チート勇者が転生してきたので、魔王と共に知恵と努力で撃退します。

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中

文字の大きさ
32 / 42

<32・踏み込む境界線>

しおりを挟む
 自分なんかにこんなに任せて貰っていいものか――という思いは未だにあるが。それでも、やらせて貰える仕事があるなら全力でこなすのが紫苑である。なんだかんだ、結局給料まで貰っているのだから尚更だ(その必要はないと最初は断ったのだが、事務やら作戦立案やらでこんなに世話になってるのだからと言ってアーリアが引かなかったのだ)。
 やりたいことをやらせて貰っているだけなのに、という気持ちはある。現代日本とこの世界を行き来しながら、他の誰にも出来ないような――それこそ本を読む以上にわくわくした体験をさせて貰っているのだ。その上、自分が事務をこなすことで気になる人の役に立てると来ている。こんな役得過ぎる仕事が果たしてあっていいものだろうか。

「えっと、南の勇者の件に移るよりも前に……既に捕らえた西の勇者と東の勇者の件なのですが」

 アーリアの持っているデバイスにデータを転送した上で、補足説明に入る。現代日本だろうが異世界だろうが、“ホウレンソウ”が大事なことに変わりはない。

「西のマサユキを捕らえてから約一ヶ月。東のアヤナは二十二日が過ぎました。どちらも“懲罰”時を除けば最低限の衣食住は確保しています。勿論通信機器や武器の類いは取り上げていますし、監視は二十四時間徹底した上指定の牢屋からは原則として出さないのが前提条件ですが」
「これ、懲罰内容?……なかなかえげつないことしてるね」
「マサユキに関してはほぼほぼ私が考えたものではないですけどね。ユージーンが全面的に任せてほしいと言ってきたので、その意思を尊重したまでです。幸い、優秀な治癒士がこちらにはおりますから、多少やり過ぎてもそうそう死ぬことはないですし。死んですぐなら蘇生魔法もあるとのことですから」

 アーリアが顔をひきつらせるのも無理はない。マサユキに家族を奪われ、人としての尊厳を踏みにじられてきたユージーンの怒りは一度や二度の拷問で収まるものではなかった。自分がマサユキにされたことの殆どを実行させてほしいと自ら願い出てきたのだから、相当なものであったことだろう。
 手元の資料には、この一ヶ月でマサユキがどのような懲罰を受けたのが詳細に記録されている。自分も中学生の女子ではあるが、正直どれもこれも同年代の子供達に文字だけでも見せたいものではないなと思うほどだ。詳しくは語らないが、ユージーンの“責め”はスカトロジーと性的なものに大きく偏っていた。どれもこれも激しい苦痛を伴い、尊厳を損なうものばかりである。自分の思い通りになる奴隷として使っていたはずの少女にそのような拷問を受けているマサユキの屈辱たるや、いかほどばかりかも想像がつかない。
 元々は、マサユキを屈服させて元の世界へ転生することに承諾させるための拷問であり、同時に己がした行いを反省させるための行為でもあった。心を読む能力者はいないが、この世界の嘘発見器は実に優秀で正確だ。拷問から解放されたいがためにマサユキが嘘の反省を述べても当然すぐにバレるという寸法である。何より、それではユージーンの腹の虫が収まらないのだ。
 とはいえ、さすがにもはや一ヶ月である。マサユキも流石にそろそろ痛みと屈辱から自分の罪を認めつつあるらしかった。もう少ししたら、彼も元の世界に転生し直す準備が始まることだろう。
 そして、アヤナの方は。

「マサユキが完全に落ちるまで、あと少し。アヤナもアヤナで、あとそこまで時間はかからないものと思われます」

 アヤナには、“貴女もいずれ同じ目に遭いますよ”と匂わせた上で、マサユキの拷問を四六時中モニターで流すという手法を取った。彼女はマサユキ以上に、捕まってもなかなか己がしたことを反省しようとせず、自己弁護ばかり繰り返していたためである。彼女が特に恋奴隷として“寵愛”し好き勝手に弄んでいたアースという青年からも、もう二度とこのようなことをしないように念入りに心を折って欲しいと頼まれていた。彼が懲罰係にならなかったのは、彼には他にやらねばならない仕事があったからというのが大きいようだ。アヤナにめちゃくちゃにされた故郷などを、どうにか自らの手で復興したい気持ちでいっぱいであるという。
 同時に、やっと解放されるのだから、もう二度とアヤナの顔など見たくないという本心もあったらしい。無理もないことである。彼らは洗脳されていたが、その期間の記憶を失うことはできなかったのだから。

「アヤナには基本的に精神攻撃なんだね、理由は?」

 純粋な眼で問いを投げてくるアーリア。当然の質問だろう。鞭打ち、排泄管理、金的と物理的に苦しい責めが多いマサユキに対して、アヤナはその拷問シーンを見せたり睡眠を阻害したりという精神的にクる拷問がメインだ。どちらがキツいとは一概に言えないかもしれないが、それでも不平等に感じる者は感じることだろう。実際は、彼らが傷つけたり殺した人の数はさほど変わらないものであるにも関わらず。
 場合によっては、“アヤナは女性だから手心を加えたのか?”なんてことを言う者も出るかもしれない。あれだけ世界をかき回し、人を傷つけ苦しめておいて、女性だから減刑されるというのはなるほど平等ではないだろう。男女差別と言われても仕方あるまい。
 ゆえに。二人の責めが異なるのは当然、他に理由があるのだ。

