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勇者という存在がもたらすもの
僕の城見学
しおりを挟むあの日の女将さんの料理は美味しかったです。
どうも皆さん城に侵入中のシンリだよ。
城の構造って侵入しにくいように入り組んでいたり城の周りに防護を張ったり特性は色々で城によって異なる。しかし、その特性をつかんでしまえば攻略は簡単だったり。例えばこの城だと入り口から一番遠いのは王の部屋。遠いということは敵も王の首を掻き切りに行くのは大変だけど兵士も敵襲を知らせに行くのは大変。だから何かしら知らせる装置がある。
その装置がたとえ魔法系であれ僕には見えてしまうので王の寝室に侵入なんて容易い事。そんな感じに侵入者に情報を与えてくれるのが城であり、地図などは残さないようになっている。
城の従者の後をつけては脳内地図を完成させていってあとは何がどの部屋にあるかを確認中である。
ぶっちゃけると城の賊対策は似たようなのが多いので侵入者が難しくても貴族の屋敷に侵入するときより入ってしまえば楽だったりする。この設備良いなと思ったものは後で兄上に報告すると倍以上の性能で作成して役立ててくれたりする。
と言うわけで今は城を探索している。似たような造りにして迷子になりやすい構造なのでよく新人の侍女さんに遭遇しそうになるがそこは僕の腕の見せ所。そっと視覚の操作をさせてもらったり隠形を使ったりと今の所はバレずに過ごしている。
その城は城主によって雰囲気が変わるというがここの城主はなんとも野心あふれるのやら下にはあまり目のかけていないやら叩けばたくさんの埃が出てきそうな感じである。
城主がそうだから侍女や兵士の質も悪い。適当だったりサボったりお話が好きだったり。最後のは僕にとっては好都合なのだけど。
城に侵入して二日目だけど、色々と情報を得ている。今の王が人間至上で獣人を奴隷にして彫刻や木細工を作るだけの存在にしたいとかね。
この国の彫刻や木細工は高値で他の国に取引されている。獣人達の他の人には真似できない感性の作品は躍動感があり高評価なのだ。なので作品は作って欲しいがだけど人間至上主義としては堂々としている彼等が気に食わないということだろう。
不協和音の原理も分かってきて残りの目標は一つだけ。ちょうど狙っていた侍女が動き出した様だ。
「ねえ、今日のアレのメシやりだれ?」
「あ、私だったわ。もう、面倒くさい。あの汚い子が本当にアレなの?」
「だって抜いたんでしょう?」
「王様でも抜けなかったのにね。」
この会話から分かるように勇者の話だ。この城の何処かに勇者が居るはずなのに貴賓室にはいなかったのだ。保護されているというのにどの寝室にすら居ないのはどういうことでしょうね。
怪しい笑みで考えていたらちょうど食事を持っていった侍女を見つけた。今日の分は終えているらしく後をつけることは叶わなかったが、今日の担当に鍵を渡す筈なので見張っていたのだ。そしたら案の定。
彼女は同僚と別れてキッチンに向かいワンプレートになっているトレイを手に取る。食事は普通のむしろ豪華な内容のようでステーキに野菜のソテー、スープにパンといった内容だ。侍女はそれを見ておもむろにステーキだけ別の皿に乗せる。
「あんなヤツがこんなステーキなんてお腹壊しちゃうわよ。後で私が食べてあげる。」
ふふ。と笑う侍女はメインのない食事のまま地下へむかっていった。地下にあるのは牢屋と調書部屋にワインセラーがあったはず。まさかどんなところに勇者を保護するとはね。
地下に降りワインセラーの奥の壁に鍵を突き刺した。後から調べたが壁の一部に穴が空いていてそこが鍵穴になっているようだ。もともとは防空壕のように避難場所になっているのだろう中は見る限り広いがただそれだけだ。チラッと見えるのはベッド一つだけで本当に何もなさそう。
侍女が鍵を閉める前にそっと拝借をして形状を手持ちの金属に『複写』する。その後に自然と落ちたかのようにして鍵を気づかせてから返すとそのまま彼女が帰ってゆくのを見つめて見送っておく。
居なくなったのを確認してワイン棚の影から姿を現しトレースした鍵を鍵穴に入れる。うまく作れたようで鍵がつえることなくすんなりと回る。ドアノブの様な物はないので痕跡を残さないように気をつけながらそっと扉を開けると、そこには運ばれた食事に目を向けず部屋の片隅で膝を抱えて座り込む子供がいた。
子供と言っても僕らよりは年上に見えるが。
部屋の中に光を取り入れるために一つだけある窓から降り注ぐ光を避けて暗い隅にいるこの子が噂の勇者なのだろうか。
「グレイ。」
「‥…誰?」
女将さんから教えてもらった名前を呼べは微かに返事がかえってきた。
視線はこちらを向くことはないが彼が女将さんの子供で国に勇者判定されたグレイ君で間違いなさそうだ。
僕はグレイの側に出来るだけ近寄り預かった手紙を差し出す。といってもこちらを見ていないので何をしているかはわからないだろうが。
「女将さんに預かったんだ。僕は反対の壁にいるからじっくり読んで。」
女将さんという言葉にぱっと顔を上げる勇者は手紙をひったくるように奪うとじっとこちらを見ている。やれやれと肩を竦めて宣言通りに彼の座り込むすみとは反対の壁に背中を預けて様子だけ観察させてもらう。
勇者は手紙を広げてそこにある懐かしい文字に目尻を赤くしながらじっくりと読んでいる。段々と嗚咽の声が聞こえて最後には声を圧し殺す様な泣く声が聞こえた。
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