僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN

文字の大きさ
214 / 245
残り幾日かの狂騒曲

慟哭の情景

しおりを挟む





 空には雷鳴が響き、雲が黒く日を覆う。
 今頃人々は混乱し新しき世界になるという喜びを知らずに不安を心に過ごしていることであろう。

 日木々から微かに漏れ入っていたこの森はまるで夜のように暗闇に覆われている。森に住む獣や魔獣は怯えて、巨大な体躯を持つこの森の主は空の向こうに見える世界に警戒しているようだ。

 未知なる存在に恐怖を抱くのは当然だ。
 ムラキ様に出逢った頃のオレは正にそのような気持ちだった。


 オレが産まれたのはこの場所から程遠くない魔族と人族の集落だった。
 そこで産まれる者達はとても良い、良質な魔力を持って産まれるのだ。彼らが放つ魔法はその良質な魔力に惹かれた妖精や魔素達でこんな辺鄙なところから世界中で引っ張りだこの魔法師が排出される。
 だが例外もいる。
 それが俺だ。

 両親はとある大国で魔法師として有名になった奴らだったと聞いたがその子供は魔法の使えない子だったと言うことだ。母親はオレが産まれた後に産後の調子が悪く死んだと聞かされたが、本当はオレに魔法の才能が無いとわかりショックで死んだのだ。

 父は表面ではいい親のフリをしていたが影ではオレを恨んでいた。最愛の人を奪われたのだそれも当然だ。

 小さい頃は意味もわからず周りからの好奇の視線の意味を知らなかったが、一度父親が酒を飲みすぎたときに教えてくれた。オレは数千年に一人のゴミカスだと。
 翌日父親の記憶は無かったけどあの日からオレは周りの視線の意味を知った。

 魔法の練習をしても上手くならないわけだ。

 この身体には魔法の排出する機能がないのだとか。いくら魔力があっても、どれだけが鋭くても意味が無かった。そのまま果物や野菜を売りながら無気力に生きてきたオレの前にあの方が現れたのは丁度数年前。

 土竜のようなモンスターに襲われていた時だ。
 もう駄目だと思ったときに呪文も技の名前もなく不思議な札を飛ばしてモンスターを燃え上がらせた。


 老人の様に白い髪に日に光る眼鏡、胡散臭そうな笑みを携えたその男は周りが下卑するオレの手を引いて助け起こしてくれた。
 男、ムラキ様は不思議な技を使ってモンスターや魔獣を倒しながら行商をしているらしい。もともと別の世界の住人らしく来てしまった世界で大切な人を探しているらしい。

 オレはその大切な人の話よりも不思議な技の方に惹かれてしまった。
 何せ魔力を少しも感じなかったのだ。ムラキ様は優しく身の上話を聞いてくれてならばと札を数枚渡してくれる。試しに札を投げ教わった特定の言葉を発すると目の前のは火に包まれた。初めて魔法を使ったかのような高揚感が襲う。

何と美しいのだろうか。

 炎の奥から声が聞こえた様な気がしたが気のせいだろう。

 オレはそれからムラキ様の元で働き始めた。
 この魔力を感知する能力はとても素晴らしいのだという。ムラキ様が本気で隠れられるとわからないが特訓でモンスターの居場所などを分かるようになってきた。更にムラキ様の特別な術を学び簡単なものなら札と術名で発動出来るようになった。将来は札だけで使えるようになりたいところだ。


 世界を周り、ムラキ様はもう一つの世界のことと探し人についてよく話してくれる。

 もう一つの世界では基本魔法は使えない。だけども鉄の塊を空に飛ばせるし魔法を使わなくても巨大な戦争は起こる。ムラキ様の一族は不思議な力を使える人達の一派でここで言う王の背後で世界を調律しているのだとか。

 探し人も不思議な力を持っているのでこの世界に居ても心配はしていないと言っていた。自らよりも強い人でだけど誰よりも壊れやすい愛しい愛しい人だと。

 一度だけ、魔道具に浮かび上がる青いその方をみたことがあるがとても奇麗な少女だった。確かにこれならば心配であろう。でもこんな可憐な少女がムラキ様より強いなんて想像がつかなかった。


 とある日、ムラキ様は言った2つの世界を繋げようと。
 この世界の神に邪魔はされるだろうが魔法を使えないオレでも向こうの世界では普通なのだ。世界が交われば行くことが出来る。

 魔法を使えないオレは普通になれるのだ。

 ムラキ様が頷いた気がした。

 オレの能力で数か所の魔力の濃い場所を探し出す。その中でも要のこのグランドオールは中で最も良い奴にこの石を飲ませなくてはならなかった。そこでオレ自身が森に赴かなくてはならない。まあ、手下を餌にしながら飲ませれば良いと思って結局はこのざまだ。

 どうせなら一度だけでも向こうの世界に行ってみたかったものだ。



 グランドオールの森で漆黒の獣はため息を漏らしてゆっくりと迫る向こうの世界に想いを馳せた。
 その背後には沢山の骨が積み重なっている。まるで迫りくる世界に飛び込むためのバベルの塔のように。




世界が交わるまで 残り5日









 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...