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<40・弱者の足掻き>
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恐らく、ここまでは紫苑の狙い通り。なるほど、自分は戦いというものを少々勘違いしていたのかもしれない――とリオウは思う。
単純に、力と力をぶつけあうだけが戦闘ではない。相手の思考を読み切り、先んじて一手を放ち、罠にかけて有利に事を運ぶ。実際、向こうはリオウからすれば圧倒的に格下だ。それ以外にまともな“戦い”をする手段などなかったと言えばそれまでなのだろうが。
――いいだろう。お前のその誘いに乗ってやる。見せてみろ、弱者の足掻きという奴を……!
現在自分に分かっているのは、此処が南の地の森のどこかであるということだけ。空気がさほど薄いと感じないことや気温などから、さほど標高が高い場所ではなさそうだ。屋敷が見えない程度、されど南の地を脱するほどの距離ではない。それでも彼女が自分をここに飛ばしたからには、必ずなんらかの理由があるはずだ。
そう、例えば――南の地を出るところまで自分を誘導するとか。
もしくは、仲間達が大勢隠れていて、波状攻撃で自分を仕留める気でいるとか。
――やってみろ!貴様の浅ましい策など、全て潰して勝利してくれる!
リオウの気迫に気づいたか、それもまた作戦なのか。紫苑が、じり、と数歩後ろに後退した。距離を取って自分を遠距離攻撃で仕留める作戦なのか。しかし、彼女はさほど大きな荷物は持っていない。制服の腰にポーチを身につけているだけだ。あれでは本当に小型の銃かナイフくらいしか入らないだろう。
そもそも、この世界に転生してきて自分でも実感したことだが。銃なんてものは、訓練もしていない素人が当てられるものではないのである。勿論至近距離から撃てばその限りではないが、ここまで離れた状態で彼女が銃弾を自分に当てるのは相当厳しいのではなかろうか。そもそも、口径が小さな銃は基本的に射程も短いと相場が決まっていたはずである。
そして、大きな銃は持ち運びが大変なのも勿論――しっかりと支えられる筋力、体格が要求されるのは言うまでもないことだ。よくフィクションでは軽々と片手で銃をぶっぱなしている場面も見受けられるが、あれはよほど慣れた人間と軽量の銃でなければ厳しかったはず。下手をすれば、撃った反動で手首が脱臼することもありえる。それほどまでに銃というものの威力は馬鹿にならないのだ。
――そして、こいつは魔法が使えない。異世界人だから魔力そのものがないからな。遠距離から魔法を撃ってくることも不可能なはず……どうする?
相手の出方を伺う余裕があるのは、こちらの方が圧倒的に強者であるからこそ。
リオウが腰に差した銃に手を伸ばそうとした、次の瞬間。
「!」
紫苑が、動いた。彼女は転がるようにして近くの木の後ろに滑り込む。隠れて奇襲するつもりか、と思った次の瞬間。
聴覚が、あらぬ方向からの風切音を拾った。はっとして背後を振り返ったリオウは瞠目する。大きな木の丸太のようなものが、後ろからリオウを殴打せんと迫ってくるではないか。
「っち!古典的な……!」
前方に転がり、攻撃を回避する。だが、攻撃は一つではなかった。転がった先、眼前に迫るのは別の巨木だ。倒れてきたそれに対し、リオウは銃ではなく剣を抜くことで対処する。
「“帝王一閃”!」
音速を超える居合抜きで、敵を一刀両断する技が炸裂した。巨木は真っ二つになり、リオウを避けるようにして倒れていく。だが。
――くそ、普段より速度が遅い……!やはり、あの女と対峙しているせいか!
やはりこれが狙いか、とリオウは舌打ちした。近くに紫苑がいて、明らかな殺意を向けてきている。そのせいで能力が発動し、“彼女をある程度上回る”程度でレベルが固定されてしまっているようだ。残念ながらというべきか当然というべきか、紫苑の身体能力は素の状態のリオウより数段劣る。当然、それよりある程度レベルが上になったとて、普段と比べると若干弱体化してしまうことは否めないのだ。
既に覚えている技などは出せなくもない。が、それも威力が落ちてしまっている。巨木を叩き切ることはできたが、技を出す速度がかなり遅い。おかげで、罠に対処している間に紫苑の姿を完全に見失ってしまっていた。
――小癪な真似を!なるほど、この近隣に飛ばしたのは、密かに大量の罠を仕掛けていたためか……!
