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戻ってきたら大騒動
私は怨念を利用する
しおりを挟むクレアが嘘を言っているのは頭がちょっと良い人なら分かると思う。
名前から性別までを隠す者が、そう易々と名乗り出ることは無いからだ。まあ、確実に愛し子の発表がなされた後には自称さんが増えるでしょう。でも、実際に魔神の愛し子を騙ったらどうなるかが分かれば変なことする者も減るだろう。せっかくなので魔神の愛し子を明らかに騙っている彼女を見せしめにしましょうかね。
どうなるのかは私も分からないのだけどね。一応、死ぬような事はないと思うの。
そんな事を考えていると、空気中にたゆたいし精霊がどことなく世話しなく動いている。彼女は見えていないらしいが彼らがクレアの言葉に怒りを示しているのが分かる。
そのうちにクレアの近くに居た精霊が光を放って姿を消した。彼女に寄り添うように居た精霊が次々と消えて行く様はシャボン玉の様。
…世界が敵になるってまさか…ね。
「…本当に愛し子様なのですか?」
「ええ。」
「では何故、気に入っている第二皇子を魔王等と言って国民の不安を煽ったのです?」
「彼はわたくに気に入られていると言うことで驕ってしまったのです。」
皇子を『彼』ねぇ。
ふむ、もうすでに彼女の中では自分は愛し子モードなのですね。その結果がどうなるかなんて想像していないのでしょうね。
そうなのですねと反論をしないで、私はクレアの前で片膝を付き非礼のお詫びをしたあと一つの布に包まれた物体を取り出す。
「私は貴女様を探しておりました。」
宿屋の主人と冒険者の数人が戯れ言に乗るのかよというような呆れた目を向けてきたが、スルーしておく。
だって、これはまだ私の予想通りなんだもの。もう少し付き合って貰わないと彼女にも彼らにも。
「昨夜やっと愛し子様と約束を取り付けられたと喜んでいましたが、まさかこんなに早く会えるとは。」
「えっ。」
「愛し子様ならこれを滅せられるかと。」
一縷の希望を持って来ました。と恭しく布を開く。
布のなかには禍々しいオーラを放つ紙の入ったビンが一つ。この布はコウにぃの物だ。何故かこの禍々しいオーラを封じてくれているのだ。
布が開いた瞬間からクレアとアクタを除いた全員の雰囲気が変わる。護衛の男でさえビンを見て冷や汗を掻いているのがわかった。
耳元で兄様がこれは何だと、焦った様な声で聞いてくるのに笑顔で答えて、先の言葉を続ける。
「人形の国で残虐な行いをしたロキ王を封じたものです。」
その言葉に兄様は信じられないという顔をして、冒険者達は殺気を孕む。
冒険者達の中には人形の国に仲間や家族を殺された者がいるのかもしれない。だからかビンを持つ私にも鋭い視線が送られている。
「私は呪いや怨念などが効きにくい性質でして、運搬役兼どうにか出来る人を探す任を受けたまっております。」
「で、このビンをどうしろと?」
「ビンは封印具です。中の紙がロキの本体を封じているものです。」
「燃やせば良いじゃないの。わたくしの聖なる炎で焼いてあげるわ。」
そう言ってビンに近づき、片手に魔力を集めようとしてどうやら違和感に気づいた様だった。首をかしげながらもビンに触れようとした瞬間にビンを彼女から遠ざけた。
「何よ。」
「ロキの怨念は強く、こういった対応に馴れている聖騎士でさえ、ビンを触れたら高熱が出て生死をさ迷ったらしいのでお気をつけください。ああ、でも聖女であり、愛し子様なら大丈夫ですね。すみません。」
「そ、そうよ。」
肯定する反面、クレアの動きが止まりビンに触れる前にその手は戻って行く。
どことなく、その表情に焦りが見受けられた。この時点で演技を止めれば良いのに続けるつもりの彼女に呆れるやら、感心するやら。
「おい、人形の国はもうないのか?」
「はい、旅の方が封じた様です。」
「…そうか。」
「生きている者も居たと聞きますよ。」
二人、いえいえ、ロキを押さえ込もうとしていた彼を含めれば三人が守っていた国民の中には旅人が混じって居たようで、人形の国の調べが終われば帰ってくるだろう。少なくとも遺品は帰ってくる。
そう伝えれば、冒険者達の中には希望に輝く者もいた。
「嘘を言っている訳では無いな。」
「勿論ですよ。なんなら皇帝陛下様に問い合わせください。」
「いや、人形の国の消滅は耳にしていたからな。信じよう。」
何度も確認されるかなと思っていたがあまりにものあっさりと信じてくれたのにきょとんとしていると、兄様がビンを指差し『それの存在が大きい』って教えてくれた。
なるほど、確かにこれのお陰で信頼性は高いか。
さて、クレアはどうするのかしら。
目線だけで問えば、彼女は焦った様に言葉を続ける。
「滅するためには道具が必要なのよ。教会に取りに…。」
「あら、だから教会に連れていこうとしてたのですね。最初から解っていたのですか?」
「そ、そうよ。だから、後日…。」
「そう言うことでしたら教会に参りましょう。冒険者の方も共にどうですか?愛し子の御技が見れますよ。」
「そりゃあ良いな。クレアが愛し子や聖女じゃないのは分かっているが、ロキ王をどうにか出来るなら見たみたい。」
冒険者達も乗り気になってしまい、後には引けない雰囲気の中、アクタだけがにこやかに成り行きを見ていた。そして、クレアの肩を抱きしめた。クレアは救いだと言うようにアクタを見るも、その表情が考えて居たものと違うことを悟り、顔色を悪くした。
「では皆さん。聖女様、いや愛し子様のお力を拝見しましょうか。」
「ちょっ…。」
「大丈夫。紙に封じられているのだから、先程宣言した様に燃やせば良いのです。」
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