というかかなりアレでしたけど。話が通じないほど馬鹿ではないと思ってましたし、根気よく説得すればきっと通じないこともなかったと思うんです。本人だって罪悪感ゼロではないから、勇者をどうにもできなくて放置してしまっていた面もあるんでしょうし……」

 全く、これでは協力どころか足を引っ張るだけなのではないか。さっさと元の世界に返して貰った方が迷惑をかけずに済んだのではないか。
 城の入口でしょんぼりオドロ線を背負う紫苑に、優しい優しい魔王様はポンポンと背中を撫でてくれている。

「確かに、ちょっとやりすぎではあったかもね。まあ……殴るくらいしないと、実際まともなお話にならなかった気はするけど」

 彼が慰めてくれればくれるほど、いたたまれない気持ちになる。――いつも助けてくれた“あの人”を思い出してしまうから、余計に。

「私が君の行動を否定しても肯定してもさ、最後に結論を出すのは君だもの。失敗したと思うなら、それを次に生かしていけばいい、それだけだろう?何も人が死んだとか、取り返しのつかない失敗をしたわけではないし」
「そうですけど……」
「それに、実際君のおかげで有益な情報が手に入ったのは事実だ。……私もその考えには賛成しているんだよ。勇者をただ倒すだけでは、なんの解決もしない。彼らと女神に過ちを理解してもらって、二度とこのようなことが起きないように楔を打たないと。それこそ勇者を殺したって、第二第三の勇者が現れるようではなんの解決にもならない……そうだろう?」
「……ええ」

 アーリアの、言う通りだ。むしろ彼が下手に責めないからこそ、紫苑も自分をしっかり見つめて反省しなければと思っているとも言える。そして、彼が何を言おうと、己の行動にどんな意味を見出すかを決めるのは紫苑自身でしかない。失敗を反省することも大事だが、今ここにある結果を未来につなげることも同じだけ重要だ。
 いつまでもグダグダと悩んで足踏みをしていても、今が未来に繋がることはないのだから。

「ありがとうございます、アーリア」

 助けると、誰にも強制されずにそう決めたのは自分だ。
 ならば少なくとも目処が立つまではやりぬくべきである。相手に迷惑だ、とつっぱねられない限りは。

「お尋ねしたいことがあります。……西の地域がかなりの危機に陥っていることは知りましたが。他の二つ、東と南はどうなのでしょうか」
「どう、というと?」
「やはり、相当住民が被害を被ってはいるのですよね?どれくらい緊急性が高いのでしょうか。……今から“マサユキ”の件に関してやろうとしていることと同じことを最終的に残り二人にもうやるのなら、一部の工程は同時進行した方が早いのです。少々、人海戦術にはなってしまいますけど」

 自分がマーテルに聞き出した情報から、紫苑が勇者達にどんな働きかけをしようとしているのかは既にアーリアも気づいているはずである。何故このようなことを言い出すのかは、彼もよく理解していることだろう。なるほどね、と城の壁に背中を預けて頷くアーリア。

「最終的には、勇者達に現代日本に戻る、あるいは転生しなおして貰うほうが理想だ。そうでもしないと、彼らが持ってしまったチートスキルは消せないだろうからね」



『そ、そんなこと言われてもお……!い、一度あげちゃったチート能力は、解除できないからあ!そ、それに……本人が望まない限り、元の世界に帰すこともできないし……っ』



「ただ女神の言葉を借りるなら、そうするためには勇者達自らが現代日本に帰ってもいいと考えてもらうしかない。そのためには、彼らが元の世界でどのような人間であったか、何故異世界に永住することを望むようになったのか、その原因を探る必要がある。……なら、こちらから現代日本に調査員を派遣して、彼らのことを調べなければいけないわけだけど。その調査、できれば三人分同時進行した方がいいってことだよね?」
「そうです。僕一人を現世に戻すのに少々手間どっている貴方の姿を見るに、現世とリア・ユートピアを繋ぐ召喚魔法は少々面倒なものであるように感じました。何度も何度もあっちとこっちを行き来させるというのも、非常に時間がかかって非効率なのではないかと。ただ、そうなると……」
「西の地域が急ぎなら、他の地域のことに手をかけている時間はない。そして同時進行するなら、東の女神と南の女神からも、勇者の情報を入手するために説得しないといけないってことだね。現世に人員を派遣する前に」
「そういうことですね」
「ふむ……」

 ここまで話して、ふとアーリアが何かに気づいたように、はっとして顔を上げた。

「ちょっと待ってよ、紫苑。……もしかして君、全ての勇者をなんとかするまで、この世界にとどまってくれる気なの?有り難いけど、さすがにそこまで迷惑かけられないよ……!」

 わたわたしながら言う彼は、まるでクンクンと喉を鳴らす大きなゴールデンレトリーバーのよう。なんだか可愛い、と場違いなことを思ってしまう。
 だから紫苑は、卑怯とはわかっていながら――こんな物言いで返すのだ。

「迷惑なら、そうはっきり仰ってください。すぐに帰らせていただきますから」

 わかっている。
 段々自分は、この世界のことをどうこうしたいとか、困っている人を助けたいとか、興味があるというだけではなくて――この、魔王と呼ぶには優しすぎるこの人の傍に、一秒でも長くいたいと願うようになっているのだ。自分なんか近くにいたって、それでどうにかなると思っているわけではないけれど。
 ただ、あの身勝手な女神ではなく、暴走するばかりの勇者でもなく――この人が導く世界がどんなものになるのか、非常に興味を持っているのも確かなのである。失敗もするかもしれない。うまくいくかもしれない。先のことは何もわからない。でも、きっと――今あるこの世界より、マシな結果が待っているはずだと信じたくなるのだ。
 そういうものを、この人は持っている。本来魔王なんて、勇者に倒されてこそハッピーエンドであるはずなのに。

「そうでは、ないけど、でも……」
「ほんと、魔王様なのに貴方は優しすぎるんですよ。あくまで僕が此処に来たのは事故であって、女神が強引に人を殺して転生させたのとは全く違うじゃないですか。僕は死んで転生したわけでもないし、最終的には今望んで貴方に協力しているわけで。何も、罪悪感を覚える必要なんかないんです。貴方にそんな顔されると、僕もどうしていいのかわからなくなっちゃいますよ」

 ね、と。額の真ん中をツンとつついてみせると。初心な魔王様は一瞬きょとんとして、可愛らしく頬を染めてくれるではないか。
 明らかにあちらが年上だと思われるのに――なんだろうこれは、と紫苑は思う。いたいけなショタを弄ぶおねーさんの気持ちが、少しだけわかってしまったような気がするのだが。

「……と、とりあえず。西の地域に派遣した部下にもう一度連絡取ってみるよ」

 彼は赤くなった顔を隠すように、ぷい、と明後日の方向を向いて告げた。

「もし、まだなんとか余裕があるって話なら……君が言う通り、三つの案件は同時進行で調査した方が早いからね。これからの作戦も変わってくるし。……一刻も早く、北の国の人々だけじゃなくて……困っている他の国の人たちも助けないといけないことに、なんら変わりはないんだからさ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...