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<32・踏み込む境界線>
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自分なんかにこんなに任せて貰っていいものか――という思いは未だにあるが。それでも、やらせて貰える仕事があるなら全力でこなすのが紫苑である。なんだかんだ、結局給料まで貰っているのだから尚更だ(その必要はないと最初は断ったのだが、事務やら作戦立案やらでこんなに世話になってるのだからと言ってアーリアが引かなかったのだ)。
やりたいことをやらせて貰っているだけなのに、という気持ちはある。現代日本とこの世界を行き来しながら、他の誰にも出来ないような――それこそ本を読む以上にわくわくした体験をさせて貰っているのだ。その上、自分が事務をこなすことで気になる人の役に立てると来ている。こんな役得過ぎる仕事が果たしてあっていいものだろうか。
「えっと、南の勇者の件に移るよりも前に……既に捕らえた西の勇者と東の勇者の件なのですが」
アーリアの持っているデバイスにデータを転送した上で、補足説明に入る。現代日本だろうが異世界だろうが、“ホウレンソウ”が大事なことに変わりはない。
「西のマサユキを捕らえてから約一ヶ月。東のアヤナは二十二日が過ぎました。どちらも“懲罰”時を除けば最低限の衣食住は確保しています。勿論通信機器や武器の類いは取り上げていますし、監視は二十四時間徹底した上指定の牢屋からは原則として出さないのが前提条件ですが」
「これ、懲罰内容?……なかなかえげつないことしてるね」
「マサユキに関してはほぼほぼ私が考えたものではないですけどね。ユージーンが全面的に任せてほしいと言ってきたので、その意思を尊重したまでです。幸い、優秀な治癒士がこちらにはおりますから、多少やり過ぎてもそうそう死ぬことはないですし。死んですぐなら蘇生魔法もあるとのことですから」
アーリアが顔をひきつらせるのも無理はない。マサユキに家族を奪われ、人としての尊厳を踏みにじられてきたユージーンの怒りは一度や二度の拷問で収まるものではなかった。自分がマサユキにされたことの殆どを実行させてほしいと自ら願い出てきたのだから、相当なものであったことだろう。
手元の資料には、この一ヶ月でマサユキがどのような懲罰を受けたのが詳細に記録されている。自分も中学生の女子ではあるが、正直どれもこれも同年代の子供達に文字だけでも見せたいものではないなと思うほどだ。詳しくは語らないが、ユージーンの“責め”はスカトロジーと性的なものに大きく偏っていた。どれもこれも激しい苦痛を伴い、尊厳を損なうものばかりである。自分の思い通りになる奴隷として使っていたはずの少女にそのような拷問を受けているマサユキの屈辱たるや、いかほどばかりかも想像がつかない。
元々は、マサユキを屈服させて元の世界へ転生することに承諾させるための拷問であり、同時に己がした行いを反省させるための行為でもあった。心を読む能力者はいないが、この世界の嘘発見器は実に優秀で正確だ。拷問から解放されたいがためにマサユキが嘘の反省を述べても当然すぐにバレるという寸法である。何より、それではユージーンの腹の虫が収まらないのだ。
とはいえ、さすがにもはや一ヶ月である。マサユキも流石にそろそろ痛みと屈辱から自分の罪を認めつつあるらしかった。もう少ししたら、彼も元の世界に転生し直す準備が始まることだろう。
そして、アヤナの方は。
「マサユキが完全に落ちるまで、あと少し。アヤナもアヤナで、あとそこまで時間はかからないものと思われます」
アヤナには、“貴女もいずれ同じ目に遭いますよ”と匂わせた上で、マサユキの拷問を四六時中モニターで流すという手法を取った。彼女はマサユキ以上に、捕まってもなかなか己がしたことを反省しようとせず、自己弁護ばかり繰り返していたためである。彼女が特に恋奴隷として“寵愛”し好き勝手に弄んでいたアースという青年からも、もう二度とこのようなことをしないように念入りに心を折って欲しいと頼まれていた。彼が懲罰係にならなかったのは、彼には他にやらねばならない仕事があったからというのが大きいようだ。アヤナにめちゃくちゃにされた故郷などを、どうにか自らの手で復興したい気持ちでいっぱいであるという。
