チート勇者が転生してきたので、魔王と共に知恵と努力で撃退します。

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<18・トラップマスター>

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「……と、恐らくマサユキの性格ならこう考えるのではないかと思うのですが」

 クラリスが、やや躊躇いがちに口を開く。

「今までの行動やプロファイリングからしても、マサユキは己の欲望や願いを叶える為ならばけして手段は選びません。他の人間に情けをかけるということもしないでしょう。ましてや彼の手元には今、強引に連れてきたエルフの女性という奴隷が二人もいます。片方を使い潰しても問題ない、と考える可能性がゼロではないのでは」
「まあそうだろうね。地雷があるかもしれないことを確認するため、その上を女性に歩かせるくらいのことは平気でするだろう」

 彼女の危惧は尤もだ。アーリアも、紫苑に提案を受けた時にそこをつっこんだものである。一発目はいい。ただなるべくマサユキを殺さずに異世界へ返すことを目標としている手前(それは殺人に罪悪感があるというのもあるが、女神が呼んだ勇者を殺害することで人々からの好感度が明確に下がるからというのもある)、罠の威力はさほど高いものにすることはできない。よって、怪我をするけれど死にはしない程度、の罠を設置する必要がある。
 ともなれば、一発引っかかったくらいでは、マサユキに致命的なダメージを与える可能性は限りなく低い。彼は怯えて畑をほっぽって逃げるタイプではない。自分が“邪魔をされた”と感じれば、徹底的にその意思に抗って自分のやりたいことを通そうとするタイプだろう。
 まずは、自分の能力で地雷が撤去できないかどうかを試すはず。そして次に、撤去できたかどうかを確認するため、奴隷にその上を歩かせて安全を確かめるくらいはやりかねない。彼にこの世界の爆弾の知識があれば他に撤去の方法もあっただろうが、生憎彼は異世界人で知識がなく、この世界に来てからもスローライフを行うために必要な知識以外はほとんど取り入れに行っていないはずだから尚更だ。

「まず、彼の能力で、私達が仕掛けた罠を排除することは高い確率で不可能だろう。彼は、自分が視認した存在にしか己の能力をかけることができない。つまり、“何処に存在するのか、あるかどうかもどんな種類かもわからない罠”に関しては対処することが極めて難しい」

 そして爆弾の位置を見つけるには、彼のような素人では直接自分か誰かの手で探させるしかないわけで。人を平気で奴隷にし、自分は楽な生活をすることだけを考える者が、危険を冒して畑の中の罠を捜すような真似をするとは思えないのである。

「次に、奴隷を歩かせて確認するであろうことから、罪もない奴隷の少女が傷つく危険性があることについてだけど。実はこれも問題がないんだよね」
「え?」
「あの畑に埋めたのは、地雷じゃないんだ。だから本来は踏んでも爆発しない。……なんせ爆発はオートじゃなくてマニュアルなんだから」



 ***



 まだ掃除が終わっていないマルレーネに、服を返すわけにはいかない。ゆえに、秋になり肌寒さを増したこの季節であっても、彼女は全裸で真昼の空の下を歩かされることになる。

「う、うう……!」

 がくがくと震えるのは寒さばかりではないだろう。裸足の足が、さく、と土を踏みしめる。彼女もわかっているのだ――己が今まさに、捨て駒として使われていることは。この畑の中に、たった今マサユキを吹き飛ばした地雷が埋まっているかもしれないということは。
 なんせ、命じたのはマサユキだ。地雷が埋まっているかどうか確認するために、畑を済から隅まで歩けとそう告げたのだから。埋まっている地雷が、どれほどの威力なのかはわからない。ただ、直撃でなくてもマサユキ手首と足を骨折させるくらいの威力はあったのである。直撃したら、それこそバラバラ死体になる可能性もゼロではあるまい。

「オラ、とっとと歩け!ぶっ殺されてえのか!」
「う、うう……!ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 腕に、肩に、唇に、豊満な胸に、性器に。じゃらじゃらとピアスをつけて飾られた全裸の女は、今までマサユキが見たどんなアダルトビデオよりも淫猥である。まだ水浴びをさせられた名残で全身がびしょ濡れ、髪や股間からポタポタと雫を滴らせているから尚更だ。絶景だなあ、とマサユキは杖を突いて椅子に腰掛けながらニヤリと笑う。妨害を受けたのは残念だし怪我は痛いが、あの反抗的なマルレーネに良い調教の機会ができたことは幸運に思うべきだろう。
 なんせエルフの女は肌が白く耳が大きい以外には、の人間とさほど変わらない見た目をしているのである。勿論髪の色や眼の色のバリエーションはあるが、それ以外は頭から足先まで普通の人間と同じような外見である。じっくり昨夜観察してやったのでわかっているが、恐らく性器も人間と同じだろう。まあ人間の子供が産めるのかまでは知らないが。なんにせよあくまで労働力兼鑑賞用であって、妻にするつもりで連れてきたのではないのである。働いた上で、自分を楽しませてくれる見た目ならなんの問題もないのだ。

「う、うう……ううう……!」

 恐怖と寒さで、少女の足ががくがくと震えている。ぎゅるる、とお腹が鳴る音が先ほどから繰り返し響き、そのたびに彼女はお尻を抑えるような動作をした。どうやらあまりの寒さにお腹を冷やしてしまったらしい。ハーブにクソをぶっかけたら殺すぞ、ともう一度脅しておくべきだろうか。肥料を撒くなら、まだ種を植える前の畑のところに放り出し、自分で耕すところまでやらせてからにするべきなのだ。ユージーンにやらせて気づいたが、どうにもエルフの女の排泄物はなかなか良い肥料になってくれているようで、以前使った畑ではいいかんじの作物が育っているのだから。
 いや、それはいい。今最も気にするべきは、マルレーネの尻の我慢がいつまで保つか、なんてことではないのだ。彼女は既に――畑の半分以上を歩いている。にも関わらず、罠らしきものが発動する気配がない。

――どういうことだ?罠は一個だけだったってのか?それとも、さっきの俺の能力で解除できてたのか?

