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海の国と泡と消えゆく想い
僕は知らない地上の出来事
しおりを挟むフェン視点
時間は昼頃に巻き戻る。
女神様の使者と名乗る少年や魔女と別れたあと俺たちは先ずは腹ごしらえに市場に向かった。
惚れた女の為に高い食事処でもと最初は思ったが彼女はそんな所より気軽な所が良さそうだ。彼女、アクアは家名もあるしお嬢様の様なので豪華な所は見飽きているかもしれない。それよりも人魚だという彼女は市場の様々な物に目を輝かせている。
どうやら地上に来たのは初めての様だ。
それなら地上の楽しい暮らしの一部を案内するほうが喜ぶだろう。それで慣れてきたらお高い所に改めて行けばいい。
見るもの全てに目を輝かせている少女が可愛らしい。
そんな彼女を初めて見たのは嵐の夜。
仕事をしていたら海に投げ出されてしまった。嵐のしかも夜では誰の助けも見込めないし上も下もわからない状況で泳ぐのも危険だった。そうしているうちに意識が段々と遠のき、頭の中では親父の顔や泣く母親の顔が浮かんでいた。
ああ。怒られるだろうなと思っていた次の瞬間に意識が覚醒した。眼の前には優しく微笑む美しい少女の姿。
直ぐに近くの住人が助けてくれたが俺の頭にはあの少女の笑顔が忘れられなかった。
綺麗なあの姿に俺は惚れていたのだ。
あの時の少女は状況的に人魚だと判断したけど確証はもてない。そこで最近有名な魔女の所に相談を持ちかけたがまさか、その魔女の所で再会するとは思わなかった。
人間へと変身していたがその色合いや優しい微笑みは変わらず。妹の為に薬を買いに地上にまで上がるなんてとても良い子だ。しかもその時に知ったが嵐の夜に俺の治療費の為に渡してくれた真珠はとても大事なものだったとか。それを見知らぬ人に渡すとはこんな娘を守ってやりたい。
「あの、フェンさん。あれってなんですか?」
「ん?あ、ああ。あれは串焼きだよ。せっかく人になったなら熱いのを食べて見るかい?」
「わあ。食べてみたいです。」
「よし。じゃあ買いにいこう。」
店のおじちゃんに声を掛けて数種類の串焼きを買う。目を輝かせてそれを見つめる彼女に先ずは海の幸を手渡してあげた。人魚にとって共食いだなんて言う馬鹿はこの街には居ない。魔物とモンスターが違うように人魚と海鮮はちがうのだ。
熱々のホタテの串焼きを恐る恐る口に含む彼女。熱かったのか一瞬だけ怯むが人魚の身体では無いので爛れる様な火傷はしなかったようだ。一口食べられればあとは次々と口に運ぶ。別の種類の串を渡しても美味しそうに食べてくれる。いつまでも見ていたいが、不思議そうな視線を彼女がしてきて慌てて自分も食べ始めた。
気に入ってくれたようで良かった。
「美味しいです。」
「良かった。じゃあ次はあの店はどうだい?」
楽しい時間は直ぐ過ぎると言うが本当の事だ。
気がついたらすでに空は紅く染まり、町には灯りが灯って喧騒が艷やかな雰囲気へと変わって来ていた。
市場で買い集めた果物や海に入れても溶けないお菓子を両手に抱えてアクアはやっぱり笑う。その荷物の殆どが妹への物で残りは両親へ。自分の物などなにもない。
あの夜に貰った真珠を返そうとしたが今回の買い物代だと言って受け取ろうとはしなかった。なので彼女の両手のものは俺が買ったものなのだが、欲しそうな目で見る雑貨も買うかいと尋ねると首を思い切り振るり困った顔をさせてしまうのだ。
まるで自分の物を増やしたくないようだ。
「今日はありがとうございます。」
「いや、命の恩人にまだまだしたりないよ。」
「こんなに沢山。あの真珠だけじゃ足りないくらいです。」
「喜んでくれたようで良かった。」
「そろそろ帰りますね。」
「ああ。また是非とも逢いたいね。」
「‥…そうですね。」
彼女は最後まで笑っていた。
だけどその笑いには作り笑いも含まれているのにも気が付いた。
楽しそうに笑うときは当に太陽の化身ではないかというほど明るく眩しいのに、時折見せる作り笑顔はさみしげでこらえている様に感じる。彼女にそんな顔をさせるのは一体何なのか。
2回目の出会いであるが1回目は殆ど意識がなく殆ど初対面の俺が聞くことは出来なかった。彼女との間に壁を感じてしまったのだ。
気づいたら告白も出来ずに今にいたる。
それでもアクアと過ごして世界が華やかになった。初めての感情だけとこれは恋で間違いない。
なら、少しずつ彼女の事情も知ってから告白をしよう。
少し名残惜しそうなアクアの髪に手を這わせガラスで出来た髪飾りをそこに遺す。それは市場で彼女がじっと見ていた赤色の小振りの花が連なっているのを模した物だ。確かデイゴの花と言ったか。
白波の様な青銀の髪にとてもにあっている。
「これは。」
「感謝の気持ちだ。受け取って欲しい。俺では似合わないからね。」
「‥…大切にします。」
彼女は髪飾りに手を触れて嬉しそうなのに悲しそうな顔をする。
もしも彼女が地上に来れないのなら俺が海に行こう。アクアのこの表情の理由をきっと俺が解消してやる。惚れた女のためならなんだってするさ。
最後までこちらを向きお礼を言ってくる彼女に優しく手を振った。
彼女が完全に海に消えた瞬間に背後に人の気配がする。
それは小さい頃から知っている気配で彼の用事はなんとなく分かっていた。
「坊ちゃま。旦那様がお待ちです。」
「ああ。」
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