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戻ってきたら大騒動
私はシシリーと申します
しおりを挟む女装の出来映えは上々、謁見の間に戻ってお披露目して作戦会議を終えたあと、城下町に来ております。
目の前には件の団体様。
真っ白な衣装のメタボさんとハニーピンクの髪が光に反射して輝いている少女。
メタボさんは帰城時に見かけた男だった。よくよく近距離で見てみると額に脂汗を掻きまるで牛蛙のようだと感じた。
そんな男の側に、少女はしずしずと憂いを帯びた様な表情で立っていた。手を組み、少しうつ向く様はまさに儚げな少女。
この少女が騒動をなんて報告がなければ信じられないだろう。
とにかく接触しようかな。
「この騒ぎはなんですか?」
私の声に反応してそれまで騒いでいた人々が一斉に注目される。
今回の私の設定はお嬢様のお隠れ城下町探検である。
皇帝妃にいただきましたワンピースがあまりにも町娘に見えなかったのでそういうことにしました。
そして、お嬢様にはお連れが必要と言うので、今回はヴァン兄様に頼みました。
これくらいのお嬢様には同い年か年上の友達兼護衛が付くとバルスさんが教えてくれたので今の12歳ぐらいの私には丁度いいのです。
バルスさんの失言曰くパッと見、我が儘お嬢様と振り回されお付きという感じだそうだ。
まあ、とにかく、私がまだまだ訪れない変声前の鈴の様な声を発して注目を浴びているのだが、誰一人私を見てから固まって返事がない。美人が多い魔人方も口をポカーンとしている。仕方がないのでもう一度声をかけようとすると、誰よりも早く回復したメタボさんが私の前に進み出て猫なで声ですり寄ってきた。
あまり近寄らないでもらいたい。その猫なで声が気持ち悪い。それに脂汗がこの身に纏う装飾品に着いたらどうする。
「この様な可憐な少女に聞かせるのは憚れますが、いずれ耳に入ること。」
「まあ、何ですか?」
「そんなに不安にならないでください。魔王がこの国の皇子に取り憑いたとして、此所におわす聖女様が追い払ってくださいます。」
「ま、魔王に取り憑かれ……。」
不安に苛まれている風に眉を寄せて、お付きの者の服をぎゅっと握りしめる。
そんな私の姿にメタボさんは下卑た笑いを口元に張り付かせて、例の内容を口に出す。
それに小さく悲鳴を上げれば下卑た笑いが深くなり私の反応を楽しんで居ることがわかった。
「おじさん、そんな事を誰がっ。」
「こちらの聖女様が神の声をお聞きしたらしいですよ。」
「ですが、魔王がこの国を攻めるなどあり得ません。」
「わたくしが嘘を言っているとでも?」
今まで静かだったハニーピンク色の髪の少女は伏せていた目をを開け、こちらを真っ直ぐに見つめてきた。ちらりとお付きの方にも目線を送ると挑発的な笑みを張り付けて私に話しかけてきた。
やっぱりしずしずと憂いを帯びた姿は演技だったか。
私は気まずげに、少女をヴァン兄様の側で見上げる。この見上げ方から少女は私より年上かなと判断した。
「そもそも、名も名乗らぬなんて。」
「失礼いたしました。私はシシリーです。家名は都合上伏せさせていただきます。こちらが……。」
「シシリーお嬢様の護衛をしております、バンでございます。」
スカートの裾を持ち上げて淑女の礼を行い挨拶をする。家名を伏せたことで周りの人々は私がどこのお嬢様か気になっているみたいだが、ただ単に考える時間がなかっただけである。
ヴァン兄様が名を名乗っているときの獣の様な少女の目付きは、前世の肉食系女性を思い出させる。
「あたくしは神に聖女と望まれた、クレアですわ。」
「私はその聖女クレア様を見つけて後継人となりました。白光会教会の神父をしております。アクタと申します。是非ともお嬢様には洗礼はこちらの教会で受けて頂きたい。」
「白光会は良い噂は聞かないな。」
少女改め、クレアとメタボさん改めアクタの自己紹介が終わると耳元で兄様が教会の噂を教えてくれる。
たぶん、このアクタは少女趣味のヤバイやつだと思う。
だって、私の身体をしたから上に嘗め上げる様に見ては唇を舌で嘗めているだもん。
そんなちょっと怪しい人が集まっているのがこの教会なのだとか。
そんな噂の教会の話を信じるなんて、普通はあり得ない気がするけど。さくらでも使っているのかな。
「聖女の私が神からこの国の魔王を倒せと聞いたのです。この国の魔王とは第二皇子で御座いましょう。」
「第二皇子が魔王なのは知っております。ですが、神がそのお方を倒せと言うわけが無いのです。そもそも魔王も第二皇子に取り憑くわけが無いのです。」
「なぜ、そう言いきれるのかしら?第二皇子の課した政策は人々を苦しませてますわ。だから、魔王の所業とも言われてますのよ。」
その言葉に『そうだ。』と声を上げた人は仲間の可能性があるね。アイコンタクトで兄様に知らせるとわずかな頷きて返してくれた。
コウにぃの政策で苦しんでいるのは怪しい人々とかだけでしょう。
あっ、『第二皇子の政策は人々を苦しませている。』って事だったり。
「聖女様は魔神様をご存知ですか?」
「ええ、この世界を創世し神々や魔王どもの手の届かない至上のお方ですわ。」
「ええ。その通り。その魔神様の愛し子がこの国に居ることは?」
「えっ?」
「知らない様ですね。近日にでも皇帝様が発表される内容ですから知るわけありませんよね。」
暗に私がその情報を手に入れられる存在であることを示しながら話を続ける。
「その愛し子達が居る限り神も魔王もこの国に手を出さないでしょう。誰も魔神様の怒りを買いたくありませんからね。」
「ですが、その情報を知らずにということがあるかもしれま……。」
「魔神の愛し子の一人は、第二皇子を気に入っているらしですよ。」
クレアの言葉を遮り、結論を突き付ける。
魔神の愛し子が居ることは近々発表をするのは皆で話して決めた事だ。だが、それが誰だとは伝えない。誰だか知ってるの今の皇帝一族と一部のもの達のみ。しかも理由がなければ家族であっても話すことを禁じた。その内に良い術でも開発しよう。
「嘘を言わないで頂戴。魔神様の愛し子が居るなどと。」
「嘘と思うなら勝手にしてください。怒りに触れたらどうなるかは分かっておりませんし、身を持って体験すればいいでしょ?」
「お嬢様、そろそろ……。」
タイミングよく兄様が声をかける。
私は時計を見て慌てたように振る舞うと、周りの人に一礼をいて離れようとした。それを阻止したのは油染みた手であり、不快感に顔を歪めてその手の持ち主のアクタを見つめた。
「お待ち下さい。」
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