「アヤナの方が体力がなく、事故が起きやすいですからね。その上、マサユキ以上に己のしたことに反省の色が見えない様子でした」

 マサユキにしたのと同じことをアヤナにすると、彼女はあっさりショック死してしまう可能性がある。それはまずい。現代への転生を受け入れないで自殺してしまうと、彼女は再びこの世界に転生者として戻ってきてしまう可能性が高いからだ。そして僅かでも記憶を持ち合わせていれば、たとえ勇者でなくチート能力を持っていなくても本質が何も変わらないことになってしまう。
 ようは、サイコパスを再度送り出すなんてことはごめんなのだ。
 アヤナの願望そのものは、人としての当たり前のものであったかもしれない。しかし、誰かを嫌いだと思った人間が多くてもそれを公の場で口にする者が少ないように、口にしてもそれが殺意にまで至ることなど稀であり、ましてや実行しようとする者など殆どいないように――多くの人間は理性というものできちんと蓋をして生きていくことができるイキモノである。やってはいけないことがわかっているし、やった後の責任を恐れるならそうそう“ 出来ないこと”であるからだ。
 しかし、マサユキもアヤナも、その理性の蓋が完全に外れてしまっている。己の欲望のためならば、人を殺すことも犯すことも厭わない。奪うことを息をするように正当化していく。――例え力を失ったとしても。そんな人間をそのまま解き放ったらどうなるか、なんて。考えるだけで恐ろしいことではあるまいか。
 だから、徹底的に心を砕いて己を省みさせなければならないのである。アヤナを殺さずに苦しめる最大の方法がこれだった。ただそれだけのことなのだ。

「反省して、元の世界に転生し直すことを同意するまで……間違っても死なせるわけにはいきませんから。同時に、ユージーンのように積極的に断罪に加担したい者がいなかった以上、懲罰は北の仲間の誰かに任せねばなりません。……皆さん優しいですからね。女の子を苛めぬくような行為に荷担させるのは、少々酷というものです。僕だって、何もリョナ趣味があるわけじゃないですし。そこを甘いと言われてしまうと否定できませんが」
「まあ精神攻撃と睡眠妨害だけでも相当ヤられてるのは事実だろうしね。いいんじゃないかな、それで。多少心苦しくはあるけどさ」

 本来は、マサユキとアヤナのことも過剰に罰したくないのがアーリアなのだろう。それでも紫苑が言い出したことを否定しないのは、そうしなければ面子が立たないことも釣り合わないことも理解しているからに他なるまい。
 悲しいことだが。罰が確かに下されることを知っているからこそ、法律や規則は機能するのである。

「次に、リオウの件について。現世で多少集めることができた情報と、リオウと接触した住民や南から逃げてきた人々の目撃証言、そこからの推察をまとめてあります」

 気持ちを切り替えなければ。紫苑は話を進める。マサユキとアヤナのことも大事だが、とりあえずは無力化できている彼らに関することは後回しだ。
 二人が倒されたことは、南のリオウの耳にも入ってきているはず。近く攻めてくることは想像に難くない。その前に、一刻も早く対処法を考える必要があるだろう。

「リオウは“どんな相手でも、それを上回る戦闘能力を得ることができる”能力者です。サシで戦えば必ずこちらが敗北します。アヤナと違って呪文を使う、目を合わせるといった条件もないので、戦いになった時点で即負けが確定すると思っていいでしょうね」

 彼も彼で、厄介な能力者だ。勿論、それでも全く発動条件がないわけではないのだが――。

「不意打ちならば、能力が適応されない可能性は高いでしょう。が、恐らく直前で気付かれた時点で意味がなくなります。彼の能力は、ある程度遠距離攻撃が可能な敵であっても有効であるようですから。住人達の証言が正しければ、おおよそ五十メートル近くの距離は離れてないと能力に引っ掛かるものと思われます」
「五十メートルか……厳しいね。アヤナと同じように、本人を南の地の外まで飛ばすのは難しそうか」
「あれは、機械を手動で操作する兵隊が近くにいて準備が可能か、もしくは別の厳しい条件を課さなければいけませんからね。向こうもそれは予想しているでしょうし。まあ、一応作戦は、ないわけではないのですが……」

 そこまで言いかけて、紫苑は少しだけ迷った。この作戦を告げたら、きっとアーリアは怒る――怒ってくれるのだろうと思ったからだ。
 同時に。その前にどうしても尋ねたいことがあった。ここ数日でどんどん強くなる予感。その意味を、どうしても確かめたいのである。
 だから、紫苑は。

「……すみません、お忙しいのは重々承知しているのですけど。その前にどうしてもアーリアに訊いておきたいことがあるんです」

 空気を読んでいないことを承知で、思いきって問うことにしたのだ。

「貴方は本当に……前世について、何も覚えてないのですか?」

 アーリアは。
 本当に、自分が好きだった――あの人、なのだろうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...