同時に、やっと解放されるのだから、もう二度とアヤナの顔など見たくないという本心もあったらしい。無理もないことである。彼らは洗脳されていたが、その期間の記憶を失うことはできなかったのだから。
「アヤナには基本的に精神攻撃なんだね、理由は?」
純粋な眼で問いを投げてくるアーリア。当然の質問だろう。鞭打ち、排泄管理、金的と物理的に苦しい責めが多いマサユキに対して、アヤナはその拷問シーンを見せたり睡眠を阻害したりという精神的にクる拷問がメインだ。どちらがキツいとは一概に言えないかもしれないが、それでも不平等に感じる者は感じることだろう。実際は、彼らが傷つけたり殺した人の数はさほど変わらないものであるにも関わらず。
場合によっては、“アヤナは女性だから手心を加えたのか?”なんてことを言う者も出るかもしれない。あれだけ世界をかき回し、人を傷つけ苦しめておいて、女性だから減刑されるというのはなるほど平等ではないだろう。男女差別と言われても仕方あるまい。
ゆえに。二人の責めが異なるのは当然、他に理由があるのだ。
「アヤナの方が体力がなく、事故が起きやすいですからね。その上、マサユキ以上に己のしたことに反省の色が見えない様子でした」
マサユキにしたのと同じことをアヤナにすると、彼女はあっさりショック死してしまう可能性がある。それはまずい。現代への転生を受け入れないで自殺してしまうと、彼女は再びこの世界に転生者として戻ってきてしまう可能性が高いからだ。そして僅かでも記憶を持ち合わせていれば、たとえ勇者でなくチート能力を持っていなくても本質が何も変わらないことになってしまう。
ようは、サイコパスを再度送り出すなんてことはごめんなのだ。
アヤナの願望そのものは、人としての当たり前のものであったかもしれない。しかし、誰かを嫌いだと思った人間が多くてもそれを公の場で口にする者が少ないように、口にしてもそれが殺意にまで至ることなど稀であり、ましてや実行しようとする者など殆どいないように――多くの人間は理性というものできちんと蓋をして生きていくことができるイキモノである。やってはいけないことがわかっているし、やった後の責任を恐れるならそうそう“ 出来ないこと”であるからだ。
しかし、マサユキもアヤナも、その理性の蓋が完全に外れてしまっている。己の欲望のためならば、人を殺すことも犯すことも厭わない。奪うことを息をするように正当化していく。――例え力を失ったとしても。そんな人間をそのまま解き放ったらどうなるか、なんて。考えるだけで恐ろしいことではあるまいか。
だから、徹底的に心を砕いて己を省みさせなければならないのである。アヤナを殺さずに苦しめる最大の方法がこれだった。ただそれだけのことなのだ。
「反省して、元の世界に転生し直すことを同意するまで……間違っても死なせるわけにはいきませんから。同時に、ユージーンのように積極的に断罪に加担したい者がいなかった以上、懲罰は北の仲間の誰かに任せねばなりません。……皆さん優しいですからね。女の子を苛めぬくような行為に荷担させるのは、少々酷というものです。僕だって、何もリョナ趣味があるわけじゃないですし。そこを甘いと言われてしまうと否定できませんが」
「まあ精神攻撃と睡眠妨害だけでも相当ヤられてるのは事実だろうしね。いいんじゃないかな、それで。多少心苦しくはあるけどさ」
本来は、マサユキとアヤナのことも過剰に罰したくないのがアーリアなのだろう。それでも紫苑が言い出したことを否定しないのは、そうしなければ面子が立たないことも釣り合わないことも理解しているからに他なるまい。
悲しいことだが。罰が確かに下されることを知っているからこそ、法律や規則は機能するのである。
