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はじまりと記憶
僕達は反撃を開始した
しおりを挟む手札が整った僕らがまず向かったのは、あの美少女人形のシシリーと別れた洞窟だった。あそこが抜け道から出た場所で奴等がいる場所との距離が一番近かったのだ。
洞窟に戻った僕らはいまだに震えるだけの国民を一瞥したあと両腕を腹に組む様にして丁寧に寝かされたシシリーの元に向かう。
シシリーのそばには抜け道の地図をくれた傷だらけの女性が居た。
「約束を果たしに来たよ。」
女性は返事をすることはなかった。
ただ、シシリーの側に寄り添うように座っているだけだった。
僕は一言言いたかっただけだったので女性の側を離れて、奴等がいる倉庫に繋がる道に向かう。洞窟から出る際、洞窟を振り替えるとにっこりと怯える人達に笑いかけた。
「シシリーの作ったこの国の結界を無効にするから、人形が来る前に逃げるなら早くした方がいいよ。」
その内容を理解した瞬間に、一斉に動き出した人達にザまぁみろと思いつつ洞窟を後にする。
少しはシシリーや傷の女性の意趣返し出来たかな。
宝玉が僕に戻るとき少しだけシシリーの記憶が見えた。少女を罵倒しさも当然にこきつかう国民達。そしてロキ王からシシリーを守る女性にまで八つ当たりをする。
国民は二人にあまりにも頼りすぎ、それにたいしての行動にも少しムカついていたのだ。
「良い顔してる。」
「そう?まあ、どっちにしろ国のこの結界を無効にしないと後々面倒だし。」
「わざわざ、恐怖を煽ることも無いのに。」
「……何の事かなぁ。ほら、着いたよ。」
へらりと笑って誤魔化していると目の前には数刻前に逃げて来た建物が相も変わらずそびえ立っていた。
しかし、先程とは異なり至るところに人間のパーツが散らばっている。歩く度にぐちゃピチャッと不愉快な音がする。本来はこうだったのだ。
二度目の訪問ということで迷いなく向かうはギガンテラの造られていたあの部屋だ。そこにロキもいるだろう。
てくてくと向かう途中、大量に作ったらお札を花咲じいさん張りにばらまいておく。そんで、部屋の手前に着いたところでお札を媒体にして術を発動した。
『獄火』
お札をばら蒔いてきた背後が炎に包まれた。
この施設に散らばる無念の残骸を欠片残さずに灰にする。それと幻術の一部の術式の破壊も目的である。炎がそれをちゃんと成しているのを確認して、バルスさんに目で合図をすると成長の術を僕と兄上に施した。兄上はの青年姿はまさに前世と瓜二つ。準備が整ったあといよいよ目の前の部屋に入る。
部屋にはあの時と同じ様に六本腕のギガンテラを従えたロキが意味深な笑みを浮かべながら我々を待っていた様だ。
ギガンテラの腕で新たに見えるようになったのは左真ん中に鎖鎌状の獲物を持つ腕と、右真ん中みえる弓を補助する腕だった。鎖鎌が見えない状態で戦っていたなら、元の小さな体は粉々にされていたかもしれない。
「おや、少し雰囲気が変わったかい?まぁ、いいや。待っていたよ。偽物よ。我が妻を返してもらおうか。」
「シシリーは人形でもあんたにはあげない。」
「ほぉ、生意気な。おい、ギガンテラ。」
ロキが怪物の名前を呼ぶと、ギガンテラはその体を生々しい妙な音をたてながら動き出すと、その巨体に似合わないスピードで突っ込んできた。
僕達はその突っ込んできた斜線上から床をけり飛び退くことでよける。その瞬間、今まで居たところに大きなクレーターが出来、その衝撃で床が壊れてヒビ入り分散されてしまった。
兄上と バルスさんはロキの近くに僕やシヤさんアキさんはギガンテラと対峙する様に。
改めて見るとギガンテラはあまりにも大きい。
ギガンテラは接近、中距離、遠距離の攻撃が六本の腕が有るため可能だ。しかし、それを活用するには一人分の脳では処理する事が遅れ動作が鈍くなるだろう。見る限り頭は一つ。
「いじったのか。」
思わず口に出た言葉に、ギガンテラの後ろでにんまりと笑みを深めるロキの姿が見えた。
どうやら正解の様だ。
人間の脳は全体の1割しか使っていないらしい。古代魔法と呼ばれる中にそれを十割使える様になる禁断の魔法がある。どこでそれを知ったのかロキはそれをギガンテラに施したのだろう。
「可哀想に。」
その言葉と哀れみの視線を向けたと同時に、目の端に鎖鎌が迫っていた。上体を反らすと頭があった場所に鎌が通り過ぎる。鎖鎌が円を描くようにロキの動きを封じようとしている兄上の方に向かっていった。気づいていないバルスさんの腕を兄上が引っ張りしゃがませるとその頭の上を鎌が通り過ぎる。
ほっとしている場合ではない。
独古からの攻撃を飛ぶようによけ、シヤさんやアキさんは剣や槍をいなしている。
