193 / 245
海の国と泡と消えゆく想い
僕と催し物
しおりを挟むちょっとした騒ぎがあったものの、その後は特に問題もなくすごしている。暫くの雑談等が行われた後に王が自らに注目させた。
視線が彼に集まる中王様はウホンと咳払いをして声を張り上げる。
「一通り食事を楽しんだことと思う。ここでちょとしたイベントを行おう。」
その言葉にザワザワ。
宰相の様な魚人が頭を抱えて項垂れているのを見るに王の思いつきのようだ。人の制限時間がまだあるとはいえいまからイベントとは。
案の定人間達に不安そうな人もちらほらいる。
「人間は僕達抜いて十人か。」
「まさかですけど魔法を使う気ですか?だめですよ。」
「えー。」
「これは持続系の魔法なんです。貴方の魔力量知ってますよね?」
「‥…50。」
「そうです。いくら消費量が少ない性質だとはいえ十人にもかけたら消費量は多くなります。優しすぎるんですよアンタは。」
珍しくバルスさんがキレてらっしゃる。
ひそひそ話であったが側にいるウォルターにも聞こえている様で苦笑いをされている。僕が悪いのか。別に優しくはないと思う。これも実験のためだと思うし兄上と血の契約を結んでいるから魔力も心配しなくても大丈夫だと判断したのだ。
確かにバルスさんは僕達3人に一括で魔法をかけようとしたときから渋っていた。その時はどうにか掛けてしまったのだけど。
「血の契約での魔力譲渡については距離がまだ不明なのです。万が一を考えください。」
「分かったよ。バルスさんには弱いんだよな。」
記憶が戻ってからの付き合いで何かと気にかけてくれるバルスさん。兄上も気に入っているようだしそんな彼がこまった様な顔をしているとなんか悪者になったような気がしてしまう。
やれやれと人間達に魔法をかけるのを諦めた僕は成り行きを見守ることにする。
「なあに、そんなに長い時間はかけんよ。」
人間達の思いを読み取ったかのようにそう言って王様は話をつづける。
「せっかくの加護が持たされた喜ばしき日のなので希望者で歌を競ってもらおう。勿論賞品も出す。可能な限りの願いを叶えるのはどうだろうか。」
一国の王ができる限りの願いを叶えるというのは破格の待遇である。種族や性別についても言われていないので誰でも参加が出来ると言うことだろう。
王様の言葉にそれならばと参加を表明する者たちがちらほら。流石は船を沈めるとまで言われる人魚達の参加は多い。
そこにはアクアの姿もあった。
決意をしたらしい凛とした一輪の花のような姿はとても美しい。
総勢数十人の参加が表明された所で王はどこにでもある貝殻を会場の全ての者に渡す。参加した者たちが全て歌い終わってから良かった人にその貝を投票する形式にするようだ。確かにそれなら一々止めなくて良いので時間は短くて済みそうだ。
さて、早速一人目が歌い始めようとした。
ステージなんてものがないのでその場で歌う事になる。
そんなときに会場の扉が思いっきり開いた。
そこにいたのは先程退場した筈のイリヤだった。イリヤは息を切らせて扉を潜り深呼吸をして整えたあとどこから聞いたのか王様に自分も参加すると言い出した。
「まあ、良いだろう。さあ、一番目の者よ中断させて悪かった。つづけよ。」
「あ、はい。」
駆け込んで来るなんて凄く元気になったな。なんてイリヤの参加を他人事の様に思いながら、出鼻をくじかれた人魚のお姉さんが改めて歌い始める。
人魚の歌は初めての聞くが魅了され船の舵を切り間違えるのがわかるほどに美しい。変に高音でも耳障りな怪奇音でもなくのんびりと聞いていたい声だ。
終わると同時に短いながらの盛大な拍手が鳴り響く。
「素晴らしい。はじめからこのような歌が聞けるとは。だが余韻を楽しむには時間がないのは残念だが次も素晴らしい歌であろう。」
次々と色んな人が歌ってゆく。
上手い人もいれば味のある歌を歌う人魚もいる。人間の中にも人魚達が目をみはる歌唱力の少女もいた。
そして次はいよいよアクアが指名された。
アクアは緊張をしているのか震える手を押さえて呼吸を整える。フェンがそんな彼女の肩を抱き小さくハミングを口ずさむ。それはなにかの曲ではなく彼女を応援するように。
そのヘンテコなハミングに彼女はくすりと笑うと息を吸い歌い出す。
それは今までの人とは比べ物にならないほど澄んでいて会場内に響き出す。その曲は優しい子守唄。誰もが聞いたことのあるようなそれでいて初めて聞くような歌だ。
それを聞いた者たちが嬉しそうに邪魔のならないように追走をしたり海ではその目元の涙がわからないが泣くものもいた。
アクアの歌は色んな人に寄り添い包み込む素晴らしい歌だった。終わったあとには弾けんばかりの拍手に迎えられ、アクアが驚いてフェンに抱きついた。
誰が見てもこの催し物の優勝は誰だがはっきりとしている。
案の定アクアの後に控えていた者たちが両手を上げて棄権を示す中、一人だけ顔を真っ赤にして踏み止まる少女がいる。
「とても素晴らしかったぞアクア。お主のお陰で他のものはほぼ戦意喪失したようだ。次が最後となろう。イリヤだったな。歌いなさい。」
王様に名前を呼ばれびくりと肩を揺らす少女。
イリヤはブルブルと身体を震わせてそれでも自分のことを一番だと思い息を整えて歌い出す。
あのアクアの異母妹だからとは興味津々の者たちが耳を傾けた。
0
あなたにおすすめの小説
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる