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契約者の魔力を要として絶大な効力を発揮する、悪魔お手製の契約書。その契りを結ばれ次期魔王の奴隷となった憐れな半魔は無体を強いられ――ることなく、悠々と暮らしていた。
怪鳥達の雄叫びから魔界の朝が始まる。ただの獣の多かった静かな森で生まれ育ったリーフは、都の喧しい目覚めにようやく慣れ始めてきた。
緑の瞳が開かれると目に入るのは天井ではなく、リーフをじっと見つめて微笑む端正な顔の男であった。彼こそは魔界を統べる次なる王であり、リーフの主であるレックスだ。
「おはようリーフ。よく寝てたな」
リーフよりも早く起きる彼は既に身支度を整えており、今すぐにでも執務が始められる様子だ。機嫌の良さそうな笑みを浮かべ、リーフへ挨拶の言葉を掛けながらその体を抱え起こす。
「……おはよう。レックス」
レックスと目を合わせ、挨拶を返すとよく出来たとばかりに笑みを深められる。主の手に身支度を手伝われながら、リーフの一日は始まっていく。
リーフの行動は都から出ること以外は特に制限されていない。魔王城の門番達はリーフの顔を覚えているので出入りは自由だ。
都へ降りる際には護衛がつけられ、欲しい物があればレックス名義で好きに買っていいと言われている。物欲のなさを知っているからか、それとも破産など恐れないのか。
山羊皮を買った素材屋が気に入ったリーフは暇があればそこへ通い、時間がある時はベアトリクスが付き添ってくれる。魔道具作りに精通した彼女の意見は参考になるのでありがたいが、彼女に抱く苦手意識がなくなる様子はなかった。
「私と目が合う度にびくびく肩を震わせて……可愛らしいけど悲しいわ。私はちっとも怖くなんてないでしょう?」
微笑みながらの言葉でもリーフの背筋は寒気を覚える。美しい笑みは腹の中身を隠したようで、その実全く隠れていない。
「ピゲルに協力してるフリをして貴方を拐かしたことを怒ってる? それなら悪いのはレックスよ。自分が悪者になりたくないから嫌な役目を私に押し付けてるだけだわ」
「あれは……別に、もう怒ってないし……根に持ってるわけではないです」
「ならどうして私を怖がるの?」
母親に似ているからだなんて恐ろしくて答えられない。
リーフは父は勿論母のことも大好きだけど、それは母親だからだ。母とよく似た悪魔と一緒になりたいとは思わない。そう考えると一応自分の意思で母を選んだ父はなかなか勇敢なのだろうか。
「ベアちゃんにはその、感謝してるよ。こうして話相手というか……一緒に魔道具作ってくれるし」
言葉の通りリーフとベアトリクスは時間があれば席を共にし、魔道具を作る。母から教えられたこととは異なる知識を与えられることもあれば逆もあり、リーフは楽しかった。彼女がどう思っているかはその表情を見ればわかる。
「私も楽しいわ!」
「うん」
にっこり笑い合って話は他へそれていく。誤魔化せたと一息つきながら、リーフは会話を楽しんだ。
不自由ない穏やかな暮らしだが、リーフは故郷に帰りたかった。もうそろそろ旅行から帰ってきているかもしれない両親に会い、話をして、あの小さな家で以前のように、家族揃って穏やかに暮らしたい。
リーフを甘やかす優しい支配者に頼み込んでみたものの、答えは否だった。
仕事を終え自室に戻ってきたレックスに家に帰りたいと告げたリーフは寝心地の良いベッドに押し倒された。機嫌の悪い顔をして、粗い手付きで衣服を剥ぎ取られていけば失言だったらしいと気付く。
毎夜レックスに抱かれる体は少しの愛撫で感じ入り、男を迎え入れようとする。
首筋に、胸に、腹にキスされるだけでリーフの口からは甘えた声が上がる。
「あぅ……ん、あ……」
「リーフ……」
熱を帯びているのがリーフだけだったならどれだけ良かったか。不機嫌だった男はリーフがよがり始めると吊り上げていた眉を下げ、己の下で喘ぐリーフを見つめている。
