155 / 245
勇者という存在がもたらすもの
僕は今日は頑張れない
しおりを挟む「大丈夫ですかシン君にコウさん。」
「だいじょばない。」
「‥…。」
ミュージアに入ってその芸術の国と呼ばれる由来もよくわかるほどに色鮮で賑わっていた。花に溢れ絵画に溢れ音に溢れ。見るものすべてが色鮮やかであり新鮮だった。まるでモザイク画の世界に来てしまったかの錯覚を覚えながらシス兄の友人が住んでいるという住宅街へ向かう。
街の中央にただずむ城の脇から切断するかの様に広がる見上げるほどの壁がどうやら獣人との住居との境目様で、シス兄の友人、ラウルス侯爵家はその近くにあるらしい。
何度も曲がりくねる道を通りラウルス侯爵家についた頃には、さっきまではしゃいでいた僕とコウにぃが頭を抱えて馬車の荷台でぐったりとした姿を晒すこととなった。
車酔いならず馬車酔いかなんて事はなく。突然の頭痛に襲われたのだ。
頭痛が起こってからというもの先程まで愉快だった音が煩わしくてたまらないのである。この状態であるのなら獣人でなくても音楽が不愉快で煩い。眼の前もチカチカとしてきて色の情報の多いこの世界がまぶしすぎる。音の無い真っ暗な世界で少し休みたいぐらいだ。
兄上も同じような状態らしくいつに増して凶悪顔をして無言で苛ついているようだ。
アキさんが気遣ってくれているが今はただただ休みたい。
ぐったりとした僕達を気にかけながらもシス兄はラウルス侯爵子息に挨拶をしにいったようだ。槍に取り憑いたサラート夫妻は何か言いたげだったけどシス兄の持ち物なのでそのまま持っていかれてしまった。
記憶を戻るときにづきづき心臓が脳に有るのかってぐらい痛くなったけど今回は痛みはそれほどじゃないけどずっと続いているしなんか気持ち悪いし煩わしいんだよ。
『静かなる闇』
「あ、れ。」
「‥…。」
「おーい。大丈夫か。」
最近から加わった声が聞こえたと思ったら突然目の前が真っ暗になり先程までうるさかった音が消えた。だけどシス兄の声が聞こえては来る。
状態としてはとても心地良い闇だ。音の攻撃から逃れられた僕は先程までの頭痛が緩和されている。それはコウにぃも同じようでホッとしたため息が聞こえてくる。
「この幽霊が早くシンリ達の元に戻りたがっていたからな。クラウスには呼んでくると言って直ぐに戻ったんだ。」
「うん。サラート夫妻のかけてくれた魔法のお陰で楽になった。」
『よか、た。ワタシのオリジナルの魔法‥…だ。』
「ということはこの原因が何かわかっているのかな。」
『コウモリ‥…のモンスター、攻撃受けるとたまになる。』
ああ。超音波みたいなのが原因ということか。この国の様々な音の重なり合いで特定の周波が出てそれが耳の良い獣人や一部の人や僕達に影響が出たのか。
だいぶ落ち着いてきたから暗闇は解除したい。
だけど音を聞くとまた頭痛になってしまうかもしれないな。
僕が口を開こうとしたとき、兄上がパチリと指を鳴らした。すると暗闇が消えてだけど音も消えたままという不思議な状態になった。
なるほど、兄上も構造を理解してこのあたりを包み込むような結界を張ったのか。
これならこの屋敷にいる間は悩まなくて済みそうだ。
「二人だけに張ろうとしたら屋敷全体になってしまっただけだ。」
「改良は僕がするよ。」
体調が良くなった僕達に一瞬で屋敷を覆う結界を張った驚きから我に返ったサラート夫妻が安心したように胸を撫で下ろす。最初の頃は嘆いてばかりだったのに落ち着いて来た様子の夫妻にこちらも安堵する。最初より言葉がわかりやすくなっていることはいい徴候だ。
この結界を不審に思った人達がこちらに集まってくる。
その中には体格のとてもいいゴリラ‥…間違えた体格の良い男が先頭でむかって来ている。そうだよな。いきなり屋敷が結界で覆われたら驚くか。
「エリシス、大丈夫か?」
「おう。悪いな連れの魔法だ。驚かせたな。」
「いや、見たところただの結界のようだから心配はしていなかったさ。」
ここにいる誰よりも大きな身体。170cm以上あるアキさんより大きい姿から見るに2メートルは超えているのではないだろうか。そんな巨体は品の良い服に包まれている。白いシャツにダークグリーンのベスト、その姿はまさにお坊ちゃまといった風である。目につくのはその巨体だけでない。アキさんとはまた違ったエンジ色の髪に同じ色の迫力のある目。それぞれが良い意味でバランスよく揃った顔立ちである。
「こんな状況だが紹介するけど、俺の可愛い弟のシンリだ。」
「兄が学生時代お世話になりました。シンリ・ディーレクトゥスです。この数日も宜しくお願いします。」
「‥…!」
「あちらが弟関係でコウラン・アシュレイとアキンドだ。」
「どうも。」
「それと憑き人のサラート夫妻だ。無害だ。」
「そうか無害なのか。なら良い。私はクラウス・ラウルスだ。宜しく頼む。」
頼むと言われて僕の前にちょこんと手を出された。眼の前に出されたのでそのまま握手をさせてもらうけど僕で良かったのかな。
フリフリと上下に振っていると、なんか感動したのか片手で顔を多い天を仰ぎだした。どうしようかシス兄を見れば腹を抱えて大爆笑している。
そのこちらに向いている指を逆にするぞ!
「あ、あの。」
「すまない。この顔だからか初対面で泣かれる事が多いのだ。しかもちゃんと目を見てくれるのは久々だ。」
それはクラウスさんの身長のせいもあると思うけど。
「我々は君たちを歓迎する。」
「はい。ありがとうございます。」
「所でこの結界なのだが‥…。」
「ごめんなさい。僕達、この国に来て頭痛に悩まされてて。このサラート夫妻が助けてくれたんですけど、それをコウにぃが改造して結界を張ってしまったんです。この中だと僕達は楽なんですが不愉快なら解除します。」
「なんと。いやいや。屋敷で寝込んでいた者が楽になった様でむしろ教えてもらいたいと思っているのだ。」
ワタワタと事情を説明したらクラウスさんの目が輝いて僕を抱きしめる。あの巨体に抱きしめられる僕は身体が浮いて宙ぶらりん。慌てた周囲が助けてくれるまで生きた心地がしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる