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戻ってきたら大騒動
僕と私の記念日
しおりを挟むある日、神の国では短時間であるが奇跡が起きた。
その日は城からの知らせが配布されるとのことで、近隣の街や隣国からの旅人により賑やかであった。
時刻は昼になるかという頃。
城から皇帝陛下が護衛の騎士を連れて現れた。その姿が遠くでも見えるように昔、異界の者が発明したプロジェクターという魔法を使い、映像が大きく空に浮かび上がる。
人々は空を見上げて、辺りは静寂に包まれる。
皇帝陛下の唇が開き、重みのあるテノールの音が響く。
「今日、世界を作りし魔神様が我が国に愛し子を授けてくださった。神の国と呼ばれる我が国が素晴らしく誇る事だ。」
皇帝陛下のその言葉に人々は困惑を浮かべている。それもそうだろ。いきなりの話で戸惑わないものなど少ないのだ。
それは、皇帝陛下も理解していた。すぐさま言葉が続く。
「しかし、愛し子は今は表に出ない。信じられない者も居るだろう。さらには騙る者も。先日のある協会の事件を知るものなら分かっているだろうが、愛し子は実際居て、騙る者は世界が赦さない。」
その発言で、少しだけざわめきが起きた。
おそらく、その人達はあの日の出来事を知っているのだろう。
「愛し子は自分の存在を示すため、奇跡を起こして下さるそうだ。それは彼の者が世界に愛されし者である証拠でもある。とくとその目に焼き付けるのだ。」
皇帝陛下のその言葉を待っていたかの様に天から白い雪のような小さな結晶が降り始めた。
その結晶は地面や物に触れる前に空気に溶け込むように消える。温度も何も感じはしない。
ある道脇に座り込む草臥れた様子の男は何の感情も感じずにその光景を眺めていた。
次々と降る景色は独りで見るには下らなく感じたのだ。
『いつまでも湿気た顔しないでよ。』
ふと掛けられた声。その声は男にとっての忘れられない声だった。
『そんな顔は私の愛した旦那じゃないわ。』
声のする方を見れば、結晶が一人の苦笑いを浮かべる女性を写し出していた。
その女性は、男の今は亡き妻だった。
男が冒険者で町を離れている間に亡くなった、愛しい妻。
男が手を差し伸ばすも実態はとらえられない。
男の目にはいつか振りの涙があふれでていた。
「愛し子から贈り物だ。この結晶が降る間、汝等の目は精霊を写し、心残りの者をまい戻らせる。時間は日が入るまで。この奇跡は世界から愛されし愛し子だからこと出来たのだ。堪能せよ。」
どこからか、皇帝陛下の震える声が響く。
視線を皇帝陛下に向ければ、優しい笑みを浮かべた前王の姿が寄り添っていた。
これは変な幻術なのでは無いと皇帝陛下の涙を見ればわかる。
男の唇が戦慄き、掠れた声が漏れた。その声は群衆の歓声に紛れたが、風の精霊が聞き届けた。
「愛し子様に幸あれ。」
こうして、神の国に魔神の愛し子が現れたことが知られた。
裏話は数日前に遡る。
「あの時のお嬢ちゃんじゃないか。」
あの時のから数日後の事だった。
城下町の出店で買い食いをしていると誰かしらかに話しかけられた。振り向けば、『やどりぎ』のご主人が両手に荷物を抱えて立っていた。
それが大変そうに見えたので、手を差し出すと今日も伴にいたヴァン兄様が先にご主人から荷物を奪う。
私も持てると視線で訴えれば、何かを察した宿屋のご主人がもう片方の袋に隠れた小さな紙袋をお願いされた。このご主人、なかなかやる。
そして、兄様に何でもやってしまいやりたがっているのを取り上げるのは良くないとアドバイスをしていた。兄様はなるほどと納得して頷くのを見てご主人がニカッと爽やかに笑った。
ちなみに今日も二人での行動中だ。
ご主人が荷物を持ってくれてありがとうよ。と空いた手で私たちの頭を撫でてくれる。大きくてゴツゴツとした暖かい手だ。父様の手に何処と無く似てるから彼は宿屋の前は冒険者だったのかも知れない。
「お嬢ちゃん達も国の発表を聞きに来たのか?」
「ええ、内容は何となく予想できているのですが…。」
「例の事だな。」
「はい。愛し子が行う何かにも興味ありますので。」
そう、それが頭の悩ませ所なんです。今回の探索は皆の望む事を知りたかったから。
夏なのに雪を降らせるとかは魔法使いならやれそうだし、だからといって物を出現させるのもなんなのですよね。
過去の英雄を甦らせる?
いやいや、死者蘇生なんてそんな理を曲げることはあまりするもんじゃない。
さてはて、どうしたものか。
うんうんと頭を悩ませながら宿屋まで着くと、多くの冒険者が私達に気付いて温かく迎えてくれた。
「何を悩んでいるか知らんが、もっと気楽に生きた方が楽しいぜ。オレの弟は気楽過ぎるがな。」
「弟が居るんだ?」
「おう、城で騎士をしているんだがこの間天使や精霊を見たと言っていた。羨ましいよな。」
羨ましい。その言葉がふと心に落ちた。
よくよく考えると、普通の人は精霊が見えないのだ。
アキさんや兄上の様な世界など普通に体験できるものではない。だったら、ほんの少しだけ理を曲げてあれをしよう。大丈夫。ほんのすこしだけ望む人だけだから。
そして此度の奇跡が起こった。
まあ、理をすこしとはいえ曲げた代償として一週間、眠りについてしまったけどね。
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