僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN

文字の大きさ
31 / 245
戻ってきたら大騒動

僕と私の記念日

しおりを挟む
 

 ある日、神の国では短時間であるが奇跡が起きた。

 その日は城からの知らせが配布されるとのことで、近隣の街や隣国からの旅人により賑やかであった。
 時刻は昼になるかという頃。
 城から皇帝陛下が護衛の騎士を連れて現れた。その姿が遠くでも見えるように昔、異界の者が発明したプロジェクターという魔法を使い、映像が大きく空に浮かび上がる。
 
 人々は空を見上げて、辺りは静寂に包まれる。

 皇帝陛下の唇が開き、重みのあるテノールの音が響く。


 「今日こんにち、世界を作りし魔神様が我が国に愛し子を授けてくださった。神の国と呼ばれる我が国が素晴らしく誇る事だ。」


 皇帝陛下のその言葉に人々は困惑を浮かべている。それもそうだろ。いきなりの話で戸惑わないものなど少ないのだ。
 それは、皇帝陛下も理解していた。すぐさま言葉が続く。


「しかし、愛し子は今は表に出ない。信じられない者も居るだろう。さらには騙る者も。先日のある協会の事件を知るものなら分かっているだろうが、愛し子は実際居て、騙る者は世界が赦さない。」


 その発言で、少しだけざわめきが起きた。
 おそらく、その人達はあの日の出来事を知っているのだろう。


「愛し子は自分の存在を示すため、奇跡を起こして下さるそうだ。それは彼の者が世界に愛されし者である証拠でもある。とくとその目に焼き付けるのだ。」


 皇帝陛下のその言葉を待っていたかの様に天から白い雪のような小さな結晶が降り始めた。

 その結晶は地面や物に触れる前に空気に溶け込むように消える。温度も何も感じはしない。


 ある道脇に座り込む草臥れた様子の男は何の感情も感じずにその光景を眺めていた。
 次々と降る景色はで見るには下らなく感じたのだ。

『いつまでも湿気た顔しないでよ。』

 ふと掛けられた声。その声は男にとっての忘れられない声だった。

『そんな顔は私の愛した旦那じゃないわ。』

 声のする方を見れば、結晶が一人の苦笑いを浮かべる女性を写し出していた。
 その女性は、男の今は亡き妻だった。
 男が冒険者で町を離れている間に亡くなった、愛しい妻。
 男が手を差し伸ばすも実態はとらえられない。

 男の目にはいつか振りの涙があふれでていた。




「愛し子から贈り物だ。この結晶が降る間、汝等の目は精霊を写し、心残りの者をまい戻らせる。時間は日が入るまで。この奇跡は世界から愛されし愛し子だからこと出来たのだ。堪能せよ。」


 どこからか、皇帝陛下の震える声が響く。
 視線を皇帝陛下に向ければ、優しい笑みを浮かべた前王の姿が寄り添っていた。
 これは変な幻術なのでは無いと皇帝陛下の涙を見ればわかる。

男の唇が戦慄き、掠れた声が漏れた。その声は群衆の歓声に紛れたが、風の精霊が聞き届けた。


「愛し子様に幸あれ。」


 こうして、神の国に魔神の愛し子が現れたことが知られた。
 
 


 




  裏話は数日前に遡る。



「あの時のお嬢ちゃんじゃないか。」


 あの時のから数日後の事だった。
 城下町の出店で買い食いをしていると誰かしらかに話しかけられた。振り向けば、『やどりぎ』のご主人が両手に荷物を抱えて立っていた。
 それが大変そうに見えたので、手を差し出すと今日も伴にいたヴァン兄様が先にご主人から荷物を奪う。
 私も持てると視線で訴えれば、何かを察した宿屋のご主人がもう片方の袋に隠れた小さな紙袋をお願いされた。このご主人、なかなかやる。 

 そして、兄様に何でもやってしまいやりたがっているのを取り上げるのは良くないとアドバイスをしていた。兄様はなるほどと納得して頷くのを見てご主人がニカッと爽やかに笑った。

 ちなみに今日も二人での行動中だ。
 
 ご主人が荷物を持ってくれてありがとうよ。と空いた手で私たちの頭を撫でてくれる。大きくてゴツゴツとした暖かい手だ。父様の手に何処と無く似てるから彼は宿屋の前は冒険者だったのかも知れない。


「お嬢ちゃん達も国の発表を聞きに来たのか?」
「ええ、内容は何となく予想できているのですが…。」
だな。」
「はい。愛し子が行う何かにも興味ありますので。」


 そう、それが頭の悩ませ所なんです。今回の探索は皆の望む事を知りたかったから。
 夏なのに雪を降らせるとかは魔法使いならやれそうだし、だからといって物を出現させるのもなんなのですよね。
 過去の英雄を甦らせる?
 いやいや、死者蘇生なんてそんな理を曲げることはあまりするもんじゃない。

 さてはて、どうしたものか。

 うんうんと頭を悩ませながら宿屋まで着くと、多くの冒険者が私達に気付いて温かく迎えてくれた。


「何を悩んでいるか知らんが、もっと気楽に生きた方が楽しいぜ。オレの弟は気楽過ぎるがな。」
「弟が居るんだ?」
「おう、城で騎士をしているんだがこの間天使や精霊を見たと言っていた。羨ましいよな。」


  
 羨ましい。その言葉がふと心に落ちた。
 よくよく考えると、普通の人は精霊が見えないのだ。
 アキさんや兄上の様な世界など普通に体験できるものではない。だったら、ほんの少しだけ理を曲げてあれをしよう。大丈夫。ほんのすこしだけ望む人だけだから。

 そして此度の奇跡が起こった。


 まあ、理をすこしとはいえ曲げた代償として一週間、眠りについてしまったけどね。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!

ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。 え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!! それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

処理中です...