 少しだけ、拍子抜けしてしまう。マルレーネが吹き飛ばされて残酷なバラバラ死体になるなら、それはそれで面白いと思っていたというのに。
 いや、一撃で死んだらそれはちょっと面白くない。手足が吹き飛んだ状態で、苦しみ抜いて死んでくれた方が見ている側としては楽しい。美しい女が、グチャグチャにドロドロドロになって死んでいくなんて想像しただけで股間にキそうだ。現世で自分を虐げた女どもと重ねて実にスカっとするだろう、と思って今か今かと楽しみにしていたというのに。

――もしくは地雷じゃなかった可能性だが……踏んで爆発したんだから、やっぱり普通に考えたら地雷だよなあ。他に罠の種類がある可能性……くそ、そんなの俺にはわかんえーし。

 そうこうしているうちに、マルレーネはハーブの隙間を縫うようにして、畑の全てを歩き終えてしまった。どうやら、本当に爆弾(?)は爆発しなかったらしい。他が不発だったか、撤去できたのか、本当に自分がたまたま一個目を踏み抜くという不運に見舞われただけなのか。なんにせよ、あんなにゆっくりチンタラとマルレーネが歩いても何も起きなかったのである。高い確率で、地雷はもはや存在しないと思って差し支えないだろう。

「くそ、ビビらせやがって。もう罠なんかねーじゃないかよ!」

 つまらないのと安堵したのとで大きく息を吐くマサユキ。畑の外へ這い出したマルレーネが、安堵でお腹がゆるくなったのかお尻を抑えて悶えている。このままではこっちが暴発しそうだ。あっちの畑に撒いてこい、ここで漏らすな!と彼女を怒鳴りつけ、自分は彼女が安全確認をした畑の中へと踏み入っていく。
 とにかく、せっかく綺麗な畑が手に入ったのに、さきほどの爆発で一部の区画が吹き飛んで土がえぐれてしまった状態だ。まずはそこから綺麗に直さなければ――そう思って何歩か歩いた、まさにその時だ。

「え」

 足元から、光が。

「な、ん……」

 なんだと、と。全てを言うことはできなかった。土の上に光る魔法陣。それを踏んだことに気づいた次の瞬間には、凄まじい突風に煽られていたのだから。
 そんな馬鹿な、とマサユキは思う。風に飛ばされ、高く舞い上がりながら思う。何故自分が踏み込んだら発動したのか。マルレーネを歩かせた時には何も起きなかったのはどうしてなのか。
 しかしそんな思考は、地面に折れた右腕を叩きつけてしまった激痛で強引にかき消されることとなった。

「ぐ、ぎゃあああああああああああああああ!」

 ああ、何故自分がこんな目に遭わなければいけないのか、と思う。
 自分はただ平穏無事で、厄介事のない生活送りたかっただけなのに。何も悪いことなんかしていないというのに。

――どうして俺が!俺ばっかりが!

 血走った目が捉えたのは、畑の隅に立てかけられた立札――その裏に貼り付けられた一枚の手紙である。激痛に泡を吹きながらも、マサユキは見た。その封筒に――“勇者本村昌之様”と書かれていたのだから。



 ***



「マジック・トラップってやつさ」

 アーリアは不安げな部下に、笑って説明してみせる。

「発動しなければ、ただの魔法陣。踏んでも何も起きない。ただし、トラップを仕掛けた人間には誰かが踏むとそれが識別することができるんだよね。で、狙った相手が踏んだ時だけ爆発のスイッチを押すことができるってわけ」
「そういえば、そのようなものもありましたね。あまりアーリア様は活用されなかったようですが」
「ちょっと残酷なのは事実だからねえ。本来は戦争で、防衛戦で使うようなものだし」

 今回は、西の地域にこの手の設置が得意なコージを派遣して成立させている。彼は遠くから望遠鏡でマサユキの畑を確認しつつ、感覚と照らし合わせてマジックトラップを起爆させたのだ。
 勇者と女神の支配領域に入っても、勇者に存在を気づかれなければ能力の対象にはならず、排除される心配もない。だから、勇者に気づかれない遠方から様子を探り、奴隷を傷つけないよう手動でトラップを起爆させたのだ。そうすることで、命令されているだけのマルレーネを巻き込んでしまうことを未然に防いだのである。

「そして、そうやって何故か自分にだけ起爆するトラップに苦しめられ、ボロボロにされたマサユキは。頭に血が上ったタイミングで気づくはずさ……畑の立て看板に貼り付けられていた、私達からの“招待状”に」

 あの手紙には。今回の罠を仕掛けたのが北の自分達であることが記されている。同時に、要望があるなら城まで来て話し合いに応じろ、とも。

「冷静で頭が回る人間なら、ここでひと呼吸置けるけど。果たしてマサユキはどうかな」

 ここまで計算通りに事が進んでいれば、あとは簡単だ。
 マサユキは、自分達の“知略”に抗えなくなっていることだろう。

「狙い通りに動いたなら……チェックメイトだ」
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