「次に、リオウの件について。現世で多少集めることができた情報と、リオウと接触した住民や南から逃げてきた人々の目撃証言、そこからの推察をまとめてあります」
気持ちを切り替えなければ。紫苑は話を進める。マサユキとアヤナのことも大事だが、とりあえずは無力化できている彼らに関することは後回しだ。
二人が倒されたことは、南のリオウの耳にも入ってきているはず。近く攻めてくることは想像に難くない。その前に、一刻も早く対処法を考える必要があるだろう。
「リオウは“どんな相手でも、それを上回る戦闘能力を得ることができる”能力者です。サシで戦えば必ずこちらが敗北します。アヤナと違って呪文を使う、目を合わせるといった条件もないので、戦いになった時点で即負けが確定すると思っていいでしょうね」
彼も彼で、厄介な能力者だ。勿論、それでも全く発動条件がないわけではないのだが――。
「不意打ちならば、能力が適応されない可能性は高いでしょう。が、恐らく直前で気付かれた時点で意味がなくなります。彼の能力は、ある程度遠距離攻撃が可能な敵であっても有効であるようですから。住人達の証言が正しければ、おおよそ五十メートル近くの距離は離れてないと能力に引っ掛かるものと思われます」
「五十メートルか……厳しいね。アヤナと同じように、本人を南の地の外まで飛ばすのは難しそうか」
「あれは、機械を手動で操作する兵隊が近くにいて準備が可能か、もしくは別の厳しい条件を課さなければいけませんからね。向こうもそれは予想しているでしょうし。まあ、一応作戦は、ないわけではないのですが……」
そこまで言いかけて、紫苑は少しだけ迷った。この作戦を告げたら、きっとアーリアは怒る――怒ってくれるのだろうと思ったからだ。
同時に。その前にどうしても尋ねたいことがあった。ここ数日でどんどん強くなる予感。その意味を、どうしても確かめたいのである。
だから、紫苑は。
「……すみません、お忙しいのは重々承知しているのですけど。その前にどうしてもアーリアに訊いておきたいことがあるんです」
空気を読んでいないことを承知で、思いきって問うことにしたのだ。
「貴方は本当に……前世について、何も覚えてないのですか?」
アーリアは。
本当に、自分が好きだった――あの人、なのだろうか。
やりたいことをやらせて貰っているだけなのに、という気持ちはある。現代日本とこの世界を行き来しながら、他の誰にも出来ないような――それこそ本を読む以上にわくわくした体験をさせて貰っているのだ。その上、自分が事務をこなすことで気になる人の役に立てると来ている。こんな役得過ぎる仕事が果たしてあっていいものだろうか。
「えっと、南の勇者の件に移るよりも前に……既に捕らえた西の勇者と東の勇者の件なのですが」
アーリアの持っているデバイスにデータを転送した上で、補足説明に入る。現代日本だろうが異世界だろうが、“ホウレンソウ”が大事なことに変わりはない。
「西のマサユキを捕らえてから約一ヶ月。東のアヤナは二十二日が過ぎました。どちらも“懲罰”時を除けば最低限の衣食住は確保しています。勿論通信機器や武器の類いは取り上げていますし、監視は二十四時間徹底した上指定の牢屋からは原則として出さないのが前提条件ですが」
「これ、懲罰内容?……なかなかえげつないことしてるね」
「マサユキに関してはほぼほぼ私が考えたものではないですけどね。ユージーンが全面的に任せてほしいと言ってきたので、その意思を尊重したまでです。幸い、優秀な治癒士がこちらにはおりますから、多少やり過ぎてもそうそう死ぬことはないですし。死んですぐなら蘇生魔法もあるとのことですから」
アーリアが顔をひきつらせるのも無理はない。マサユキに家族を奪われ、人としての尊厳を踏みにじられてきたユージーンの怒りは一度や二度の拷問で収まるものではなかった。自分がマサユキにされたことの殆どを実行させてほしいと自ら願い出てきたのだから、相当なものであったことだろう。
