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勇者という存在がもたらすもの
序幕
しおりを挟む彼の者が産まれたのは雨が冷たく肌を冷やす冬の日だった。
へその緒がついたままで布に包まれた彼の者は生きようと必死に声を上げた。そこは薄暗いケモノ道の場所でなぜこの子がこんなところに置かれていったかを知るものはこの場には居なかった。
一生懸命に泣く声が段々と力がなくなってきた。
しかし彼の者の運命はまだ尽きては居ない。
偶々、野草を取りに来た料理屋の女が通りかかったのだ。
カゴいっぱいに野草ときのみを確保して今日は運が良かったとホクホクと足取りも軽く歩いていると、白い何かが遠目でも見えてきた。自然界で白いという目立つものなど滅多に無いし、あったとしても来るときにはそんなものはなかった。
この奥にある野草の穴場が誰かにバレてしまい、その人の落とし物だろうか。
そう考えて、落ちているものの形がわかるに従って女は駆け出した。カゴからきのみがこぼれ落ちて居ることなど気にしてられなかった。
その白いものが御包みで、しかも動いていて微かに声が聞こえた。手が震えながらもその包みを優しく持ち上げ中を見ると、顔を真っ赤にしたくしゃくしゃの赤子だった。さらにはまだ乾いていない血もこびり付いていて、へその緒までついているではないか。
親はどこに行ったのか。
姿がどこにも見えず、この状態での放置はもしかしたら野獣にころされたのかはたまた捨てられたのか。
取り敢えず急いで自宅に連れ帰った女は冷えた身体を温めるため湯船に付け、近くの友人がまだ乳児がいるのを思い出し、食事を分けてもらい気が付いたら店を開ける時間になっていた。
こちら側はまだ静かな方で良かったなと思いながら、カゴの中身を机におとしてカゴに布を入れて赤子をそこにいれた。
明日になったら医者に行き人探しもお願いしよう。
もう一度頼りになるお客と現場にも戻りたい。
色々と考えながら女は店の扉に開店の蓋を取り付けた。
結論からいうと、親の足取りが掴めなかった。
複数の争うような足跡があったが雨で地面がグシャグシャで一定の場所から探せないとの話だ。
もしかしたら訳ありなのかもしれない。そこまで分かり、女はこの子供を育てる決意をした。戻ってくるかもしれない両親のため毎日その場所には顔を出し、店には事情を書いたポスターも貼っておく。
何年もそれを続けてれば諦める人もいただろうが彼女は笑顔で毎日続けた。彼女自身が孤児だった。だからこそこの子供にも同じ目にはあってほしくなかったのだ。
赤子が6歳になる頃だろうか。
手の甲に羽根の様な模様が浮かび上がる様になってきた。
手袋などで最初は隠していたが、どうしても見えることがある。ましてや子供は良く動き遊ぶのが仕事だ。
そのうちにその手の甲の痣が噂になってきてしまった。羽根の様な模様から天使と関わりがあるのではないか、鳥系の獣人の何かではないかなど。
女はお客で武術に学があり、ツケが溜まっている人を引っ張り出してもしもこの子供の身に何があっても生きていけるように鍛えてもらう。しかし、客が教えだして一週間程で客の目つきが輝き出した。子供は才能があったのだ。
そうしてまた何年か過ぎた頃、国の中心にある城で成人の儀が行われた。成人の儀には国の教会が協力してかつての勇者が使っていたといういわれの剣の前で行われた。子供はたまたま剣の近くにいただけだった。だけど、他の子供に押されて剣に触れてしまう。触れたと同時に剣がひかり輝き、誰もが抜けなかった剣が抜ける。
「ゆ、勇者だ!」
誰の言葉だったかは覚えていなかいが最初のページその言葉に惹かれてゆくように勇者のコールが会場を包み込んだ。
子供は震える手で剣を握りしめながら王によって別室に通される事になる。
女将さんの所に戻りたい。そんな願いを叶えて貰えずに子供はそれから城で過ごす事になる。外から女が子供に会いたいと願っても叶えられなかった。そして国は世界中に勇者が生まれた事を発表したのであった。
「帰りたい。」
(ごめんな。)
「君のせいじゃないよ。」
勇者の部屋からは誰も居ないはずなのに話し声が聞こえると噂になった。それを教会は神との交信の声だと誤魔化して放置した。いまこの子供を開放したら周囲の国への抑止力にせっかくなっているのに勿体ない。
あの神の国の愛し子の存在の次に有名な存在なのだ。このままこの小さな国が大きくなるチャンスを逃してはならない王は誰も居ない部屋で笑い声を上げた。
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