「うぁ……んっ、おっぁえっ、あ、ああっ……」
尻の谷間に隠れた孔は難なく指を飲み込み、中を擦り上げられる。感じ入るリーフの口からは意味にならない声が出ていく。
晒された胸を撫でられ、硬くしこった乳首をくにくにと押し潰される。レックスに触れられること全てがリーフの官能を引きずり出していた。
「どうされたい? ご主人様」
「あ……あ……あっ、ち◯ぽ……レックスのち◯ぽいれてぇっ!」
薄く笑いながら問われ、快楽に包まれたリーフは頬を紅潮させて好き者のように尻を振り、惨めったらしく媚びへつらう。
レックスは何も縛られることはないというのに、リーフを主のように扱う。実際はリーフこそが奴隷で、ごっこ遊びでしかない。
主の望む通り挿入をせびるリーフへ、レックスは仕方がないと笑いながらほぐれた孔へ雄の先端を擦り付ける。
「はやくぅ……ねぇ、レックス……」
すりすりと孔の縁を撫でるだけで入ってこようとしないレックスへ、リーフがねだる。拒否行動以外は制限されることがないとわかっているリーフの手がそろそろとレックスの股間へ伸び、熱く勃ち上がった肉棒に触れた。
「んっ……」
「はっ……そんなに欲しかったのか」
「へっ、は、あ……ひぃっ」
ずぷずぷと柔い肉の中へ誘い込み、硬く育った雄を飲み込む。肉襞をごりごりと擦られる気持ちの良さに声を上げて悦ぶリーフの表情を見て、レックスは嬉しそうに笑った。
リーフにさせるがままだったそれまでと一転、薄い腹をひくつかせて感じ入る痩せた腰を掴む。ほんの少し力を入れるだけでリーフの痩せ細った体はレックスへ引き寄せられ、腸を貫く肉棒は壁へ突き当たった。
「げっ……!」
間抜けな悲鳴を上げるリーフに構わず、レックスは細い体へ何度も何度も腰を打ち付けた。肉筒の奥、胎に隣接する壁を殴ってやるとリーフの体は快楽を拾って喘ぎ出す。奉仕する雄へ向けて褒美のように肉が絡み付き、弱々しい力で懸命に締め付けてレックスにも快楽を分け与えようとしてくれる。胸に滲み出す慈しみや愛しさなんて殊勝な感情はリーフと出会うまで重要なものだなんて思っていなかった。
「お前は俺と暮らすんだよ。わかってるだろ?」
「ひぁっ……ひっ……わがっ……わがりまひゅ、ああっ……!」
主の望む通りの答えを吐き出した唇へ、よく出来たと褒めるように舌が入り込んでくる。リーフのものより長くて厚くて大きな舌は、リーフの口内を余す所がないようにとばかりに撫でていく。唾液すら残らず吸い付くされていき、リーフは本当に何一つ残さず奪い尽くされてしまった気がした。
(かえれないんだ)
解放された唇からはレックスに与えられる快感に悦ぶ声がひっきりなしに上がっている。顔はだらしなく蕩けているのだろう。レックスの機嫌が良さそうだ。
僅かに残った冷静な何かだけが、帰郷を諦め悲しんでいた。
「リーフちゃん」
懐かしい声だった。凛としたようで甘やかさもある、リーフが生まれた時から聞き続けていた声だ。
気分屋で残酷で冷酷なくせに、父とリーフには情を持つ悪魔。母の声に、リーフの目が開かれる。
「……あ。え。あ、帰って……これたの……?」
視界には懐かしい自宅が見えた。家族が揃って座るテーブルに腰掛けたリーフ、その向かいには母が座るが父の姿はない。所々傷んだ木の壁、母の背後に見えるキッチン、長年暮らした家の懐かしさに思わず涙が溢れていく。
「ざーんねん。帰って来てないわよ」
「えっ」
「家に帰ったらあんたいないし。気配を探っても何かに邪魔されるし。あの人は泣くし。仕方ないから夢の中に会いに来たのよ」
母の手が何かを掲げる。銀色のチェーンに吊るされた赤く煌めく結晶を見て、リーフはもしかして、と呟いた。
「夢魔の心臓?」
「そう。優しい夢魔ちゃん達に協力してもらったのよ」
「なぶり殺しただけじゃないの……」
