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閑話 ちょい話
閑話 恐怖の聖夜~merryChristmas!!~
しおりを挟む口元に波打つもっふりとした髭をはやし、全身を漆黒の服で包み込んだ大男。
片手には灰の入った袋を持ち、もう片手には暗闇で赤くパチパチとはじる松明を持っている。その松明によって見える血走った目はギョロギョロと辺りを見回して獲物を探している。
僕達は、口を手で押さえて悲鳴を出さないようにしながらこの男が消えるのを物陰に隠れながら待っていた。
別の者が近づいているのを気付く事なく。
物事には始まりがある。
今回の始まりは、孤児院へのクリスマス慰問をしてたときから始まる。
僕が転生したこの世界は、転生者や異世界人が多いせいかイベント事が豊富だ。
先日は冬の女王杯なんてものもやった。詳しくは割愛するが、激しかったとだけ言っておこう。
とにかく、今回は前世でも馴染みのあるクリスマスなのだが、コウにぃ曰く、本物がいるのだとか。
こちらのサンタはプレゼントを贈るのではなく、良い子に小さな幸せをもたらしてくれるのだとか。それが幸せだと気付かない者も居るが、物欲に汚れてない感じが好きだ。
まあ、そんな特別な日に貴族や王族は孤児院や診療所に慰問して贈り物をおくる。我が家は定期的に慰問してボランティアとかしていたりするが、こうすることで後ろめたい奴らは罪落としなんだとか。本当の悪人は慰問したふりをするらしいけど。
とにかく、今日は、クリスマスの前日。イブである。
からだが凍りつきそうな寒さのなか、暖かいスープを渡したり、コウにぃ考案の簡易温室を贈ったりしている。温室はほぼ自給自足の孤児院は喜んでくれて、僕が考案した訳ではないが鼻が高い。
「可愛い子にこんなところで出会えるなんて。1日早いサンタからの贈り物かな。」
「並んでいる方々がいるので戯れ言なら帰ってください。」
「声まで心地よい。お嬢さんお名前は?」
クリスマス慰問はたまに他の貴族と被ることがある。
今回は女癖の悪い伯爵子息様の所と被ってしまっている。彼の背後には迷惑そうな子供達が文句も言えずに並んでいた。僕の兄様達や父様も助けに来ようとしていたが慰問の作業を中断する事ができずに殺せそうな視線を向けるだけにとどまっている。
どうしたものかと悩んでいると、伯爵子息の顔に泥団子が飛んで来た。
泥団子は見事、伯爵子息の顔に当たるとずり落ちて高そうな洋服を汚す。何がおこったのか分からずに呆然とする伯爵子息は、先程までへらへらしていた顔を徐々に赤らめて怒りの表情に変わる。そして、泥団子が投げられてきた方向をばっと振り向き、腕に泥団子を抱えた小さな少年を睨み付けた。
「ガキィ!何をしやがっぶっ!」
「みんな迷惑してるのわかれよ!」
「一度ならず二度も……下賤な奴が貴族に歯向かうなどぉ!」
慰問に似合わないと思っていた腰の剣に手を伸ばしたので、あわてて配膳台を飛び越えて抜けないように柄の部分を押さえた。
「お嬢さん、離してください。この不貞なガキを。」
「不貞な方はあんたです。剣から手を離してください。」
「君は優しいね。でも、こんなくそガキは…。」
「オイタするとクネヒトループレヒトが来るぞ。」
「コウにぃ!」
辺りもざわざわしてきたところで、様子を見に来ると言っていたコウにぃが到着したらしく、早々に助けに来てくれた。コウにぃを一度は凄まじい表情で見た伯爵子息は、それが皇子であるのがわかると今度は顔色が青くなった。そして、震える声で謝罪の言葉をのべるとすぐに何処かに消えていってしまった。
「コウラン皇子ありがとうございます。」
「ん?当然の事をしただけだ。」
公共の場のためコウラン皇子と呼べば寂しそうな顔を少ししたあと、僕の頭を優しく撫でてくれる。