僕は本来暗殺スタイルが得意なのでこういった真っ正面で戦うにはなかなか火力が足りない。どうしても押し返されてしまうのだ。
再度、鎖鎌が放たれた。それを暗器の一つでいなすとついで飛んできた矢も避けようとしたが動きを止めて叩き落とす。
ギガンテラは意志のない目でそれを見たと思ったら矢を弓に三本あてがい放ってきた。思わず舌打ちをして、すべてを叩き落とした。落とすとすかさず次の矢が来ている。
それも落とす。
むこうはまだ異常に気づいていない。
そうしているうちに矢に紛れて鎖鎌が飛んできた。飛んで避けたいが後ろには兄上の補助をするバルスさんが居るのだ。
バルスさんは呪文を唱えていてこちらが見えていない。
矢が皮膚をかするのを気にせずに急いで『蜘蛛』を編んで防御体勢を取ったが間に合わなかった。
もろに鎖鎌が僕を貫き、僕を貫いた勢いで方向がずれてバルスさんの横を通りすぎ、身体は兄上の近くに落ちた。
ギガンテラが勢いよく鎖鎌を引っ張り僕の体から勢いで抜くとごふりと口から血が出る。そして茫然と出来事を見ているしか出来なかったシヤさんとアキさんに攻撃を再開した。
「そうか。そこの君はギガンテラの真実の姿が見えていないのだね。」
「……。」
「そこの少女はずっと君に当たらないように頑張っていたということか。」
「……。」
「なんと滑稽な!」
ロキはバルスさんを指差して嗤う。
バルスさんは通り過ぎた最に頬にかかった血を手で拭いそれをみた瞬間へたりこんでしまった。
兄上は僕を抱き上げ、無言でロキを見つめている。その目には闇を湛えた何かが浮かんでいた。兄上は手をロキに向ける。その手からは巨大な魔力が練られている。
『火……』
「ちょっと待った!」
「止めるなシン。」
「止めるよ。コウにぃが撃ったら皆で丸焦げだよ。」
僕は天井にある排気孔から兄上の横に降り立ち、ティッとチョップする。僕に魔力を渡して上手く使えるかもしれないけど、今の怒りに染まった状態では必ず失敗する。
被害はこの場にいる全員と何より兄上だ。
そんなの許す訳がない。
「し、シンリ様が生きて……。」
「ほら、バルスさんもしっかり。」
「……何で生きているの?」
睨み付けるように言ってきたのはロキだった。
僕は兄上の腕の中にいる僕を引きずりだす。するとただの紙切れへと変化する。今だ固まる兄上の頭をぎゅうぎゅう抱き締めながらその問に答えてやる。
「僕ってば隠密で動くのが好きなの。だからそうするための術はいくつも持っているって訳。」
「悪い、もう平気だ。ところで終わったのか?」
「まあね。後は言霊を言うだけだよ。」
「何の話だ。」
「すべてを解放しようかと思ってね。」
僕は先程までこの建物を調べていた。
さっきも言ったけど戦っていたのはヒトガタと呼ばれるただの紙。そんでもってここを炎で焼いたのも僕が隠密しやすくするブラフであったのだ。
そんなことをしたのもこの国を巡るミラーダストがどこから出現しているのか知りたかったのだ。
炎で消えたミラーダストはこの建物のてっぺんから出て補給されていた。
登ってみると、ミラーダストを産み出す術式と循環させる術式が仕込まれていたのだ。それを破壊するのは以外と簡単だった。『蜘蛛』で細切れにしただけだが。
残りは今あるミラーダストを消せばこの国の本来の姿に戻る。勿論、ミラーダストで動いていた人形も行動が止まるはずだ。それと同時にこの国を守る結界も消える。
なんて、そんなことをいりいろ考えていたら戦闘していたヒトガタの気配が消えたのが分かったので慌てて屋根にあった排気孔を使って来たのだ。
「それじゃあ、ロキ様もバイバイのお時間ですよ。」
「何をする気だ?ワタシを殺したらこの青年も死ぬぞ。」
「僕はね、前世で退魔師だったんだよ。しかも理をしる。ここは君を含めて陰の気が多いね。世界はバランスをとるため陽の気を望んでいる。早く言えば『浄化』だよ。」
浄化というキーワードで辺りがキラキラとミラーダストを光らせながら消えている。僕は残ったミラーダストでこの国を浄化するつもりなのです。シシリーの記憶に残る綺麗な街を餞にしてやるつもり。
ギガンテラは浄化の光を浴びて苦悶の表情を浮かべた。そしてその口からは懇願に近い殺せという言葉。どうやら、ギガンテラの身体に使われたもの達の意志が戻ったのだと思う。
僕はシヤさんに目配せをして化け物の最後の願いを聞き届けさせる。
シヤさんの持つ剣はいとも簡単にギガンテラの首を撥ね飛ばす。司令塔の喪った体は腐ったど黒い血を撒き散らした床に倒れゆく。
もともと、見えないというものがなければ簡単に倒せるのだ。
そして残るのは浄化に苦しむロキ王である。
続く
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