夢魔と呼ばれる悪魔達は他者の夢の中へ入り込み、性交を行うことで相手の精気を喰らっている。そんな彼らの心臓を結晶化し、誰かの夢の中へ入り込むことが出来るようにした魔道具だ。
「それより、何があったのか話してもらいましょうか?」
にんまりと笑う母は嘘偽りを許さない。そもそも偽る必要もなく、リーフはぽつぽつと話し始めた。
記憶喪失の男を拾って契約を結んだこと。男は次期魔王だったこと。都に連れられて後継者争いに巻き込まれた末に契約を破棄したこと。
「勿体ない。魔王が下僕なんて一生左団扇じゃない」
「そんなこと言ってられる状況じゃなかったし。そもそもレックスとは二度と関わるつもりなかったんだよ」
契約を破棄した結果、魔王に契約を結び直されてしまい都から出れなくなったことを伝えると母は笑い声を上げた。
「今は次期魔王様とやらに飼われてるの。ふふっ、可哀想」
「母さん助けて……どうにか契約を破棄する方法ってないの?」
「契約を遂行するか契約主が破棄するしかないけれど、貴方達の契約に決まった期限はないし貴方のご主人様がすんなり破棄するとは思えないしねぇ……」
そこまで言って目を細めると、母は鼻で笑った。
「ま。飼われてた方がいいんじゃないの。それくらい自分でどうにか出来なきゃ魔界では生きてけないわよ」
「そんな」
「……でも他人のものを奪っておいて挨拶もなしってのは気に入らないわね……はぁ」
冷たく言い捨てた後の言葉にリーフはほんの少しだけ希望を持つ。母は気に入らないことを放っておくのも嫌がるのだ。
「……死ぬつもりになって考えてみなさい。貴方は生まれてから今まで、誰を見て育ってきたの?」
「……」
「レックスとやらの嫌がることを思い付いてみなさい。利用出来るものは何でも使いなさい。自分の為なら何でも犠牲にしてみなさい。それくらいかしらね」
母の助言が終わると共に、視界が霞んでいく。何事かと驚くリーフに「目が覚めるみたいね」と母が答えを出した。
「リーフ。あの人毎日泣いてるわ。さっさと帰ってらっしゃい」
薄れていく意識の中で、母の言葉はリーフの耳にしっかりと届いていた。
怪鳥達の雄叫びから魔界の朝が始まる。ただの獣の多かった静かな森で生まれ育ったリーフは、都の喧しい目覚めにようやく慣れ始めてきた。
緑の瞳が開かれると目に入るのは天井ではなく、リーフをじっと見つめて微笑む端正な顔の男であった。彼こそは魔界を統べる次なる王であり、リーフの主であるレックスだ。
「おはようリーフ。よく寝てたな」
リーフよりも早く起きる彼は既に身支度を整えており、今すぐにでも執務が始められる様子だ。機嫌の良さそうな笑みを浮かべ、リーフへ挨拶の言葉を掛けながらその体を抱え起こす。
「……おはよう。レックス」
レックスと目を合わせ、挨拶を返すとよく出来たとばかりに笑みを深められる。主の手に身支度を手伝われながら、リーフの一日は始まっていく。
リーフの行動は都から出ること以外は特に制限されていない。魔王城の門番達はリーフの顔を覚えているので出入りは自由だ。
都へ降りる際には護衛がつけられ、欲しい物があればレックス名義で好きに買っていいと言われている。物欲のなさを知っているからか、それとも破産など恐れないのか。
山羊皮を買った素材屋が気に入ったリーフは暇があればそこへ通い、時間がある時はベアトリクスが付き添ってくれる。魔道具作りに精通した彼女の意見は参考になるのでありがたいが、彼女に抱く苦手意識がなくなる様子はなかった。
「私と目が合う度にびくびく肩を震わせて……可愛らしいけど悲しいわ。私はちっとも怖くなんてないでしょう?」
微笑みながらの言葉でもリーフの背筋は寒気を覚える。美しい笑みは腹の中身を隠したようで、その実全く隠れていない。
「ピゲルに協力してるフリをして貴方を拐かしたことを怒ってる? それなら悪いのはレックスよ。自分が悪者になりたくないから嫌な役目を私に押し付けてるだけだわ」