それを目撃したコウにぃに同伴してきた兵士と父様は目を見開き、驚愕の表情を浮かべた。父様に至っては配っていたパンを落としている。兄様達はもう慣れたようで僕の安全が取れたことで慰問活動を再開している。
「なあ、クネなんとかってなんだよ。」
「ギル!皇子様に何て口を……。」
泥団子の子供、ギルくんを嗜めるシスターはぺしりと頭を叩く。ギルくんは叩かれた頭に手を当てムッとした表情になった。
「先程は助けていただきありがとうございます。」
「別にそのガ、子供を助けた訳じゃないけどな。」
「へっ?」
「で、クネなんとかって何?」
シスターは頬を桃色にしてコウにぃに上目使いでお礼を言うものの、それをスルーした。
ギルくんは諦め切れずにコウにぃに再度質問を繰り返す。その質問を別の誰かが答えられるはずもなく、僕も兄上が聞かれているのに答える筈もなく、少しの沈黙の後にコウにぃの口が動いた。
「黒いサンタだ。」
「黒い……サンタ?サンタって赤色だろ?」
「本来赤くも無いがな。」
「某ドリンクのイメージのまま定着しましたね。」
「なあ、黒いサンタって?」
コウにぃはめんどくさそうに僕に視線を向けてきた。
まあ、説明位は良いかな。
「黒いサンタはね……。」
僕が話し出すとギルくんはこちらにキラキラした目を向けてきた。僕が配膳していた場所はすでにコウにぃが連れてきた兵士が変わってくれておりスムーズに列が動いている。その配膳を待つ子供達も興味津々にこちらをチラチラ見ていた。
ここで一つ咳をして声の調子を調えてから語る。
黒いサンタ。
通勤のサンタが幸せを運ぶ使者なら、彼は恐怖を運ぶ者。
良い子に幸せを運ぶサンタにくらべて黒いサンタは悪い子を拐う。
もじゃもじゃの髭に全身黒づくめ。悪い子を拐う灰の入っていた袋を持ち松明を掲げて聖夜をさ迷い歩くのです。
さあて、君は良い子かな?
にっこりと微笑みながら質問すれば、ギルくんはビクりと体を震わせた。
よくみると、周りの何人かもびくびくと泣きそうなのがいる。
「シン、今日は知人に逢う予定なんだが来るか?」
「今、その話しなくても。まあ、邪魔になると困るので遠慮します。」
「なあ、おれ、貴族に泥団子投げちゃった。」
「大丈夫ですよ。」
くいくいと服の裾を引っ張り、不安げに言うギルくんに目線を合わせるようにしゃがむと、パサついた野良猫の様な髪を撫でる。
「ジルくんは僕を助けてくれた良い子じゃないですか。」
「でも、他にも畑から作物盗んだことあるし。」
「後で一緒に謝りましょう。」
「お願い、一緒に今夜居て。」
涙が今にも溢れそうな子供に懇願されて嫌と言える人がいたら見てみたい。ああ、さっきの伯爵子息ならやりそうだ。。
まあ、冒険で野宿は慣れてるからどんなところでも寝れるし安心させるためなら一泊ぐらい良いかな。とその夜は孤児院に泊まる事にした。我が家族は最後まで反対していたが、やはり子供の涙に弱く、しぶしぶ帰っていった。
そして、夜に一緒に居たいといったはずのギルくんが孤児院を抜け出すを見つけてしまった。急いでその追いかけて行った時に出会ってしまったのだ黒いサンタに。
話し通りの姿の黒いサンタは灰袋からミイラよろしく干からびた何かを取り出すと、その干からびたものは粉状に変わる。そして、何かの魔方陣を書き儀式を始めようとしていた。その姿にギルくんは思わず悲鳴を上げようとしたところで、追い付いた僕の手によって塞ぐ事に成功する。しかし、ぐぐもった声に機敏に反応した黒いサンタはギロギロと血走った目を動かしながらこちらを振り向いた。
肌は土気色で大きな鷲鼻、歯が鋸状で雲の隙間から見える月によって煌めいていて、背筋にうすら寒い何かが流れ落ちた。
とりあえず、視線に捕まらないようにゆっくりと木の影まで移動すると、ギルくんの口を塞いでいた手を外した。
「どうして脱け出したの。」
「……おれの妹が昼間の貴族に連れてかれたって聞いたんだ。」
「誰に?」
「シスター。だから、昼間のお返しかと思って……。」