だが、彼女は隠れていても、まだ近くにいるのは間違いない。リオウの能力は、“一定範囲内にいる敵のうち、最も強いレベルの相手にあわせて能力を上回らせることができる”というものだ。彼女が近くにいるからこそ弱体化されてしまっているわけで。離れてしまったらその効果はなくなってしまうはずである。
恐らく、それこそが紫苑の狙い。自分と対峙させることで能力値を下げさせ、そこを潜んでいる仲間達が袋叩きにしようという算段だろう。だからこそ、紫苑が交渉・ひきつけ役になったのだ。自分が軍の中で、一番弱い存在であることを自覚していたから。
――だが、それでも俺の力が貴様より上であることは変わりない……!さっさと貴様を叩きのめすか、潜んでいる貴様の仲間を全て倒してしまえばいい、それだけのこと!
再び風切音がした。紫苑は魔法が使えないから、マジックトラップの類を扱うことができない。そして、この近隣に仲間達の手を借りてトラップを仕掛けまくったといっても、南の地の支配者であるリオウとその手下達の目を盗んで仕掛けられる量には限りがあったはず。
――ゆえに、罠の種類は簡単に隠せるような規模のもの、古典的なもの、設置に時間がかからないものに限られる!
再び丸太の強襲。今度はそれを避けるわけではなく、ひらりと地面を蹴って飛び乗ることを選んだ。なんとか、それくらいが出来る身体能力は維持できているらしい。丸太の上に揺られつつ、少し高い位置から周囲を見回す。紫苑の青味がかった髪色とセーラー服の白はそれなりに目立つ。足も速くはない。木立の隙間を逃げる彼女を視認するのは、さほど難しいことではなかった。
――あっちか。
丸太から飛び降りたところで、カチリ、と何かを踏む気配。それが何か、を認識するよりも前に木の上に飛び上がっていた。
ジャキン!と音を立てて金属が噛み合う。野生動物を捕まえるようなトラバサミだ。足を挟まれたら大怪我は必死だっただろう。あれは手動で動くタイプではない。どうやら紫苑達が仕掛けておいた罠には、手動で動かすタイプと自動で発動するタイプの罠が混在していたようだ。
だが、自動で発動するということは、一歩間違えば自分が引っかかる可能性もあるということ。その罠の位置を全て覚えて、引っかからないように避けて逃げているとしたら――大した度胸と言わざるをえない。
――罠で足止めしつつ、自分を追わせて仲間達のところに誘導する、ということか?いくら罠を使っても、この程度で俺を仕留められるとは思っていないはずだが。
トラバサミを避けて着地、少し距離が離れた彼女を追いかける。そして追いかけてはトラップが襲来、それを繰り返しながらリオウは違和感を感じ始めていた。
てっきり、彼女は隙を見て仲間達に自分を襲わせるつもりで待機させているのかと思ったが、待てど暮らせど奇襲が発生する気配がない。襲ってくるのは事前に仕掛けられたであろう罠の数々のみだ。
そもそも、一体何処に逃げているのかも定かではない。自分と彼女では体力の差など明白だ。いくらトラップが満載であろうと、いずれ疲れ果てれば逃げきれなくなることはわかりきっているはずだが。
――いずれにせよ、このまま奴を追い続けるのはまずそうだ。どこかに誘い込まれていることだけは確かだからな……!
その目論見を看破して倒してやりたかったが、残念ながらそれは難しそうだ。意味もない悪あがきをするような女ではない。目的が見えないことは相当不気味だが、ここは多少強引にでもこの追いかけっこを終わらせるべきか。
リオウは走る速度を上げた。ここは一気にケリをつけた方がいい。ちらり、と木立の隙間からセーラー服の襟が、紺色のソックスが見えた。そこだ。
「悪いが、そろそろ終わりにさせてもらうぞ」
走りながらでも、自分ならばできる。正確に狙いをつけることが。
リオウは腰の銃を抜き、そして――撃った。
「ああっ……!」
銃声。悲鳴。上がる、血飛沫。
走っていた少女がもんどりを打って倒れるのを見、リオウはリヤリと笑みを浮かべたのである。
単純に、力と力をぶつけあうだけが戦闘ではない。相手の思考を読み切り、先んじて一手を放ち、罠にかけて有利に事を運ぶ。実際、向こうはリオウからすれば圧倒的に格下だ。それ以外にまともな“戦い”をする手段などなかったと言えばそれまでなのだろうが。
――いいだろう。お前のその誘いに乗ってやる。見せてみろ、弱者の足掻きという奴を……!