「あれは……別に、もう怒ってないし……根に持ってるわけではないです」
「ならどうして私を怖がるの?」
母親に似ているからだなんて恐ろしくて答えられない。
リーフは父は勿論母のことも大好きだけど、それは母親だからだ。母とよく似た悪魔と一緒になりたいとは思わない。そう考えると一応自分の意思で母を選んだ父はなかなか勇敢なのだろうか。
「ベアちゃんにはその、感謝してるよ。こうして話相手というか……一緒に魔道具作ってくれるし」
言葉の通りリーフとベアトリクスは時間があれば席を共にし、魔道具を作る。母から教えられたこととは異なる知識を与えられることもあれば逆もあり、リーフは楽しかった。彼女がどう思っているかはその表情を見ればわかる。
「私も楽しいわ!」
「うん」
にっこり笑い合って話は他へそれていく。誤魔化せたと一息つきながら、リーフは会話を楽しんだ。
不自由ない穏やかな暮らしだが、リーフは故郷に帰りたかった。もうそろそろ旅行から帰ってきているかもしれない両親に会い、話をして、あの小さな家で以前のように、家族揃って穏やかに暮らしたい。
リーフを甘やかす優しい支配者に頼み込んでみたものの、答えは否だった。
仕事を終え自室に戻ってきたレックスに家に帰りたいと告げたリーフは寝心地の良いベッドに押し倒された。機嫌の悪い顔をして、粗い手付きで衣服を剥ぎ取られていけば失言だったらしいと気付く。
毎夜レックスに抱かれる体は少しの愛撫で感じ入り、男を迎え入れようとする。
首筋に、胸に、腹にキスされるだけでリーフの口からは甘えた声が上がる。
「あぅ……ん、あ……」
「リーフ……」
熱を帯びているのがリーフだけだったならどれだけ良かったか。不機嫌だった男はリーフがよがり始めると吊り上げていた眉を下げ、己の下で喘ぐリーフを見つめている。
「うぁ……んっ、おっぁえっ、あ、ああっ……」
尻の谷間に隠れた孔は難なく指を飲み込み、中を擦り上げられる。感じ入るリーフの口からは意味にならない声が出ていく。
晒された胸を撫でられ、硬くしこった乳首をくにくにと押し潰される。レックスに触れられること全てがリーフの官能を引きずり出していた。
「どうされたい? ご主人様」
「あ……あ……あっ、ち◯ぽ……レックスのち◯ぽいれてぇっ!」
薄く笑いながら問われ、快楽に包まれたリーフは頬を紅潮させて好き者のように尻を振り、惨めったらしく媚びへつらう。
レックスは何も縛られることはないというのに、リーフを主のように扱う。実際はリーフこそが奴隷で、ごっこ遊びでしかない。
主の望む通り挿入をせびるリーフへ、レックスは仕方がないと笑いながらほぐれた孔へ雄の先端を擦り付ける。
「はやくぅ……ねぇ、レックス……」
すりすりと孔の縁を撫でるだけで入ってこようとしないレックスへ、リーフがねだる。拒否行動以外は制限されることがないとわかっているリーフの手がそろそろとレックスの股間へ伸び、熱く勃ち上がった肉棒に触れた。
「んっ……」
「はっ……そんなに欲しかったのか」
「へっ、は、あ……ひぃっ」
ずぷずぷと柔い肉の中へ誘い込み、硬く育った雄を飲み込む。肉襞をごりごりと擦られる気持ちの良さに声を上げて悦ぶリーフの表情を見て、レックスは嬉しそうに笑った。
リーフにさせるがままだったそれまでと一転、薄い腹をひくつかせて感じ入る痩せた腰を掴む。ほんの少し力を入れるだけでリーフの痩せ細った体はレックスへ引き寄せられ、腸を貫く肉棒は壁へ突き当たった。
「げっ……!」
間抜けな悲鳴を上げるリーフに構わず、レックスは細い体へ何度も何度も腰を打ち付けた。肉筒の奥、胎に隣接する壁を殴ってやるとリーフの体は快楽を拾って喘ぎ出す。奉仕する雄へ向けて褒美のように肉が絡み付き、弱々しい力で懸命に締め付けてレックスにも快楽を分け与えようとしてくれる。胸に滲み出す慈しみや愛しさなんて殊勝な感情はリーフと出会うまで重要なものだなんて思っていなかった。
