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はじまりと記憶
僕達は反撃を開始する
しおりを挟む「シンリ様、よくぞご無事で。」
そう言って抱きついてきたのはバルスさんでした。
地図を参考に秘密の抜け道を抜けて行くと、あれだけ大変だった移動がなんとも簡単にできた。
大通りにつながる抜け道を通り約束のした宿の裏手に回る、裏手の入り口脇には程よく茂って生えた植え込みがある。茂みがガサガサと音がしたかと思うとそこからバルスさんと、アキさんが出てきたのだ。
その手にはそれぞれに杖と剣が握られていた。
「そっちも無傷そうで良かった。アキさんも顔色が戻ったし。」
「はい、いつまでも弱ってはいられないですから。それはそうと……。」
さすがは騎士と言うべきか、何時までも平穏なことなどないから1日以内で体勢を整える所はさすがである。しかし、国を守る騎士であるならもう少し早く立ち直っておくべきだと思う。同じ事を考えているだろう兄上を見ると顎に手を当てて微笑していた。そこには、帰ってからの騎士団の鍛え直しの構想をたてているのだと分かるあたり、コウにぃと兄弟だと実感できる。
で、そんな切っ掛けを作ったアキさんだが、その視線の先は僕を通りすぎて後方でキラキラとした笑顔を浮かべているシヤさんが居た。
「アイツ、頭涌きました?」
「アキはこんな風景を見ていたんだな。」
「……もう手遅れだな。斬るか。」
「アキさん待って。今、説明するから。」
互いの情報交換も兼ねて、今まであったことを簡単に説明する事にした。
バルスさんと、アキさんは作戦通り魔法で撹乱しつつ一定時間経つと穏行の魔法で逃げ回っていたそうだ。
時たまぶち当たる敵を排除しながら、約束の宿屋に着き茂みの影に隠れることに成功したらしい。
こちらの行動も詳しい所を省き簡潔に教えると、頭が湧いたと言われたシヤさんが今の視界は新鮮で楽しい等と言ってアキさんにどつかれていた。
シヤさんの目がギガンテラ対策としてアキさんと同じ光景が見れることを知るとアキさんの視線は呆れと諦めの様子を孕んでいる。
「お前は、順応しやすいよな。」
「そう言う、アキは繊細すぎるんだよ。」
深いため息を吐くアキさんに確かにと同意をしたくなった。
シヤさんは兄上の呪いを受けてから外に出た瞬間は声にならない悲鳴を上げていた。そして、少しだけ顔色を悪くしながら進んで行ったのだが、それは最初だけ。
しばらくすると、視界の暴力に慣れたのか嬉々としてたまに現れる人形の排除に向かうようになった。
おそらくだが、嬉々としていたのは今までが何でもないか弱い無害な人間に見えてたのが、アンデットの様な者に変わり気分的にも意識的にも切り替えることが出来て気が楽になったからだと思われる。さすがに殺人狂でもなければ無害な者達を殺すのは気分的に良くないからな。
もちろん、排除したのは敵対したものだけだと付け加えておく。
「アキの世界が少しだけ理解できた気がして嬉しかったのもある。」
「ばっ、馬鹿かお前は!……っ。」
止めの爆弾降下を生暖かな目で見つめていると、バルスさんを僕から引き剥がした兄上が、その引き剥がしたバルスさんを僕に差し出してきた。
そうだった荷物を貰わないと。
「バルスさん、僕の荷物で欲しい物があるんだけど。」
「?、記憶は戻り国に帰るのでは?」
「んん、記憶は戻ったんだけど頼まれちゃって。」
先程は省いた記憶を取り戻したときのやり取りを詳しく教えれば、バルスさんはなるほどと、軽く呪文を唱えて何もない空間に50センチほどの亀裂を作り出した。
空間魔法。
使えるものは極わずかしかおらず、兄上がやるとブラックホールが作製されるという恐ろしい魔法だ。
バルスさんがこの旅に同行することになった理由としてはこの魔法が使えるからといったこともある。
荷物管理が楽だしね。
僕も絶対に覚えよう。
「何を出しますか?」
「そうだな、紙とインクと筆ぐらいかな。」
「シンリ様の荷物ですと、これで?」
「うん!ありがとう。」
「いえいえ。」
空間から出してもらった長方形に切られた紙の束と小さなインク壺が数個、そして細い筆を腕に抱えると宿屋に入っていく。
外で作業するわけにはいかないからね。
途中、兄上がインク壺を持ってくれて、バルスさんがドアを開けてくれた。
護衛二人はその姿を見て慌てて追いかけてきた。
中は初めて見たときよりボロボロな姿をしていた。
辺りに元が何だったのかわからない肉塊がありそこには虫がたかり蠢いている。腐りかたからみてここ1ヶ月以内の物かな。山賊でも迷い混んだのかな。
食事をしたところには皿や食器が起きっぱなしで、明らかに食べ物には思えない物が転がっている。
僕たちが食事したテーブルはと……。うげっ。
これは確かにアキさんやコウにぃが止めるわけだわ。
シヤさんが何処かに出ていく姿が見えた。
そういや、がっつり食べてましたものね。
バルスさんの目は以前と変わらないため何も言わないでおこう。シヤさんが出ていった事実だけでも青ざめてるし。
そんな状態のなかでもわりかし綺麗な一角を見つけ、軽く掃除をしたあと僕は辺りに手をかざした。
『浄化』
魔力を乗せた声で一言そう呟けば辺りの雰囲気が変わり明るくなったかの様な印象へと変化した。
うん、魔法への違和感は無いし良い感じだ。
机に物を置き、まずはインク壺を目の前に並べた。
蓋を開けると独特の香りがしてくる。今の僕には初めてだけど懐かしい香りに思わず口元が緩んでしまう。
インク壺の蓋を次々と開けると、何もない空で手首を軽くクルリと廻して手のひらに収まる小さなナイフを取り出す。勿論、兄上特性暗器の一つである。
ナイフで指先に傷をつけると、慌てたような声が聞こえて来た。それを兄上が留めているのを横目で見つつ口からは馴染みの呪文を唱え、指先から垂れる血に魔力を乗せる。血は壺に落ち、中のインクに溶け込んで行く。アキさんの目ならならこの壺の中身が変化したのもすぐに理解するだろう。
他の方法もあるが今は時間も無いし、威力も高くなるからこの手段を利用した。
本来なら指を傷付けることは避けたい所だが。
特性インクができた。指を治療して、次につかんだのは紙の束である。
紙束を解き、机に綺麗に並べると筆を手に取り一呼吸する。目を閉じて意識を集中させ目をカッと開くと、インク壺に筆を突っ込みすぐに紙に走らせた。
「すごい集中力ですね。」
「何が描いてあるのか全くなんだが。」
「シンリ様は何者なんですか?」
「俺の弟は凄いだろ?」
そんな会話をしていたらしいが、集中していたため気づかなかった。コウにぃのドヤ顔見たかった。
最後の紙に筆を走らせ終わると、息を吐いた。
いつの間にかかいた汗を腕で拭うと出来映えに満足げに頷いた。久しぶりの割にはうまく出来ていると思う。
多くの紙の中でも特に力を込めた五枚を取り分け、この場の僕を含めた五人に分ける。
そして、作戦というにはお粗末なこれからの行動を伝えた。
「……というわけで時が来るまでその紙は持っててね。」
「この紙でその様な事ができるのですね。」
「まあ、使わないならそれでも良いんだけど念のためだよ。」
「切り札というわけだ。」
皆も理解してくれたみたいだしそろそろ反撃の開始としようかな。
周りを見ると色々と手札は揃った。
────────
皆様、お久しぶりです。
少しばかり海外に飛ばされておりましたので更新出来ずすみませんでした。
今後はまた隔週で更新していこうと思います。更に、過去の話を見直し所々訂正をする予定です。
話の流れは変わらないようにしていきますのでよろしくお願いいたします。
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