121 / 245
精霊たちの秋祭り
僕と精霊王の困惑
しおりを挟むあまりにも暗い世界。
自分の手のひらが微かに見えるぐらいの世界でアンナ・クロチアゼパムは佇んでいた。
なにもないようなこんな世界は初めてでここが今まで自分の板世界では無いことはすぐに分かった。何より先程まで楽しく買い物をしていたのだ。
出口も何も見えないこの状況でどうするか。
ふと先日のバルス先生の授業を思い出す。両の手の指を複雑に、たしかこんな風にくんで呪文を口ずさむ。
「『シーイング ザ トゥルー アイディンティティ』」
組まれた手の中心が淡く光ると、先程の暗闇が一転して光の玉だらけの世界が見えた。
光の玉は、ふよふよと漂いアンナが興味深いのか近くに来るとピタリと止まってまじまじと見ていかようにじっとしている。
少しだけ居心地が悪いが危害は加えられる事はなさそうだ。
「精霊様、私は元の世界に戻りたいのだけど案内してくれます?」
一部の精霊が喜んでと言うように跳ねるが、大部分が怯えたように左右に揺れる。
どうやら彼らより上の存在が彼女を連れてきたようだ。
無理やり言うことを聞かせるなんてできなくて困っていると、跳ねていた精霊の一つがこちらに近寄ってきた。まじないを解いてもその光だけは目に見える。
「連れて行ってくれるの?」
光の玉がうなずくように上下に動く。
「ありがとうございます。絶対にお礼はしますわ。」
光の玉は嬉しそうに跳ねて、アンナを案内するように動き出した。彼女は決心を固めてその後について行く。
「精霊王よ。魔神様の使者が来ましたよ。」
アンナが誘拐されたと聞いて急いで精霊界に来た僕達だけど、人間の世界でいう謁見の間の様な場所に案内された。
光を放つ苔に覆われた洞窟の様な空間に、一本の大きな木がそびえ立つ。野花や草花が辺りを飾り、その大きな木にはそれらしい男が居る。
とりあえずはノアさんとタオシャンはフード付きマントで姿を一旦隠して貰い、僕達は大樹に居る精霊王の前に立つ。
精霊王は新緑の髪にオレンジ味のある瞳のまさしくノアさんと瓜二つの姿をしている。これで別の人だったら大変だったので内心ホッとした。
僕と兄上が先頭に立って挨拶をする。
「魔神様の使者である、シンリとコウランです。」
「我は精霊王グランデと申す。まさかイトシ‥…」
「精霊王の愛し子の話しをする前に聞きたいことがあります。」
精霊王よ、僕達が愛し子だと言うことを隠したがっていることは伝えてあるだろ。
という意味合いを込めた目線を送ったあとにニコリと笑えば、精霊王が生唾を飲み込んだ。
本来なら話している途中に割り込むのは不敬に当たるからお花畑ヒロインは気をつけてね。
「うむ、早く愛しい我が子に会いたくて気を先してしまったようだ。して、話とは。」
「早く会いたいのは当然だと思いますが、こちらをどうにかしないと精霊王様も困ると思います。実は精霊にこちらの住人が誘拐されまして。」
そう言って現場に落ちていたという茸を見せれば精霊王の眉間にシワがよる。茸に残る残滓に見覚えがあるのか頭を抱えて深いため息をついた。
その場にいる兵士にハンドサインで何やら指示を出すとガバリと頭を下げた。
意外と王は話が分かるやつなのか?
「どうやら精霊の一部が暴走していたようだ謝る。すぐに連れてこよう。」
「何日かかる?」
「はて?」
「何日かかる?」
「質問内容が見えないが。」
「そもそも今回の原因はその種族特性のせいだからな。」
コウにぃの種族特性と言う言葉はなんとも今回の事にピッタリの言葉だとおもう。
未だによくわかっていない精霊王に今度は僕が説明をすることにした。
「精霊王のちょっと目を離したは人の体感では一日でした。そして最近の話と言われていたのにこちらでは30年、大人になるくらい経っているのです。」
そこまで話して、ノアさんとタオシャンに合図を送ると二人がフード付きマントを脱ぐ。そしてノアさんの精霊王との瓜二つの姿に皆が歓喜を上げかけたが、それを制したのはタオシャンの地を這うような低い声だった。
「アンナはいつ帰って来るんです?」
「何者ですか貴方は。」
「私の息子です。」
「そもそも関係のない少女を連れ去ることは犯罪だよ?お父さんだって放置されて肺炎になりかけて死ぬところだったんだ。爺ちゃんは命の恩人だよ。それを勝手に誘拐だなんて、赤子をそんな無責任に振り回しておいて誘拐犯扱いして呪いまで掛けて馬鹿じゃないの。」
「こちら、お孫様のタオシャンくんです。」
そして、現在誘拐されているアンナの良い人です。
いやあ、学園で虐められていても怒らなかったタオシャンがお怒りになってますよ。ノアさんも止める気はないらしく、アハハと傍観の構え。
ノアさんが蛹とはいえ精霊王の子なのになぜ肺炎になりかけて死にかけていたのか僕的に考えていたのだが、そもそもノアさんは産まれて直ぐに連れ出されたのではないかと、精霊としての能力の低い時期であったために人間の擬態が優先された結果肺炎にって。
タオシャンのお怒りにタジタジの精霊達。
精霊王も自らの孫だと分かった時点でどうしょうかと迷っている。強制的に排除は出来ないなところは家族思いだと思うよ。こちらを見つめても僕達も怒っているんだよ。宥めるつもりもないし、宥めるなら彼女しかないでしょ。
「あら、タオシャン何をしているの?」
そこに、キョトンとしたアンナがどこからか出現した。流石に今回は直ぐに動いたのか。
そう思っていたが、精霊王が目を見開いて驚いた顔をしているのが分かったのでそうではないらしい。
0
あなたにおすすめの小説
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる