チート勇者が転生してきたので、魔王と共に知恵と努力で撃退します。

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<24・チートにも隙はある>

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 アヤナの能力は“特定の手順を踏むと、異性を己だけしか見ない恋奴隷にでき、その人物にどんな命令でも課すことができる”というものである。彼女も含め、全ての勇者の能力は全て調査済みだった。特に、東の土地の場合は調査に派遣する人間が“女性”であれば、アヤナの能力の影響下に置かれる心配がしなくていい分、調べるのはさほど難しいことではなかったのである。
 彼女の能力に関するレポートを確認しながら今、紫苑はアーリアと共に作戦会議中だった。他にも会議室には、クラリスやリョウスケを含めた隊長・幹部クラスが数名同席している。

「僕の見込みでは、恐らく一日程度は時間が稼げると思います」

 西のマサユキを倒した作戦を成功させたからか、紫苑が真っ先に発言することを咎める者はいなくなっていた。こんな若造がしゃしゃり出てすみません、と思わなくもないが。こちとら“これ”しか役にたてないのだから許して欲しいとも思ったりする。むしろ、本当にダメな意見を言ったら即刻却下してもらった方がいいくらいなのだ。何も、自分の意見を何が何でも通したいとは思っていないのである。

「エリーゼ達、東の女性陣は。あくまで洗脳ではなく、アヤナに人質を取られていやいや従っているだけの人達です。彼女らにとっては、人質の奪還こそが最優先事項。裏を返せば、今回アヤナの命令に従っても、人質を返して貰える保証が彼女達にはありませんでした。より明確な奪還プランがあれば、そちらに従いたくなるのは当然でしょう」
「だから、彼女達はむしろ私達の味方にできる、と踏んだわけだね」
「ええ。あのアヤナという勇者がいなくなれば、高確率で恋奴隷の洗脳は解かれるでしょうから。命令にズルズル従って嫌な事を強制され続けるより、アヤナを排除する方向に行った方がいいと思うのは彼女らの心理なら至極真っ当です」

 しかも、彼女達はクラリスと同じくオーガの種族。人間の男性など容易くひねり潰せそうなほどの巨躯と怪力を持ち合わせている。性格こそ温和であるようだが、戦闘能力は非常に高いという。――己の手で戦える自信があればこそ、この提案に乗ってくる可能性は高いと踏んでいた。
 ましてやそれが、アヤナを倒すまで直接アヤナに歯向かわなくていいやり方とあれば、尚更である。

「情報によれば、アヤナは紙での資料などを好み、あまり機械関係には強くない印象です。正確には、この世界のデジタルに強くない、と言えばいいでしょうか。作戦が、盗聴器や発信機で筒抜けになる可能性も低かった。実際、彼女らの体をクラリスが調べてくれたところ、そのテの機械の類や魔力の気配は感じられなかったみたいですからね」

 その上でだ。エリーゼに、アヤナと“交渉”させたのである。彼女には、“アーリアとの接触には成功したが、向こうがごねていて交渉に三日はかかりそうだ”とアヤナに伝えるように言ってあった。アヤナの能力は“東の地域の男性を奴隷にできること”に限定されているため、通信機越しに相手の心を覗いたりすることはできない。エリーゼが多少の嘘をついても、彼女がよほどの大根役者でなければそれが見抜かれる心配はないだろう。
 ここでその“三日”というこちらの提案が通れば良し。三日で準備が整うとはそうそう思っていまい。それが通らなければ、今度は“一日は欲しい”という妥協案が通りやすくなるだけである。一日の猶予は作ることができる可能性が高い、というのはつまりそういうことである。

「私が最終的に東の地に行く約束をするのは確定だ。ただ、勇者のチート能力が“強制的に効く”ものであるのは知っての通り。私であっても、東の地でアヤナに術をかけられてしまえば逆らえない可能性が高いと思う」

 ものすっごく不本意だけどね、と唇を尖らせるアーリア。アヤナの性格が破綻していて、恋人どころかお友達にもなりたくないタイプというのもあるだろうが。どうにも彼的には、アヤナのようなタイプは好みからよほど遠くに外れているらしい。――彼は、“弱い”人間が好きではないと言っていた。彼が考える一番弱い人間とは“己の弱さを認める勇気がない”人間だという。
 同感だ、と紫苑も思っていた。弱いだけなら罪はない。弱くても、そこから這い上がろうと足掻く人間は美しい。だが、己の弱さを他人のせいにして、そこから自力で立ち向かおうともせず罵倒ばかり投げつけるような者は――あまりにも醜く、愚かしいものだ。あのマサユキが、まさにそうであったように。

