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春の訪れと新入生
僕とアキンドとグランドオール
しおりを挟む魔の森は日の光が入りにくいが体感的に朝にはなっている筈だ。しかし薄暗い森は夜と変わらず獣の唸り声は相変わらずだ。
幸運なことにモンスターとの遭遇もなく順調に進んでいる。それどころか野獣のすら寄り付かないのは不思議だがきっとアキさんが何かしているのだろう。
今あと2キロぐらいで新人生の所にたどり着く予定だが、この糸の先は一向に動く気配はない。辺りを探っても危険は迫っていなさそうなので無事回収できる様で良かった。
途中で謎の集団には何度か遭遇したがあまり慣れていないのかこちらには気が付かずにしかもおしゃべりな奴が居るようで情報はなかなか面白く集まっている。
知りたくもなかったがグランドオールの主の力が必要でそのためなら戦闘や邪魔者の排除を厭わないそうだ。自分達以外の人達が森に入っているのも気が付いている様で、相手が何者であろうと姿を見られたら即殺すると言っている。
もうすでに何度か彼らを見かけているけどこちらに反応しない辺り実力は微妙なところだ。
そこはアキさんも同意見の様だ。まるで劣等生を集めているような感じがするのだとか。武器は主に剣の様だが魔法をつかっているようすはあまりない。自分自身を蔑ろにするのような戦いが見られてその中の数人が『今はその時では無い』と止めているようだった。命を捧げてまで何かしらをする集団が気にならないわけでは無いが今は僕達にもやることがある。
放置してしまっても良いかななんて心の奥で思っていたりもするけどアキさんがどうしても気になってしまっている様だし、僕にも最終的には同行を許可してしまった負い目がある。他のメンバーが無理やりついてきたという証言があってもヘタリーチェ伯爵の手前気まずいのだ。
「さあ、急ぎましょう。」
「うん。もうすぐ会える筈。」
謎の集団を見かけた後で新入生に会える等と言ったときに気が付けば良かったのだが、それが少年の側まで危機が迫っているということだ。
急に対象物の動きがあった。
どうやら走っているようで、なかなかのスピードで僕達から離れているようだ。
アキさんと頷きあって僕達も走り出す。ガサガサと草木をかき分けて追いかけて行く先に拓けた場所が出てきた。
そこには瓶を抱えて追い詰められた弟君とゆらゆらとしっぽを揺らして追い詰めている虎の姿だ。
虎は興奮しているのだろう息を荒くして、ヨダレを垂らし体勢を低めにしている。
四肢に力を込めて飛びかかっていくのが見える。
アキさんが先に動いた。
剣を鞘ごと横にして虎の引っ掻き攻撃を受ける。その時の姿を見る限り虎は遥かにでかい。鋭い爪が見える手はアキさんの顔ぐらいありその身体はまるで熊の様だ。
魔石が無いところを見るにただの野生の虎の様だが、この魔の森で生き残っているぐらいなので頭も良いし強いのだろう。恐らくはあの謎の集団を見かけて早々に場を離れた所で少年に出会ったのだと思う。
アキさんが剣を斜めにして攻撃の力をいなし、こちらから攻撃して距離を稼ぐ。いきなり現れた人間に虎はウロウロと様子を見ているようだ。お腹が空いたから小さい方を食べたいが大きい方はかかっては行けない部類だ。そんなことを思っていそうな虎の背後に回り込み、短剣を首元から頭の方に向かって差し込み捻る。
そうすれば頸動脈やそれ以外の諸々が切断されて痛みよりも先に絶命する。
虎も謎の集団から逃げて餌を確保しようとしたらこんなところで殺されるなんて思っていなかっただろうに。
短剣を抜き血払いをして、ついでに暗器を回収しておく。今度からは糸も準備してこうなったとき用にしようかな。
アキさんがこちらに近寄ってきた。その背後には初めての殺傷に気分が悪くなったのか草むらに向かって嘔吐しているヘタリーチェ伯爵子息。
アキさんはもう事の切れた虎を注視し顎に手を当てている。僕はそんなアキさんのフードが取れた姿を注視していた。
助けに入ったときに脱げたフードの下は真っ赤な夕陽のような髪があった。別に隠すようなものじゃなさそうなのに。
「この虎の皮は結構良い値段で売れます。しかし、肉はここの地に染まりすぎていますので食べないほうが良いです。」
「分かった。解体は戻ってやっても良い?」
「はい。安全を確保出来ない場所では血の匂いで他のナニカに邪魔されるかもしれないですから。」
僕は素直に虎を丸ごと空間魔法にしまうと、いくらか顔色が回復してきたヘタリーチェ伯爵子息に視線を向ける。
口元を袖で拭い、瓶をぎゅうと抱える弟君は目の奥が疑問で一杯の色をしていた。
それはなぜわかったのやどうしてここにとかなんで躊躇なく殺せるんだといったようなものだろう。確かに他の同年代に比べたら前世の記憶があるから冷めたよたいな感じであろう。動物を殺すというのも我々が食を楽しむのに必要な事だし。
たとえモンスターだとしてもちゃんと礼をもって命を頂いている。
命をもて遊ぶ趣味もないし冒険する上で人間同士殺し合う事もある。
「ヘタリーチェ伯爵子息、帰りましょう。」
「残りは我々だけだよ。」
そんなことを語っている暇ではなかった。
あの集団が近くにいたのだ早々にその場を離れたい。もう遅いかもしれないけど。
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