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戻ってきたら大騒動
彼女に与えられた罰
しおりを挟む場所は変わって白光教会の中。
ぞろぞろと冒険者が連れだって移動する様は、アクタを連行するかの様で少し笑えた。
途中で、知り合いの冒険者にも声をかけていたから増えるわ増える。教会に着いた頃には、厳つい男達が溢れて、さすがのアクタの顔色も悪い。
「え、では、始めましょうか。聖女様。どうぞ。」
「えっ、ええ。いや、はい。ではビンを床に。」
私は、いつの間にか白のヒラヒラした服に着替えてきたクレアに、指示されるまま幾何学模様の描かれた床の中央に布を外したビンを慎重に置いた。ビンの側から離れたと同時に不穏な空気が辺りを包む。私の眼には黒い靄がビンから滲み出ているのが見えた。
そんな不穏な雰囲気など気づかない様でビンを教会の人に人に開けさせようとしているが、何も知らない人達が開けようとする度に失神して失敗に終わる。
さすがについてきた冒険者も顔色が悪い。
クレアはビンを開ける事を諦めてそのままやることにしたらしい。側に控えていたアクタから鈴の様な物が付いた杖を受けとる。その受けとる手は恐怖のためか微かに震えている様だった。
私は飽きれ気味になりながらポケットを探り、手のひらに収まる位の小さな切子細工の様な模様の入った香水ビンの様な物を取り出す。
ガラスでできたそれの蓋をキュプッと開けて、中身を私を中心に撒く。その際は教会の人やクレアを除いた人達を囲むようにする。
口元に人差し指と中指を合わせた剣印を当て、異界の言葉で呪を唱える。
先程撒いたもの、いわゆる聖水なのだがそれを媒体にして術を完成させた。
それが完成する際、撒いた聖水が淡い光を一瞬だけ放つ。私の行動を不思議そうに見つめていた冒険者達ににこりと微笑み、これが怨念から身を守る為の結界である事を説明する。
「初めて見る術式だな。」
「はい、私の家に伝わる秘伝のものです。」
「ああ、だから、何を唱えているのか分からなかったのか。」
まあ、怨念が封じられたビンが彼女に開けられる事は無いとは思ってはいたけど念のためだ。
クレアが少し安心したような表情に成ったのが分かる。まさか、自分にも結界が張られているとでも思ったのかしら、教会の後ろ楯を持つ聖女なのだから自分達でやるのだと考えたから張ってないのに。
というか、教会の誰一人結界の張った時の淡い光が見えてないのかしら?
「では、始めます。聖なる光よ 集まりて清めの炎となれ!『聖炎』」
クレアが両手を開き片手に持つ杖から鈴の音が響く。白い服が蝶の様に広がり、呪文が唱えられる。
これで魔法のエフェクトが掛かればまさに神々しいであろう。しかし、その後には沈黙だけが広がるだけだあった。
きょとんとした後にもう一度呪文を唱えるも結果は変わらない。慌てて簡単な生活魔法初級の『光』を唱えるがやはり何も起こらなかった。
ここまでくれば分かると思うが、クレアは魔法が使えなくなっている。
私の眼には彼女の周りから魔素や精霊が消えているのが見えていた。ぽっかりとその場所だけ穴が空いているかの様に居ないのだ。
更にはクレアの纏う魔力も徐々に弱まってきている。
この世界では魔力を媒体に魔素を使って使う魔法と、魔力を精霊に捧げて使う魔法とがある。
勿論、魔力そのものを魔法に置換するやり方もあるが、効率が悪いため基本はこの二つが支流だ。
おそらくクレアは精霊に魔力を捧げるタイプだとおもう。実際、魔神の愛し子を名乗る前には精霊に囲まれたいたから当たりだろう。
『世界が敵になる』
その結果がこれなのだ。
魔素や魔力が無くなっていくのもそう考えたら納得だ。
私は、置きっぱなしのビンを手に取り布に包み直すと、残念そうに苦笑いを浮かべた。
「どうやら、愛し子では無い様ですね。」
「何言ってるよの!」
「私は伝えた筈です。世界が敵になると。世界はお怒りですよ。」
「まさか、わたくしの魔法…。」
「誰しも、大切な方を騙られたら怒るでしょう。それが、世界を創りし御方の愛し子なら世界が貴女を拒絶するのも分かりますわ。」
私的にはちょっとした不幸ぐらいで良かったのだけど、愛されている様で嬉しいくも思う。
もしかしたら、称号ぐらいでなんて思う方も居るかもしれないけど、『魔神の愛し子』は魔神達と私たちを繋ぐもの。
身体が何度生まれ変わっても唯一変わらない魂に刻まれた絆。世界に干渉出来ない彼らが愛情を知ってもらうための手段でもあるのだ。この世界ではたまに干渉してくるようだけどね。
とにかく、私たちにとっては大切なものなのです。
クレアは、呆然と自分の手を見つめて座り込んだ。やっと本当に魔神の愛し子が居たことやその地雷を踏んだことがわかったのだろう。
アクタも、まさかと言った顔で唇を震わせていた。
そりゃあ、騙りの片棒を担いだんだものね。御咎め無しと言うわけには行かない。たぶん何かしら起こるかも知れないけど、良い噂のない教会だし、別に良いよね。
「では、私はこれで。」
「ちょ、ま、待って。」
「…なにか?」
「貴女、愛し子様に会う予定なんでしょ? 執りなしてよ。」
クレアのその言葉にアクタや教会の人々がすがるように私を見る。
そんな彼らににこりと微笑めば、何処と無くほっとした雰囲気になる。しかし、目が嗤っているのに気が付くと絶望の表情に成った。
「言ったでしょう? 愛し子様に何かあれば世界が敵に成ると。これは愛し子様の意思では無いのですよ。世界が勝手に行っているのです。」
そう、例えば私が言っても精霊や魔素は彼女の近くに行って消えるだけだ。
どうしようもないのだ。
「生き方を見直したら万が一があるかも知れませんね。」
私が教会を後にすると、冒険者達もついてきた。彼らを利用したことや、仇かもしれない人形の国の怨霊をあんな風に使った事など、『やどりぎ』に着いてから頭を下げた。
当然のように怒られたが、それは余り無茶なことは止めろという心配してのお言葉で、怒られているのに心が暖かくなる。
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