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流血の狼6
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気を失っている彼女を背中を支え膝を持ち抱き上げ、床で倒れている男どもを見て沸々と怒りが再燃した。
目の前にいる男の足を思いっきり踏みつけ、「ゔっ」と痛みを告げるこの男の足をこのまま折ってしまおうか、と不穏な事を考えていると
「っ!団長っホーク!それはっダメだ!」
焦るエリックの声が聞こえ、男から足を退かし軽く小突いた。
「…エリック、妻を屋敷へと戻す…後は任せた…あの女もな」
怒りを隠そうともしない眼差しでエリックのうしろにいる女に向けると
「っひっ!」
と怯え顔面蒼白になる女ーー王太子の婚約者だったか、今はどうでもいい。
どんな身分だろうがマリアに危害を加えたヤツは許さないとニヤリと剣呑な笑顔を見せた。
彼女を隠すように立つ位置を変えたエリックは
「ああ、任せろ」
そう言って頷いた。
******************
屋敷に着き、寝室で寝かせたマリアの手を取りベッドの側に置いた椅子に座った。
医師を呼び出し軽い打傷と疲れと診断して帰り、日が暮れてから随分経っても、次の日にもなっても目を覚ます事がなかったマリアから離れず見守るホーク。
お昼ぐらいになると、昼食ーーすぐ食べられる軽食を持ってきたハンナ。
カチャッカチャッと準備をする音に、ぴくっと反応しマリアの指が動く。
「マリア」
目を覚してくれた、と安堵しマリアの手を口元に寄せ触れるキスをした。
「……ホーク…様…?」
側にいる俺を見て、目元を和らげるマリア。
「…私は…?」
「全て終わった…もう何も考えなくていい」
とマリアの頬に触れて撫でた。
「そう…ですか」
そうしてまた瞼を閉じ眠るマリアに、こんな酷いことをした奴らに沸々と怒りが湧き上がる。
彼女の額にキスをし、断腸の思いで部屋を出て執務室に向かい、待っていたのは、副団長のエリックと執事のアーク。
「…報告は?」
「やはり侵入者は裏門の、奥様主催の午後のお茶会をする前の使用人の準備をしている時間帯を狙っていたようです」
マリアのお茶会は既にこの屋敷恒例になっていて、お昼終わり少しすると小休憩と称して意見交換と雑談となっている。
「それなら侵入者全員捕まえたよ、アークさん始め使用人が襲われた時に犯人達に消えないインクを塗ったのが功を奏したよ…見事に身体の一部に印があって、言っていた侵入者の数ともあっていたしね」
エリックが感心し、アークが頷き口を開く。
「元々…この屋敷に侵入しようとする不届き者は居なかったのですが、奥様がいらしてからは特に侵入者対策を進めて参りましたが…力及ばす申し訳ありません」
アークが頭を下げた。
「気にするな、全て捕まえたが…侵入者が入ったのも事実…もう少し警備員を配置しよう、今後はもう動物一匹いや、蟻一匹許すな」
「かしこまりました、旦那様」
そのまま下がるアークが部屋から居なくなると、
「ホーク…主犯が判明した、王太子と婚約者のミナ様だ」
意外な人物の名が出てきて眉を上げた。
「ミナ様は現行犯で逮捕したが、王太子は王妃殿下の筆跡を真似て封蝋を使用したと白状した…なんでもミナ様はマリア様に嫉妬、王太子は傷物になったマリア様を城の中で匿い政務の補助をさせるつもりだったらしい」
「ちっ…くだらねぇ」
「全くだ…しかしなぁ、ホークがマリア様をなかなか屋敷から出さないから強行手段取られたんだぞ!」
「…………必要ない、外出なら俺との方が安全だしな」
はぁ、と盛大なため息を吐くエリックに、腕を組みそっぽ向いた。
「とりあえず、事態を重く受け止めてる国王陛下は王太子の審問会を開く事にした、それにマリア様の出席は…」
「させるわけないだろう」
「…だよな、分かった、また日時が分かったら連絡するよ」
そう言ってエリックは部屋から出たので、しばらく溜まっていた書類を処理してマリアのいる部屋に戻った。
目の前にいる男の足を思いっきり踏みつけ、「ゔっ」と痛みを告げるこの男の足をこのまま折ってしまおうか、と不穏な事を考えていると
「っ!団長っホーク!それはっダメだ!」
焦るエリックの声が聞こえ、男から足を退かし軽く小突いた。
「…エリック、妻を屋敷へと戻す…後は任せた…あの女もな」
怒りを隠そうともしない眼差しでエリックのうしろにいる女に向けると
「っひっ!」
と怯え顔面蒼白になる女ーー王太子の婚約者だったか、今はどうでもいい。
どんな身分だろうがマリアに危害を加えたヤツは許さないとニヤリと剣呑な笑顔を見せた。
彼女を隠すように立つ位置を変えたエリックは
「ああ、任せろ」
そう言って頷いた。
******************
屋敷に着き、寝室で寝かせたマリアの手を取りベッドの側に置いた椅子に座った。
医師を呼び出し軽い打傷と疲れと診断して帰り、日が暮れてから随分経っても、次の日にもなっても目を覚ます事がなかったマリアから離れず見守るホーク。
お昼ぐらいになると、昼食ーーすぐ食べられる軽食を持ってきたハンナ。
カチャッカチャッと準備をする音に、ぴくっと反応しマリアの指が動く。
「マリア」
目を覚してくれた、と安堵しマリアの手を口元に寄せ触れるキスをした。
「……ホーク…様…?」
側にいる俺を見て、目元を和らげるマリア。
「…私は…?」
「全て終わった…もう何も考えなくていい」
とマリアの頬に触れて撫でた。
「そう…ですか」
そうしてまた瞼を閉じ眠るマリアに、こんな酷いことをした奴らに沸々と怒りが湧き上がる。
彼女の額にキスをし、断腸の思いで部屋を出て執務室に向かい、待っていたのは、副団長のエリックと執事のアーク。
「…報告は?」
「やはり侵入者は裏門の、奥様主催の午後のお茶会をする前の使用人の準備をしている時間帯を狙っていたようです」
マリアのお茶会は既にこの屋敷恒例になっていて、お昼終わり少しすると小休憩と称して意見交換と雑談となっている。
「それなら侵入者全員捕まえたよ、アークさん始め使用人が襲われた時に犯人達に消えないインクを塗ったのが功を奏したよ…見事に身体の一部に印があって、言っていた侵入者の数ともあっていたしね」
エリックが感心し、アークが頷き口を開く。
「元々…この屋敷に侵入しようとする不届き者は居なかったのですが、奥様がいらしてからは特に侵入者対策を進めて参りましたが…力及ばす申し訳ありません」
アークが頭を下げた。
「気にするな、全て捕まえたが…侵入者が入ったのも事実…もう少し警備員を配置しよう、今後はもう動物一匹いや、蟻一匹許すな」
「かしこまりました、旦那様」
そのまま下がるアークが部屋から居なくなると、
「ホーク…主犯が判明した、王太子と婚約者のミナ様だ」
意外な人物の名が出てきて眉を上げた。
「ミナ様は現行犯で逮捕したが、王太子は王妃殿下の筆跡を真似て封蝋を使用したと白状した…なんでもミナ様はマリア様に嫉妬、王太子は傷物になったマリア様を城の中で匿い政務の補助をさせるつもりだったらしい」
「ちっ…くだらねぇ」
「全くだ…しかしなぁ、ホークがマリア様をなかなか屋敷から出さないから強行手段取られたんだぞ!」
「…………必要ない、外出なら俺との方が安全だしな」
はぁ、と盛大なため息を吐くエリックに、腕を組みそっぽ向いた。
「とりあえず、事態を重く受け止めてる国王陛下は王太子の審問会を開く事にした、それにマリア様の出席は…」
「させるわけないだろう」
「…だよな、分かった、また日時が分かったら連絡するよ」
そう言ってエリックは部屋から出たので、しばらく溜まっていた書類を処理してマリアのいる部屋に戻った。
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