毎週金曜日、午後9時にホテルで

狭山雪菜

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7 土曜日のお出かけ

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風邪も快方したので金曜日に会うのかと思っていたら、生理が来てしまったので会えないと木曜日のお昼にSNSのメッセージアプリを送ったら既読後すぐに電話がかかってきた。
『…来たのか…そうか、なら土曜日に待ち合わせをしてどこかに行くか』
「でも…生理…だから、出来ないよ?」
お昼の休憩中にメッセージを送ってすぐの電話だったから、周りに人はいないけど自然と小声となっていた。
『いいよ、美味いもんでも…ああ、ではそう言うことですので、はい、改めてご連絡いたします』
いきなり丁寧な口調となって、慌ただしく切られた電話に、近くに人がいる事知った。
「…勝手なんだから」
むっ、と口を尖らせるけど、初めて2人で出かける事になって嬉しい自分が居て変な気持ちだ。
「…何着て行こうかな」
って、秋人の好みはどんなのだろう、とアパレルの通販サイトを見た。今から注文しても間に合わないけど、幸いにもこのアパレルブランドの通販サイトの本店が近くにあるので、仕事帰りに行くのもありだ。
そうして過ぎた休憩時間の後も、仕事中にあーでもない、こーでもないと色々考えてしまって、後輩くんに
「先輩でも難しい書類ですか?」
と、心配されてしまったけど。




***************



4月も暖かくなってきて分厚い上着が要らない分、あまり重ね着すると太って見えてしまうから逆に悩ましい。
薄ピンク色のシンプルな花柄のふくらはぎまでの長さのワンピースと、ワンピースと同じ色のヒールのないパンプス、焦茶の肩掛けのミニバッグ、と念の為白いカーディガンを肩に掛けて待ち合わせ場所へと向かった。

休日の土曜日に誘われた先は、観光地である大きな中華街。天候にも恵まれた今日は、絶好のお出かけ日和なのだ。
中華街の最寄りの駅に行く地下鉄の電車に乗って、一番先頭の車両に乗って隅に立つ私の横に秋人がいる。私がスマホで"中華街行くならココ!ランキング"で行きたいお店を探していると、秋人は私のスマホ画面を覗きながら一緒に見ている。秋人は赤い薄手の上着と黒い無地のTシャツ、濃緑のスキニーパンツと黒いスニーカーを履いていた。
「とりあえず、小籠包と…あとは肉まん食べたいなぁ…ハリネズミみたいな形をしたカスタードマンもあるみたいっ可愛いっ!」
「…全部食い物じゃねぇか」
ぶぶっと笑う秋人は、そう言いながらも「場所はどこだ?」
とそのお店へのアクセスを自分のスマホで調べ始める。
「秋人も食べたいんじゃん」
「あった」
「どれ?」
秋人のスマホ画面を見ようとして秋人に近寄ると、急に電車が揺れてバランスを崩した私は彼に抱きついてしまう。
「おっ、と」
私が体当たりに近い勢いで彼の胸に両手を置いて抱きついたのに、秋人の身体はバランスを崩すこともなく私を抱き止めた。私の腰に腕を回して、私を抱き寄せるとそのままスマホ画面を私に見せた。
「…あ、近いね」
「これならいけるだろ、ここは?」
意外と行きたい所の近くにあるお店と、"こちらもおすすめ"で表示されたお店もパンダの肉まんが売っていて可愛い。「これは?」「これもいいな」と色々見せてくれる秋人のスマホ画面を見ていたが、上げていた腕を下ろして秋人に改めて抱きついた。まるで木に捕まるコアラのように、彼の腰に腕を回すと、腰に回された秋人の腕の力が強まり身体が更に密着した。
「これ…は」
これじゃ、どこかのバカップルじゃん、と思ったけど、この手を離すつもりはなかった。目的地の最寄り駅に近寄るほどに電車内に人が増えていき、だんだんと声が小さくなって囁き声となると駅に到着するまでの5駅分くらいは無言になってしまったが、秋人の胸板に頬を付けて運転席から見える地下トンネルの外を見ていた。




「肉まんを一つください」
「ハイヨー、550円で~す」
中華街の最寄りの駅に到着して、地下鉄へと通じる出入口にある地上へと出ると休日とあって人が多かった。
並んで歩いていくと、大きな豚の角煮が入った肉まんが販売されており、お店の前で行列が出来ていて、お店沿いにはその肉まんを食べている人々がいた。食べようと秋人に言って並んで5分くらいすると、私の番になったので注文したら秋人が払ってしまう。
「マイドーアリガトネ」
カタコトの従業員に肉まんを貰い、2人は建物沿いのお店の看板の前に移動した。
「ちょっと持って」
そう言ってバックからお金を出そうとすると、
「いや、いい、今日は奢るよ」
と秋人は私の手を止めた。
「でも」
「いいから食え」
「これじゃぁ、私が食い意地が張ってるみたいじゃん」
心外だと、ぶーぶー、と口を尖らせると
「その通りだろ」
と一刀両断された。
そこまで言うなら…と食べる前にスマホを取り出しカメラを肉まんに向けると、パシャと一枚撮影した。
それを見ていた秋人も、
「じゃあ俺も」
と言って私にカメラを向けて一枚撮影した。
「…今私を撮った?変な顔してたけどっ」
「いつもだから平気だろ」
秋人のスマホ画面を覗こうとすると、秋人は手を上げて見えないようにする。しかも酷い言葉を添えて、もぅっと怒ると
「いいから食べろ食べろ」
そう促され、ほかほかの肉まんを頬張ると、口いっぱいに広がる甘い豚の角煮ともちもちの生地の絶妙なバランスが絶品だ。
「美味しい…うん」
二口目にいこうとしたら肉まんを持っている手首を掴まれて固定され、秋人の顔が近寄り一口とは言えない大きな口で肉まんの半分が秋人の口へと消えてしまった。
「…えっ…なくなった…?」
「まだ他にも食うんだろ、俺が味見してやるよ」
あんなに口に入れたのにもう肉まんを食べたのか、ニヤッと笑う秋人に、私は呆れた。
「食べたいなら最初から言ってよね」




「ふ~…お腹いっぱいや」
「いや食べ過ぎだろ」
中華街の近くにある海の見える公園へと食後の散歩がてらやってきた私達は、海に停泊する大きな黒い船の前までやってきた。鎖で繋がれたこの船は外装は綺麗だが今はもう使われておらず、観光スポットとして有名だ。海から落ちないように長い転落防止の柵がかかっていて、奥まで続いている。
4月とはいえ海の近くは肌寒くて肩に掛けていたカーディガンを羽織ると、手すりに手をつけて目の前の大きな黒い船を見上げた。背後から抱き寄せられ、彼の上着に包まれた。風も身体に当たらなくなり、冷えていた身体が秋人の体温が私に移り温かくなっていく。
「暖かい」
秋人の胸板に頭を押しつけると、カモメの鳴き声と海のさざなみが聞こえ、潮の香りがする。
顔を上げて秋人を見ると、彼は景色を楽しんでいるみたいで遠くを見つめている。顎のラインに剃り残しの顎髭が見えてドキッとする。
――今日…は、分かんないけどカッコよく見えて困る
ぼうっと彼を見つめていた私の視線に、秋人は気がつくと私を見下ろした。視線が絡まると、どちらかともなく顔を近づけて重なる唇。すぐに離れた彼の唇をもっと感じていたくて、彼の上着の中で身体の向きを変えて抱きつき踵を上げたら、彼の上着の上からキツく抱き寄せられ、重なるだけの口づけじゃなく舌の絡まる濃厚な口づけをした。
――すごく…気持ちいい
お互いの舌を絡ませるゆったりとした味わうような口づけに、思考が蕩ける。もうすでに寄りかかっていたのに、足の力が入らなくなる。
「…っん」
踵を下げて口づけが終わると、私の唇についた2人の涎を彼は右手の親指の腹で拭った。そのままぽすんと彼の胸板に顔を押し付ければ、頭まですっぽりと被った彼の上着に抱きしめられて、しばらく抱き合っていた。
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