「お前は俺と暮らすんだよ。わかってるだろ?」
「ひぁっ……ひっ……わがっ……わがりまひゅ、ああっ……!」
主の望む通りの答えを吐き出した唇へ、よく出来たと褒めるように舌が入り込んでくる。リーフのものより長くて厚くて大きな舌は、リーフの口内を余す所がないようにとばかりに撫でていく。唾液すら残らず吸い付くされていき、リーフは本当に何一つ残さず奪い尽くされてしまった気がした。
(かえれないんだ)
解放された唇からはレックスに与えられる快感に悦ぶ声がひっきりなしに上がっている。顔はだらしなく蕩けているのだろう。レックスの機嫌が良さそうだ。
僅かに残った冷静な何かだけが、帰郷を諦め悲しんでいた。
「リーフちゃん」
懐かしい声だった。凛としたようで甘やかさもある、リーフが生まれた時から聞き続けていた声だ。
気分屋で残酷で冷酷なくせに、父とリーフには情を持つ悪魔。母の声に、リーフの目が開かれる。
「……あ。え。あ、帰って……これたの……?」
視界には懐かしい自宅が見えた。家族が揃って座るテーブルに腰掛けたリーフ、その向かいには母が座るが父の姿はない。所々傷んだ木の壁、母の背後に見えるキッチン、長年暮らした家の懐かしさに思わず涙が溢れていく。
「ざーんねん。帰って来てないわよ」
「えっ」
「家に帰ったらあんたいないし。気配を探っても何かに邪魔されるし。あの人は泣くし。仕方ないから夢の中に会いに来たのよ」
母の手が何かを掲げる。銀色のチェーンに吊るされた赤く煌めく結晶を見て、リーフはもしかして、と呟いた。
「夢魔の心臓?」
「そう。優しい夢魔ちゃん達に協力してもらったのよ」
「なぶり殺しただけじゃないの……」
夢魔と呼ばれる悪魔達は他者の夢の中へ入り込み、性交を行うことで相手の精気を喰らっている。そんな彼らの心臓を結晶化し、誰かの夢の中へ入り込むことが出来るようにした魔道具だ。
「それより、何があったのか話してもらいましょうか?」
にんまりと笑う母は嘘偽りを許さない。そもそも偽る必要もなく、リーフはぽつぽつと話し始めた。
記憶喪失の男を拾って契約を結んだこと。男は次期魔王だったこと。都に連れられて後継者争いに巻き込まれた末に契約を破棄したこと。
「勿体ない。魔王が下僕なんて一生左団扇じゃない」
「そんなこと言ってられる状況じゃなかったし。そもそもレックスとは二度と関わるつもりなかったんだよ」
契約を破棄した結果、魔王に契約を結び直されてしまい都から出れなくなったことを伝えると母は笑い声を上げた。
「今は次期魔王様とやらに飼われてるの。ふふっ、可哀想」
「母さん助けて……どうにか契約を破棄する方法ってないの?」
「契約を遂行するか契約主が破棄するしかないけれど、貴方達の契約に決まった期限はないし貴方のご主人様がすんなり破棄するとは思えないしねぇ……」
そこまで言って目を細めると、母は鼻で笑った。
「ま。飼われてた方がいいんじゃないの。それくらい自分でどうにか出来なきゃ魔界では生きてけないわよ」
「そんな」
「……でも他人のものを奪っておいて挨拶もなしってのは気に入らないわね……はぁ」
冷たく言い捨てた後の言葉にリーフはほんの少しだけ希望を持つ。母は気に入らないことを放っておくのも嫌がるのだ。
「……死ぬつもりになって考えてみなさい。貴方は生まれてから今まで、誰を見て育ってきたの?」
「……」
「レックスとやらの嫌がることを思い付いてみなさい。利用出来るものは何でも使いなさい。自分の為なら何でも犠牲にしてみなさい。それくらいかしらね」
母の助言が終わると共に、視界が霞んでいく。何事かと驚くリーフに「目が覚めるみたいね」と母が答えを出した。
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