うむ、なんかきな臭くなってきたじゃないの。
そもそも、昼間のシスターもすぐにギルくんを庇わなかったしな。貴族が怖いだけかと思ったんだけど。
「後で詳しく聞くからね。今は無事に帰ろう。」
「あれって黒いサンタ?」
「多分ね。」
「さっきの袋から出てきたのって……。」
「忘れなさい。」
ヒソヒソひそひそ
声を潜めて会話をしていたのだが、そこは閑散とした場所のせいか黒いサンタは違和感を感じたのか、こちらに近寄ってきた。話をやめて口元に手を当てて気配を殺す。
いざとなればギルくんを守り戦う所存だが、なるべくならこういう存在とは戦いたくない。
じっと、黒いサンタの一動一動を見逃さないように、集中していると背後からの何者かの接近を許してしまった。気づいた時には首元に腕を回され、ギルくんは気絶したのか地面に倒れていた。反撃をしようとしても首元の腕は正確に頸動脈を押さえられて、力が抜けてどうにもならない。ここまでか。
「久しいな、クネヒトループレヒト。」
ここまでかと思っていたら耳元から聞こえてきたのは聞きなれた声。
「おお、アシュレイ殿でしたか。」
「儀式の邪魔をしたくなかったのでな隠れていた。」
「アシュレイ殿なら気にしない。ちなみにそちらの二人は?」
「俺の愛しの弟と迷子だ。」
「なんと、噂の前世の弟を見つけたのか。」
「ああ。可愛いだろ?」
「……あ、あの、その可愛い弟君がぐったりしてますが。」
「おっと、絞めすぎたか。」
絞めすぎたかじゃないですよ兄上。
やっと緩められた拘束にけほけほと咳をしながら、涙目でコウにぃの事を睨めば、何故か頭をわしゃわしゃと撫でられた。
わしゃわしゃと撫でながら兄上は黒サンタと何か話している。
落ち着いたところで改めて黒サンタを見ればすでに儀式を再開しているようだった。ここまで来ると分かるように、兄上が逢う知人とは彼の事であろう。ほんと、こういうのが大好きなんだから。
ふと、先程の会話を思い出した。
「コウにぃ、さっきジルくんの話で不自然な事が。」
「ああ、昼間の会話でもちょっと気になったな。」
「?」
「畑から作物を盗むほど経営は厳しくない筈なんだ。」
「それって……。」
「後はクネヒトループレヒトに任せよう。」
そう言って口元を歪める姿はまさに魔王で、思わずうっとりとしてしまった。
はっと、意識を回復させるとジルくんを小脇に抱えたコウにぃが手を差し出してきた。それになんか懐かしくて思わず両手で掴むと孤児院に戻るために歩きだす。
孤児院では、想像通りジルくんの妹がおろおろとして泣きながら待っていたのであった。
月夜の綺麗な聖夜に人影が街外れのヤドリギが目立つ木に向かって走っていた。その木のしたには、上質な服を着た伯爵子息が立っていた。走り寄った人物は頭から被っていたローブを外した。ローブの下から出てきたのはあの、孤児院のシスターであった。
「遅かったな。」
「今夜は少し騒動があったのよ。」
「あのガキは無事に死んだかな。」
「うふふ、迷いなく夜盗の元に走っていったから大丈夫。」
「そんな事よりも……。」
伯爵子息はシスターの胸元をまさぐる。
すると、チャリチャリと金貨の音が聞こえてきた。
彼らは孤児院の寄付金を横領して私腹を肥やしていたのだ。そのため、度々生活費が足りなくなり子供達に盗みをやらせていたのだ。
金貨の入った袋を取り出し、やらしく笑う姿はまさに悪人ずらである。
「ねえ、そろそろ私の相手をしてよ。」
「そうだな。」
ヤドリギのしたで唇が合わさる寸前、二人は世界が真っ暗になった。何かに包まれる感覚と目がつぶれそうな痛み、匂いから灰袋だとわかった瞬間、シスターは昼間の話を思い出してカタカタと震えだす。そして決定打が聞こえてきたのは、低い地の底から響く声であった。
『悪い子ミイツケタ』
end
次回は本編
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