現在自分に分かっているのは、此処が南の地の森のどこかであるということだけ。空気がさほど薄いと感じないことや気温などから、さほど標高が高い場所ではなさそうだ。屋敷が見えない程度、されど南の地を脱するほどの距離ではない。それでも彼女が自分をここに飛ばしたからには、必ずなんらかの理由があるはずだ。
そう、例えば――南の地を出るところまで自分を誘導するとか。
もしくは、仲間達が大勢隠れていて、波状攻撃で自分を仕留める気でいるとか。
――やってみろ!貴様の浅ましい策など、全て潰して勝利してくれる!
リオウの気迫に気づいたか、それもまた作戦なのか。紫苑が、じり、と数歩後ろに後退した。距離を取って自分を遠距離攻撃で仕留める作戦なのか。しかし、彼女はさほど大きな荷物は持っていない。制服の腰にポーチを身につけているだけだ。あれでは本当に小型の銃かナイフくらいしか入らないだろう。
そもそも、この世界に転生してきて自分でも実感したことだが。銃なんてものは、訓練もしていない素人が当てられるものではないのである。勿論至近距離から撃てばその限りではないが、ここまで離れた状態で彼女が銃弾を自分に当てるのは相当厳しいのではなかろうか。そもそも、口径が小さな銃は基本的に射程も短いと相場が決まっていたはずである。
そして、大きな銃は持ち運びが大変なのも勿論――しっかりと支えられる筋力、体格が要求されるのは言うまでもないことだ。よくフィクションでは軽々と片手で銃をぶっぱなしている場面も見受けられるが、あれはよほど慣れた人間と軽量の銃でなければ厳しかったはず。下手をすれば、撃った反動で手首が脱臼することもありえる。それほどまでに銃というものの威力は馬鹿にならないのだ。
――そして、こいつは魔法が使えない。異世界人だから魔力そのものがないからな。遠距離から魔法を撃ってくることも不可能なはず……どうする?
相手の出方を伺う余裕があるのは、こちらの方が圧倒的に強者であるからこそ。
リオウが腰に差した銃に手を伸ばそうとした、次の瞬間。
「!」
紫苑が、動いた。彼女は転がるようにして近くの木の後ろに滑り込む。隠れて奇襲するつもりか、と思った次の瞬間。
聴覚が、あらぬ方向からの風切音を拾った。はっとして背後を振り返ったリオウは瞠目する。大きな木の丸太のようなものが、後ろからリオウを殴打せんと迫ってくるではないか。
「っち!古典的な……!」
前方に転がり、攻撃を回避する。だが、攻撃は一つではなかった。転がった先、眼前に迫るのは別の巨木だ。倒れてきたそれに対し、リオウは銃ではなく剣を抜くことで対処する。
「“帝王一閃”!」
音速を超える居合抜きで、敵を一刀両断する技が炸裂した。巨木は真っ二つになり、リオウを避けるようにして倒れていく。だが。
――くそ、普段より速度が遅い……!やはり、あの女と対峙しているせいか!
やはりこれが狙いか、とリオウは舌打ちした。近くに紫苑がいて、明らかな殺意を向けてきている。そのせいで能力が発動し、“彼女をある程度上回る”程度でレベルが固定されてしまっているようだ。残念ながらというべきか当然というべきか、紫苑の身体能力は素の状態のリオウより数段劣る。当然、それよりある程度レベルが上になったとて、普段と比べると若干弱体化してしまうことは否めないのだ。
既に覚えている技などは出せなくもない。が、それも威力が落ちてしまっている。巨木を叩き切ることはできたが、技を出す速度がかなり遅い。おかげで、罠に対処している間に紫苑の姿を完全に見失ってしまっていた。
――小癪な真似を!なるほど、この近隣に飛ばしたのは、密かに大量の罠を仕掛けていたためか……!
