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勇者という存在がもたらすもの
僕と職人の街
しおりを挟む色がないと言ったが別に悪い意味では無く、無駄のない落ち着いた感じが好ましいまさに職人の街と言った感じだろうか。
出歩いている人はわずかに見受けられるが反対の街とは違い静寂に包まれていた。壁の一つでここまで静寂になるとは当時の王様は優秀だったのだろう。だけどこちらの街には今見ているだけでも活気と言うものが無い。ゴーストタウンまでは言わないが人もまばらで静寂に包まれている。
いい職人の街というのはこんなにも静寂に包まれているものではない。賑やかとは違う職人同士の掛け合いや怒鳴り声が響くものなのだが、それはここが加工所で無いからなのだろうか。
「いや、先月まではここまで酷くは無かった。」
クラウスさんの言葉には信じられないといった感情が混じっている。
門を出てラウルス家御用達の細工師の所に向かおうとしたら、門の横で座り込み抗議をしている男達を見かけた。彼等は疲労感漂う相貌で大きな布に女将と勇者を会わせろ!と書かれている物を広げている。
どうやら彼等は勇者とその保護者を合わせたい一派のようだった。
観光地でもある色鮮やかな方ではなくこちらで抗議をやらされているのはどうも粉臭い感じがする。
話を聞きたい所だが今は観光中、周りを僕個人の理由で足止めするのもはばかれる。
「気になるのか。」
「うん。でも‥…。」
「おい、クラウス。」
「なんだね。」
「黒檀細工を見たいのは主にコウラン殿だし、俺等は武器を見てきても良いか?」
「うむ。構わないが‥…。」
「じゃあ、うまいご飯は食べたいし昼頃にここに集合な。」
迷子にならないかの視線をこちらに向けてくるクラウスさんを片手でヒラヒラさせてかわすシス兄は僕の肩を組んでにこやかに分かれる。その際に兄上には『偶には兄弟水入らずにさせろや』と言い放っていたが兄上も僕があの団体に興味を持っているのに気づいているので何も言わない。
そうして僕達は座り込み抗議をしている団体の所に向かった。
彼等は座り込み抗議をしているようだが服装や栄養状態は良さそうで少し薄汚れてはいるけどとちゃんとしていた。僕達が近きたことで邪魔なのかと移動しようとする礼儀正しさまである。その行動にストップをかけて他国から来たこととこの状況はどういうことなのかを尋ねた。
「聞いたことあると思うが噂の勇者はおれらの恩人である女将の子供なんだ。」
「成人の儀から連れ去られて今の一度も再会させてくれないなんて酷いだろ?」
「あなた方は職人さん?」
「いや、職人も居るがおれは冒険者だ。この国に来たら女将さんの所にメシを食べに来ていたんだ。」
汚れた顔などを拭けるように魔法で水を出して空間魔法からタオルも出すと、有り難いと言って簡単に身支度を整える抗議団体。何よりも彼等は武器を所持しておらず武力での行使は行わない意向だとか。
これで逆に襲われたらどうするのか聞いたら、いい笑顔でそこらの兵士に負けると思うか?なんて言われたら兄貴!って呼びたくなってしまった。
有意義な話しを聞いていると一人の恰幅のよい女性が色々な大荷物を持って現れた。直ぐに周りの人達が助けに向かう。寸胴やタッパーなど様々な者がどんどん運び込まれて抗議の人達から嬉しい悲鳴が上がる。勿論その中には美味しそうな料理が詰められているようだ。
「あんた達も食べるかい?」
「いえ。僕達は食べてきているので。」
「そうかい。あんたらは見たことない顔だけど旅行者かなんか?」
「はい。職人技を見に来たんですけど皆さんが何をしているのか気になってしまって。」
「それは悪かったわね。彼等はわたしのためにやってくれているのよ。」
「じゃあ、女将さんって‥…。」
よく見ると女性の目元にはくまが出来ていて、目尻には擦って赤くなった跡に腫れぼったい瞼だった。元気よく笑っている様に見えるが気がついてしまうとどうしてもその辛そうな目元に視線がいってしまう。
「職人達も今は変な病気が流行っていてね。ほぼやっていないだろうよ。集中が出来ないほどの頭痛の病気さ。」
「それはいつから。」
「2、3年前からだったよ。今は向こう側も症状の出ている人も居るけどこっちではほぼ皆が苦しんでいるのさ。ここに居る人も何人かは辛いのに来ていて。」
安めって言ったのにねと睨むような女将さんに何人かは苦笑いを浮かべている。
空間魔法から試作品をいくつか取り出してその苦笑いを浮かべる人達の元に渡しに行く。不思議そうにその御守を受け取る人々に僕達はとある人に教わった術式の組み込んである御守であることをぼやかしながら説明をして持っていて感想をラウルス家にお願いしたい旨を伝える。
すると遠くのほうで兄上の魔力を感じてそちらを向くとあの屋敷を囲った例の結界が展開されているようだ。どうやらあっちでもなにかがあったようだ。
展開された結界に不信感をいだき始めた冒険者達にあれは僕達の仲間ですの説明となだめる事になったのだ。
「あっちであの結界を展開したって事はその処置が必要な奴がいたって事だ。」
「獣人は五感が鋭い人も多いから影響を受けやすかったのかも。」
そんな話をしていると民家の屋根を利用してひょいひょいとこちらに向かってくるアキさんの姿が。
アキさんが僕を見つけると眼の前に降り立ち手を差し出した。
「試作品をあるだけ下さい。」
「数はもう殆どないから現場で作るよ。つれて行って。」
「なら、おれらに渡したぶんも使え。問題発生なんだろう。」
やはりというかアキさんが来たのは僕の持つ試作品が必要になったからだ。だけどそうそう試作品を沢山持っているわけないのでむしろ僕が行って作った方が早い。そう話していたら問題が発生したと判断した先程の冒険者達が御守を返し始めた。自分たちも辛いはずでそろそろ効果が効き始めた頃だというのに。
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