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はじまりと記憶
人形師の想いの徒然
しおりを挟むわたしは*****。
しがない人形師である。
町から町へと渡り歩く根なし草の様なわたしはある町の市場で美しい宝石を見つけた。
真っ赤な血のようなそれは、商人曰く遺跡の近くで孤児が拾った硝子玉であると。
商人は硝子と言っていたが、その輝きはまるで生々しく、日の光を浴びて居る様はまるで生きているよう。とても硝子には見えなかった。
即座に商人からそれを買い、日に当てながら眺めているとこの宝石を使った人形のインスピレーションがわいてきた。
この生々しい宝石は人形の心臓としよう。
外から見えない場所なのに真っ先に宝石の場所が決まった。今思うと、この宝石をどこかに隠さないといけない気がしていたのだろう。
わたしは、今までの根なし草から一転、ニブヘイムと呼ばれる王都に拠点を作った。
小さな場所だったが、国々の便がよく活気に溢れている素晴らしい国である。前王の改革の賜物だと皆が口を揃えて言っている。
そんな国で少しずつ最高の素材を使って、宝石から与えられたイメージを現実としてきた。
肌は黄砂と石英を使って乳白色で、全体は華奢な感じにしょう。
睫毛は長く造り上げたら、間違えて窓を閉め忘れた時など雪がそこに積もってしまった。
そんな睫毛や髪の毛は肌の白さに合う、黒色にして。しかしただの黒では物足りない感じがしてブルネットの髪も混ぜてみた。
目に使った義眼は実際、人も使える精密なもので色は上質な珊瑚の様な赤色を選んだ。
ぷくりとしながらひきしまった唇にはさくらんぼの様な淡い赤色を乗せる。
わたしの人形が完成に近づくにつれて人々が見に来る様になっていた。特に警備兵の新人の少女は毎日のように見に来て話しかけている。
そのうちに名前まで訪ねるようになったので一晩学のない頭で考えて教えてやった。
そんな日常が当たり前になったある日、後は心臓を入れるだけとなった所で、ニブヘイムの王から呼び出しがあった。
ニブヘイムの王は以前からこの人形と結婚したがっていた。人形と結婚するなどなんとも馬鹿げたことか。
宰相や国民も反対している。
そもそも元王はあまり良い話を聞かない。
前王を暗殺しただの、自分の姉を手込めにし妃にしただの。産まれた御子が男なら殺し、女なら妙齢になると同時に手を出したとか。
妃は心労に倒れ早々に亡くなられたらしいが、今の妃席が空席になるまでに何人もの実娘が妃になったと聞く。
そろそろ、この国から根なし草に戻る時が来たのかもしれない。そうだ最後に王の前で仕上げをしたらここを旅立とう。この人形に世界を見せるのも良いだろう。
王に見せないで発つ事も考えたが、奴なら指名手配にしてでも探しだすかもしれない。
そうと決まれば早速と謁見の予約を取り心臓入れの儀式の日を決めた。
その日は雲一つない晴天で、わたしは人形を車椅子にのせて登城した。わたしらを見る視線は奇異や恨めしい視線が多かったのを覚えている。それはそうだろう。何せこの人形はまるで生きているような精巧な人形なのだ。
人形と共に高台にいる王の前に立ち最後の宝石を胸元に嵌め込んだ瞬間に奇跡が起こった。
吸い込まれる様に宝石が人形に取り込まれた後、人形の睫毛が微かに震え、形のよい唇が吐息を洩らしたと思ったらゆっくりと目を開き作り物の目には生気が宿っていた。
人形の彼女は命を宿したのだ。
それに喜んだのは王で、これで誰も文句は無いなと一人だけご機嫌にいいはなっていた。
しかしながらわたしは人形を渡すつもりはなかった。
それを言えば人形もわたしから離れたくないと王を拒否した。王は怒りに顔を赤めてわたしに王座に飾られていた武器を突きつけてきた。
この頃、国は王に見切りをつけクーデターを企んでいたのだが、わたしに武器を突きつけたのがきっかけとなり王は宰相が中心としたクーデター集団に即座に捉えられ、喚くのもそこそこにその場で処刑される。
しかし、わたしの目には血を吹き出している王の身体から黒いもやの様なものが出ているのがみえた。
そしてもやはわたしにまとわりついた。もやがゆっくりと締め付けるように密着して中にじんわりと侵入してくる。すると感情が2つに別れたような感覚におちいる。一つは今までのようなことなかれ主義の様な感情、もう一つはすべてが憎い負の感情の塊だった。2つの感情がせめぎあい気分が悪い。
人形の少女が心配してくれているのが分かるが、本能的に一人にならなくてはいけない気がする。
わたしのなかのダレカが破壊を望む。
そのダレカからナニカヲ守るために出来ることをしなくては。ああ、国民の代わりのニンギョウヲ作らなくては。
ソウカ、ニンギョウナラサカラワナイ。
違う、それは人形の材料ジャナイ。
たまに戻るわたしは手を見つめる。
手が血に染まっていた。わたしでは無い私がこの手を紅く紅く染め上げる。
少しずつ、国は小さな王都だけになってきた。宰相があの人形と協力して結界を作ったのだ。
コレハツカエルゾ。
守るための幻影も私が利用しはじめた。新たな材料を求めるために。
マジュツシハイラン。強きケンシヨ。
キズノアル腕はイラン。アッチの腕を取り替えてヤロウ。材料がタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイタリナイ。
モットモット、この国にコイ。
アア、この悪夢はいつ終わるのか。
「今、終わるよ。お兄さん。」
まだ、親の比護下にいなくてはいけないだろう子供のような声がわたしに光をもたらした。
歌のような呪文のような音が聞こえる度に身体が軽くなる。
ふと、生臭かった筈の部屋に気持ちの良い風が吹いた。
場の空気が清浄なものへと変わる。醜い感情も同時にわたしの中から消えて行くようだ。
身体から力が抜けて床に膝まついた。そのまま上半身も倒れゆく。何かの破片が散らかる床に付く前に、誰かに支えられる。
子供の声の通りに悪夢は終わったのだろうか。
微かな意識の中、愛しの人形のシシリーの笑っている姿を見た気がした。
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