だが、彼女は隠れていても、まだ近くにいるのは間違いない。リオウの能力は、“一定範囲内にいる敵のうち、最も強いレベルの相手にあわせて能力を上回らせることができる”というものだ。彼女が近くにいるからこそ弱体化されてしまっているわけで。離れてしまったらその効果はなくなってしまうはずである。
恐らく、それこそが紫苑の狙い。自分と対峙させることで能力値を下げさせ、そこを潜んでいる仲間達が袋叩きにしようという算段だろう。だからこそ、紫苑が交渉・ひきつけ役になったのだ。自分が軍の中で、一番弱い存在であることを自覚していたから。
――だが、それでも俺の力が貴様より上であることは変わりない……!さっさと貴様を叩きのめすか、潜んでいる貴様の仲間を全て倒してしまえばいい、それだけのこと!
再び風切音がした。紫苑は魔法が使えないから、マジックトラップの類を扱うことができない。そして、この近隣に仲間達の手を借りてトラップを仕掛けまくったといっても、南の地の支配者であるリオウとその手下達の目を盗んで仕掛けられる量には限りがあったはず。
――ゆえに、罠の種類は簡単に隠せるような規模のもの、古典的なもの、設置に時間がかからないものに限られる!
再び丸太の強襲。今度はそれを避けるわけではなく、ひらりと地面を蹴って飛び乗ることを選んだ。なんとか、それくらいが出来る身体能力は維持できているらしい。丸太の上に揺られつつ、少し高い位置から周囲を見回す。紫苑の青味がかった髪色とセーラー服の白はそれなりに目立つ。足も速くはない。木立の隙間を逃げる彼女を視認するのは、さほど難しいことではなかった。
――あっちか。
丸太から飛び降りたところで、カチリ、と何かを踏む気配。それが何か、を認識するよりも前に木の上に飛び上がっていた。
ジャキン!と音を立てて金属が噛み合う。野生動物を捕まえるようなトラバサミだ。足を挟まれたら大怪我は必死だっただろう。あれは手動で動くタイプではない。どうやら紫苑達が仕掛けておいた罠には、手動で動かすタイプと自動で発動するタイプの罠が混在していたようだ。
だが、自動で発動するということは、一歩間違えば自分が引っかかる可能性もあるということ。その罠の位置を全て覚えて、引っかからないように避けて逃げているとしたら――大した度胸と言わざるをえない。
――罠で足止めしつつ、自分を追わせて仲間達のところに誘導する、ということか?いくら罠を使っても、この程度で俺を仕留められるとは思っていないはずだが。
トラバサミを避けて着地、少し距離が離れた彼女を追いかける。そして追いかけてはトラップが襲来、それを繰り返しながらリオウは違和感を感じ始めていた。
てっきり、彼女は隙を見て仲間達に自分を襲わせるつもりで待機させているのかと思ったが、待てど暮らせど奇襲が発生する気配がない。襲ってくるのは事前に仕掛けられたであろう罠の数々のみだ。
そもそも、一体何処に逃げているのかも定かではない。自分と彼女では体力の差など明白だ。いくらトラップが満載であろうと、いずれ疲れ果てれば逃げきれなくなることはわかりきっているはずだが。
――いずれにせよ、このまま奴を追い続けるのはまずそうだ。どこかに誘い込まれていることだけは確かだからな……!
その目論見を看破して倒してやりたかったが、残念ながらそれは難しそうだ。意味もない悪あがきをするような女ではない。目的が見えないことは相当不気味だが、ここは多少強引にでもこの追いかけっこを終わらせるべきか。
リオウは走る速度を上げた。ここは一気にケリをつけた方がいい。ちらり、と木立の隙間からセーラー服の襟が、紺色のソックスが見えた。そこだ。
「悪いが、そろそろ終わりにさせてもらうぞ」
走りながらでも、自分ならばできる。正確に狙いをつけることが。
リオウは腰の銃を抜き、そして――撃った。
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銃声。悲鳴。上がる、血飛沫。
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