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勇者という存在がもたらすもの
僕と無垢なる存在
しおりを挟む「失敗作を取っておいて良かったよ。」
「失敗作?」
「そこはわからなかったのか。この世で一番の無垢な存在は何だと思う?」
「そういうことか。」
コウにぃが納得したように呟いた。
王は考えたのだ。聖剣を持つためにどうしたら良いのか。野心を伝えずにいれば持てるかもしれないと。そのためにまだ生まれて間もない子供を利用したと言うことだ。
まだ善も悪も知らない無垢な子供なら持てると思ったのだろう。
そして研究をした。
サラート夫妻に子供が出来た時にでも思いついたのだろう。だけどサラート夫妻の子供は偶然にも護られた。そこで頭を抱えた彼は思いつく。自分自身が勇者の血筋だからこそ勇者の血を持つ子供を増やす事が出来ると。それほどまでに聖剣に憧れをいだき欲していたのだ。
自分の息子を異形の存在に落とし、失敗作だと蔑み笑う。
それは僕が理を知るものでなくても許すことは出来ない。目の前に立ちふさがるようにいる赤子に平穏を与えなくてはならない。
「グレイ、剣は使えるよね。」
「うん。お客さんに教わったから。」
「じゃあ、足止めすればこの子を楽にしてあげれる?」
「そこまでお膳立てしてくれたら勿論。」
まずは彼を苦しませるあの呪物の頭蓋骨を奪い取ろうか。
「シス兄はグレイのフォローをお願い。」
「ああ。」
アキさんはと言ったところですでに王に飛びかかっていた。
後は街への被害を抑える事だけど、とちらりと街に視線を向けたら見覚えのある気配と結界が展開していた。
「俺の魔力を贅沢に使ってサラート夫妻がやってるみたいだ。」
「王様ったらここでもサラート夫妻に拒まれるんだね。」
「街このとは気にしなくて良いってことだな。」
「兄上は魔力を安定させる為に集中していてください。」
「‥…分かった。」
アキさんが足止めしている王様の元に行けばダウニー公爵が応戦している。流石サラート夫妻を殺害した主犯と言うか。アキさんが本気を出していないとはいえ王様を守りながら戦えている。泥舟に乗ってしまったから最後までつき合うという心根は素晴らしいとは思うがそこまでして何が待っているのかわかるはずなのに。
ここまで王と犯罪を犯したからあとには引けないという気持ちもわかるけどね。
あのキンキラな姿で良く動けると思う。
よく見たら剣まで金で飾られていて柄には宝石があしらわれている。だけど刀身はちゃんと作られている物みたいで攻撃を受けても変に曲がることはないみたいだ。
そんな彼等の戦いの端で王が頭蓋骨を握りしめて何か指示を出しているようだ。ここで赤子に暴れられると面倒いので暗器の糸を使って行動を制限させる。ヌメつくなにかの粘液で固定まではいかないが数分の足止めぐらいにはなるだろう。
足止めはしたけどまだグレイの登場ではない。
王の持つ頭蓋骨も手に入れなくては。
厄介なのは王の元に向かおうとすると邪魔をしてくる公爵と何処からか湧き出す息のかかった兵士たちだ。いくら雑魚とはいえ数が多いとすきをみて王が離れてゆくのだ。ぶっちゃけるとまるごと消し去りたい気持ちになってきた。
「あの頭蓋骨が必要なのですか。」
「そうだよ。」
「なら協力しよう。」
クラウスさんがいくらでも湧いてくる雑魚を相手し始めた。兵士はラウルス侯爵家のクラウスだと知っているので強くは出れない。何なら武力ならとても勝てない相手なのだから逃げ出す者も出てきた。
「さあ、その頭蓋骨を渡して貰いますよ。」
「この子から親を奪うのか?」
「貴方は親では無い!」
頭蓋骨を庇うようにする王の手から頭蓋骨をするりと抜きとったのはラウルス侯爵だった。そのまま頭蓋骨をこちらに投げて渡すとラウルス侯爵は王の前に仁王立ちになる。
「子は親に利用されるために生まれるのではない。互いを見つめ慈しみあい、時にはその成長に驚き、時には教え叱うのが親子だ。」
「おのれ。我が国の侯爵とあろうものが。」
「侯爵であるがゆえ王の間違いを正すまでよ。」
熱い問答を繰り広げる場所を後にし糸から抜け出し暴れている赤子の所に来た。シス兄が上手くタケを取っていてくれるおかげで被害もそんなに出ていない。グレイも一定の距離を取って上手く戦えているようだ。その姿を見るとやはり料理屋というよりは冒険者の血筋を彷彿とさせる。
長い黒髪を頭上でまとめ細身ながらもしなやかな筋肉を使った瞬発力。
式典のために用意された勇者の纏はとても彼に似合った。
「お待たせ。」
「おう。それがこの子の源か。」
「うん。グレイ、これをあの子に戻すから共に斬ってくれるかい?」
「分かった。」
赤子の前に出てまた糸で拘束する。先程のこともあるからか抜け出すスピードが早いが一瞬の間これだけで大丈夫。
頭がなくて母を探したくても探せなかったよね。
よいしょと巨大な赤子に登り頭のあたりで頭蓋骨を当てる。
頭蓋骨はゆっくりとブヨブヨした皮膚が吸収してゆく。はと思い出したので空間魔法から鐘についていた小さな骨を取り出しそれも赤子の身体に当てると吸収されてゆく。あれもこの子のものであったようだ。
準備万端のグレイに合図をするとグレイは大きく跳躍して赤子の頭上から聖剣を振り下ろす。
紅い花があたりに散る。
赤子がその中で一言『ママ』と呟いた気がする。
巨大な赤子は聖剣の影響か光の粒となり天に舞い上がる。グレイの持つ聖剣もまた役目を終えたと言うように光の砂となり風で空に舞い上がっていった。
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