手元の資料には、この一ヶ月でマサユキがどのような懲罰を受けたのが詳細に記録されている。自分も中学生の女子ではあるが、正直どれもこれも同年代の子供達に文字だけでも見せたいものではないなと思うほどだ。詳しくは語らないが、ユージーンの“責め”はスカトロジーと性的なものに大きく偏っていた。どれもこれも激しい苦痛を伴い、尊厳を損なうものばかりである。自分の思い通りになる奴隷として使っていたはずの少女にそのような拷問を受けているマサユキの屈辱たるや、いかほどばかりかも想像がつかない。
元々は、マサユキを屈服させて元の世界へ転生することに承諾させるための拷問であり、同時に己がした行いを反省させるための行為でもあった。心を読む能力者はいないが、この世界の嘘発見器は実に優秀で正確だ。拷問から解放されたいがためにマサユキが嘘の反省を述べても当然すぐにバレるという寸法である。何より、それではユージーンの腹の虫が収まらないのだ。
とはいえ、さすがにもはや一ヶ月である。マサユキも流石にそろそろ痛みと屈辱から自分の罪を認めつつあるらしかった。もう少ししたら、彼も元の世界に転生し直す準備が始まることだろう。
そして、アヤナの方は。
「マサユキが完全に落ちるまで、あと少し。アヤナもアヤナで、あとそこまで時間はかからないものと思われます」
アヤナには、“貴女もいずれ同じ目に遭いますよ”と匂わせた上で、マサユキの拷問を四六時中モニターで流すという手法を取った。彼女はマサユキ以上に、捕まってもなかなか己がしたことを反省しようとせず、自己弁護ばかり繰り返していたためである。彼女が特に恋奴隷として“寵愛”し好き勝手に弄んでいたアースという青年からも、もう二度とこのようなことをしないように念入りに心を折って欲しいと頼まれていた。彼が懲罰係にならなかったのは、彼には他にやらねばならない仕事があったからというのが大きいようだ。アヤナにめちゃくちゃにされた故郷などを、どうにか自らの手で復興したい気持ちでいっぱいであるという。
同時に、やっと解放されるのだから、もう二度とアヤナの顔など見たくないという本心もあったらしい。無理もないことである。彼らは洗脳されていたが、その期間の記憶を失うことはできなかったのだから。
「アヤナには基本的に精神攻撃なんだね、理由は?」
純粋な眼で問いを投げてくるアーリア。当然の質問だろう。鞭打ち、排泄管理、金的と物理的に苦しい責めが多いマサユキに対して、アヤナはその拷問シーンを見せたり睡眠を阻害したりという精神的にクる拷問がメインだ。どちらがキツいとは一概に言えないかもしれないが、それでも不平等に感じる者は感じることだろう。実際は、彼らが傷つけたり殺した人の数はさほど変わらないものであるにも関わらず。
場合によっては、“アヤナは女性だから手心を加えたのか?”なんてことを言う者も出るかもしれない。あれだけ世界をかき回し、人を傷つけ苦しめておいて、女性だから減刑されるというのはなるほど平等ではないだろう。男女差別と言われても仕方あるまい。
ゆえに。二人の責めが異なるのは当然、他に理由があるのだ。
「アヤナの方が体力がなく、事故が起きやすいですからね。その上、マサユキ以上に己のしたことに反省の色が見えない様子でした」
マサユキにしたのと同じことをアヤナにすると、彼女はあっさりショック死してしまう可能性がある。それはまずい。現代への転生を受け入れないで自殺してしまうと、彼女は再びこの世界に転生者として戻ってきてしまう可能性が高いからだ。そして僅かでも記憶を持ち合わせていれば、たとえ勇者でなくチート能力を持っていなくても本質が何も変わらないことになってしまう。
ようは、サイコパスを再度送り出すなんてことはごめんなのだ。
アヤナの願望そのものは、人としての当たり前のものであったかもしれない。しかし、誰かを嫌いだと思った人間が多くてもそれを公の場で口にする者が少ないように、口にしてもそれが殺意にまで至ることなど稀であり、ましてや実行しようとする者など殆どいないように――多くの人間は理性というものできちんと蓋をして生きていくことができるイキモノである。やってはいけないことがわかっているし、やった後の責任を恐れるならそうそう“ 出来ないこと”であるからだ。
しかし、マサユキもアヤナも、その理性の蓋が完全に外れてしまっている。己の欲望のためならば、人を殺すことも犯すことも厭わない。奪うことを息をするように正当化していく。――例え力を失ったとしても。そんな人間をそのまま解き放ったらどうなるか、なんて。考えるだけで恐ろしいことではあるまいか。
だから、徹底的に心を砕いて己を省みさせなければならないのである。アヤナを殺さずに苦しめる最大の方法がこれだった。ただそれだけのことなのだ。
「反省して、元の世界に転生し直すことを同意するまで……間違っても死なせるわけにはいきませんから。同時に、ユージーンのように積極的に断罪に加担したい者がいなかった以上、懲罰は北の仲間の誰かに任せねばなりません。……皆さん優しいですからね。女の子を苛めぬくような行為に荷担させるのは、少々酷というものです。僕だって、何もリョナ趣味があるわけじゃないですし。そこを甘いと言われてしまうと否定できませんが」
「まあ精神攻撃と睡眠妨害だけでも相当ヤられてるのは事実だろうしね。いいんじゃないかな、それで。多少心苦しくはあるけどさ」
本来は、マサユキとアヤナのことも過剰に罰したくないのがアーリアなのだろう。それでも紫苑が言い出したことを否定しないのは、そうしなければ面子が立たないことも釣り合わないことも理解しているからに他なるまい。
悲しいことだが。罰が確かに下されることを知っているからこそ、法律や規則は機能するのである。
「次に、リオウの件について。現世で多少集めることができた情報と、リオウと接触した住民や南から逃げてきた人々の目撃証言、そこからの推察をまとめてあります」
気持ちを切り替えなければ。紫苑は話を進める。マサユキとアヤナのことも大事だが、とりあえずは無力化できている彼らに関することは後回しだ。
二人が倒されたことは、南のリオウの耳にも入ってきているはず。近く攻めてくることは想像に難くない。その前に、一刻も早く対処法を考える必要があるだろう。
「リオウは“どんな相手でも、それを上回る戦闘能力を得ることができる”能力者です。サシで戦えば必ずこちらが敗北します。アヤナと違って呪文を使う、目を合わせるといった条件もないので、戦いになった時点で即負けが確定すると思っていいでしょうね」
彼も彼で、厄介な能力者だ。勿論、それでも全く発動条件がないわけではないのだが――。
「不意打ちならば、能力が適応されない可能性は高いでしょう。が、恐らく直前で気付かれた時点で意味がなくなります。彼の能力は、ある程度遠距離攻撃が可能な敵であっても有効であるようですから。住人達の証言が正しければ、おおよそ五十メートル近くの距離は離れてないと能力に引っ掛かるものと思われます」
「五十メートルか……厳しいね。アヤナと同じように、本人を南の地の外まで飛ばすのは難しそうか」
「あれは、機械を手動で操作する兵隊が近くにいて準備が可能か、もしくは別の厳しい条件を課さなければいけませんからね。向こうもそれは予想しているでしょうし。まあ、一応作戦は、ないわけではないのですが……」
そこまで言いかけて、紫苑は少しだけ迷った。この作戦を告げたら、きっとアーリアは怒る――怒ってくれるのだろうと思ったからだ。
同時に。その前にどうしても尋ねたいことがあった。ここ数日でどんどん強くなる予感。その意味を、どうしても確かめたいのである。
だから、紫苑は。
「……すみません、お忙しいのは重々承知しているのですけど。その前にどうしてもアーリアに訊いておきたいことがあるんです」
空気を読んでいないことを承知で、思いきって問うことにしたのだ。
「貴方は本当に……前世について、何も覚えてないのですか?」
アーリアは。
本当に、自分が好きだった――あの人、なのだろうか。
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