「さらに、東の地ではアヤナの洗脳が有効です。恐らく出会う先から、アヤナの恋奴隷たる男性達が敵として歯向かってくることは容易に想像できます。主に対処するべきはその二点でしょうね。アヤナ本人は前世でも現世でも体を鍛えることもせず、自宅に殆ど引きこもってばかりいるようですから。能力さえ発動させなければ、力押しで抑えこめる相手でしょう」
「問題は、その前段階ということですね」
「ええ、その通りです」

 クラリスの言葉に相槌を返しながら、紫苑は考える。マサユキの能力もそうだが、アヤナの能力にも当然穴はある。チートスキルに見えるからといって、そこに発動条件がないわけではない。むしろ、ある程度発動条件を設けているからこそ――異世界転生しただけの“ただの人間”に、勇者なんてものが務まるのだと言えるのかもしれなかった。いや、実際にその働きがこなせているかは別問題として。

「ポイントは二つ、ですね」

 タブレットに指を滑らせながら、紫苑は告げる。

「まず一つ。アヤナの能力は、マサユキ、リオウ同様に現状東の地でのみ有効です。つまり、東の地でいなければ異性であっても洗脳することができませんし……アヤナに洗脳された男性も、東の地から離れてしまえば恐らく正気に戻ります。むしろ、正気に戻って洗脳が解けてしまうからこそ、北の地には“人質で脅した女性たち”を差し向けるという非効率的なことをしなければいけなかったわけですから」

 チートスキル頼りである彼女だからこその、大きな弱点。男性達が邪魔になるならば、彼らを東の地の外まで誘導してしまうというテが使えるということ。そしてそれは“機械”や“魔法”の力を使っても問題ないということだ。

「もう一つは、アヤナが恋奴隷のチートスキルを発動させるための条件です。エリーゼが、自らの仲間が洗脳される場面を直接見ていたので情報の裏付けが取れましたね。……彼女は、相手の眼を見て、呪文を唱えなければ相手を恋奴隷にすることができません。ということは、マサユキと同じ手が使えます。アヤナに視認されなければ、男性であってもアヤナの魔法にかかる心配がないのです」
「もっと言うと、アヤナと眼を合わせなければいい、とも言えるね」
「ええ。こちらがハチマキなどで眼を塞いで近づくということも有効かもしれません。盲目で自由に動ける兵士の方がいたら今回は出番が回るかもしれませんね」

 さらに、眼があっても呪文を唱えられなければ効果が出ないなら、他にも手がありそうだ。つまり、呪文が唱えられる前にアヤナを倒すか、そもそも呪文が唱えられない状態にアヤナを追い込んでしまうか、だ。声を奪う魔法や、最悪物理的に喉を潰してしまえばなんとかなるかもしれない。女性相手に殺生なと言うかもしれないが、そもそもアヤナはそれ以上のことを繰り返しているトンデモ勇者だ。それくらいの罰でも見合わないことだろう。
 勿論、アヤナもそんな己の弱点は把握しているはず。だから呪文をかける時は、相手が絶対に逃げられない状態に追い込もうとしてくることは容易に想像できるが。相手が何をしてくるかがわかっていれば、対策の取りようもあるというわけだ。

「……ここから先は、まだ僕がこの世界に詳しくないからお尋ねするのですけど」

 そう言って、なんとなく紫苑が見つめた先は――壁の向こう側。
 その向こうには、魔法陣の儀式を行う場所がある。異世界から、誤って紫苑が呼び出されてしまった召喚部屋が。

「確か、マサユキに対処する時にもちらっと話が出た気がするんですが。……異世界から人を転送させることができるくらいですから、同じ世界と時間軸の中で、近距離で特定の存在を空間転移させる魔法や科学技術……は存在すると思っていいのでしょうか?」
「その認識であってますね」

 口を開いたのは、リョウスケだ。

「科学の力でも、魔法でも。空間転移する技術は確立されています。条件を揃えることさえできれば……特に、同じ世界で短距離を移動させるだけでいいのなら。複数人を同時に空間転移させる、というのも不可能ではないかと」
「その場合、どういう準備が必要になります?必要時間は?」
「魔法の場合は魔法陣の設置、機械の場合は装置の設置が不可欠になりますね。……使ってみますか?」

 彼も、なかなか優秀な人物であるようだ。一部隊に隊長を任せられるのだから戦闘能力のそれなりだろうが、何よりも頭が回るのが素晴らしい。紫苑が何を考えているか、何をしようとしているかなど既にお察しなのだろう。
 そう、空間転移が使えるなら、問題の一つはクリアが可能なのだ。問題は――そのための準備時間をいかに稼ぎ、かつ相手にそれを悟られないようにするか、だ。

「……無防備、無力。それは、時に最大の武器になる」

 ゆえに、紫苑は。反対されることを承知で、ある一つの提案をするのだ。

「アーリア。……アヤナとの直接交渉、僕に任せて貰うことはできませんか?」
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